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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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32. 二日目 事故現場 午前三時十九分

 夜中だけど、空は赤かった。
 僕はえつ子さんにお願いして、使用人、女中の人たちにも起きてもらって、何台もの車に分乗して、みんなで事故現場へむかった。かわい家には、船も電車もヘリも飛行機も、放水車もあるから、こんな時は便利だ。
 電車は線路を外れて、木々をなぎ倒して、森に横倒しになっていた。
 物語は、ミステリーというよりパニック映画の領域に突入しました。
 こんなこと、誰も望んでいない。
 負傷者の救助や消火活動で混雑している現場で、僕は、事故の体験者の証言映像を集めることにした。
 悪趣味だ。徹底して。
 自覚はしてる。
 迷惑だとも思うけど、この時点の証言から、得られるなにかがある。余計なおしゃべりをやめて、真剣にみんなの言葉に耳を傾けたい。

V:本郷涼介くんが、ケガした人を治してる。

「ふう。しまったな」
 涼介は、額の汗を腕でぬぐった。涼介は、僧侶のスキルを使い、野原に横になったり、しゃがみ込んでいる負傷者たちを治療している。
「涼介さんは、大丈夫ですか」
「私は、平気だ。まさかここまで、バカをするとは、思ってなかったぜ」
 維新が側にきても、涼介は治療を続けながら、質問にこたえる。
「京子ちゃんや王ちゃんは、どこに」
「すまん。わからない。維新ちゃんが言っていたように、マッシュはいた。夜半になって乗客の多くが、寝台に就いた頃に動きだしたのも予想通りだった。紫のフードをかぶった彼を私たちは、たしかに五対一で車内で追いつめたよ」
「脱線も、彼がやったんですか」
「わからない。やつは、走行中の列車の窓から飛び降りて逃げた。私たちは、そんなつもりはなかったが、この結果からみて、油断してしまっていたようだ」
「あんまり、自分を責めないでください」
「維新ちゃんも、お姉さんや弟さんが心配だろう。いま私は手伝えないが、その辺に、翔くんがいるはずだ。彼に聞いてみるといい」
 維新は、苦渋の表情を浮かべている涼介を離れた。

V:葛葉翔くんを見つけました。京子ちゃんと王ちゃんのことを聞きます。

「翔くん。僕の姉さんと弟を知りませんか」
「悪いな。こんなことになっちまって。毒ガスを使用する犯行は、予測していたんだが、列車ごとブッ壊しにくるとは」
 翔は、心から悔しそうに自分の掌を拳で叩いた。カラーグラス越しに、地面をにらんでいる。
「クタートと推理を立て直す。次はやらせない。絶対にだ」
「翔くん。マッシュをとめてくれて、ありがとう。感謝してます。これは、事故かもしれないよ。」
「マッシュの被害者はでなかったが、あいつは逃げちまったしな。京子さんは、俺も見てない。王太郎くんは、無事だ。ケイラさんたちといると思う。鮪くんも一緒にいる」
 翔は携帯をだし、館にいるパートナーのクタート・アクアディンゲンに連絡をする。
「クタート。こちらの状況を伝える。列車事故の原因と、もしいるのなら犯人を考えてくれ」
 
V:列車脱線の容疑者二人組を発見した。身柄を確保する。

 月実とリズリットは地面に座り、燃える車両を呆然と眺めていた。維新は、二人にうしろから近づく。
「このテロリスト。よくもやったな!」
「わ。違うよ。私じゃないよ。あんたのせいで、客室に軟禁されてて、脱線で、危うく死にかけたんだからね」
「俺様がはってあげた顔の絆創膏がないわ。火傷も消えてる。おまえ、入れ替わったな」
「僕の入れ替わりって、どういうメリットがあるんだよ。それは。あんたたち、こんな大事故にしちゃって、どうするつもりさ」
「だから、誤解。冤罪だよ。走りだした列車、むりやり止めたら、こんなんなるじゃん。いくら、私でもそれはしない」
「したから、こうなったじゃんか」
 その場に立ち上がった二人と維新は、言い合いをはじめた。
「まあまあ。落ち着くのじゃ。そなたらが犯人かどうかはわからぬが、別件の犯人が捕まったぞ。維新。おぬし、わし以外の女子となにを遊んでおる。事件は重大な局面を迎えたようじゃぞ」
 維新とともに事故現場にきたファタ・オルガナは、一人で現場の様子を見てまわっていたが、罵りあっている三人を見つけ、それをいさめにここへきた。
「犯人が捕まった、だって」
「事故車両から、竹丸と、阿久らしき死体が発見され、ヴァーナー・ヴォネガットが身柄を確保された。阿久、竹丸殺害の最重要容疑者じゃ」
「ええええ」
 争っていた三人が、同時に驚きの叫びをあげる。
「ヴァーナーちゃんって、かわいいは正義! の、この荒くれ者たちにやられた僕の火傷を治してれた、あの、優しくて、キレイで、かわいい、ヴァーナーちゃんだよね」
「その言い方は差別がすぎるぞ!」
「軟膏塗ってあげたのに、この子は」
「ああ。おそらく、そのヴァーナーじゃ。ああいう見るからに、わし好みの女子が、人を殺めるとはな」
「嘘だ。間違いだ。ありえない」
「目撃者がおるのじゃ。そなたの弟のかわい王太郎が犯行を見ておった」
「王ちゃんが・・・・・・? どこにいるの」
「ほら、あそこにケイラたちと
 聞き終わらないうちに、維新は駆けだす。

V:王ちゃんと、ケイラさんと、マラッタさんと、レストレイド警部とロウちゃんと、ヴァーナーちゃんと、鮪がいる。

 維新は、レストレイドとマラッタに両脇を抱えられたヴァーナーの前に、飛びだした。
「ヴァーナーちゃん。やってないよね。違うよね。だいたい、お船に乗ってた竹丸さんと、ヴァーナーちゃんがここにいるのは、おかしいですよ。警部。捜査やり直しですよ。マラッタさん、頭いいんだから、気づいてよ。こんなの誰かの罠に決まってるじゃんか。こんなのおかしいよ。みんな、そう思ってるだろ」
「維新ちゃん。わかってる、わかってるから、いまは我慢して」
 ケイラは膝をつき、維新を抱きしめた。顔の高さを同じにし、語りかける。
「ごめんね。自分は推理はしてあげられないけど、名探偵がたくさんきてるんだよ。これで、終わらせるわけないって」
「探偵なんかアテになるか! 怪しいやつは、みんな、殺しちゃってよ。あまいこと言ってるから、こんな、こんな」
「そない言うなら、維新姉さんが死ねや。あんた、めっちゃ怪しいでえ」
 ケイラの腕の中にいる維新に、王太郎は、冷やかな目をむける。
「あんなあ、オレはこないなるんは予想しとった。京子さんを途中で美沙さんの船に逃がしたんは、オレじゃ。脱線事故に乗じて阿久の死体も処理しようと、船から、こっちへ忍び込んできた竹丸とヴァーナーが、仲間割れして自滅したんや」
「ね。王太郎ちゃんも、言葉に気をつけようよ」
「ケイラさん。オレの姉さんを見くびると寝首刈かれるでえ。オレは見た。ヴァーナーは、竹丸と格闘しとった。その後、列車が脱線して、ゴロゴロどっかん! や。竹丸は、維新姉さんとか幼女が好きやったから、ヴァーナーに欲情して、逆に殺られたんやろ」
「それは、違うです。維新ちゃん。ありがとうです」
 ヴァーナーが力なくつぶやく。だが、顔を上げず、疲れきった様子で肩を落としている。
「容疑者は、かなり消耗している。取り調べはエーテル館でだ。維新くん、いまは大人しくしていてくれ。船に乗っていた連中にも、館に戻るように連絡しておいた。これから、館で緊急捜査会議を行う。意見があるのなら、君も出席しろ」
「ワウウウ〜ン」
「維新。残念ながら、王太郎は、ウソは言っていない。俺も逃げていくヴァーナーをみた」
「マラッタさんまで。そんなのウソだ」
 レストレイド、ロウ、マラッタは、ヴァーナーと車に乗っていった。
「ヒャッハア〜! 京子の野郎、オレを見捨てて一人で逃げやがって。危機一髪だったぜ」
 レストレイドたちが去ると南鮪は、急に元気になり、維新とケイラに近づこうとした。
 王太郎が、鮪の前に立ちふさがる。
「どけよ、ガキ。姉ちゃんたちを慰めてやらねえとな」
「ううう。頭やったら、負けへんのに。ケンカやと勝てへん気がする」
「頭ァ? オレのモヒカンの方が、てめぇのおかっぱより全然、男らしくて、イカしてるに決まってるじゃねぇーか。やっぱり、おまえ、凄いバカだな」
「うー。このバカ。しゃべると空気感染するから、黙れや」
 二人がにらみ合っていると、車が戻ってきた。レストレイドがおりてきて、鮪の腕をつかむ。
「南鮪くん。マラッタさんに聞いたが、君は、京子さんに執拗に、つきまとっていたらしいな。クローゼットや浴室、シーツの下に隠れていたり、トイレまで一緒に入ろうとして、騒ぎを起こしたとか。話をうかがいたい。我々ときてくれ」
「待てよ。オレは、まだ、なんにもしてねえ。やってらんねえぜ!」
 鮪は、レストレイドが取りだした手錠をかけられ、後部座席に放り込まれた。
 ぱたん。