葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

学生たちの休日3

リアクション公開中!

学生たちの休日3

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「こんな所にいたのかい。黄昏れるには、早すぎるよ」
 樹の間に渡したハンモックで昼寝をしていたシニストラ・ラウルスを見つけだして、デクステラ・サリクスが言った。
「どういう意味だ?」
 シニストラ・ラウルスが聞き返す。
「あんたには、あたしがいるってことよ」
 ひょいと、身軽にシニストラ・ラウルスの足元に飛び乗ってデクステラ・サリクスが言った。
「おい、よせ、切れるだろ」
「そんなことはないよ」
 あわてるシニストラ・ラウルスに、デクステラ・サリクスが目を細めて言った。
「あいかわらずだなあ。まったく腐れ縁と言うかなんと言うか」
「運命の絆って呼んでくれなきゃやだなあ」
 シニストラ・ラウルスの顔をのぞき込んで、デクステラ・サリクスが言った。
 ここジャタの森は、二人や多くの海賊たちの故郷である。地球が現れる前は、彼らもそれなりに平和に暮らしていたわけだが、パラミタと地球の邂逅はそんな暮らしを一変させてしまった。それまで自分たちの支配都市だけで手一杯であった六首長家が手を結び、一気にシャンバラ地方すべての掌握にかかったのだ。蛮族と呼ばれる者たちにとって、それは嬉しいことではなかった。支配階級を名乗る六首長家による侵略にも等しかったのであるから。
「なあ、頭領は、本当に俺たち一族を助けてくれるのかなあ」
「何言ってるのよ。もうすでに助けてもらってるじゃない。そして、今度は、私たちが、私たちを、私たちの手で救うのよ」
 変なことを言うなと、デクステラ・サリクスがハンモックから飛び降りて言った。
「そうだな」
「そうだよ」
 二人は、そう確認しあった。
「それより、女王像の欠片は取り戻さなくてもよかったのかい?」
 先日のタシガンでの出来事を思い出して、デクステラ・サリクスが訊ねた。
「あんな物は、俺たちにとってはただの石ころだ。だが、シャムシエルに近づくには、まだ必要だな。お嬢ちゃんも、星拳にこだわっているし、次は容赦しないさ」
「やっぱりそうするしかないよね」
 その後のことを思って、デクステラ・サリクスがにやりと口許をほころばせた。
「なあ、そのお嬢ちゃんのことなんだが……」
「いいわけはないよ。ことがすんだら、絶対元に戻してやろうよ」
 シニストラ・ラウルスの言いたいことを察して、デクステラ・サリクスが言った。
「だが、そのとき、俺たちは許されるのか?」
「しかたないじゃない。奴らも、首長家と同類だからね。きっと分かってくれるさ」
 自問するようなシニストラ・ラウルスに、彼の胸の上に組んだ両手を載せたシニストラ・ラウルスが、すっと顔を重ねて言った。
 
    ★    ★    ★
 
「はいはい、みんなどいてどいて。ちょっと、そこを通して」
 野次馬をかき分けながら、風紀委員を従えた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、寮のある枝にやってきた。
「はい、関係ない人は下がって」
 アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が、野次馬の整理に走り回る。
「また闇鍋なの。まったく、なんでうちの生徒たちは懲りないのかしら……」
 担架で運び出されていく芦原郁乃たちを見つめて、天城紗理華は溜め息をついた。
「ここすんだら、外のカレーテントの再点検行くわよ!」
 後の処理を風紀委員の一人に任せると、天城紗理華はバタバタと次の現場へとかけだしていった。
 
    ★    ★    ★
 
「そりゃ、俺は医療関係に進みたいと思っているよ」
 ぼそぼそとラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はつぶやいた。
「それも、危険な場所での救命活動が希望だ。もしかしたら、パートナーを失った人のケアに役立つかもしれねえしな。だからって、ここは危険の意味が激しく違うだろうが。なんで、俺はこんな所にいるんだぁ!!」
 天を振り仰いで、ラルク・クローディスは叫んだ。
 ぽつん、天井から落ちてきた雫が、目隠しをされた上の額を濡らす。
「ああ、もううるさいなあ。黙ってマッサージしなよ」
 マッサージ台の上に裸で寝そべっているココ・カンパーニュが、面倒くさそうにラルク・クローディスに言った。解いて横にまとめて台の下に垂らした長い髪が、頭の動きにつられてゆらゆらとゆれる。発達した太腿からヒップにかけてのラインが、艶やかな肌に豊かな起伏のラインを描きだしていた。
 カコーン。
 桶の音が、心地よく響き渡る。
 ここは、世界樹の地下にある、イルミンスール魔法学校の大浴場である。
「だから、俺はだなあ、医療の勉強をすべく、休日を使ってボランティア救護活動をするつもりだったんだ」
 目隠しをしたまま、ココ・カンパーニュの背中のツボを押しながらラルク・クローディスがぼやいた。鍛えてある分、軽く押したぐらいでは筋肉に跳ね返される。目隠しさえしていなかったら、筋肉マニアとしては不自然に目立ったりしない程度に発達した筋肉のついた美しい背中に、ほれぼれと見とれているところだろう。
「だから、ちゃんと医療活動をしているではありませんか。リーダーは、タシガンで酷い毒にやられたのですから、リハビリはちゃんとしないといけないでしょう」
 隣のマッサージ台の上に寝そべったペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)が、再度ラルク・クローディスに言い含めた。すらりとした身体のラインが、あまりがっしりした感じを与えないでいる。濡れた髪は扇状に背中に広げて、ゆっくりと乾かしていた。
「マッサージも、りっぱな医療行為ですものねえ。ちゃんともみほぐして血行をよくしませんとお、麻痺で硬直した身体は元には戻りませんですよお」
 チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)がつけ加えた。ちょっと肉感的すぎる身体のラインを少し気にしながら、使い魔の小人さんに身体の上に載せた蒸しタオルを交換してもらっている。
「だから、ちゃんとやってるだろうが」
 思わず、目隠しに手をかけかけてラルク・クローディスが叫ぶ。
「はーい、そこまでだよー。目隠し取ったら、本気で殺すから。今、あたしたちすっぽんぽんなんだからね」
 マッサージ台の上に一糸まとわぬ姿で仁王立ちになって、ラルク・クローディスにむかってハンドガンを構えたリン・ダージ(りん・だーじ)が強い口調で言った。
「そういうことを、男の前で言うんじゃねえ」
 珍しく顔を赤らめてラルク・クローディスが言い返した。
「あ、リーダー終わったら、次僕頼むよ」
 のほほんと長い脚をバタバタさせながら、マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)が言った。裸でいると、その長身とスレンダーな身体つきがいやでも顕わになる。
「まったく。タシガンの後、世界樹で療養しているからと聞いて寄ってみれば、とんだ災難だぜ。あんときゃ、一所懸命助けてやったのに」
 ココ・カンパーニュの腕をモミモミしながら、ラルク・クローディスはぼやいた。いつも見舞いで砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)にもしてやってるので手慣れたものだ。
「あたりまえでしょう。闇市でした会話はお忘れでないでしょうね」
「わ、忘れてねえよ!」
 ペコ・フラワリーに言われて、思わず反射的に獣耳を出してラルク・クローディスは言い返した。
「まあ、いいじゃないの。これも、御褒美みたいなものだから」
 気持ちよさそうに、ココ・カンパーニュが言った。
「それで、手はずは整ってるわよね?」
 リン・ダージが、ひそひそとマサラ・アッサムに話しかける。
「ああ、情報のリークはバッチリと。きっと、あの撮影マニアとかサイン色紙マニアとかが、おっさん許すまじと、天誅加えに殺到するだろうさ」
「おもしろーい」
 マサラ・アッサムの言葉に、リン・ダージが口許を手で押さえてぷぷぷと笑った。
「そこ、何悪巧みしてやがる。後でバキバキに揉んでやろうじゃねえか」
 ポキポキと指を鳴らしながら、ラルク・クローディスが凄んだ。目隠しのせいで足元をよろめかせながら、マサラ・アッサムの声のした方へとむかっていく。
「まあ、いいんですの、そんな発言をして。この大浴場には、他にもお客さんがたくさんいますわよお」
 にこやかに、チャイ・セイロンがラルク・クローディスを脅した。
「で、本物のリークの方はどうしましょうか」
 ペコ・フラワリーが、ひそひそとココ・カンパーニュに聞いた。
「できる限り、輝睡蓮を手に入れてからといきたいんだが……」
「おそらく、葦原島にむかったところで追っ手がかかるでしょうね」
「とにかく、今度こそなんとかしてみせる」
 ココ・カンパーニュは、ぐっと拳を握りしめた。
 
    ★    ★    ★
 
「わーい、お風呂なのだー。いろんなのが、いっぱいあるのじゃー」
 意外にも、初めて大浴場にやってきたビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)は、いろいろなお風呂を次々に見学しながらあちこち歩き回っていた。ピンクのフリルスカートのついたワンピース水着を着て、首に掛けたタオルで小さな胸元を隠している。
「釜風呂? なんか凄いのじゃ」
 大きな釜製の風呂を見つけて、ビュリ・ピュリティアは喜んで近づいていた。
 ぷっかぁ〜。
「えっ?」
 何かが釜風呂の中に浮かんでいる。
 アーサー・レイスに出汁をとられた後のザンスカールの森の精 ざんすか(ざんすかーるのもりのせい・ざんすか)の、のぼせて気絶した姿であった。
「た、大変なのじゃあ。誰かあ、人が倒れてるのじゃあ!」
 驚いて、ビュリ・ピュリティアが叫んだ。
 
「なんだって、誰がどこで倒れているって!? 今度こそ、本当の救命活動だ。待ってろ、今行くぞ!!」
 レスキュー魂に火のついたラルク・クローディスが、目隠しをかなぐり捨てて叫んだ。
「あっ……」
 思わずマッサージ台の上で上体を起こしたすっぽんぽんのゴチメイたちと目があう。
「うわああぁぁぁぁ……!!」
 ラルク・クローディスの悲鳴が、大浴場に響き渡った。
 
    ★    ★    ★
 
「待て、オプシディアン、今度こそ逃がさないぞ」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は宿敵を追いかけていた。
 犯人は現場に戻るという言葉を信じて、ずっとヒラニプラの闇市で待ち構えていたのである。
「しつこいですね……」
 黒曜石の仮面を被ったオプシディアンがすっと手を動かすと、魔導球が一つ襲いかかってきた。
「その手に引っかかるものか。こいつで……どうだッ!」(V)
 緋桜ケイが、禁じられた言葉で強化したアシッドミストで、魔導球を破壊する。
「もう逃げられるものか!」
 ついに崖の端でオプシディアンを追い詰めた。
「観念しろ!」
 言うなり飛びかかっていく。
「わあ」
 そのとき、二人の足元が崩れた。そのまま、遥か下へと落下していく。
「いいかげん、素顔を見せろ!」
 落下しながらも、緋桜ケイはオプシディアンの黒曜石の仮面に手をかけた。正面にいる自分の姿が、薄く映り込んでいる。緋桜ケイは、その仮面を力を込めて剥ぎ取った。
「お、お前は……」
「はははははは、落ちるのは慣れていますよ」
 仮面の下から現れた見慣れた級友の顔を見て、緋桜ケイは絶句した。
 
「うわああああ、お、落ちるぅ……」
 布団の中で、両手を天井にむけて突きあげながら緋桜ケイが悲鳴をあげた。
「うーん、うるさいにゃあ……」
 緋桜ケイの胸の上で丸くなって惰眠を貪っていたシス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)が、むくりと顔をあげた。
「なんだ、寝言にゃ」
 見慣れた寮の部屋の中を見回して、シス・ブラッドフィールドは安心した。床は後から敷き詰めた琉球畳だし、ベッドではなくてちゃんと布団が敷いてある。家具や食器棚もあるし、さっきシス・ブラッドフィールドが落として割った悠久ノカナタお気に入りの湯飲みも、破片をキッチンの床にぶちまけたままだ。ここは間違いなく、イルミン寮の緋桜ケイの部屋である。
「も一度寝るにゃ」
 シス・ブラッドフィールドは緋桜ケイの胸の上で再び身体を丸めると、静かに目を閉じた。
 
「ううっ、落下のショックで胸が痛い。それにしても、オプシディアンの正体がお前だったとは、じゃあ、ジェイドの正体は……、って、おい!」
 話しかけた相手から反応がないので、緋桜ケイはオプシディアンであったりなんとかであった物をつついてみた。ぷしゅうっと空気の抜ける音がして、目の前の男が萎む。
「風船!? 変わり身の術かよ。畜生、いったい、オプシディアンの正体は誰なんだぁ」
「ははははは、また会おう」
 巨大なジェットエンジンの上に乗ったオプシディアンが、空を飛んで逃げていく。その回りには、極彩色の鳥が飛び交っていた。
「逃がすものか!」
 緋桜ケイは、空飛ぶ箒でその後を追いかけた。
 
「くそう、捕まえたぞ、逃がすものか、ムニャムニャ……」
「ああ、ココにゃん、そんなにだきしめたら、嬉しいけど苦しい……」
「ぎゅーっ」
「ああ、幸せー」
 寝ぼけながら、だきあった二人がごろごろと布団から転がり出る。
「ただいまー。今帰ったぞ」
 ドアの開く音がして、買い物から帰った悠久ノカナタが戻ってきた。
「まったく、男二人でだきあって何をして……。うぎゃあああああ!! わ、わらわの湯飲みがあぁぁぁぁぁ!!」
 床で割れている愛用の湯飲みを見て、悠久ノカナタが凄まじい悲鳴をあげた。
「ううっ、なんにゃ?」
「なんだ、なんだ。ああ、カナタ、お帰り……」
 悠久ノカナタの悲鳴で、寝ていた二人が目をこすりながら起きあがった。
「おぬしらは……。許せぬ、覚悟を決めるのだな」(V)
「うきゃあ!」
 平和な休日は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 
 相変わらず長いです、休日シナリオ。
 えーと、ジュールの計算は、間違ってる可能性が高いですぅ。まあ、でも、威力的には機晶姫用レールガンは十万ジュール程度かなと。まったくの想像ですが。「うそ」の時のような出力を得るにはさらにその数十倍以上必要ですね。まず、ライフル程度の大きさだと砲身が1発で溶解するか蒸発します。怖い考えになったので、深くは考えないようにしましょう。
 全体的に、一部ちょっと暗いですが、闇龍がねえ……。早く倒さないといけませんねえ。
 若干名、いじられてる人もいますが、事故だと思って諦め……。いや、なんでもありません……。
 毎度のNPCたちですが、ちょっと人数が増えているので、今回はさすがに全員登場というわけにはいきませんでした。きっと、釣りしたり、散歩したり、放浪したりしているのでしょう。そのかわりに、小ババ様がなんかNPC化しそうな勢いなんですが。強い、強いぞ、小ババ様。いったいこのままどこへむかうんだ、小ババ様。
 
P.S. キャラ名称のミスを修正。薔薇の学舎中等部に関してのコメント修正。