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君が私で×私が君で

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君が私で×私が君で
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リアクション

「わーなんかすごい大変な事になってるよすごいなにこれ!」
 エミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)は、自分の身体を見回して面白そうに言った。
「あ、あの果実さえ食べなければ……」
「なっちゃったもんはしょーがないじゃん!」
 心底後悔している春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)に、エミールはあっさりと言った。
「しょーがないって……! と、とにかく! 今日は元に戻るまで外に出ないようにしましょう!」
「えー……それよりもケータイ交換しよっ! エミールのなんて別にいらないしー」
「そ、そうですね。真菜華の携帯なんて重いばっかりで役に立ちませんからね、返しますよ」
 ストラップてんこもりの携帯電話とシンプルな携帯電話を交換する。その途端、真菜華の手で電話が震えた。
「あ、もしもし……え? 違いますよエミールです。入れ替わってしまって……」
「…………」
 そうして自室に引っ込んでいく真菜華を目で追ってから、エミールは何かひらめいたような顔をしてケータイを開いた。
「にしし、マナカいいこと思いついちゃった……!」
 電話帳から目的の番号を選び、発信ボタンを押す。1コールで相手は出た。ひまだったらしい。
『もしもしー?』
「あ、ラスの声だー! って事はピノちゃんですかー? あのねー声ちがうけど番号でわかるよね、マナカなのー!」
『え、マナカちゃん? もしかして、マナカちゃんも?』
「そうだよー、果実を食べちゃったからね! あの時、ピノちゃん達も食べてたよねっ!」
『果実? うん。でも、それがどーかしたの?』
「え、もしかして……知らないの?」
『だってあいつ、外に出るなって言ってから帰ってこないし。電話はしょっちゅう掛かってくるけど何も言わないし。この身体じゃ行く所も無いんだけどねー』
 何気にあいつ呼ばわりしたラス・リージュン(らす・りーじゅん)に、エミールは言った。
「それはひどいにゃー……。みんな知ってるのにー……ねーねー、これからマナカと遊ぼっ!」
『うん、いーよー! どこ行くっ?』
「良ーい考えがあるんだっ! あのね、ラスって脅迫写真が好きでしょー?」
 そして、エミールは楽しそうに話しはじめた。いわく、ラスボディピノとエミールボディマナカでいちゃいちゃした写真を撮って、それをラスへの脅迫材料に使う、という計画である。
「ピノちゃんも、そーゆー切り札……欲しくない?」
『きょーはくって……弱みを握る……ってこと?』
「そーだよっ! 協力してくれたら、写真のデータはもちろんあげるよう。あとケーキの食べ放題くらい、おまけでつけちゃおっかな!」
『ケーキ!?』
 ラスの声が途端に弾む。
「普通に鑑賞目的でもいいけどね〜……といってもエミールはともかく、ラスはそのまんまじゃ見た目がカワイクないよねー?」
 エミールはそう言うと、悪戯っぽい笑顔で一言つけたして電話を切った。
 その少し後。戻ってきた真菜華は――
「ちょっと、ちょっとー!!! どこへ行ったんですか!?」
 身体を持ち逃げされて、大焦りの声を出した。

 通行人の間を透かし見たり通り沿いの店の中を覗いたり。結崎 綾耶(ゆうざき・あや)はツァンダの市街で康之達を探していた。身体がちぐはぐな綾耶がどうしているのかと心配であると共に、見た目はともかく2人がデートの形を取っていることに軽い……かなりの嫉妬心を抱いてしまう。
「あの馬鹿、入れ替わってることに気付くだろ……普通に」
 康之に制裁を加える気満々である。
「康之の野郎、どこいった……?」
 綾耶の身体では特技の捜索も無く、2人はなかなか見つからない。
「おっ」
 通行人にぶつかって、よろける。相手は綾耶の姿を見るとすまなそうに手を上げ、ごめんなー、と言って去っていった。康之達を探すことに集中して他への注意力が散漫になっていることもあり、さっきからこういう事が多かった。人の出も多く、普段使っている女王の加護もないので危険を察知することも出来ない。
「わっ、あぶな……いて、足踏まれた……」
 右往左往しながらもめげない。がんばって綾耶は2人を探す。
(……にしても、ツインテールって意外と頭のバランス必要なんだな……気抜いたらふらふらする)
 ふらふら。
 ふらふら。
 人波からなんとか逃れ、気を抜いて足を緩める。そこで彼は、身体のあちこちに痛みを感じた。
「何だ……? ああ、そうか……」
 人とぶつかりまくった所為だと思うも後の祭り。
(この身体、普通に過ごすだけでも大変なんだな……)
 実感すると同時、自分は普段、綾耶に負担ばかりかけてるのではないかという思いが過ぎった。考えれば考える程に、それを痛感する。
「痛むかね?」
「!?」
 ネガティブ思考の真っ只中、後ろから声が掛かった。誰かなんて確認したくもない。振り返りたくもない。
「ふふっ、いやはや君が演じた喜劇は存分に楽しませてもらったよ。だがしかしその身は『お人形』なのだから、もう少し丁寧に扱いたまえ」
 お人形というのは、彼女の出自に関係した発言なのだろう。しかし、その呼び方が無性に癪に触り、綾耶は沈黙を貫いた。
「さて、なにやら思い悩んでいるようだが、そんな瑣末な事よりももっと目を向けるべきところがあるではないか?」
「…………なんだよ」
 含み笑いのような吐息が聞こえる。
「……それが何かは、君自身で考えたまえ」
「うるせえ! さっさと帰れ!」
「ふふ、そうさせてもらうよ」
 ミスター ジョーカー(みすたー・じょーかー)は綾耶から離れ、踵を返した。
(理解する気も、ないか。君が感じた痛みは偽りが真になるための変革の痛み。はてさてそれに気づくのはいつなのだろうねぇ……教えるつもりは毛頭ないがね)

「ん? なんだこれ」
 携帯を仕舞った所で、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)は胸パットを発見した。渡された服をそのまま被ったのだが……これは、朝に付ける予定だったのだろうか。
「どうやって付けるんだろうな…………まあいいか」
 装着しないままに外に出て、風祭 隼人(かざまつり・はやと)と合流する。
「あ、隼人……どう? 大丈夫だった?」
「ああ。でも胸パットは付けなかったぞ、面倒くさかったし」
「へ? 胸……パット……?」
 驚いて硬直する隼人に、アイナは気を楽にしてやろうと心からのアドバイスを送った。
「まあ、胸のサイズなんて小さな事だから気にするな」
「…………〜〜〜!」
 向かいの自分がぷるぷると身体を震わせていることになど、これっぽっちも気付かない。
(秘密が広まったら、私は恥ずかしくて生きていけない……でも死ぬのは嫌だから……)
 隼人はブライトマシンガンを素早く構える。
(もう隼人を消すしかないわ!)
「!? 何だ!?」
 寸分も迷わず攻撃してくる隼人に、アイナは訳が分からないまま距離を取る。
「ま、待てよ! いきなり……!」
「うるさいうるさいうるさい!」
 更に容赦無く光弾を撃ってくる隼人。
 ――殺される!
 その迫力に本気でびびったアイナは、一目散に逃げ出した。
 荒い息でマシンガンを降ろすと、隼人はソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)を呼びに行った。胸のサイズやパットについてはずっと秘密にしていたのに……!
「どうしました? 何か物騒な音が聞こえましたが……。……!」
 ソルランは、隼人の中に入っているアイナの殺気立った様子に身体を萎縮させた。
「隼人を捕獲してデリートするわ。協力、するわよね?」
 逆らったら酷い目に遭わせる、とその目がありありと語っている。“普段”は気弱な彼が逆らえるわけもない。
「はい……」