葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション公開中!

【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション



●『星降る夜に届け、この想い』

 1972年、夏。
 沖縄が変換され、大東亜戦争で負った傷を取り戻そうと必死になっていた頃の日本。
 
「……とまあ、そんなわけじゃから、今年のゼミ合宿は奈良の高松塚古墳を見に行こうというわけじゃ。発掘現場を直に覗ける機会なぞそうそうない故、全員参加じゃぞ?」
 クーラーの壊れた室内で、扇で仰ぎながら伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)=民俗学専攻の教授が妖しげな笑みを浮かべる。
「合宿中の予定等を記載したパンフレットをお配りします。当日までに目を通しておいてください。現地ではレポートの作成もありますので、ただ観光気分というのも困りますよ」
 マリル・システルース(まりる・しすてるーす)=教授の助手が、研究室の学生たちにパンフレットを配り、そして教授が今日のゼミの終了を告げる。
「今年のゼミ合宿は面白そうだな。先輩の噂じゃ、毎年発掘現場の手伝いと言いつつ実際は農作業だったらしいし」
「吉敷、先生に聞こえたらマズいわよ。後で何されるか――」
「……ほう、わらわが何をするとな? いいんじゃぞ、手伝いたければわらわが掛け合っても」
「おいおい、カンベンしてくれよ」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)=吉敷とアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)=亜愛李が教授に捕まり、教授の言葉にやれやれといった表情を見せる。
「綺月! あっち着いたら一緒に回ろっ?」
「美菜、これは一応合宿ですよ? ……まあ、ダメといっても君は行くでしょうね。いいですけど、僕から離れないでくださいよ? 美菜は自覚のない方向音痴なんですから」
 菅野 葉月(すがの・はづき)=綺月とミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)=美菜が荷物をまとめ、美菜がアレコレ話すのに綺月がツッコミを入れつつ、部屋を後にしていく。
「あ、あの、留里さん」
「克明さん、奈良といえば鹿さんだよねぇ〜。るりね、奈良に着いたら鹿さんに餌あげるんだぁ〜」
「そ、そうですか、それは楽しそうですね、ハハハ……」
 『ゼミ合宿を一緒に過ごそう』という決意のもと、声をかけた立川・克明(たちかわ・かつあき)だが、相手の坂本・留里(さかもと・るり)に肩すかしを食らって乾いた笑いを浮かべる。
(こ、こんなんじゃダメなんだ……俺がこんなんだから、何時まで経っても留里さんに告白も出来ない……)
 克明は留里のことが好きなのだが、いつも克明は留里の前では普段のように振舞えず、もどかしい思いをしていた。
「……あ、でもるり、鹿さんがどこにいるのか分からないや〜。克明さんは知ってる〜?」
「……え、あ、はい、話には聞いたことがありますけど……」
「ホント〜!? それじゃ克明さん、案内してくれるかな?」
「は、はい、俺でよければ――」
「やった〜、ふふふ、鹿さん楽しみ〜♪」
 無邪気にはしゃぐ留里を見つめながら、思いもよらぬ形でチャンスが巡ってきたことに、克明は体の奥底からやる気がふつふつと沸き上がってくるのを感じていた。
(このゼミ合宿で……留里さんに告白するんだ!)

 そして迎えたゼミ合宿当日。
 教授が謎のルートで調達した新幹線で昼前に奈良に到着した一行は、これまた謎のルートで手配したホテルのチェックインを済ませ、市内観光へと繰り出す。数時間の自由行動を与えられた学生たちは、散り散りになってそれぞれの目的地へと向かっていく。
「ワタシあっちに行きたい! あ〜でもこっちにも行きたい!」
「はいはい、建物は逃げませんから順番に行きましょう」
 美菜にあっちこっちに引っ張られる綺月は、既に疲れた顔をしていた。
「克明さん、案内よろしくね〜」
「あ、はい」
 頷いた克明に、無防備にも留里が克明の腕を取って身体を寄せてくる。
「る、留里さんっ!?」
「ふふふ〜♪ 鹿さん鹿さん〜♪」
 しかし、留里の意識は鹿にかかりっきりのようである。克明はため息をつきながら、奈良公園へと足を向けていった。

 結局、合宿一日目は留里が鹿に終始ご執心だったため、いいムードに持っていくことすら出来なかった。
 二日目は、教授がどういうわけか高松塚古墳の中を見せてあげるというので、一行は訝しみながら現地へと向かう。
「お待ちしておりました、ささ、こちらへ」
 何故か重要者待遇なことにさらに首をかしげながらも、学生は二人一組になって石室の中へと入り、7世紀末に描かれたであろう壁画を目の当たりにする。
「……これが当時の芸術ってやつか。半信半疑だったけど、このようなものが見られるとは驚きだな」
「しかし、私達がおいそれと入っていいのでしょうか?」
 吉敷と亜愛李が見学を終え、そして克明と留里の番になる。
「克明さん、るりが先に行くね〜」
「え、ちょ、ま、待ってください留里さんっ」
 克明の静止も聞かず、留里が石室へと屈んだ姿勢で入っていく。
(参ったなあ……留里さん、こんな時にどうしてスカートなんだよ……)
 意を決し、前を極力見ないようにして、克明も後に続く。
「わ〜、スゴイなぁ。あっ、これはえっと、あおりゅう、だったっけ?」
「青龍、ですよ留里さん」
「そうそう、それそれ! 克明さん物知りだなぁ〜」
 その後もあれは何だ、これは何だと聞いていく留里に、克明は思わず前を見そうになってその度に慌てて視線を逸らしながら、留里の質問に逐一答えていった。

「はぁ……結局、留里さんに何も言えなかったなぁ……」
 二日目の夜が過ぎ、自室で一人、克明がため息をつく。明日は最終日、昼には奈良を離れ東京へ戻ってしまう。
「やっぱり俺、ダメなのかなぁ……」
 ふと克明が真下に視線を向けると、ふっ、と人影のようなものが視界をよぎるのが目に入る。
「……えっ? まさか……留里さん?」
 まさかとは思いつつ、克明はホテルを抜け出し、人影が向かったと思しき場所へ歩を進めていく。辺りは木々が茂り、夏特有の香りが鼻をくすぐり、虫の鳴き声が耳を打つ。
 がさがさ、と大きな音が聞こえ、克明が驚いて足を止める。振り向くと、見慣れない服装に身を包んだ、留里……ではない少女が立っていた。
「もう、おじ……えっと、克明! 何迷ってるの? おば……留里って子に思いを伝えようって思ってここに来たんじゃないの?」
「な、何故それを……」
 目の前の少女に言葉をかけられて、克明は戸惑いながらもあの時決意したことを思い返す。
(そうだ……このままじゃ帰れない。俺は留里さんに告白するって、決めたんだ……!)
 克明の瞳に、力強さが戻ってくる。それを見て少女が満足気に微笑んで、一点を指差した。
「そうそう、男なら当たって砕ける勢いで行かなきゃだよ!」
 振り向くと、木々が途切れた先、草原に立つ人影が視界に入った。暗がりからでもその人影が留里であると悟った克明は、地を蹴って駆け出していく。木々を抜けると、晴れた夜空いっぱいに、星が浮かんでいた。
「……克明さん?」
 克明の接近に振り向いた留里が、克明の姿を認めて首をかしげる。
「る、留里さん……」
「?」
 首をかしげる留里、月明かりに照らされた彼女は、克明が直視するのが苦しいほどに美しかった。
(……ええい! 当たって砕けちまえ!)
 目をつぶって、深々と頭を下げて、克明が声を張り上げる――。

「ずっと、ずっと前から好きでした!
 俺と付き合ってください!」


 耳に痛いほどの沈黙が流れる。
 耐え切れず克明がその場から逃げ去ろうとした時、ふっ、と包み込まれるような感触に克明が頭を上げようとして、抵抗する力に遮られる。
「だ、ダメだよ〜。今るり、とっても恥ずかしい顔してるからっ」
「えっ、そ、それは一体――」
 何のことやら分からないといった様子の克明に、留里の言葉が降る。
「……克明さんがるりのこと、好きって言ってくれて、嬉しいな。るり、こんなだから、克明さんは友達くらいにしか見てくれてないかなって思ってたから……」
「留里さん……」
 克明はその言葉を聞いて、留里が自分と同じ想いを抱いていたことに気付いて、途端に愛しさがこみ上げてくる。
「留里さんっ」
「だ、ダメだってばっ。もうちょっと待って、ね?」
「は、はい……」
 留里に抑えこまれたままの克明、表情には満面の笑みが浮かんでいた。
 そんな彼らを祝福するように、きらり、と星が瞬いて尾を光らせる――。

「るるさ〜ん、そろそろ行きますよー」
「待って、もうちょっとだけ。……うん、よかったね、おじいちゃん、おばあちゃん」
 豊美ちゃんに急かされながら、立川 るる(たちかわ・るる)が幸せそうな二人の姿を目に焼き付ける。
(……るるもいつか、あんな素敵な恋をしてみたいな)
 二人から幸せパワーをもらって、るるも満面の笑みを浮かべて、豊美ちゃんと共にその場を後にした――。



 こうして、豊美ちゃんと講義に参加した一行は無事、イルミンスールに戻ってきた。
 
 だが、帰ってきた豊美ちゃんを待っていたのは、校長室への呼び出しとアーデルハイトからの叱責であった。
「まあ、私としてはアリかと思っとったんじゃが、色々と問題になりそうなんでな、許してくれ」
 そう告げるアーデルハイトは、豊美ちゃんの講義は少なからぬ学生に良かれ悪かれ影響を与え過ぎる可能性があるとして、豊美ちゃんの講義を無期限休講とする措置を下した。
「ま、ほとぼりが冷める頃になったら、再開するやもしれん。私は豊美のしたことを悪く言っておるわけではないぞ。色々とあったようじゃが、こうして無事に学生を連れ帰ってきとるからの」
「はい……ありがとうございます、ごめんなさい、アーデルハイトさん」
「そう畏まらんでもよい。……どれ、私も魔法少女とやらを名乗ってみようかのう。プリティ魔法少女アーデルハイト! ……どうじゃ?」
「…………キモイですぅ」
 エリザベートがぼそっ、と呟いた言葉が、アーデルハイトのぺたんこな胸に突き刺さる。
「なっ、お、おまえ! 今の言い方はグサリときおったぞ!?」
「キモイからキモイって言ったまでですぅ。年を考えて物を言え、ですぅ」
「年は関係ないと豊美も言っておるぞ!」
「わわ、喧嘩しないでくださいですー。では、アーデルハイトさんも魔法少女ということにしましょー」
「ほれ見ろ、魔法少女のお墨付きじゃ。ふふん、これで私も公然と“少女”を名乗れるの♪」
「こ、これはきっと悪夢ですぅ……トヨミ、早く元の世界に戻すですぅ」
「わ、私じゃないですよー」
 校長室での賑やかな会話は、その後もしばらく続いた。
 
 豊美ちゃんの講義は今回限りとなってしまったが、おそらく、講義を受けた学生たちの心の中には、色々と思うものが植え付けられたであろう。
 それらが、彼らの今後の学生生活に良い影響を及ぼしてくれることを、今はただ願うばかりである――。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮・烈です。

シナリオに参加してくださった皆様、お疲れさまでした。
豊美ちゃんの講義はいかがだったでしょうか。

ぶっ飛びつつ、可能な限り史実っぽい(あくまで、っぽい、ですが)内容を目指してみたつもりです。
それでも、幕末〜大東亜戦争の辺りは相当難儀しました。時代が進むにつれて縛りがきつくなっていく感覚でした。
それ故か、今回は言い訳という名の個人コメントが大量発行されているはずです(汗

なお、豊美ちゃんが持っていた本『萌え萌え語呂合わせ日本の歴史』の元ネタは、『ゴロ萌え日本史』という書籍です。
よって、リアクション中で豊美ちゃんがしゃべっている語呂合わせは、この本からの引用、ということになります。
豊美ちゃんも危惧しているようにこの辺りアヤシイ気がしますが……わ、悪気あるようなことは書いてないはずです。

また、語呂合わせを考えてくださった方々、どうもありがとうございました。
都合によりあまり採用出来なかったように思いますが、ここで感謝の言葉を述べさせていただきます。

それでは、次の機会にまたお会いしましょう。