校長室
【十二の星の華】空の果て、黄金の血(第2回/全2回)
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「飛行艇がいない…」 しかし、すでに大型飛行艇は離陸していたのだ。 にゃん丸はもう、わき腹の傷で力が入らない。 が、真珠の目は希望を失ってはいなかった。 「静麻さん! 黒龍さん!」 ほぼ垂直の角度で静麻と黒龍が小型飛行艇で現れる。 それぞれ、ワイヤーでもう一台ずつ小型飛行艇を持ってきていたのだ。 ふわっと上手く着岸させると、 「真珠、飛ぶぞ!」 にゃん丸は真珠を抱き上げ、リリィは静麻と共に小型飛行艇に乗り込んだ。 正悟は気を利かせ、黒龍と、そして佑也と赫夜は残りの小型飛行艇に搭乗し、素早く浮遊島から全速力で離れていく。 「…くぅ」 にゃん丸の傷が疼く。一瞬、気を失いそうになるにゃん丸。 「にゃん丸さん! しっかりして!」 真珠は見よう見まねで小型飛行艇を操ると、大型飛行艇まで近づくと最後の力を振り絞って、飛行艇の手すりににゃん丸が鎖鎌を巻きつかせ、飛び込む。そこには既に到着していたリリィが両手を広げて二人を抱き留めた。 「…た、助かったのですね…わたしたち…」 真珠はボロボロになったドレスの裾をびりっと破ると、にゃん丸の傷に手当した。 「真珠、君は君の力で、ここまで来たんだ…誇れ、真珠」 にゃん丸の言葉に 「そ、そうよ真珠、世界は広いの!自分の意志で他の男も見るべきだわ!」 何故か不思議なセリフを高らかに宣言するリリィがいた。 赫夜たちの帰還を知った面々は次々に集まってくる。 「…風蕭蕭兮易水寒 壮士一去兮不復還…」 漸麗は美しい声で歌うように呟く。 「僕の大事な友達、『彼』は最期にそう歌って…二度と帰って来なかったけれど…君達はどうか、あるべき『幸せな場所』に還れますように…そして、これから無限に紡がれる君達の幸せな物語を、僕はずっと奏で続けていたい…だから、ひとりの友人として、傍にいてもいいかな」 「ずっと一緒にいて…漸麗さん…私の大事な大事な友達…」 と漸麗を抱き締める真珠。 そこに虹七も抱きついてくる。 「ことちゃん!! ことちゃん、帰って来たんだね! ずっと待ってたよ! 虹七、信じてたよ!」 「虹七ちゃん、ドレスの血が付いて汚れてしまうわ」 真珠は言うが、虹七は 「構わないよ!」 抱きついてくるのを、真珠は抱き上げ、ぎゅっとその小さな体を抱き締めた。 「大好きよ、虹七ちゃん」 「虹七もことちゃん、大好き!」 アリアは血だらけになっている赫夜の顔を、濡れたタオルで拭き取ってやる。 「…ちゃんと、無事に帰ってきてくれたのね、赫夜」 「ああ。…アリア、本当にありがとう。…あなたと言う友人に出会えて、本当に良かった」 「私もよ…闇も光も、全てはこの世にあるべきものだと、そしてこの世にあるものには意味があると、私はあなたを通して学んだわ」 「アリア…」 ふっと気がゆるんだのか、赫夜はアリアに抱きついた。 その背中をアリアはまるで子供のようにさすってやる。 大型飛行艇からは、沈んでいく浮遊島が徐々に小さくなっていくのが見えた。何度かの爆破によって、その形は崩れ、バラバラになっていく。そのまま、地球の海に沈んでいくのだろう。 星双頭剣とケセアレと共に。 (ケセアレは…私の宿命を背負って逝ってくれたんだ…) 赫夜はそれを見つめながら、ケセアレの孤独と自分とを重ねていた。 私たちは、似た者同士だったのだ。 愛に飢えた子供だったのだ。 愚かな、愛に飢えた、子供。 真珠はそっと赫夜の側に寄りそう。 「…今日は泣かないんだな。泣き虫の真珠だと言うのに」 赫夜の言葉に真珠は浮遊島を見つめたまま、呟いた。 「私は泣いてはいけないわ。私に命をくれたケセアレ伯父様はきっとそれを望んではいない。同情で、私一人の感情で、涙を流すことは許されない。…きっとケセアレ伯父様はそんな私を望んでは居ない…だから、泣かないわ、姉様」 真珠はそういうと、手にしていた小さな剣で髪の毛をバッサリと切り落とし、そしてそれを海に手向けのようにばらまいた。 「これくらいしか、今の私にはできない」 「…お前は強くなったよ、真珠…」 「全部、みんなの力よ。そして、姉様の力よ…」 赫夜はそっと真珠を抱き締めると、真珠も赫夜にそっと肩を預けた。