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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・司城への疑問


 一方、イルミンスールでの顛末を知る者達が中心のグループは、最初のルートを左にとっていた。
「眼鏡さん、無事だといいけど……」
 秋月 葵(あきづき・あおい)が不安げに呟く。
 リヴァルトの心境を察してか、彼女はエミカに真実を伝えてはいない。本人が言わない事を、自分が勝手に伝えるのもどうかと思ったからだ。
「エミカさんも心配してましたね。でも、なんで司城さんは今になって打ち明けたんでしょう?」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が葵に応じる。
 エミカと別ルートをとる前に話した時、リヴァルトと司城について彼女は尋ねたのだが、特に司城の行動に繋がる情報はなかった。
 しいて言うならば、司城が『新世紀の六人』と呼ばれる世界でも有数の科学者の一人であったという事、そして二○十五年に蒼空学園の専任教員として着任する事になったという事くらいだ。
 その一方で、リヴァルトの事で彼女が知っているのは、出会ってからの十年間だけだった。家族が殺された事については知っていたようだが、深くは詮索してこなかったようだ。だからこそ、リヴァルトが一月に『研究所』を発見し、ワーズワースの子孫と目された時、一番驚かされたのは彼女らしい。
『リヴァルトの家系は、あたしもよく知らないんだー』
 ともエミカは言っていた。司城からの説明で科学者の一族だという事くらいらしい。多くは彼女に対して語らなかったようだが、司城はリヴァルトの一族と数十年の付き合いがあったらしい。
「まだあの人、いろいろ隠してる気がする」
 これまでのワーズワースを巡る出来事、それを考えると、司城の行動には疑問が多く残る。
「本人に会えれば色々聞けるかもしれない。ただ、ここにいるのか……そもそもあの爆発の中で生きているのかもまだ分かりませんから」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が声を発する。あの時は司城が自らをワーズワースであると明かし、リヴァルトの家族を殺した事を告げるに留まった。
 だが、本当はもっと伝えようとする事があったのかもしれない。
「司城先生が本当にワーズワースだったとして……少なくとも傀儡師の雇い主ではないような気がします」
 東間 リリエ(あずま・りりえ)が口を開いた。
 これまでの調査で分かっているワーズワースの人物像、司城の人間性と兵器として五機精を利用しようと考えているらしい傀儡師の背後の人物像は一致しない。
 もっとも、司城の場合は演じていただけの可能性もあるのだが。
「気になるのは、『伊東がここに来た以上、どちらにしても正体を明かしていた』という言葉だ。あの二人は仲間にあったみたいだが、だとするとそうまでしてエメラルドを連れていかなければならなかったということだよな?」
 リリエのパートナー、ジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)が言う。
「急を要する何かがあった、ということでしょう。それこそ傀儡師側の人間に先んじなければいけないような……」
 考えても答えは出てこない。
 だが、今リヴァルトと司城が出会えば何が起こるか分からない。リヴァルトが憎しみをぶつける可能性だって十分にあるのだ。
 それを防ぐためにも、一刻も早く彼を見つけなければならない。

「他の場所でも、まだリヴァルトさんは見つかってないみたいです」
 関谷 未憂(せきや・みゆう)が通信機からの連絡を受ける。エミカ達も、制御室を目指している者達も、まだリヴァルトの姿を発見してはいない。
「うーん、ここにいるのは間違いなさそうなんだけどね」
 リン・リーファ(りん・りーふぁ)が捜索の特技により、リヴァルトがここにいると踏んでいた。
 足取りを辿る、という意味では未憂の追跡も役に立つ。
 イルミンスールの遺跡を調査していた者達をそちらへ導くような形で、施設の中を進んでいく。
「せめてこの施設が何か分かれば、探しやすくなりそうですね。ジノさん、どうですか?」
 ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)が遺跡で手に入れた魔道書、『存在の書』ジノに尋ねる。
『僕はあくまであの実験施設の所属だ。ワーズワースの他の研究施設については知るところじゃない』
 男の声が響く。
 彼の本体である魔道書は、かつて魔導力連動システムの暴走を抑えたが、それによってかなりのダメージを被っている。
 呼ばない限り出てこず、しかも実体化していないのは、魔力消費を抑えるためだろう。それに、実体化したらずっとそのままだ。今の彼にとってはその方が不都合なのかもしれない。
『ただ、あの場所とよく似た魔力を感じる。ここにも魔力炉のようなものが形成されているのかもしれないな」
 その方向を示すジノ。
 現在、彼女達は第三ブロックの第三層にいる。このまま進めばおそらく第二ブロックの第三層に出ることになるだろう。
 その時、無線でエミカ達がそこにいる事を知った。彼女達はそのまま第四層まで下るつもりらしい。
「機甲化兵も出てきているようです。わたくしたちも合流しましょう」
 第二ブロックの各層に、PASD本隊の面々は点在しているようだった。第二層では地図も発見されており、それによって最下層に広いスペースがある事をこちらの顔ぶれも知る。
『おそらく制御室だろう。研究施設ならば、全体を管理するための場所があるはずだ。そこに行けば、魔力炉の正確な位置も分かるかもしれない』
 魔導力連動システムの装置が、懇切丁寧に地図で示されているとも思えない。だからこそ、制御室で調べるのが最良に思えたのである。
 第四層に入ると、その空間までは一本道になるが、四層へのルートそのものは複数あるらしい。
 連絡を受けた事もあり、PASD本隊のほとんどはおそらくそこへ集う事になるだろう。