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5000年前に消えたはずの…蜃気楼都市

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第4章 至れり尽くせり・・・気分はお嬢様

「すっごーい広い庭!」
 ちょっとした贅沢気分を味わってみたいと願ったレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、200坪くらいありそうな庭を走り回る。
「それに血統書つきのペット、可愛いなぁ~っ。そうだプールの方へ行ってみよう、それぇええ!」
 メインクーンを抱きかかえてプールサイドへ走り、ドボォンッと飛び込み台からダイブする。
「冷たくて最高~っ」
 プールから顔を出して濡れた赤色の髪をブルブルと振う。
「一緒に入れればいんだけど、毛が濡れちゃうからね」
 飛び込む前にプールサイドへ置いてきたペットのところへ行く。
「ねぇミアも一緒に泳ごう・・・ってあれ?」
 黒いビキニ姿のレキよりも背の高い、ナイスなスタイルの魔女がこちらに背を向けている。
 どこかで見たような雰囲気だが、いったいどこで見たのか思い出せず、腕組をして考え込む。
「なんじゃ、わらわの顔を忘れたのかのぅ?」
 ミア・マハ(みあ・まは)がレキの方へくるりと振り返る。
 レキは“あ、そういえば”とミアが前に占いで未来を見せられた時を思い出し、その成長した姿になったのだと脳内を整理して理解した。
「てことはこれはボクが叶えたやつじゃなくて、ミアが夢を叶えたところへ一緒にいるってことだね」
「そういうことになるかのぅ」
「なるほど、そっかぁ」
「どうじゃ?レキよりも背が高くなって、ぼんっきゅっばぁあーんになったのじゃ!」
 パートナーを見下ろし、自慢するようにミアがポーズをとる。
「なんじゃ・・・スクール水着じゃのぅて、もっと違うタイプを着ればよいものを」
「だって思いつかなかったんだもん」
「わらわも泳ぐぞい」
 助走をつけてドバァンッと勢いよく飛び込む。
「冷たいなぁもうっ」
 水しぶきが顔にかかったレキが顰め面をする。
「せっかくだからもっと面白いのがあるといいのに」
「ウォータースライダーもあるのじゃぞ」
「わぁーい、滑りたい!」
「よし泳いで競争じゃ。1番最初についたほうが、先に滑るのじゃ!」
 どちらが先にたどり着けるか、バシャバシャと泳ぐ。
「あれれーっ、いつもより泳ぐの早くない?」
「この身長じゃからな。当然、手足も伸びるじゃろう」
「うわぁあ~ん、ミアに負けちゃったよー」
 レキはほんの少し数cm差で負けてしまった。
「ふっふっふ・・・いつもの身長だと思って甘く見たようじゃな。約束どおりわらわが先に滑るのじゃっ」
「うぅっ分かったよー・・・」
「それぇえーい」
「次はボクの番だね。ひゃぁあ~っ、楽しぃい♪」
 ミアに続きレキもシュゥウウーッと滑っていく。
「喉が渇いたね」
 プールサイドへあがったレキはミアと一緒に、身なりの整ったイケメン執事が用意してれたトロピカルジュースを飲む。
「たまにはこうやってのんびりするのもいいね」
「んーっ美味じゃ!そいえばそなた本物なのかのぅ?」
 ミアが執事をつんつくとつっつく。
「おぉ~つっつける。いや、触れられるからといって、虚像ではないとは限らぬ」
 じーっと見つめながらつっつきまくる。
「ノーリアクションかのぅ!?」
 平然としている相手にミアは目を丸くする。
「楽しかったのぅレキ。そろそろ昼寝するぞい」
「そうだね、シャワーとかあるよね?」
「こっちにあるぞい」
 お城のような家の中へレキを連れて行き、シャワー室へ案内する。
「へぇ~お湯と水を出すところを、シルバーで作ってあるんだね」
「床や壁は大理石じゃぞ」
 隣のシャワー室でミアが言う。
「こういうところも悪くないね」
 タオルで髪をふいて昼寝用のレースガウンに着替え、フカフカのベッドへダイブする。
 彼女たちはベッドに転がり、すやすやと眠り始めた。



「ピュアなこの乙女の願い・・・。叶えてっ、ドリームタウン!」
 ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)は石畳に膝をつき、空に向かって手を広げる。
「きゃぁあ、ありがとう。今日という日を神様に感謝するわぁー!」
「本心からの感謝じゃねぇだろ。しかもこの青空に向かって、なんつー願いをしてんだ」
 彼女の叶えた願いを睨むように見つめ、夢野 久(ゆめの・ひさし)は思わず嘆息する。
「ここは私のハーレム、私のパラダイスなのよーっ!」
 あらゆるパターンの老若男女の美男美女を並べて、ニヤニヤといやらしい目つきをし、舐めるように眺める。
「―・・・うわ、すげー汚らわしい目つきだな」
 じろじろといろんな角度から覗くように、ハーレムを見るルルールに久は呆れてしまう。
「何よ、これこそ純粋な乙女の願いじゃない!ウフ、ウフフフゲヘヘ・・・」
 久をギロッと睨みつけてルルールが反論する。
「てかゲヘヘて・・・酷い笑い方だな。とても純粋な乙女には見えないぞ・・・」
 王子様を待っているようなところまでなくても、一般的な夢見る乙女とかけはなれている彼女の態度に、疲れたような表情になる。
「いいわ、乙女がどういうものか教えてあげる」
「教えなくていいし、だいたい想像つくからな」
「まずはこうやって触るのよ、なーでなで~」
「(聞いちゃいねぇな・・・)」
 久の言葉を無視してルルールが実演で伝授しようとする。
「おーい、て言うか触れても所詮、消えちまう虚像だぞ。虚しくないのかよーっ?」
 汚れきった夢のゾーンに近寄りたくないのか、遠くから大声でルルールに言う。
「えぇえーっ、どうしてよ?」
「どうしてってお前・・・。本当にそんな生き方でいいと思っているのか!?」
「フッ・・・バカねえ。人生というものはね・・・気持ちよければ、ソレで良いのよ!!」
 美女に囲まれて胸に埋もれながらルルールはきっぱりと言い放つ。
 服を覗いたり手を入れて触れてみたりと、そのゾーンはもはや彼女のパラダイスとなり果てている。
「―・・・まぁ、誰かに迷惑かかってねぇからないまのところ。もし迷惑かかりそうなら即、プールに沈めないとな」
 普段なら放置しておくのだが、他のパートナーに“戻って来なかった実例があるんだ。一応用心して深入りせず、適当な所で切り上げたまえ”、と言われているためそうもいかない。
 しかしルルールの方はというと、聞いたはずの忠告が記憶の彼方へぶっ飛んでしまっている。
「そこまでいきつくともう清々しいな・・・・・・。頭のテッペンまでズブズブだなオイ・・・。迷子になりようのねぇ、人生完成のまっすぐな1本道が出来上がっちまっているな」
「うふふっ、うへへへ!今日はなんて素晴らしい日なの、きっと明日も最高!ずっとこのままだといいのに、どうせならここに住んじゃおうかな~グヘヘェ・・・」
「はぁ・・・住んだら死ぬまで出られねぇかもしれないのによぉ。コレでも一応、置いていくわけにもいかねぇし、そろそろ止めるか」
 嘆息しつつも仕方ないなと思いながら、視界に入れたくないゾーンで戯れるルルールへ顔を向ける。
「たしかこの都市って、まだ普段使えないはずの魔法とかも使えるんだよな?何よりアイツには、こういうオチがおあつらえ向きだ。ええと、コホン。ファイアストーム!!」
 こんな場所でもなければ、魔法なんて一生使う機会がないだろうと、炎の嵐でルルールの夢のハーレムごと燃やし尽くす。
「たとえ消えても、また願っちゃえばいいし・・・て、熱い熱い熱いっ死ぬー!?」
「おぉ~、よーく燃えてるなあ。結構熱そうだな・・・・・・」
 燃やした張本人が、あからさまに人事のように言う。
「ぶべばぉごごぼぼぉお・・・。(訳:私のハーレムがぁあ・・)」
 大火事状態のルルールは池に飛び込んで炎を消す。
「まぁ、自業自得だな。えーっとこれでいいか」
 気絶したルルールを木の枝で岸の方へ寄せて回収してやる。
「何だ・・・夢でも見ているのか?汚い笑い顔だな」
 気絶している彼女がニヤニヤとにやけているのを見て、眠って見るほうの夢を見ているのかと嘆息する。
「どうせろくでもねぇもんでも見てるんだろ。他の女子生徒は、まっとうな乙女とやらの夢を叶えてるんだろうな」
 まだニヤついているルルールをつまんで、比べても比較にならないかとまたもや嘆息してしまう。



「私の夢か・・・少しの間だけでもいいから、お姫様みたいな生活がしてみたい・・・かな?ん・・・なんだろう、あんなところにお城が・・・」
 そう考えながら歩いていると、遠野 歌菜(とおの・かな)はおとぎ話しに出てきそうなお城にたどりつく。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
 歌菜が来るのを待っていたかのように、メイドたちが赤い絨毯の両サイドに控えている。
 1人のメイドが歌菜のために用意したフリルの日傘で、お嬢様が日焼けしないように日除けする。
「えっ、お嬢様?」
「そうでございます歌菜お嬢様、お部屋でお召し替えしましょう」
「これが私の部屋!?」
 メイドの案内で部屋へ連れて行かれた歌菜は、青色の双眸を丸くして思わず言葉を失いそうになる。
 テーブルには大きなリボンをあしらったトルソーがあり、壁にはネコの形をしたカラーガラスの照明が室内を照らし、お姫様が使っているような天蓋ベッドまである。
 これらは歌菜の願望によって、彼女のためだけに現れた存在なのだ。
「そうだお姫様と言えばドレス!」
「歌菜お嬢様がお召し替えなさっている間、男性の方はお部屋の外へ出ていてください」
「あ・・・あぁそうだな」
 歌菜の着替えが終わるまで月崎 羽純(つきざき・はすみ)はメイドに部屋の外で待つようにと出されてしまう。
 お嬢様と呼ばれている歌菜はメイドに足首までありそうなドレスに着替えさせてもらい、ショールはピンクの薔薇のアクセサリーでとめている。
「わぁ~ありがとう!この宝石がついてるティアラとか、ピアスも素敵♪」
 さらに化粧や装飾で美しく着飾ってもらって、かかとの高いヒールまで履かせてもらう。
「よくお似合いです歌菜お嬢様、お花のようにお美しいです」
「えへへっ、そうですか?」
 歌菜は恥ずかしそうに照れ笑いをする。
「昼食の準備が整っております、歌菜お嬢様」
「そうだ羽純くんと一緒に食べよう。部屋の外で待っているんですよね」
「えぇそうです」
「2人分ありますか?」
「ございます、他のメイドにすぐにご用意させますので、お食事の場所でしばらくお待ちください」
「広ーーいっ!」
 メイドに連れて行かれた歌菜たちは、100人くらい一緒に食事出来そうな長いテーブルを見て、驚きの声を上げる。
「お飲み物と甘いスイーツをどうぞ」
「ありがとう、美味しいです♪」
 料理がくるまでにと出された、冷たいリンゴジュースを飲み、赤スグリと小さなプラムのケーキを食べながら待つ。
「お待たせいたしました、まずは前菜からです」
「いただきます!」
 生ハムとメロンや、ハムと生チーズのパイを食べる。
「羽純くん、生ハムとメロンは一緒に食べるのよ」
 分けて食べている羽純に、歌菜が小さな声音でそっと教える。
「そうだったか?細かい事ぁいいんだよ」
「うーん・・・そうかなぁ」
 適当に食べる羽純を見て歌菜は、ふぅと肩をすくめる。
「さっぱりしてて飲みやすいですね」
 今度はマウルタッシェンスープをスプーンですくって飲む。
「スープの次はメインね、楽しみ!」
「歌菜お嬢様、パンとライスどちらにいたしますか?」
「そうね、パンにします!あとバターもください」
 メイドが歌菜の皿にパンとバターを置く。
「俺のは?(無視かよ・・・)」
 お嬢様だけにしか従わないメイドは、さっさとメインを取りに行く。
「本日のメインは子牛のステーキでございます」
「んー・・・柔らかくて美味しいっ」
「歌菜お嬢様、そろそろデザートをお持ちしてもよろしいでしょうか」
「はい、お願いします」
 何がくるのか歌菜はウキウキしながら椅子に座ったまま待つ。
「デザートでございます」
「これも美味しそうですね!」
 グラスのカップに入った冷たいデザートを見て目を輝かせる。
 スイカのゼリーの上に、桃のシャーベットとビスケットが盛り付けられていて、さらに葡萄の入ったマスカットのゼリーが一番下の層にある。
「甘さがちょうどいいし、冷たくて美味しいですね。どれも美味しかったです。(あれ?食べたのにお腹がいっぱいにならない・・・私の気のせい?)」
 食べ終わった彼女は満腹感を感じず、不思議そうに首を傾げる。
「お口元が・・・、わたくしがお拭きいたします」
「あっ、ありがとうございます」
 綺麗なメイドにここまでしてもらい、気分はもう空へ飛んでしまいそうなほど、お姫様の幸せを味わう。
「お風呂に入ってみたいです、連れて行ってくれますか?」
 案内された歌菜だけ着替えさせてもらい、1人だけで薔薇のお風呂に入る。
「いい香り、お風呂も広くて最高・・・ふぅ。そろそろ出よう・・・」
 のんびりと風呂を楽しんだ後、着替えさせてもらい部屋へ戻る。
「天蓋付きベッド、ふかふか~。もう幸せ・・・。スヤスヤ・・・」
 そのまま日が沈むまで眠ってしまう。
「ん・・・あれ、今何時ですか?」
「夜の7時になります」
「そろそろ起きます」
 ドレスに着替えさせてもらい部屋から出る。
「これで白馬の王子様が居たら完璧・・・って、羽純くん!?」
「歌菜、今宵も・・・綺麗だ」
 王子様がいたらいいのにと願った歌菜の影響を受けた羽純が王子様のように振る舞う。
「ど、どうしたの!何かいつもと違うよ!?」
「俺と踊っていただけますか?お嬢様」
「(何だか王子様みたいな・・・、もしかしてこれって私の願いが叶ったってことかな?少しくらいなら、いいよね・・・)」
 片手を差し出して誘う羽純を見て、お姫様と王子様気分を味わってみることにした。
「えぇ喜んで一緒に踊るわ」
 差し出された手を取り、舞踏会のフロアへ行く。
「ドレス・・・よく似合ってる」
「(優しくて王子様みたいだけど、でもこれって本当の羽純くんじゃないのよね。だって本当の羽純くんはこんなことしないから・・・)」
 いつもと違って優しく甘い言葉をかけてくれる彼だったが、本当の彼ではないことに歌菜は物足りなく感じた。
「もっと俺に身を寄せて・・・そう、上手いな」
「(あれ?いつもの喋り方になってる・・・)」
「・・・本当に、いつもの俺でいいのか?」
「うん。いたっ!」
 罰として歌菜は頭を軽く拳骨をくらう。
「ほら・・・踊るぞ?」
 歌菜に差し出して彼女にダンスを教えながら明け方まで踊る。