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男子生徒全滅!?

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男子生徒全滅!?
男子生徒全滅!? 男子生徒全滅!?

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第二章:黒より黒い者を追え!!

 蒼空学園校舎内を、ニンジャの神和 綺人(かんなぎ・あやと)がモンクのクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)とバトラーのユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)を連れ、廊下を走っている。三人から少し遅れてウィザードの神和 瀬織(かんなぎ・せお)も続く。
「……あら? いつものように身体が動かない……? どうしてでしょう?」
 小首を少し傾げた綺人がそう呟く。
 本来ならば、本気を出したニンジャの綺人のスピードにパートナー達は追いつけないハズなのに、今日はパートナー達に余裕を感じてしまうのだ。
「女物の着物を着ているせいでしょう? 今のアヤは良家のお嬢様みたいです」
と、クリスが言う。
「違う、自然と内股で走っているからだ」
と、無表情だが、どこか怒りの感じられるユーリがクリスに反論する。
「でも仕草にあまり変化はないのですね。……元々男らしく育てられてないからでしょうか?」
 そう呟いたのは瀬織である。
「確かに。こういう方を、ヤマトナデシコって言うのでしょうか……?」
「みんな、ごめんなさいね。校庭の池の河童さんについて調べていたわたくしが、河童さんに奇妙な術を使われてしまって……」
シュンとなる綺人にクリスが笑いかける。
「大丈夫です。黒服達が儀式に使っているお皿が、河童さんのお皿でしたら、彼らを死なない程度に痛めつけて、お皿を取り返せば、きっとアヤを元に戻していただけますよ?」
 クリスの言葉に、顔を上げニコリと微笑む綺人。
「死なない程度に痛めつけて」と笑顔で言うクリスの相変わらずの暴走にやんわり歯止めをかけようとした瀬織だが、先にユーリが口を開く。
「……クリス、黒服の生徒を問答無用で攻撃するのはどうかと思うぞ」
 常識人でツッコミ役であるユーリの言葉に、瀬織が同調しようとした矢先、
「皿が割れたらどうする? ナラカの蜘蛛糸で一度縛り付け、皿を確保してからの方が良い。その後、煮るなり焼くなり痛めつけるなり好きにしろ」
 その発言に瀬織が思わず転びそうになる。
「(ユーリが暴走役のクリスに加勢してますね。綺人がどうにかなることは、ユーリにとってそれだけ非常事態だということなのですね。……あ、止める人がいません。どうしましょう……?)」
 ユーリの背中にただならぬオーラを感じた瀬織は声に出したい叫びをそっと胸の内にしまった。
「瀬織どうしたの?」
「遅れを取るな」
 クリスとユーリに同時に突っ込みを入れられた瀬織は、苦悩の表情を浮かべながら皆の後に続く。

 黒服達を追っているのは綺人達だけではなかった。ナイトのミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も、その一人である。
 ミルディアは校内で耳にした黒服の生徒達の噂を手がかりに校内をかけずり回っていた。
 廊下を走るミルディアの前に、綺人が曲がり角から飛び出してくる。
「あっ!! どいて!!」
「えっ?」
――ドーーンッ!!
 こけたまま、尻餅をついたお尻を撫でながら、ミルディアが綺人に言う。
「イタタタッ、ゴメン! 大丈夫? ……て、美人!!」
「ええ、あなたは?」
 一応ニンジャだけあって華麗に着地を決めた綺人がミルディアに手を差し出す。
「綺人。大丈夫なら先を急ぐぞ。黒服共を逃がしてしまう」
 ユーリの言葉にミルディアがハッと顔を上げる。
「黒服!? あなた達も黒服を追っているの?」
 目をパチクリさせる綺人。
「あなたも?」
「ミルディアよ」
と、綺人の手を取り、ミルディアが立ち上がる。
「あたしがいるのは女子校だから、おとこのこがいないのなんて普通かって思われるけど、他校にまでいなくなるのは困るんだよね」
「そうですか……ではわたくし達と一緒に参りましょう。わたくしは綺人と申します」
「ええ、よろしく……綺人? おとこのこみたいな名前ね」
「男……でした」
 綺人を上から下へと隈なく見渡すミルディア。
「今でも十分美人だと思うけど……ま、元の形に戻ればそれでOKじゃないかな?」
 ミルディアはそう言うと、綺人達と並んで校内を再び駆け出して行く。

 蒼空学園の校内にあるサーバー室。
 いつの日か校長である御神楽 環菜(みかぐら・かんな)のあり余った財力で設置こそされたものの、未だ本格的な稼働はしておらず、生徒達の間では『開かずのサーバー室』と呼ばれていた。
 そんなサーバー室の前では、スナイパーの浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)とニンジャのエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)、セイバーの樹月 刀真(きづき・とうま)が、ローグの茅薙 絢乃(かやなぎ・あやの)を相手に戦闘を繰り広げていた。
「ブラックコートで気配も遮断、姿は隠形の術で隠すか……やるじゃない!! 見張りにしては!!」
 トレードマークの眼鏡をクイと持ち上げた絢乃が、小型飛空艇を旋回させてエヴァルトに突進する。
「だーかーら、俺の話を聞けとっ!! あーっ、ブラックコートを着てきたのは失敗だった!!」
 そう言いながらニンジャ特有の身のこなしを持つエヴァルトが巧みに回避する。
 背を合わせた浅葱が樹月にニヒルに笑う。
「コード・プラグ、お互い黒い服を着ているのは失敗だったか?」
「コード・ペンチ、何か勘違いしているけど俺はのぞき部の先を行く者! 透けた制服をのぞき見する程度でわざわざ雨なんか降らせるか! 狙うなら着替え、もしくは真っ裸でシャワーだろうが!」
「……なるほど、服を透けさせる、か。だが、私はのぞき部の天敵、不埒な輩をペンチでねじ切る者! その私がこんな嫌疑を掛けられるなんて……! 絶対に許すまじ、偽黒服軍団……!」
と、互いに見つめ合い、不敵な笑いを浮かべる。
 浅葱と樹月の間に生まれる妙な連帯感に、エヴァルトが一人で悩みだす。
「俺は、来るべきタイミングを間違えた気がするんだが……」
 絢乃が飛空艇から身を乗り出して言う。
「雨降りだとメガネが曇ってスッゴク見にくいんだからねっ! それに、ケヴィンやウォレスが女の子になっちゃったらって思うと、一緒に外も歩けないじゃないっ! 相合傘できない雨の日に意味なんかないんだからねっ!」
 そこにナイトの速水 桃子(はやみ・ももこ)がオカマ化したウィザードの小夏 亮(こなつ・りょう)を引きずりつつやってくる。
 小夏はちょっと言葉では言い表せないギャルの顔になり、セーラー服を着ている。
「ちょっと、アタシのハイトーンボイス聞きたくないわけ!?」
 ギターを持ったまま引きずられている小夏が不満を口にする。
「桃子、オカマのためにやってるわけじゃないから。て言うか、今のままだと、気持ち悪くて仕方ないワケだしぃー」
 そう低い声で呟いた桃子が、小夏を睨み、
「第一、何、そのメイク!! 酷すぎ!!」
「えーっ!? カワイイじゃん! みんなカワイイって言ってくれたしぃー」
 プーと口を尖らせる小夏。
「……それ、桃子の真似した?」  
「……反省します」
 ふと、顔をあげた小夏を見るエヴァルト達。
「あー……お構いなくぅー」
 精一杯の心のこもった笑顔をつくり、ピースサインを出す小夏。
「はぁ……」
「ふぅ……とにかくここは一時休戦し黒服を追いませんか?」
「賛成」
「異論ないぜ!」
 皆の顔を見た小夏と桃子が顔を見合わせ、首を傾げている。
 しばし後、誰からともなく笑いあう6人。
「……ちょっと道空けて貰っても?」
 そう言って黒服を着た生徒が通りすぎ、サーバー室の鍵を空けて中へと入っていく。
 一同は、中から再び鍵のかかる音がしたサーバー室の扉を無言で見つめる。
「事件は廊下で起きてるんじゃない、サーバー室で起きているんだ!」
 廊下を走ってきた朱宮の叫びに、ハッと我に返る一同。
 すかさず、樹月がサーバー室のドアに手をかけるが、中から鍵が掛かっている。
「チッ!」
 浅葱が、樹月を手で制し、一歩前に進み出る。
「これで、開けます」
「そ、それは……!!」
 皆が浅葱の手に握られた金属をまじまじと見る。
「ヤツらのシンボル(男の象徴)をブレイクする(ネジキル)…、ペンチです」
と、大統領演説のような口調で浅葱が語った。
 全くの余談であるが、浅葱のペンチは、数十分前に黒服の痕跡を追っていた彼が、関係のない生徒の尻にスナイプで誤射した葱を抜く時にも、非常に有効に活用されていた。
 それはさておき、決死の突入に備え、身構える一同であった。