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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪

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【2020年七夕】 サマーバレンタインの贈り物♪
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リアクション

 ネックレス型の首かけ花瓶には赤花が小さく揺れている。黄島を目指し飛ぶ小型飛空挺は、ずっともっとに大きく揺れていた。
「小夜っ!」
「大丈夫、見えています」
 吹雪 小夜(ふぶき・さよ)は機体を大きく旋回させて、5時の方向から弾丸の如くに飛び向かってきた化け烏を避けた。
 待ちかまえていたかのように羽を広げる烏に、葉月 アクア(はづき・あくあ)は遠当てをぶつけて粉砕した。
「この足場でよく…」
「マグレよっ。でも、このまま行きましょう」
 烏が空を支配している。群れている? いっや、黒い雲が発生したような。烏を放つ言っても程度があるでしょう!
「やはり、避わした方が良さそうですね」
 箒を止めて進路を後方へ直す。烏が追って来るのを感じながら、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は光学迷彩を唱えた。
 姿が消えた途端に、化け烏たちは追うのを止めて辺りを見回し始めた。
「思った通り、魔力や気配を察知する事は出来ないようですね」
 そうと解れば堂々と… いえ、何も進んで群れの中を行く事はないですね。ナナが、群が成す黒雲を回り込むという選択をする中、勢いよく黒雲に飛び込んだのは遠野 歌菜(とおの・かな)水神 樹(みなかみ・いつき)であった。
「どいてってば〜!」
 ぬいぐるみの白鳥の頭と羽を付けて、白鳥に見せている可愛いらしい小型飛空艇が、せわしなく宙を飛んでゆく。
 殺気看破と超感覚を巧みに用いて化け烏の動きと攻撃を先読みしているのだが。
「えっ、あっ、こっちもっ?!」
 烏の数が多い分、読むべき対象が多い。休まる事なく機体を激しく操作し続けることを要されて−−−。
「あぁもうっ!」
 放ったアルティマ・トゥーレの冷気が、一気に辺り一面の群れを氷付けした。
「好機」
 アルティマ・トゥーレを以てしても凍り切らなかった烏は勿論に居る。しかし水神 樹(みなかみ・いつき)は飛空艇を一気に加速させた。
「動きが止まってますよ」
 動揺と困惑、状況を把握できていない烏は置き去りに、遮る烏はさざれ石の短刀で刺し薙りて突き進んだのだ。
「みんな上手い事やるなぁ」
 歌菜の小型飛空艇を遙か前方に見つめて、虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は感嘆の吐を漏らしていた。
 武器はアーミーショットガン。迎えを待つ彼女の為に、同じく小型飛空艇で向かっているのだが。取った戦略は超高度の空を行くというものだった。
「あんなのイチイチ相手にしてらんないからな」
 逃げてる訳じゃねぇ、効率よく行きたいだけだ。ただまぁ、そういう意味でアイツ等は俺の方針と全く逆なんだよな。
 ずっと下の空、それはもう海面ギリギリの低空飛行をしているのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)だった。
 嘴に「にんじん」を銜えている………… いや、違うぞ、決して「にんじん」が狙いじゃないはずだ…… 跳び出してきたシーワームは嘴ごと呑み込むかのように一直線だったけども……
 機体を跳ねさせて、これを防いだ透乃は小型飛空艇を海面に…… 着水させた?
 次の瞬間には軽身功で海面を跳び走り、シーワームを叩き殴っていた。
「アクティブだなぁ………… ん?」
 海面を駆ける姿をもう一つ見つけた。
 見事な無視である。紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はディフェンダーを避け駆けるランニングバックのように、シーワームとクラーケンのラインを抜けて海上を駆け抜けている。それはもう、シーワームとクラーケンが不憫に思えるほどのシカトっぷりだった。
「……っ! ……………………」
 ふっ… シカトっぷりなら負けないぜ。
 モンスターがウヨウヨいる中を泳いでいる音井 博季(おとい・ひろき)。…… ローブ着用で……?
 羽織ったローブの下に…… 男子用の競泳水着見えて……? いや、もし本物ならローブの隙間からでも胸の膨らみが見えるかも… とチラ見をしていたら……。
 ザクザクと。レプリカ・ビックディッパーで海面に出るクラーケンの足を斬り刻んでいた。
 可憐な強者…… 止めよう、これ以上にチラリズムを求めるのは。スルーしよう、意識してスルーするんだ、そうしないと。
 水着で泳いでいる姿がもう一つ、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)。しかもこっちは胸が大き−−−。
 ダメだ! 悪寒が襲って来る、黄島で待つリリィに見られているような、そんな悪感がして−−−。
 スルーしよう。バーストダッシュでクラーケンの身体を駆け上がったまま宙へ跳び出し、直上から一撃を入れた。ほぼ全身を−−−。
 くっ、スルーだ、スルーするんだっ! 
 愛する人が待っている。黄島を目指す者たちの共通意識を、まるで大義であるかのように掲げ、意を固めた。
 首を振りきってから、行き飛ぶ先で羽ばたいている化け烏へと視線を戻したのだった。
「こんなに危ないなんて〜! きゃあぁあ〜!」
 アヤメがハンドルをきる度に凪沙が悲鳴をあげる。すがるように手すりに掴まる様には「大丈夫、危なくないから!」と自信満々に宣言していた面影は一つも見られない。
紗月が見たら即倒するぞ」
「アヤメ! 右っ! カラスっ!!」
 無理言うな! 左からも化け烏が突進してきてるんだ! 間に合わない! 
「ちっ」
 右は諦める! 素早く旋回させたものの、機体への衝突は免れない。
「口を閉じろ」
 衝撃を覚悟した瞬間、機体の寸前で向かい来た烏たちが爆発した。
「なっ」
 誰かが撃墜した…… いや、見回した所でそれらしき人物も飛空艇も見えなかった。…… 流れ弾なのか?
 とにかく、凪沙は、教書一式しか持ってきていないし、俺は操縦で手一杯、とにかく避け続けるしかないんだ。
 ”幸運な流れ弾”に感謝しつつも、アヤメは烏の少ない進路を探し突き進んだ。
「朔様、あまり近づくと、見つかるでありますよ」
 ”幸運な流れ弾”を放った鬼崎 朔(きざき・さく)は、スカサハの言葉で我に返ると一気に機体を上昇させて距離を取った。
 カモフラージュを使っているが故に簡単には見つからないはずだが、それでも確かに近付きすぎていた。
「黒子に徹するというのも、難しいものだな」
 黄島ではカリンが待っている、恋人である椎堂 紗月(しどう・さつき)も待っている、ただ… 紗月が待っているのは私ではなく、パートナーである有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)も2人…。
 不満がある訳ではない… ただ、本当は紗月と参加したかった… いや、紗月が決めた事だ、紗月が決めた以上私もそれに従う、だからこそこうやって紗月の元を目指す2人を援護しているんじゃないか。
「…………朔様…………」
「ん? どうした?
「あ、いえ何か………………!! 何か飛んでくるであります!!」
「何っ!」
 化け烏の群れを切り裂いて、弾丸の如くに飛び込んできた。
 真っ黒い弾丸に乗る一回り小さな赤い弾丸、いや、それは人だった。赤き衣に身を包んだそれは、黒き弾丸と共に垂直に上昇すると、空に向かって光柱を砲射した。
 いや、柱に見える程の光量と勢いがそう見せただけで、実際は巨大な光の弾が放たれていて、それが今…… 一気に弾けた!
 細分化された光弾が天から降り墜ちる。
 集っていた3羽の化け烏が一度に、また海面から顔を出していた巨大クラーケンも一撃で海中に沈んでいった。
「これは… 物凄く見覚えがあるんだが……」
「えっ、あっ、ちょっ、わたくしは、見たことない、ですけど」
 飛空艇の操縦をするコルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)はハンドルを切りながらも降弾の発射台に瞳を向けていた。が、赤い衣にも、背丈ほどの白き砲身にも見覚えはない。
「あの光弾… 広大な射撃範囲… そしてこの威力…」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は確信した。黒き弾丸は漆黒のグリフォン、白き砲身は星銃パワーランチャー、放っているのは十二星華の一人、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)
「ああ、あれが噂に聞く『蠍座』さんの波動砲なのですね〜。強力な武器だそうで… 羨ましいですわ〜」
「のんきな事言ってる場合か! いいから避けてくれ、あれは兵器だ!」
「平気だ? ですか?」
「………………」
 パッフェルに間違いない。なぜ? なぜ今この場所で暴れている? 少なくとも彼女は更正への道を歩み始めたばかりのはず、それがなぜ。
 次々に撃ち上がる波動弾が天で拡散して降り注ぐ。
 流星の如く。光りが降り墜ちてくる。