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七不思議 恐怖、撲殺する森

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七不思議 恐怖、撲殺する森

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    ★    ★    ★
 
「さあ来い、撲殺魔よ。俺はここだ、逃げも隠れもしないぞ!」
 世界樹の枝の傘の外縁で、レン・オズワルド(れん・おずわるど)はまだ見ぬ敵にむかって言った。
 撲殺魔が世界樹に近づいてきているのであれば、最終目的地ははっきりしている。
 そんなレン・オズワルドの狙いは正しかった。
「来たか!」
 近づいてくる三つの存在を察知して、レン・オズワルドは身構えた。
「こんにちはー」
 ごすっ。
「ぐはっ」
 何かする暇もなく、レン・オズワルドが撲殺された。
「この人も違いましたね……」
 淋しそうにメイちゃんが言った。
「行きましょう。話題になった人たちは、この先にいるはずです」
 メイちゃんが、コンちゃんとランちゃんをうながしたとき、背後でレン・オズワルドがむくりと起きあがった。
「いててててててて……。リジェネレーションがあるとは言っても、痛いもんは痛いじゃないか」
「まあ。あなた凄いです。今までのみなさんは、御挨拶した後にみんなお休みになってしまって……」
 メイちゃんが、感心したようにレン・オズワルドに言った。
「やはりな。お前たちの正体は、武器その物だろう!」
 ビシッと、眼前にふよふよと浮かぶメイスその物を指さしてレン・オズワルドが言った。どうやら、それがメイちゃんらしい。
「正体って言われてもねっ。僕たちは、僕たちだし……」
 困ったように棍のコンちゃんが言う。
「お前たちは、インテリジェントソードなのか」
「それよりも、お兄さんが伝説の撲殺天使なの?」
 問いただすレン・オズワルドに、ランスことランちゃんが聞き返した。
「違う」
 きっぱりとレン・オズワルドは答えた。
「残念ですわ。でも楽しい。もう少し私たちと遊びましょうよ」
「いいだろう」
 楽しく遊ぼうとするメイちゃんたちを捕獲するために、レン・オズワルドは全力の戦闘を開始した。
 
    ★    ★    ★
 
「それにしても、いったいどうなってるんだあ。帰り道のあちこちに行き倒れがいるってのは」
 小型飛空艇アルバトロスを操縦しながら、雪国ベアがぼやいた。
 途中で調査に来ていた風紀委員たちに連絡をとってウィルネスト・アーカイヴスを含む犠牲者の回収を頼んだからまだよかったものの、緋桜ケイとソア・ウェンボリスたちだけでは、とうてい運びきれない人数だったのだ。
「おそらくは、撲殺魔が俺たちよりも先に世界樹にむかったってことだ。何も起きてなければいいが……」
 雪国ベアの飛空艇に乗せてもらっている緋桜ケイがつぶやいた。
「ええ、世界樹に急ぎましょう」
 空飛ぶ箒で悠久ノカナタと共に飛空艇と並行しているソア・ウェンボリスがうなずいた。
 はたして、一行が世界樹に近づいたところで出くわしたのは、ボロボロになったレン・オズワルドの姿であった。
「やっと動きを止めたか。まったく、簡単にはいかなかったな」
 レン・オズワルドの前には、氷づけとなったメイちゃんたちの姿があった。相当に反撃を受けたのだろう、リジェネレーションがあるからといっても、レン・オズワルドの方もボロボロだった。
「さて、後はイルミンスールに運んでじっくりと調……」
 レン・オズワルドがメイちゃんに近づいていったとき、突然氷の中から壁抜けでもするかのようにするりとメイちゃんが飛び出してきた。
「馬鹿な、どうして動ける!」
「もっと遊びましょう」
 唖然とするレン・オズワルドの顔面を、メイちゃんが殴打した。
 レン・オズワルドのかけていたサングラスが粉々に砕け散る。
「うわああああああ、俺のサングラスがあぁぁ!!」
 レン・オズワルドの絶叫が響き渡った。
 身体の傷の方は回復していくが、さすがに装備は自動修復するわけではない。命より大切にしていたサングラスを砕かれて、レン・オズワルドの心が折れた。ばったりと倒れて、そのまま動かなくなる。
「カナタ、今の見たか」
 一部始終を目撃していた緋桜ケイが、飛空艇から飛び降りて叫んだ。
「もちろんであろうが。どうも、あの武器たちは、武器の姿をしていても武器その物ではないようだな。霊体、あるいは付喪神といったところか。会話ができるのであれば、何かの霊が取り憑いているか、単に幽霊が武器の姿をとっているとも考えられる」
「じゃあ、どうしたらいいんだよ」
 よく分かんねえぞとばかりに、雪国ベアが訊ねた。
「悪霊の類なら除霊するか、成仏させるか。付喪神なら、それ相当の礼を尽くさねばな」
 悠久ノカナタが答える。
「付喪神なんて、そんなに簡単にできる物なの?」
 ちょっと不思議そうに、ソア・ウェンボリスが言った。
「それは、鏡餅まで勝手に動きだすパラミタですから」
 飛空艇の中から顔を出した『地底迷宮』ミファが言う。
「それに、もし最近生まれたものでなければ、古王国からなら五千年は経っているのよ、戦争で残っていた武器が付喪神に変化するには充分な年月だわ」
 『空中庭園』ソラがつけ加える。
「いずれにしろ、確かめたいことがある」
 そう言うと、緋桜ケイが単身メイちゃんたちに近づいていった。全員で近づいていって全滅してしまっては、他のメイちゃんに撲殺されたグループと同じことになってしまうからだ。ソア・ウェンボリスたちは、後方で支援につく。少なくとも、最初から相手の姿がはっきりと分かっている分、不意打ちを受ける危険性はないので有利だった。
「ちょっと話したいことがあるんだ」
 緋桜ケイが、メイちゃんたちにむかって言った。
「まあ、また新しい人が。御挨拶をしなければ、こんにちは初めまして!!」
「ちょっと待て、それは挨拶じゃなくて、ただの攻撃だろうが!!」
 あわてて後退って緋桜ケイが叫んだ。かろうじて初撃を躱したところへ、『空中庭園』ソラの奈落の鉄鎖が次のメイちゃんたちの動きを鈍らせて考える時間を作ってくれた。
「えっ、これは挨拶ではないのですか!?」
 緋桜ケイの言葉は、メイちゃんたちにとって、ものすごく衝撃的であったらしい。メイちゃんコンちゃんランちゃんで集まって、何やらひそひそと相談を始める。
「なんで、いきなり殴りつけることを挨拶だと思い込んでいたんだ?」
 緋桜ケイが訊ねた。
「だって、僕たちの使い手だった人たちは、最初に武器同士を軽くぶつけ合ってから『いざ勝負!』って挨拶を交わしていたんだよ」
「ええ。それから実に楽しそうに、私たちをぶつけ合って遊んでいたのよ。私たちも、本当に楽しかった」
 うっとりするような声音で、ランちゃんがコンちゃんに続けた。
「私たちは、それしか知らなかったんです。だって、私たちは武器ですから。戦うことが喜びなんですもの」
「だからといって、いきなり襲いかかったんじゃ、相手できる者もいないだろうぜ」
 ゆっくりと近づいてきて雪国ベアが言った。
 とりあえず、極端に危険ではなくなったと見て、魔道書コンビだけを残して残りの者たちは緋桜ケイの所までやってきたのだった。
「まあ、それじゃあ、私たちは、お作法を間違ってしまっていたのかしら」
「そうみたいだね」
「恥ずかしいですわね」
 メイちゃんたちが、軽くそれぞれの身体をぶつけ合いながら話し合った。
「ちょっと聞きたいんだけど、あんたたちはなんで世界樹にやってこようとしたんだ。オプシディアンたちにそそのかされたとかいうんじゃないのか?」
 緋桜ケイが、一番聞きたかったことを口にした。
「オプなんとか……って誰です?」
 メイちゃんが、左右にゆらゆらとゆれながら答えた。どうも、首をかしげているらしい。
「取り越し苦労だったか」
 ほっとしたような、手がかりがなくて落胆したような、複雑な思いで緋桜ケイがつぶやいた。
「私たちは、森を歩いていた人たちが、イルミンスール魔法学校に現れた新しい七不思議の話をしているのを聞いてしまったんです。なんでも、ものすごく強くて、あっと言う間にたくさんの人を撲殺してしまったとか」
「うんうん、凄いよね。だから、ものすごく会いたくなっちゃったんだ」
「私たち、この三人以外に同じような仲間に会ったことがないんです。もしかしたら世界に三人だけかもしれないと思っていたんですけど、他にも仲間がいるかもしれないと分かって、いてもたってもいられなくなっちゃって」
「で、道行く人たちに次々にちゃんと御挨拶していったんですけれど……」
 ランちゃんが口籠もった。
「御挨拶ねえ」
 雪国ベアが苦笑する。それは、ちゃんとした答えはもらえなかっただろう。
「それで、そなたたちはいったい何者なのかな」
 悠久ノカナタが、あらためてメイちゃんたちに訊ねた。
「私たちは、見ての通り武器ですわ」
「でも、普通、武器はしゃべったりしないですよ」
「ええっ、そうなんですか。知りませんでした」
 ソア・ウェンボリスに言われて、メイちゃんたちはまたショックを受けたようだった。どうも、あまり疑問というものをもたない存在らしい。
「私たち、気がついたときは森の中にいましたから。遺跡っていうんでしょうか。今もそこにある台座にちゃんと刺さっています」
「それで、こちらも知りたいのですが、私たちの仲間って、こちらにいらっしゃるのでしょうか?」
 メイちゃんの質問に、ソア・ウェンボリスたちは顔を見合わせた。鏡餅やらケーキやら鷽やら変な物が暴れだすのはパラミタの常識という名の非常識ではあるが、しゃべる武器などという物には出会ったことがない。やはり、これは古代の騎士の霊か何かが剣に乗り移っている状態なのだろうか。いや、今目の前にいるメイちゃんたち自体も一種の霊体みたいな物のようだ。
「まあ、撲殺天使を名乗っている人たちなら知らないでもないんですけれど……」
 ソア・ウェンボリスがその名を口にしたときであった。
「私たちのことを呼んだですぅ?」
 本人たちであるメイベル・ポーターたち三人が、ちょうど姿を現した。確か、何人かの者たちと戦っていたはずだが、その相手も、その場にいたはずの者たちも同行してはいない。
「パラミタ撲殺天使、降臨♪」(V)
 メイベル・ポーターが名乗りをあげる。
「まあ、なんて素敵な鈍器なのでしょう」
 メイちゃんたちを見たフィリッパ・アヴェーヌがうっとりとするように言った。
「うん、凄くかっこいいよね」
 セシリア・ライトも同意する。
 さすがに、撲殺されてはたまらないと、緋桜ケイたちは少し下がってメイベル・ポーターたちと距離をおいた。
「一度手合わせしてみたいですぅ」
「ほんと? いいわよ。やりましょ、やりましょ」
 メイベル・ポーターの言葉に、コンちゃんが凄く嬉しそうに言った。
「いいですわよ。よろしければお相手するですぅ」
「わーい」
 メイベル・ポーターの言葉に、メイちゃんたちが喜んで即座に殴りかかってきた。それを、メイベル・ポーターたちが野球のバットで受けとめる。
 ガツンガツンと鈍い音を響かせながら、メイベル・ポーターたちとメイちゃんたちが楽しそうに殴りあった。
 こうなってしまっては、緋桜ケイたちはただ見守っているしかできない。へたに手を出せば、被害者になるだけだ。
「凄いや、互角だね」
「ええ。互角ですぅ」
 しばらく続けて満足したのか、どちらからともなく攻撃をやめてそう言い合った。
「楽しかったです。じゃあ、今日はもう帰りますね」
「あら、残念ですぅ。よかったら、ヴァイシャリーに来ませんかぁ」
 突然そう切り出したメイちゃんに、メイベル・ポーターが提案した。
「嬉しいお申し出ですけれど、私たちの身体は今も遺跡で眠っているんです。今ここにいるのは、私たちの心なんです。でも、心でも充分撲殺できますしね」
 いや、それはできない方がいいとソア・ウェンボリスたちは心の中で思った。
「もし、いつか私たち自身を見つけてくださったら、そのときはまた楽しく殴りあいましょう。楽しみにしています。では、さようなら……」
 そう言うと、メイちゃんたちの姿が光になって消えていった。
「さよならですぅ」
 メイベル・ポーターたちが手を振って見送る。
「あれって、成仏したってことか?」
 雪国ベアが、悠久ノカナタに訊ねた。
「さあ。それは確かめないとなんとも……。だいたい、幽霊と決まったわけではないからな」
 ちょっと判断に困ったように、悠久ノカナタが答えた。
「淋しくなっちゃったね」
 セシリア・ライトがつまらなそうに言った。
「ええ。ここはメイちゃんたちの遺志を継いで、私たちがイルミンスールの森でしっかりと撲殺を……」
「やらんでいい!!」
 メイベル・ポーターの言葉に、全員が一斉に突っ込んだ。

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 七不思議の一つ、はたして解決したのでしょうか。
 とりあえず、メイちゃんたちは帰っていったので一安心というところです。今のところ再登場のシナリオは考えていませんが、そのへんはまあ適当に要望次第ということで。
 現在判明している残り三つの七不思議は、結構面倒なシナリオばかりなので、余裕ができたら考えましょう。
 なお、確実に逃げた人をのぞいては、森に入った人たちはほぼ全滅ということで。まあ、犯人は便乗犯も混ぜて様々だとは思いますが。後日譚は、休日シナリオかミッドナイト・シャンバラの方でどうぞ。