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リアクション
10、穏やかなる敵を攻略しろ!
何だかどっちボールだか分からなくなったので、2度目のジャンプボールが行われることになった。西の代表として陽太が、東は外野のヴァルの代わりにキリカが立つ。2人に身長差は殆ど無い。中央に立ち、綺人が投げたボールに対して手を――
「これは……!」
『バーストダッシュですネ! 東ボールになりましタ!』
キリカが力強い跳躍をしてボールを叩く。水橋 エリス(みずばし・えりす)がそれをキャッチする。近くの西選手に――
「……!」
前に出てシュートをしようとしたところで、エリスはびくりと震えた。久世 沙幸(くぜ・さゆき)が鬼眼を使って、彼女を驚かせたのだ。力が入りきらなかったボールが手から離れ、ヘロヘロと宙を移動する。
「これなら、簡単にキャッチできちゃうんだもん」
ぽん、とボールをキャッチしてボールを投げるふりをすると、東チームの選手達は彼女から距離をとって警戒する。
「ねーさま!」
そこで、外野の美海にパスをした。ずささっ、とまた東の選手達は距離を取る。美海が外野を回りこんで、内野に戻す。翡翠が受け取ったボールを少しばかり投げるふりをすると、悠希が身構える素振りを見せた。そうフェイントをかけてから、また外野にパスをする。東チームの内野からは手が出ないルートを、うまくカーブを描いてまわっていくボール。西チームの内野の右端と左端で、七枷 陣(ななかせ・じん)とリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がサイコキネシスで軌道修正しているのだ。
翡翠からのボールを、スキルで姿を消している隼人がキャッチした。そして、また内野に戻す。先程の作戦会議で、沙幸はこう言っていた。
『単純にボールを投げても当てるのは難しいよね。多分、2〜3回パス回しをしている間に翻弄される人が出てくると思うんだ。そんな人をめがけて、攻撃しちゃうんだもん』
更に、パス回しをしている間は攻撃の意志が無いので殺気看破が役に立たない。
「え? あら?」
攻撃に注意して右へ左へと移動を繰り返す東チームの面々。そして、殺気看破も先読みも超感覚も効かなくて、大地と唯乃は内心で首を傾げていた。西の意図が読めず、警戒心は否が応にも上がる。そこで、何も無い場所がボールをキャッチして投げたのだから、イーシャン一同は束の間ぽかんとした。
「西にも透明人間がいます〜!」
明日香がそう言って、ボールが投げられたあたりに『神の目』を使う。光に照らされ、彼女達は隼人の姿を視認した。ユニフォームを迷彩塗装で固めた彼の姿にまたぽかんとして――
瞬間、内野にボールが渡っていた事を忘れていた。
その隙に、沙幸が轟雷閃と爆炎波を乗せたボールを投げた。
「わわっ!」
クレアが振り向いて、反射的にそれをキャッチしようとした。両手で挟み、しかしすぐにボールを落とす。
「あ、熱っ!」
「大丈夫か? クレア!」
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が近付くと、クレアは自分の手にヒールをかけた。
「うん、おにいちゃん、護国の聖域とか最初にかけてもらってたし、そんなに痛くないけど……」
「アウトです。外野に行ってください」
審判の瀬織が寄ってきて、冷静に言った。
落ちたボールをレロシャンが拾い、静かに歌が再開される。シュートを恐れた西チームの選手達は、コート後方に後退していった。恐れと悲しみをねじ伏せて東チームに対抗しようと、西の選手は必死に気力を奮い立たせる。
《この歌攻撃は強力ですね。パスで翻弄して歌わせないようにした西チームですが、また始まってしまいました。彼女をアウトにしない限り、この危機は乗り越えられないでしょう。しかし、この状態で力強いシュートが撃てるのか……!?》
『その前に、ボールを確保しないといけないですネ。このままではフルボッコになりますヨ。人数では有利だけど、そんなものあっというまに逆転されるワヨ〜』
「わっ!」
その時、慌てた様子だった繭螺が躓いて、べしゃんと転んだ。まだ、レロシャンからそう離れていない位置だ。
(外野にパスを出すつもりでしたが……。これなら……!)
レロシャンは投球姿勢をとり、その背中に一気にボールを投げた。容赦の無い攻撃だ。
「アウ……」
だが、綺人は、最後までそれを宣言せずに口を噤んだ。笛も吹かない。繭螺の姿がかき消え、勢いに乗ったボールはただ、地面に激突したのだ。バウンドしたボールを、立っていた繭螺がキャッチする。彼女は、近くにいた紫音に小さく耳打ちした。紫音が頷く。
それから数秒。
「えいっ!」
繭螺は外野の、誰もいない所へパスをした。受け取る者の居ないまま、ボールは落ちると思われた。が……
「迷彩塗装の人です〜!」
隼人は、紫音からの精神感応を受けた風花に話を聞いて伝言を返すように伝えてからボールを受け取れる場所までやってきていた。ボールが空中でかき消え、すぐに明日香が気付いて神の目を使う。しかし、その時には既に隼人は居なかった。殺気看破で彼女に気付き、バーストダッシュで移動したのだ。東の警戒度が一気に上がり、歌が止む。唯乃も警戒を優先したのだ。
だがシュートを撃つのは隼人ではない。彼は反対側から七枷 陣(ななかせ・じん)にパスを出すと、伝言を受け取って待機していた陣はそれを受け取り、ボールに光術を纏わせてシュートした。
光でボールが見えない。周囲の選手達も目を窄めた。唯乃は、それを超感覚を使って避けようとしたが――
「唯乃さん! シュートはデコイです! そっちに行っては……!」
大地が叫ぶ。進行方向に、サイコキネシスで軌道変更したボールが迫っていた。まるでフォークボールのようだ。
狙いは、脛。ここに当てれば、すぐに転んでキャッチもできないだろう。
「きゃあ!」
「よっしゃ! これが『フラッシュショット』や!」
「アウト!」
レロシャンにヒールを受けた東チームの歌姫は、外野に移った。
「よ、良かったっス……。これで勝てるっスよ!」
西チームの選手達が笑い合い、応援席のアレックスやロウファ、レンファ、ランファ、パイファ達も安堵する。
しかし、喜びは束の間だった。外野に移動した途端、唯乃は多重旋律を再開したのだ。外野であれば攻撃に備える必要も無い。先読みは大地に全面的に託すことになる。
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