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リアクション
1、試合前の平和なひととき
今日も今日とて、真夏のツァンダには殺人光線が降り注いでいる。雲1つ無い空はスポーツ日和と言えるのだろうが、当事者からしたらそんなものくそくらえという所である。
太陽爆発しろ。
いや本当に爆発されても困るけど。
しかし、このろくりんピック、ドッジボール競技は太陽がいくら栄養ドリンクを飲んでも大丈夫である。試合は屋根のあるスタジアムで行われるのだ。
そして現在。各入口の外には観客が山と集まっていた。開場も済ませ、流れが滞っているわけでもないのだが人が減る気が微塵もしない。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)のパートナー、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は入場してきた観客にうちわを配っていた。笑顔ながらも、気は緩めない。
(今は比較的穏やかだけど、早くも小競り合いしてる連中もいるなあ。これじゃあ、やっぱり殺気看破は使えないかも)
予定通り、怪しい人物を見つけるのは彼女と空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)の仕事になりそうだ。とはいえ、展開しているディテクトエビルには未だ何の反応も無い。
良いことだ。
「外は余程暑いみたいだね、みんな顔をあおいでる。うちわを配ったのは大正解だったね」
上司から今回の運営を押し付けられた蒼空学園冒険管理課のコネタントは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)を振り返った。囲い付きの台車を押していた彼は、そこで立ち止まる。台車の上にはサーキュレーターがいくつか乗っていた。
「空調が効いていても、スタジアムに入ってしばらくは暑いしな。記念に持って帰ってもらえば、より深い1日として心に刻まれると思うんだ」
彼は、数日前にコネタントの元を訪れ、無事にこの日を終われるように幾つかの提案や相談をしていた。そのうちの1つが、うちわである。
「良い思い出にするには、まずは安全に楽しい試合にしないとね!」
「きっとうまくいきますよー」
近付いてくるファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)の後方で、エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)がにっこりと微笑んで言う。ぽやんとしたその様子を見て、ルミ・クッカ(るみ・くっか)は心配そうに手を止めた。仮設とはいえ救護所は三方を囲まれた立派な造りで、中も広く取られている。その更に前方、グランド内試合用コートの外に、ルミはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と協力して長い机を並べていた。こちらもやけにしっかりとした造りだ。スキルや必殺技の余波を受けても倒れないように、と特注されたものである。ドッジボールの外野エリアはコートの後ろ半分。内野は当然外に出ないので、両チームの外野の間には誰も立ち入れないスペースが出来る。そこに、水分補給所を作るのだ。時間無制限というルールの中、こまめな水分の摂取が必要だろうという判断の元である。コートの広さとしてはサッカーコートの3分の2くらいはあるし、一応充分すぎる程の場所はあった。
(エルシー様はああ言っておられますが、こんな危険な競技、大丈夫なのでございましょうか……。万が一、エルシー様がお怪我でもなされたらと思いますと気が気でございません……)
ルミは、運営や救護係、ひいては観客席にまでボールが飛んでくるのではと心配していた。心配し過ぎである。心配し過ぎ……なのか?
(手が回らないほど、負傷者が多発したりしないでしょうか……ここは救護の前線とも言えますし、エルシー様には救護所に詰めていただきましょう……僭越ながら、わたくしも精一杯治療のお手伝いをさせて頂くつもりではおりますが)
「……ですぅ」
「?」
ふと声が聞こえてきて、ルミははっと我に返った。すぐ傍までメイベルがやってきているのに気付かなかったようだ。
「机の準備は終わったですぅ。他に何か、やることはありますか〜?」
たずねられて、周囲を見回す。スポーツドリンクを入れたクーラーボックスに、ステンレス製のコップ。シンプルだが、これ以上に必要な物も別段思いつかない。
「もう少しスポーツドリンクが欲しいところでございますが、それについてはエース様に聞いておきますね。こちらはもう大丈夫ですよ」
「そうですか〜。では後はよろしくですぅ」
メイベルは補給所を離れると、デジカメを持っているフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)へと歩いていった。フィリッパは、報道関係とは別に、目に付くことを記録していた。どこかに提供する映像ではないので、大会の運営状況や試合経過などの記録になる。一見すると何気ないことも、後で改めて見れば意外な発見があるものだ。要るか要らないかの判断は、その時にゆっくりとすれば良い。
デジカメを持つ手を下ろして微笑むと、メイベルは言った。
「私はセシリアの所に行ってみますぅ」
「わかりましたわ。わたくしはこちらの撮影を続けますわね」
職員用の食堂で簡単な軽食を作っているセシリア・ライト(せしりあ・らいと)の様子を見に行くのだろう。その彼女と離れて、フィリッパはコネタント達に近付く。そこでは、ファーシーがサーキュレーターを見て首を傾げていた。
「ところで、それ何? 扇風機?」
ファーシーの部屋には扇風機があるらしい。
「うーん……当たらずとも遠からず、というところかな」
エースは、苦笑して説明した。
「これをグランドの随所に置いて氷を併用すれば、試合の熱気で温度が上がっても熱中症を防げると思うんだ。屋内とはいえ万全を期す必要があるからね。上にも設置してあるぜ」
それに加えて、観客席の随所には温度計もセットしてある。室温を25度前後に抑えるように、エースは細かい気配りをしていた。時々の温度のチェックは、試合中に観客席を周るというリカインに頼んでいた。彼女達には別の目的があるようなので、あくまでもついでという形になるが。
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