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リアクション
1.開会式
試合当日・朝。
ヒラニプラは晴天であった。
残暑厳しき折、吹き渡る風は生温かい。
「……と言う訳で、本日はろくりんピックの公式マスコットである、ミー、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が解説をイッパイ、イッパイ務めますネー!」
キャンディス・ブルーバーグは緩い声で宣言すると、
「ハイッ! カメラさん、カマーンッ!」
カメラマンに指示を出しつつ、傍らのサリー姿の少女に卓上マイクを向ける。
場所は会場脇の設置された、報道席。
「アシスタントは進行役役員のパルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)、ネー!」
「よろしくおねがいしまーす!」
パルメーラが元気に一礼すると、場内から「かわいー!」と言う声が上がった。どちらがマスコットだか分からない状態だ。
「でも、『公式マスコット』はミーの方ネー! お忘れなく!」
キッと睨んで念を押し。
「それでは、パルメーラには式次第を読み上げてもらいますヨー。レッツ、ファイト!」
パルメーラにカンペを指さして、ハイッ! とタイミングを計る。
「え? も、もう? 言わなくちゃいけないの? ええーっと……」
パルメーラは棒読みで、されどカメラ目線で読み上げた。
「リアクションの流れは、こんな感じだよ!
1.開会式
2.ウォーミングアップ
3.試合(前半)
4.閑話休題
5.試合(後半)
6.閉会式(授賞式)
……と、これでいい?」
「イェース、サンキュー、サンキュー!」
キャンディスは気の抜けた声で緩く一礼すると、ぼそっと。
(今日はモヒカンちゃんはどうしたのヨ?)
(ああ、王さんのこと? ちゃんと後ろにいるよ!)
後ろをちら見。
王 大鋸(わん・だーじゅ)の、団員達に囲まれたうんざり顔がある。
(アクリトがね、付添いの警護役にって、指名したんだよ)
(イェース……「虫」が寄りつかなさそうだしネ、彼……)
(え? 「虫」? いるのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜)
(オー、ノー、ノー! その「虫」違いマァース! 何と言うか……)
カメラマンの視線。
こほんっと咳払い。
「オッケ! 開会式始まりマァース。カメラさん! 演台へ、ズーム・イン!」
整列した参加選手たちを前に、大会責任者たる金 鋭峰(じん・るいふぉん)は開式宣言を行った。
さすがは、教導団の団長――威風堂々たるものだった。が、選手たちが感じたのは、鋭峰の存在感よりも、物々しい警備体制である。
(ヒラニプラは、ただでさえ不安定だから……)
キャンディスの解説にいちいち頷きつつ、パルメーラはぐるりと周囲を見渡した。
場内の彼方に、サッと、怪しげな人影が。
「当大会は、崇高な東西シャンバラのスポーツマン精神にのっとって……」
鋭峰の演説が朗々と響きわたる。拍手。
その嵐のような音を聞きながら、パルメーラは愛らしい眉を僅かにひそめるのであった。
(何も起こらなければいいのだけれど……)
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