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KICK THE CAN2! ~In Summer~

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KICK THE CAN2! ~In Summer~
KICK THE CAN2! ~In Summer~ KICK THE CAN2! ~In Summer~

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・ゲームだけど、遊びじゃないんだ!


 南エリア。
「ユウ、今のうちに言っておく。これは決して遊びじゃない」
 神妙な面持ちでフエン・ワトア(ふえん・わとあ)榛原 勇(はいばら・ゆう)に告げる。
「フエンさん、どういうことです?」
「一部では缶消しと呼ばれるほどの凄まじい戦いなのさ。気をつけるんだよ」
「え、ええ? それ僕の知ってる缶蹴りとだいぶ違いますよ!?」
「この街もまた、パラミタの一部だ。お前の、いや、これまで常識はもう通用しないと思った方がいい」
 熟練の契約者の中にはもはや人間離れしているとしか形容できない者もいる。そういう人も参加している以上、普通の缶蹴りと思うと痛い目に遭うだろう。
 むしろ、開幕直後の轟音と雷の時点で何かがおかしいのではあるのだが。
「それじゃあ、さっそく探しに行きましょう」
 学院の生徒である勇達は、海京の地理を把握している。その強みを生かして攻撃側の人間を探しに出る。小動物っぽい小柄の少年と、リアル小動物(ネズミ)な獣人が並んで歩いているのはどことなくコミカルだが、外見というのはパラミタでは当てにはならない。彼らに対しても攻撃側は一切油断はしていないことだろう。
 超感覚で五感を最大限に使えるようにし、周囲を見渡しながら歩く。
「二人して同じとこ歩いてどうするんだい。もう少し離れて歩け!」
「あ、は、はい!」
 フエンが叱責したため、少し距離を取る勇。
「まあ、一人では複数相手に対処出来ないから、悪い策とは言わないけど……ん、まさか何も考えてなかった?」
「い、いえ……」
 パートナーに言われるまでそんなことは意識してなかったようだ。
「この阿呆、缶蹴りをなめるんじゃないよ!」
 狩らなければ、狩られる。そう思っているせいか、フエンの顔には緊張の色が見える。
 重ねて怒られたため、勇はしょんぼりしながらさらに距離を取った。フエンの姿がギリギリ見えるくらいまで。
 校舎の近くを歩いているため、人影があれば分かりそうなものだが、なかなか姿が見えない。
 まだまだ見つけるまでには時間が掛かりそうだ。

            * * *

「うーん、作戦て言っても今回は突発だしなぁ……」
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)が声を漏らした。前日に時禰 凜(ときね・りん)がアリサを誘ったことを知り、嬉しく思って自分も協力することにしたのだが、いざ攻めるとなってもいい作戦はすぐには思いつかない。
(他の攻撃陣に便乗させてもらうか)
 缶の位置に目星はつけている。
 学院の屋上に、イコンの姿が見える。霧がかっていてはっきりと見えるわけではないが、わざわざ乗り出してまで囮ということはないだろう。
 普通に缶をイコンで守った方が安全だからだ。
「凛とアリサちゃんは缶の近くに人がいなくなったら全力で走って缶を蹴ってくれ」
「はい!」
 凛が返事をする。あとは、隙が出来るまで待機だ。
 現在彼らがいるのはイコンデッキと学院校舎の連絡通路付近。守備側の張った罠もあるため、どちらにしても迂闊に動けない。
「どういったものかと思ったが、一筋縄ではいかなそうだな」
 周囲を見渡しながらアリサが呟く。
 翔が基本的にそっけない性格なため、彼女自身こういう遊びをすることはほとんどないのだが、「遊び感覚」では勝てないというのを肌で感じているようだった。
 ちなみに、彼は休みをいいことにまだ寮で寝てるらしい。午後は山葉 聡とまた空京に繰り出すらしいが。
 そんなわけで、アリサはいるが翔はいない。
「そうだね。なかなか動く様子もないし」
 が、そうしている間にも守備側の人間は索敵を行っている。
(暑い……暑い……俺は元々インドア派なんだよ!)
 まだ朝と言っていい時間帯ではあるが、気温はもう三十度を超えている。日陰であれ、厳しいものはあるのだろう。
 智宏は暑さのあまり、殺気立っている。これが殺気看破に引っ掛かるかはまだ分からないが、これで守備側が少しでも自分に向かって動いてくれれば好都合だ。
 彼と凛に至っては、精神感応を持つ人間が同エリア内にいることは感じ取っている。
 それが攻か守か、実際に目で見なければ確認出来ないのは辛いが、相手も同じ条件なのだ。もっとも、殺気看破だったりディテクトエビルだったり禁猟区があれば、敵だと見抜く方は簡単だろうが。

 そんな精神感応のスキル持ちで、南エリアを攻めようとしているのは天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)の二人だ。
 彼女達もまた、缶から離れた場所で様子を窺っている。守備側が自分で缶の位置を決めて罠を張る時間がある以上、接近する方が難しい。
「守備を減らすのが先決そうね」
 複数人が守備につける以上、常に缶を見張っている人間はいるはずだ。確実に缶を蹴るには、守りの人数を減らすほかない。
(まだ攻めるのは難しいわ。少し下準備するからまだ待ってて)
 精神感応で彩華と連絡を取り合い、連携する。
 守りの人もそうだが、エリアに張り巡らせているトラップも厄介だ。
 だが、それ以上に彼女はある種の違和感を覚えていた。
「身体が思うように動かない……?」
 しびれ粉だ。おそらくエリア全域に撒かれているのだろう。一切身動きが取れなくなるほどではないが、薬の効果が切れるまでは全力を出すのは難しいだろう。
 もし切れても、守備側がさらに散布してきたらたまったものではない。
(やっぱり守りをなんとしてでも減らさないとね)

            * * *

 一方、上空では。
(イコンは少し面倒だな)
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)がエリア全体の様子を窺っていた。どうやって海京に連れ込んだのか、レッサーワイバーンに乗っている。
 なお、今回は様々なペット達を連れて参加している者がいるが、普段だったら天沼矛で動物は移動出来ない、はずである。今回はあくまで例外的措置が取られているのだ。
 ワイバーンで彼女が向かうのは、南エリアの海上だ。海陸風の吹く海京では、風上は自然と海の方になる。
 攻めてが一番少ないエリアを目指したが、北エリアではあまり効果が見込めそうになかったため、次に少ない南エリアに狙いを定めた。
 風に乗せ、垂が撒いたのはしびれ粉だ。攻撃側を巻き込まないように、イコンのある天御柱学院の屋上付近を狙う。守備が待機しているのもおそらくその近くだろう。
(ん、あれは……)
 空から、と考えているのはなにも彼女だけではない。
 見えたのは、光る箒で南エリア上空の索敵にあたっているプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)だ。
 が、彼女は垂の方には気付いていなかった。別の人物を上空に見つけたようである。
(ひとまずは大丈夫そうだが、あまり長い時間空にいるのは危なそうだ)

 プリムローズが発見したのは、小型飛空挺ヘリファルテであった。レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)がそれに乗り、缶を探していた。
 隠形の術で姿を見られないようにしながら移動しているとはいえ、飛空挺を使っている以上、生身でいる時ほど効果的ではない。
 とはいえ、飛行速度では光る箒に勝るため、なんとか振り切ることに成功する。
(迂闊に空を飛ぶのも危険ですね。それに、攻めるなら別のエリアにするという手もありますか)
 すぐにパートナーである閃崎 静麻(せんざき・しずま)に連絡をする。そして一旦南エリアから離脱した。
 まだ時間はある。今は無理に急ぐ必要はない。

 北、南ともにまだ攻守の拮抗した状態が続きそうだ。