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激戦! 図画工作武道会!

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 そして、そんな雪だるま王国の女王の奮戦は、隣の第一リングで戦う雪だるま王国国民のレイナにも少なからず影響を与えていた。

 試合の行方を横目で追っていたレイナは美央の試合の決着がつくと、直ぐ様自分の試合へと視線を移す。

 レイナのゆるアル人形は、クッション製作やクッション付きのイスの製作で余った廃材を使ってほぼアルフォニアとそっくりに作られ、持っている空飛ぶ箒も廃材だった魔法の箒から切り出してサイズが合うものに仕上げている。

 ちなみにレイナはデザイン系列が壊滅的に下手なので、人形の作成にはフォローとしてリリに手伝って貰っていた。

 レイナの傍では、ゆるアル人形のモデルとなったアルフォニアが、「おー、あれがボクの姿した人形か〜……うんうん、可愛いね。さすがボク!」という感じに自画自賛しつつ応援している。

 人形の出来に小首を傾げるのは、デザイン面でレイナに指導をしたリリである。

「……お嬢様、昔からこういったデザインは苦手でしたが、前より酷くなってるような気がします……」

 ぼそりと呟くリリ。
どうも彼女が気になっているのはゆるアル人形の頭のデカさであるようだが、今の試合においては、その大きな頭部を生かした飛行中の箒からの頭突きは、相手の真・万能調理サポートロボ「サンジェルマン」の脅威となっていた。

 レイナがゆるアル人形に指示を送る。

「美央さんがいないんだから、ワタシが頑張らないと仕方ないんです! 火術で攻撃しなさい!!」

 ゆるアル人形が箒に乗ったまま、空中から火術を放つ。

 エクスは余裕の笑みを浮かべ、高笑いする。

「わらわと唯斗と睡蓮の三人で作ったサンジェルマンは並みでは無いぞ」


 サンジェルマンは、元々四脚を持つ調理器具を纏めて収納するケース(キャスター付き)であり、本来はキャスターで引っ張るだけであったが、薬の小瓶の影響により自律行動してからは器用に歩くようになった。
 それだけではない、四角いボディには包丁、フライパン等の手持ち器具が満載で、本体上部に付いた二本のアームにてこれらを器用に扱う戦闘マシンになったのであった。

「作るのも改造するのも俺が手伝わされたんですけど……」

 エクスの隣にいる唯斗が溜息をつく。

 そもそも唯斗は今回の大会の裏にいるというブローカーを追い、試合はエクスに投げようという考えであったが、エクスが本気で優勝狙ってるのと入場セレモニーに引っ張り出された流れから已むを得ずそのサポートに奔走する事になっていたのだ。
 そのため、彼が工作のメンテのイロハを叩き込んだ睡蓮と共にエクスの傍で共にサンジェルマンの応援をしていた。

「さぁ、サンジェルマン選手は、一月かけて作った万能調理器具運搬ケースを更に改造し誕生した
という事ですが、アイムさん。いかがですか?」

「先程のメロンパン保存器といい、是非とも戦場に欲しい逸品ですねー。テレビショッピングで扱えば結構売れると思いますよ」

「戦場でテレビショッピングをする兵士はいるんでしょうか……?」

「……ま、まぁ細かいことはいいじゃないですか!」

「……さ、さぁ試合も中盤に差し掛かってきました! おや、睡蓮さんがエクスさんに何か耳打ちをしてますね?」

 イチローが指摘したように、サンジェルマンに主に指示を出すエクスの傍で睡蓮が何か耳打ちしていた。

「おぬし、それは本当なんであろうな?」

 訝しげな顔で睡蓮を見つめるエクス。

 先程まで居た唯斗の姿は既に無く、睡蓮曰く「長い小便です」との事。
 逃げたな……と瞬時にエクスは判断した。

 
 睡蓮は試合開始前に、サンジェルマンの全てを知る唯斗からみっちりとメンテの仕方を習い、同時に「見れば解る」と言った奥の手も預かっていたのだ。

「え? 唯斗兄さん、コレなんですか? 姉さんが見れば解るんですか? わ、解りました! 大事な時に渡すんですね!」

「睡蓮、エクスの事頼みます。決して無理はしないで下さい」

 小さな紙切れを持った睡蓮が唯斗の顔を見てしっかりと頷く。

 今、睡蓮から渡された紙切れを開いたエクスは、フンと鼻を鳴らし、一言。

「わらわの勝ちだな」
と呟くのであった。

 

戦いは終始、空中からの火術と落下速度を伴った直接攻撃に勝るゆるアル人形が優勢に試合を進めていた。

 サンジェルマンは、その攻撃を必死にフライパンでガードし、包丁で反撃を試みるも、ヒットアンドアウェイを得意とするゆるアル人形に苦戦していた。

 エクスが叫ぶ。

「サンジェルマン! 必殺技を解禁する。思う存分やるがよかろう」

 エクスの方を見て頷くサンジェルマンが低い声を出す。

「俺は負けられない。エクス達の前では」

「あ、唯斗兄さんの決め台詞だ」

 そう睡蓮がポツリと言う。

 レイナもすかさずゆるアル人形へと指示を送る。

「アル、気をつけて! 何かしかける気よ!」

 レイナの横で本物のアルフォニアが振り向く。

「何?」

「あなたじゃないです」

 ダッと、ゆるアル人形へ向けて走りだすサンジェルマンが包丁とフライパンを投げる。

「嘘っ!? 武器を捨てる!?」

 回避の遅れたゆるアル人形の箒に見事に命中するフライパン。
 
箒と分離し、落下するゆるアル人形。
レイナが身を乗り出す。

「でも、相手も武器がもう無い! 必殺ヒップアタックです!」

 レイナの言葉にクルリと空中で一回転したゆるアル人形が、お尻を向けて落下してくる。

「待っていたわ、これを! サンジェルマン!! フェイスオープン!!」

 エクスも身を乗り出し叫ぶ。

「フェイスオープン!?」

 サンジェルマンが二本のアームで、自らの胴体の扉を開く。扉の先にはブラックホールと呼んでもいい程の漆黒の闇が広がっている。



――ズボッ!!

 ゆるアル人形が吸い込まれ、サッと扉を閉めるサンジェルマン。
思わず静まり返る客席。

「モギュモギュモギュモギュ」

 何かを咀嚼する音が響いた後、
「ペッ」
べちょっ、と透明な液体まみれで放出されるゆるアル人形。

 その状態を確認し、ゴホンッと咳払いしたレフリーが右手を高くあげる。

「KO! 勝者、サンジェルマン!!」


 試合後、サンジェルマンを化物を見つめるかのような目で見る睡蓮と、妙に誇らしげなエクスの姿が対照的であった。

 一方のレイナは、火術で引火し、燃えてKOという最悪のシナリオではなく、何故か溺死扱いになったゆるアル人形を力なく抱えるのであった。