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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER 少年探偵、みなを集めて、さて、と言い

 メロン・ブラック博士には、ボクが姫の友達ではなくて、ヴァーナー・ヴォネガットだって? バレてたです。
 薬を飲まされたボクは、しゃべれなくなって、ぼうっとしてて、ウェデイングドレスを着せられて婚礼の儀にでたです。
 そうして気がついたら、礼服を着た司祭のおじいちゃんと歩いていたです。おじいちゃんは、ボクの手を握って離れないようにしてくれてたです。
「ヴォネガット。かわいそうに。しゃべれないんだね。薬かな」
 白い顎鬚をはやした司祭のおじいちゃんが、お友達の黒崎天音おにいちゃんの声でしゃべったので、ボクはびっくりしたです。
 そうしたら、声がでるようになったです。
「変装して、ボクを助けにきてくれたですか?」
「だって、まだお嫁に行くには早すぎるじゃない」
「おい。このまま、ロンドン塔の敷地内をさまよっていては、嫁に行くどころではないぞ」
 気がつけば、天音おにいちゃんのパートナーのドラゴニュートのブルーズおにいちゃんが、フードをかぶって顔を隠して、隣を歩いていてくれたです。
 ボクはうれしくなって、天音おにいちゃんにハグしようとしたのですが、体がうまく動かなくてできなかったです。
 三人で歩いたり隠れたりして、たくさん時間がすぎたです。
 ようやくボクの体がちゃんと自由に動くようになった頃、ボクらは広い部屋にいて、くるとちゃんとあまねおねえちゃんと、藍澤黎おにいちゃんとかわい維新ちゃんと、それに、結婚式用に白いタキシードを着たメロン・ブラック博士がいたです。
「ヴァーナーちゃん! こんなところに」
「わるい人に捕まっていたら、天音おにいちゃんが助けにきてくれたです。くるとちゃんと、あまねおねえちゃんはだいじょうぶでしたか?」
 ぼくはくるとちゃんとあまねおねえちゃんに、ハグとほっぺにチュウをしてあげたです。それから、メロン・ブラック博士に、
「みんなが博士を捕まえにきたです。もう逃げられないですよ。謝っていままでのことを反省するです」
 ボクの横では、天音おにいちゃんが笑っているです。
「藍澤。くると。それに、博士。今日は、同じ人たちと何度もあう日だね。僕は、お招きいただいたこの城からでる前に、ごあいさつをしておこうと思って、博士を探していたんだよ」
「我も家庭教師の職を辞すことを告げに博士に会いにきたのです。こんな隠し部屋におられたので、探すのに手間を取りましたが」
 天音おにいちゃんと黎おにいちゃんは、二人揃って、ちょっとこわい顔をして博士をみたです。

 古森あまねです。
 ラウールさんに、事件の終りを見届けにロンドン塔に行け、と言われた気がして、くるとくんとあたしは混乱極まるロンドン塔にやってきました。
 市内からここにくるまでは、どこからともなくあらわれたPMRのベスティエ・メソニクスさんが案内してくれたんだけど、この部屋についたら、例のごとく、どこかへ去っていってしまったので、部屋内に、黒崎さんや藍澤さんがいるのをみて、ほっとしました。
 でも、ラウールさんもベスティエさんも、なぜ、くるとくんをここへ導いたの。
 くるとくんをメロン・ブラック博士をあわせたかったんでしょうか。
 また、ドアが開きました。入ってきたのは、百合園推理研究会の七尾蒼也さんとベルディータ・マイナさん、霧島春美さん、セルマ・アリスさん、ミリィ・アルメラさん、それに何人もの女の子たち。
「避難場所を探していたら、とんでもないところにきてしまったな」
「事件は、クライマックスを迎えてるみたいね」
「博士。この塔に捕らわれていた女の子たちは、みんな助けだしたわ。婚礼の儀にでていた花嫁さんも、ヤードと一緒に突入した戦部さんたちが保護したそうよ。さあ、事件の真相を話してもらおうかしら」
「ぬいぐるみ、お返ししにきました」
「ルーマとワタシをこんなめにあわせて、ただですむと思わないでね」
 ヴァーナーちゃん。黒崎さん。ブルーズさん。藍澤さん。蒼也さん。ベルディータさん。春美さん。セルマさん。ミリィさん。これだけのメンバーに囲まれ、さすがに観念したのか、博士は椅子に腰をおろしました。
 後で束ねていた髪をほどき、上着を脱ぎ捨て、その暗い目をあたしたちにむけます。
「まったく、ノーマン・ゲインめ」
 博士の口からでてきたのは、犯罪王の名前でした。
「とんだ贈り物です。つまらぬことをしてくれる」
 なにを言いたいのか、さっぱりわかりません。
「今回の事件は、あまりに錯綜していて、解説が必要だと思うな。これって、名探偵のつとめだよね。弓月。できるかい。手短にね」
「くると。疲れていないか。ほら。隣にいるから安心しろ」
 黒崎さんにすすめられ、竜さんが横についてくれて、くるとくんは、博士の前に立ちました。
「さて、少年探偵。やってくれ給えよ」
 博士は、なぜかうれしそうです。
 くるとくんがしゃべりだしました。
「今回の一連の事件が映画だったとしら、監督はギレルモ・デル・トロ。0年代のホラーティストだけど、パン・ブラザースじゃない。
脚本はアレック・コペル、サミュエル・テイラー。ジュリアン・フェロウズ。ミステリに十九世紀の小説技法を合わせた感じ。
主演は、退屈に蝕まれながら永遠を生きる男アレイスタ・クロウリー。
製作総指揮は、ノーマン・ゲイン。
一見、ミステリ映画。でも、ミステリとしてのトリックはそう強くない。「刺青殺人事件」のとよく似てる。
 電話で教えてもらった。調査メンバーのリリさん、アキラさん、由宇さんが物証をみつけてくれたんだ。
密室バラバラ殺人をするんじゃなくて、密室バラバラ殺人にみえる現場をつくる話。
 魔法使いと超能力者、リリさんが見つけた瞬間移動能力を補助するサイコ粒子。
 人間一人の死体をそのまま、瞬間移動させるよりも、部品にわけた方がやりやすいの? ボクは知らない。
 アキラさんと由宇さんは、死体発見現場へ被害者のパーツを瞬間移動させる中継点を見つけた。そこには、現場へ移動させきれなかったパーツが置いてあった。瞬間移動能力を持つ人物がそこにいたらしいけど、その能力で逃走されたって」
「なんで、ノーマンがきみを気に入っているのかわかった。きみは、愉快な批評家で鑑賞者だ。我々の作品の価値を見極めて、分析、批評してくれる貴重な観客です」
「きっと、ノーマンは、永遠の退屈を持て余すあなたに、ぼくとあまねちゃん、捜査メンバーのみんな、自分のニセ者たちをからませ、生を感じる刺激をプレゼントしたつもりなんだ。
互いにありえない人生をすごしてきた犯罪王から、犯罪王へのありえない贈り物。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『ハイランダー 悪魔の戦士』」
 大人数の足音が急に迫ってきて、部屋のドアが開きました。黒マントをはおった博士の親衛隊の一団が、入ってきたのです。
十人以上、おそらく二十人近くいるわね。戦える人数がこちらの倍、いえもっとたくさんです。
 博士も、くるとくんも口を閉じました。

 TALYYHOOOOOO!!!

 叫び声と同時に部屋の壁が崩れ、そこから赤い竜とその背にまたがった、ヴェッセル・ハーミットフィールドさん、クロシェット・レーゲンボーゲンさん、ファタ・オルガナさんが、乱入してきました。
「んふ。維新、待たせな。いや、待ったのはわしか? どちらでもよいわ。仙桃におぬしのにおいのついたものを嗅がせてな。探させた。竜の嗅覚もアテになるのう。維新。こっちへこい。わしの後ろにいろ。今日は、ちと派手に暴れるぞ」
 維新ちゃんが言われるままに、ファタちゃんの背後につきます。この二人、ほんとに仲がいいんだ。
「ファタちゃん。ボクのにおいのついてるものって、なんなの」
「内緒じゃ」
「クロ子。黒マントのやつだけ狙って、ミサイル発射だ」
「ムチャを言うなベス。この狭さで、それは難しいのだよ」
「ま、建前としては、そうしとけ。実際は当たっても。しかたないだろ」
 ベスさんがムチャクチャ言ってる。
「ん。なんだこの黒マントの連中は。見てるだけで不愉快だ。キミたちは可愛くないなぁ。この部屋から去るか、可愛くなるか三秒以内に決めてくれ。可愛いはみんなオレが助ける。可愛くないの存在は、認めない。一、二、三」
 赤い竜さんは、言いたいこといい、三つ数えると。親衛隊の人たちに襲いかかりました。
「春美。ここにいたんだあ」
「メロン・ブラック。まだ生きているのね」
 大乱戦状態の部屋に、さらに、春美さんのパートナーのディオネア・マスキプラちゃんとピクシコラ・ドロセラさんがやってきました。
「くると。見るんじゃない」
 目の前での本物の戦闘に、あ然としているくるとくんの顔をブルーズさんが手で覆います。竜さん、いつも、くるとくんをかわいがってくれて、ありがとう。
「あー。ミステリの現場は、こんなふうになってるんですね」
 銀色の腰まである長い髪、青い瞳の女の子が、無邪気に驚きながら、部屋の中へ。
 初めて会う人だと思います。
 彼女は、一緒にきた少年二人、だぶだぶの服の片メガネの人と、後ろ一本の三つ編みの人、と、黒猫さんを引き連れ、悠々と室内を歩きまわりました。
「あなたがかわい維新ちゃんですね。オルフェは、夢であったことがあるのです。お友達のファタ・オルガナさんのことも知っていますよ。維新ちゃん。クビシメロマンチストと人間試験は、傑作ですね」
「あーそれはぼくより、ファタちゃんがくわしいかも。ミステリっていうより、実は暗めの、ちょっと変わった青春小説だよね。ぼくは、アニメがどれもけっこういい出来なのに、視聴者を選ぶ放送の仕方をしてるのが、難儀だと思うよ」
 彼女は、維新ちゃんとなにか話しています。
 ああ。話に集中してて襲われそうになった彼女を三つ編みの人が守って、彼が動いた時に、肩がぶっかって片メガネさんがよろけ、床に引きずっている服の裾をくるとくんが踏んづけ、片メガネさんコケました。
「少年。きみ、自分の服を踏んだな。いや、悪意がないのならいいが、足元にも気をつけるのだよ」
「ごめんなさい」
 くるとくんが素直に謝ります。竜さんがなにか言いたそうに、片メガネさんをにらんでいます。あたしも、彼の服装にも問題があるとは、思いますけどね。
「にゃはー。ここで一番、重要人物そうな、魔法使いさんが逃げていったけど、みんな追わなくていいのかにゃー」
 黒猫さんが、あたしをみて言いました。
「そ、そうですね。はじめまして、あたし、古森あまねです。こっちの小さいのが弓月くるとです。あなたたちは、事件の捜査にこられたんですか」
「そうだにゃー。みかげは夕夜御影。青い髪の子と本の話をしてる、みかげのご主人は、オルフェリア・クインレイナー。ご主人を襲おうとしてる連中を片っぱしからやっつけてるのが、サー。ミリオン・アインカノック。サーは、ご主人を守るのが生きがいだにゃー。さっき転んだのは、『ブラックボックス』アンノーン。家事担当のウチのおかん役にゃー。よろしくにゃ」
「どうも、こちらこそ。あらあら。オルフェリアさん、今度は、ヴァーナーちゃんのところへ」
 オルフェリアさんは、女の子たちを守っているヴァーナーちゃんに、にこにことあいさつしてます。
「あなたのことも夢でみたんです。あなたの歌もあるんですよ」
「そうなんですかー。ボクは夢であったのは、よくおぼえてないです。でも、これから、仲良くしましょうです」
 オルフェリアさんとヴァーナーちゃんが握手して、ハグしあってるの見ていると、自分が、いまどこにいるのか忘れてしまいそうだわ。