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鏖殺寺院の砦

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鏖殺寺院の砦

リアクション


04:Chaos
 戦闘機と第二陣のイコンがやってきた。
 それによって戦場はますます混迷する。
 数で圧倒するこちらに対して、敵は謎の電波で同士討ちを狙ってくる。
 頻度はそう多くないが警戒するためこちらの動きは鈍くなっていた。
 そこを狙って敵のマシンガンが命中し、墜落してゆく戦友たち。
「くそっ! みんな無事か!?」
 雨月 晴人(うづき・はると)が何機目になるかわからない敵を撃ち落としながら尋ねる。
「ガンマ小隊は全機無事」
 パートナーのアンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)がそう告げると春人はほっとしたようだった。
「こちら【クラッシャー】のアンジェラ。サーモグラフィに反応あり。各機随伴兵に警戒せよ」
「【銀露】、了解」
 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)が応答する。
 紫翠は仲間の行動をサポートしながらヒットアンドアウェイで攻撃も仕掛けている。
「皆、やるき溢れているわね? 無茶と無謀は、違うと思うけど……そうね、いつも通りで、やりましょう。私達は」
「そうだね……瑠架……」
 橘 瑠架(たちばな・るか)の言葉に紫翠はそう答える。
「【漆黒魔道】、敵が……近づいているよ」
 紫翠は友人の不動 煙(ふどう・けむい)のコームラントに、チャージの合間を縫って近づいてくる敵の存在を警告する。
「にゃっはー☆ 【銀露】、背中から撃ってください! 挟み撃ちですぅ!」
「了解……」
「煙! 右下方20度アル」
 古代禁断 死者の書(こだいきんだん・ししゃのしょ)が中国風の口調で敵機の位置を告げる。
「了解ですぅ! おっちろおおおおおお!」
 煙が汎用機関銃を発射する。
「そこ……」
 紫翠がビームライフルを発射する。
 正面装甲と背部のバーニアに銃撃を浴びて爆発するシュメッターリング。
「冴璃! 左上に熱源。バルカンの射程に入れるよ!」
 東森 颯希(ひがしもり・さつき)がパートナーに告げる。
「了解! バルカン!!」
 月舘 冴璃(つきだて・さえり)が頭部バルカンの発射スイッチを押した時だった。
 機体のコントロールが奪われ、バルカンの弾が笹井 昇(ささい・のぼる)の乗るイーグリット【イルマ】に命中する。
「うわっ、【アーラ】何を!?」
「こちら【アーラ】。コントロールを奪われました!」
「【イルマ】了解。デビット、操縦には慎重になれ!」
「了解。<女王の加護>のあらんことをってな!」
 随伴飛行歩兵の接近を察知したデビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)はフルスロットルで加速すると随伴飛行歩兵を衝撃波で落とす。
 【クラッシャー】は接近する敵からコームラントを守るように機動をとると、敵が剣を振り上げたところを下から切り払う。
 快音を響かせて剣が地面に落ちる。
「よっしゃ、あれは後で地上班が回収だな」
 晴人が快哉を上げる。こちらの武装強化のためにも敵の新武装のサンプルはどうしても欲しかった。
「こちら【イルマ】。【アーラ】に支援砲撃を求める」
「こちら【アーラ】。了解!」
 【アーラ】からビームキャノンが飛ぶと【イルマ】は敵機に接近しマシンガンを持つ腕を切り裂いた。
「おっと」
 そしてその腕を拾いマシンガンを奪い取る。
「よし、コームラントと一緒に弾幕を張る。【クラッシャー】と【銀露】は敵に止めをさしてくれ!」
 昇がそう言うと、【漆黒魔道】と【アーラ】から汎用機関銃での弾幕が張られる。【イルマ】もそれに合わせて敵から奪った機関銃で弾幕を張り、味方の接近を支援する。
「紫翠、合わせろ!」
「了解……」
 ダブルビームサーベルが敵シュメッターリングにXを刻む。燃料系に致命的なダメージを受け爆発するシュメッターリング。
「よっしゃ、あとはシュヴァルツ・フリーゲだけだ!」
 晴人が叫び味方に援護を求める。
「了解!」
 煙がそう言って汎用機関銃を発射する。冴璃と昇もそれぞれに弾幕を張る。
 敵の左右と下に弾幕が張られシュヴァルツ・フリーゲは上か後ろに逃げるしかなくなる。
 シュヴァルツ・フリーゲは上に逃げるが当然それは予測済み。
 機体の操縦をして追いかけるとまず【クラッシャー】と【銀露】はビームライフルを放つ。
 敵の移動先を予測しての非ロックオン射撃。だがそれは確実に命中しシュヴァルツ・フリーゲに大きなダメージを与える。
 そして接近してバルカンで威嚇しながらビームライフルで止めをさそうとする。その時、【クラッシャー】のコントロールが奪われ【銀露】を斬りつけてしまう。
「うわ……」
「すまねー。コントロール奪われた!」
 爆発する銀露のイーグリットの装甲。だがまだ落ちない。銀露はそのままシュヴァルツ・フリーゲに攻撃を仕掛ける。
 伝達系にダメージを与えシュヴァルツ・フリーゲは墜落していく。脱出ポッドが射出されたのが見えた。
「今度は……殺さずに……すんだようですね」
 紫翠はそう言って安堵すると、次の敵の到着を待った。

 簡易補給陣地――

 未那が涼司たちを出迎えると、シュトゥルム・パンツァー(しゅとぅるむ・ぱんつぁー)が軽食を運んできた。
「あっちゃー、山葉校長、こりゃここでの整備は無理ですね。一度空母に戻っていただく必要があります」
 翔が提供する軽食を食べながら誠一にそう告げられると涼司は憮然とした表情をした。
「それじゃあ、戦場には間に合わないな」
「そうですね。でもラッキーですよ。なんか細工されたあとがありますから、この程度の被害ですんでよかったと思うべきです。内部まで爆発が来るように調整してありましたが、幸いそこまでは細工することはできなかったようです」
「ってことは俺の命を何者かが狙っていたと?」
「そうですね。蒼空学園の理事長兼校長兼生徒会長ですから、狙うやつがいてもおかしくはないでしょうね」
「っち……小細工を労しやがって」
 涼司が舌打ちをする。と、ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が怪我人がいないかをチェックして回って、いないことに安堵する。怪我人がいれば数多く備えた治療スキルで回復する気でいたのだが、出番がなくてある意味ほっとしていた。
「でも、大事に至らなくてよかったじゃないですか涼司様」
 花音がそう言うとカノンも
「そうだよ。涼司くんが無事でよかった」
 と言う。
「カノンさんの機体もここでの整備は不可能ですねえ。一度空母に戻ってもらう必要があります。レオさんは簡単な修理ですのですぐに戦場に戻れるかと思います」
 真琴がそう言うと空気が一変して温かいものになった。さすがは整備課の女神である。
「分かった。空母に向かうわ。行こう、涼司君。レオはこの後もよろしくね」
「おう」
「はい、カノン先輩」
 レオの返事を満足そうに受け取ったカノンはイーグリットに乗り込むと涼司と一緒に空母に戻った。
 そしてレオは装甲の修理を受けて再び出撃する。
「行ってきます」
「ご武運をお祈りします」
 真琴の言葉にレオは心が暖かくなるのだった。

 デルタ小隊――
「さて、そろそろ戦争しているって自覚をつけなきゃな」
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)はそうつぶやくとパートナーのリンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)に操縦を指示して射程圏内にいる随伴飛行歩兵に頭部バルカンの弾をばらまく。
 5〜6人がそれを受けて一斉に墜落していく。
 コクピットから見えなくて幸いなことだが、バルカンが命中した歩兵は体の一部がもぎ取られて出血多量でショック死していた。
 と、ニーバーの<女王の加護>に反応があった。機体のコントロールが奪われそうになる。そんな予感がしたニーバーは
「景勝、攻撃中止」
 と叫ぶとフルスロットルで加速した。
 おかげで景勝のイーグリット【クサナギ】は端守 秋穂(はなもり・あいお)の乗るイーグリット【セレナイト】に攻撃を当てることなくビームライフルの光線は虚空を薙いだのだった。
「うお、【セレナイト】、すまん」
「いえ、大丈夫です」
 そんな【セレナイト】はコームラントの支援を受けビームライフルで敵のコクピットを貫くと、シュメッターリングを爆発、四散させた。
(周囲に随伴歩兵いる、注意してー!)
 パートナーのユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が<精神感応>で警告する。
(ユメミ、米軍に支援要請)
 秋穂はユメミに指示を飛ばしユメミは米軍に支援要請を飛ばす。
 すると米軍の戦闘機のバルカン砲が【セレナイト】周辺の随伴飛行歩兵を撃墜する。
 だが次の瞬間米軍機はシュメッターリングのマシンガンの弾を受けて爆発する。しかしパイロットはベイルアウトしたようだったので秋穂は安心した。
「よくも! 非道の限りの鏖殺寺院。絶対に許さないのです!」
 頭に血が昇っているオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)は超感覚の白猫で歩兵を警戒しながらシュメッターリングにビームライフルを発射する。
「我も今回はそれなりに怒っておりますので、全力で殺して差し上げますよ」
 パートナーのミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)も鏖殺寺院の非道に怒りを上げており、敵の背後を取るような機動にイーグリット【カムパネルラ】を操縦する。
「オルフェリア様、今です!」
「【クサナギ】、【セレナイト】、タイミングを合わせてください!」
『了解』
 三機のイーグリットから一斉にビームライフルが放たれる。
 三方向から同時に攻撃を受け防御力が飽和し水が溢れるようにエネルギーが溢れ、シュメッターリングは爆発する。
 しかしそこにシュヴァルツ・フリーゲの攻撃が入る。
「甘い!」
 マシンガンの弾を回避し上空を取る【カムパネルラ】。
「【ホークアイ】、【クリムゾン】、援護願います」
(ここは純粋な経験とセンスのみが問われる命懸けの戦場……それなら……イコンでの狙撃経験なら、俺は誰にも負けない!)
 【ホークアイ】の天司 御空(あまつかさ・みそら)は、パートナーの白滝 奏音(しらたき・かのん)から情報を受け取りながら照準を合わせる。
「よーく狙って……シュート!」
 【クリムゾン】の葉月 エリィ(はづき・えりぃ)も照準をしっかりとあわせて砲撃する。
 二本の大型ビームキャノンの光条が交差しシュヴァルツ・フリーゲの装甲を破壊する。
「とどめ!」
 秋穂は一気にシュヴァルツ・フリーゲに接近するとビームサーベルでコクピットを貫く。
 爆発するシュヴァルツ・フリーゲ。
「エリィ、随伴歩兵が左下方三十度」
 エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が忠告すると、エリィはバルカンを3秒間発射する。1秒に60発計180発の弾丸は密集する随伴歩兵を吹き飛ばす。
「こちら【カムパネルラ】。次の小隊が3時の方向下15度から接近中です」
「了解。こちら【クサナギ】降下して接近する。上をとっている分こちらが有利だ。垂直に落ちるように交差して直上から攻撃を仕掛ける。デルタ各機我に続け」
『了解!』
 そして敵の頭上をとったデルタ小隊はまずコームラントの砲撃で敵をバラバラにしてからイーグリットのビームライフルを一機に集中させる。
 エネルギーが飽和して爆発するシュメッターリング。敵は急上昇するとこちらの正面に位置をとった。
 当然こちらもただ空中に静止しているわけではない。複雑な機動をとりながら敵を包囲する。
「エリィ、敵は射程圏内よ」
「了解。出力を絞って剣を狙う!」
 【クリムゾン】から発射された出力を絞られたビームはシュメッターリングの振動剣を持つ手を破壊し、剣が落下していく。
(シュメッターリング2機に合わせシュバルツフリーゲ接近。合流を妨害して下さい)
 奏音が精神感応で御空に警告すると御空は大型ビームキャノンの出力を最大にしてシュメッターリングの数秒後にいるであろう位置に射撃する。
 シュメッターリングはビームに吸い込まれるように接近し、爆発、墜落する。
「よし、1機撃墜。単独5機撃墜を狙うぞ!」
 御空はエースを狙い単独撃墜記録を更新しようとする。
「こちら【セレナイト】。敵の電波を検出ー」
 ユメミがそう警告したとき、【カムパネルラ】のビームライフルが【ホークアイ】に直撃する。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
 オルフェリアが通信を入れると、御空は
「コームラントの装甲は頑丈だからまだ平気です」
 と答える。
「もっかい検出ー」
 ユメミが警告すると今度は【クリムゾン】の汎用機関銃が米軍機を攻撃する。
 しかしロックオンされた攻撃ではないので米軍機は急速に機体をひねって回避する。
「危ない危ない……しかしこの電波は一体……」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は小型飛空艇アルバトロスでイコンに随伴し、対随伴歩兵歩兵として戦場をかけめぐっていた。
 まずはリカインが空中を動きまわって随伴飛行歩兵を混乱させ、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が魔道銃で敵集団を攻撃する。
「はっきり鏖殺寺院って分かってる相手とやんのも随分久しぶりな気がすんな。ま、思う存分やらせてもらうとして、俺を呼んだのは正解だぜ」
 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)がそう言いながら敵の魔道銃の攻撃を光条兵器で切り払い防御する。
「しっかり援護してやっから落とされんじゃねえぞ、バカ女」
「誰が馬鹿女ですか」
 リカインが反応すると
「お前だよ、バーカバーカ」
 とアストライトは挑発する。
「うるさいわね。あなたはやることをやってればいいのよ」
「へいへい」
「っと、機晶ロケットランチャーが来るわ、狐樹廊お願い!」
「へい。<奈落の鉄鎖>」
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が<奈落の鉄鎖>で機晶ロケットランチャーを落とす。
「攻撃はシルフィスティ殿だけで十分ですね。手前は防御に専念しましょう」
 狐樹廊がそう言って敵の攻撃を<サイコキネシス>や<奈落の鉄鎖>で落としていく。
 リカインは敵イコンに近づかないように神経を使ってアルバトロスを操縦しながら戦場を縦横に駆け巡った。
 リカインの働きにより味方イコンに近づく随伴飛行歩兵は大幅に減らされたのだった。