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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 序の八 『仇』

 デパート・2階
 デパートに戻ってきた太郎達は現在の状態を観察しながら、これまで通りの身の隠し方で店内を歩いていた。どのフロアも客の数が減っている。休日の昼間というよりは、平日の人の入りに近い。それに、何処となくぴりぴりとした空気が漂っているような気がする。店員は笑顔で立っているし、買い物客も居る。しかし、それが逆に不自然だった。もっと、混乱してしかるべきなのだ。
「悟られたのかもしれないんだな」
「……大丈夫だ」
 チェリーはバズーカをコートの中に隠す。そして普通に店内を歩き出した。
「被害者達は、各々何処かへ行ったのだろう。私が攻撃した所はまだ誰にも見られていない。私達は客にしか見えない。こうして、今度は一般客に紛れ、攻撃を続ければいい。ブラックコートは気配を消すからな。早々目を付けられることは無いだろう」
「そうだな。人が少なければ、ターゲットを落としやすいともいえるんだな」
 ――2人は、ロゼの機関銃によってコートに穴が空いている事を度外視していた。そして、客を装って剣の花嫁を探す。
「……このバズーカの性能に間違いは無い……。さっきの2人は変人。そうに決まっている……」
 そう言いながら歩くチェリーは、剣の花嫁を1人見つけた。まるで人形のような、意思の感じられない表情。彼女は、契約者らしき男に付き従っていた。デパートが場違いに見える――首領・鬼鳳皇の方がしっくりきそうな男だ。男は白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)、そして剣の花嫁はウェム・レットヘル(うぇむ・れっとへる)だった。チェリーは、客の振りをする太郎とは別に、物陰に入り攻撃態勢に入る。そして、ウェムへと光線を当てた。10秒ほど様子を観察してから、チェリーは頷く。
「……よし、効果が出てるな」
 そして立ち上がると、太郎の元へ戻った。コートにバズーカを隠し、客の振りを再開する。
「こうしていると、デートに見えなくもないんだな」
「……よくて親子だろう」
 ――そのチェリー達に、尾行するように付いていく子供が1人。小学1年生くらいだろうか。古代中国の貴族が着ていたような服装で、黒い髪を高く結い上げていた。ぱっと見では目立つが、背が低い為かそう注目はされない。彼女――辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、隠れ身を使って商品棚から見えにくい身体を目立たなくするように努め、進んでいく。
 しかし刹那は、2人を狙っているわけではなかった。
 彼女の役割は――

「デパートに黒ずくめ……あからさまに場違いで怪しいですね」
 剣の花嫁が何者かに狙われておかしくなっている、と知った安芸宮 和輝(あきみや・かずき)は、真相究明のためにデパートにやってきていた。そこで太郎達を見かけて彼らを目で追う。彼はまだ、刹那には注目していなかった。
「黒ずくめ……強盗、では無さそうですね……商品とか、普通に興味ありそうですし。何する気なんでしょうね……」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)も太郎達の背中を見ながらほんわりと言う。そんな和輝とクレアに、安芸宮 稔(あきみや・みのる)が思案気に言う。
「そうですね。もっとも……さっき、あの女性が隠したのはバズーカのようですし、こんな所に大型火器を持ち込む黒尽くめといえばテロリストぐらいしかいない気がしますが」
「テロリストですか……。もしや、今回の件と何か関わりがあるのでしょうか」
 そう言う和輝に、稔は考え考え答えた。
「噂を聞いて便乗した愉快犯かもしれませんし、それは分かりませんが……どちらにしろ、テロリストとなるとすぐに対抗するのは……難しいでしょう。まず、正体、目的ぐらいは知りたいものですね」
「目的……では、とりあえず追ってみましょう。買い物客に化けて、なるべく見つからないように……特に、クレアはやたら姿を見せないように気を付けてくださいね。今狙われているのは剣の花嫁らしいですから」
 和輝はクレアにそう言うと、山田達の後を追い始めた。2人はエスカレーターではなく、階段を使って移動するようだ。バズーカが下方から見えないようにという配慮なのかもしれない。しかし、ただの客が階段を使うというのは不自然である。
「ん……?」
 下のフロアへと降りていく黒ずくめから遅れること少し。小さな女の子が階段を降りていくのを見て、和輝は初めて何か引っ掛かりを感じた。しかしそう深く気にしないまま、稔に言う。
「クレアの護衛を頼みましたよ」
「はい、お任せください」
 稔は、クレアに付いて周囲を警戒しつつ答える。大柄な彼なら、もし何らかの攻撃があっても彼女を護ることが出来るだろう。そうして護られながらも、クレアは山田達に興味を持っていた。とはいえ、今回はテロリストの目的が分かるように自重しよう、とも思う。自分が行動不能になるのもまずい。
 フロアを後にしながら、稔は思う。
(本来は撃たれた人間を救助すべきなのでしょうが、彼らもどうも様子がおかしいですからね……警戒はした方がいいでしょう)

 山田達と刹那、和輝達が居なくなった2階フロアでは、今、正に戦闘が始まろうとしていた。チェリーが攻撃したウェムが、3分の時間経過と共に変化したのだ。
「竜造ぉ!」
 ウェムはホーリーメイスで竜造に襲い掛かった。しかし、その攻撃を竜造は殺気看破で察知して素早く彼女の手を掴む。メイスは落ち、床に転がった。
 手を離すと、ウェムは距離を取って竜造を睨みつける。突然の攻撃にも驚かず、竜造は余裕の笑みで彼女と対峙した。
「ほぉ……今まで金魚の糞みてえにひっついてるだけだった武器庫が、どういう風の吹き回しだ?」
「……全て思い出した。あんたがあの人を!」
 パートナーを武器庫呼ばわりしたことには頓着せず、ただ、憎しみだけを滾らせてウェムは叫ぶ。彼女は竜造と契約する以前、想いの繋がった、最愛の人と呼べる相手と契約をしていた。だが、幸せだった2人と関わりを持った竜造は、あろうことか彼女の契約者を殺害した。
 ショックを受けているウェムに、竜造は無理矢理契約させた。恋人の仇と契約してしまったことにより、彼女は心を砕かれ、これまで意思の無いままに付き従ってきたのだ。武器庫と呼ばれるなど、彼女にとっては可愛いものである。
 姿が変わらなかったのが何故なのかは判らないが、まあ禄な理由では無いのだろう。
 バズーカ攻撃を受けたウェムは、前契約時のその諸々を思い出して彼を殺そうと襲ったのだ。
「……思い出した? あぁ、あの時のか。どうだい惚れた男をぶち殺された気分は?」
 竜造は彼女の言葉を聞いて、せせら笑った。ぎりっ、と歯を噛み締めるウェム。
「どうして殺した! お前を自由にしてやったあの人をどうして!?」
「何故って? パラミタに来るにはパートナーが必要。そして手っ取り早いのがいたから頂いた。それだけだよ」
「な……!? それだけ、それだけの理由で殺したっていうの……!?」
 愕然とするウェムを見て、竜造は興奮を覚えた。
(なんだか知らねえが、おかしくなっちまったみてえだな! 面白え!)
 せっかくの機会。殺し合おうと彼女を挑発する。
「はん! 悲しいか憎いか殺したいか? じゃあやってみろよ仇は目の前にいるんだからな!」
「こ……このおおおおおおおっ!」
 ウェムは光条兵器を出して突撃した。竜造は、いつも光条兵器を使っている。自分が先に出してしまえば……!
「無知なあなたに教えてあげる! 光条兵器を同時に使おうとした時、優先権は剣の花嫁たる私にある!」
 迫る片刃の長剣に、竜造は丸腰のままだ。
 殺れる!
 そう思った瞬間、光条兵器が何かに叩きつけられた。彼女の手から離れ、押しつぶされるかのように床にめりこむ。
 奈落の鉄鎖だった。
「んなこたぁ知ってるんだよぉ!」
「……!」
 無防備になったウェムに、竜造は一気にと接近した。轟雷閃を纏った拳を叩き込むと、彼女の身体はふっ飛んで商品棚に背中から激突した。棚が盛大に後ろに倒れる。ウェムは棚に頭を預けた格好で動かなくなった。
「ぐ……」
 そのダメージは甚大で、立ち上がれない。顔だけを持ち上げて、竜造を見る。彼は、歪みきった顔で笑っていた。腕を伸ばし、誘うように五指を動かす。
「おいどうした? 俺を憎いんだろ? だったら来いよ。それともお前の憎悪はその程度のもんだったってか!?」
 気絶しそうになりながら、ウェムはありったけの憎悪を込めて竜造を睨み付けた。
「……そうだ、その眼だ! 憎悪に濁ったその眼! パラミタに来てからこっち、いい子ちゃんばっかいるせいで感じなかったそれ! 俺はそいつが欲しかったぁ!」
「こ……の……」
 狂喜乱舞した様子で哄笑する竜造をひたすらに睨む。
「……ろす。必ず、殺してやる……」
 やがて、ウェムは力尽きて気絶した。