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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

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【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン
【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン 【絵本図書館ミルム】ハッピーハロウィン

リアクション

 
 
 
 もうすぐハロウィン
 
 
 ラテルの街に吹く風は徐々に冷たくなってきていた。
 夏場瑞々しかった緑はどこか乾いた色になり、季節が秋に、そして冬へと移り変わってゆくのを感じさせる。
 そんなラテルの街に建つ絵本図書館ミルムでは、ハロウィンのための準備が進められていた。
 
 
「何を作ってるの?」
 さっきからハサミを動かしている白菊 珂慧(しらぎく・かけい)の手元が気になるように、サリチェが覗きこんでくる。
「これ? ハロウィンカードだよ」
 イラストを描いたその回りに大きめの余白をつけて切り取っていた珂慧は、作業の手を止めると先に見本として作っておいたカードを取り上げた。カードには、控えめに『ハロウィン』の文字と簡単な説明が書かれ、裏側にはミルムの地図が描かれている。小さめサイズなのは、当日お菓子と一緒に配ってもらう際、邪魔にならないようにとの配慮からだ。
「こうやって開くと……」
 珂慧がカードを開くと、絵本を持ったお化けが立体的に飛び出した。
「まあ、飛び出す絵本になっているのね」
 サリチェはこんなのも作れるのねぇと、何度もカードを開けたり閉じたりして感心した。
「作り方を紹介する本やウェブサイトもあるし、ちょっと勉強してみたんだ」
 勉強、と言うと構えてしまうけれど、興味あることならばそれについて調べたり学んだりすることは面白い。基本的な仕組みを幾つか覚えて、気ままに描くイラストと組み合わせていけば、様々なデザインのカードが出来てゆく。
 それぞれが違うから、開けるまで何が飛び出てくるのか分からないポップアップカード。もらった子供たち同士で見せあったり、家に帰ってからこんな行事があったのだとカードを見て思い出したりしたらきっと楽しいだろう。
 地図を入れたのは、これからも継続的にミルムに足を運んでくれるようにとの願いから。
「こういうのも、ミルム通信の番外編みたいでいいかなって」
「だったら本誌の方も手伝ってくれると嬉しいなー」
 絵本図書館ミルム通信を作っている関谷 未憂(せきや・みゆう)が、お願い、と手をあわせる。
 未憂はハロウィンの由来やどんなことをするのかを簡単にまとめた文章や、ハロウィン関連の絵本、似た題材を扱っているパラミタの絵本の紹介等を載せてミルム通信ハロウィン号を作っていたのだけれど、文字だけでは紙面が寂しい。
 念のためにとハロウィンイラストカット集も持ってきて、そこからイラストを選んで貼り付けようと考えていたのだが、さあとなるとなかなかピッタリくるものが見つからない。
「いいけど、何を描くの?」
「文字がなくてもハロウィンがどんなものか想像できるように、説明みたいなイラストがあるといいなって。たとえば、子供たちが仮装してる様子とか、お菓子をもらっている様子とか」
 ラテルには文字があまり普及していない為、これまでもミルム通信は文字があまり読めない人にも楽しんでもらえるように留意して、絵記号等を多用して作られてきた。今回も、文字が不得手な人にも雰囲気の分かるものにしたい、と言う未憂に、
「だったら漫画みたいな連続イラストにしてみる?」
 と、珂慧はスケッチブックの片隅にさらさらとイラストの案を描いてみせた。
「うん。そんな感じでばっちりだよー。場所はここに収まるように、あと、空いてるところにも何かイラストお願いしてもいいかな」
「分かった。少し時間をもらってもいいかな」
「よろしくー。じゃあその間に、私は宣伝に行く人にミルム通信を配ってもらえるように頼んでくるね」
 原稿が出来たらそれをハロウィンらしくオレンジ色の用紙にコピーしてラテルの皆に配ってもらうのだと、未憂ははりきってカウンターの方へと出て行った。
 
 
「ハロウィンのお化けがたくさん載ってる絵本ってないかな?」
 ハロウィン用の仮装を作ろうと材料を揃えてきたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だったけど、いざ、子供たちに何に扮装したいか聞いてみても、ハロウィンを知らない子供たちからははかばかしい返事がかえってこない。何か見本になるものがあれば、とカウンターに聞きに来たのだった。
「それでしたらこちらはどうでしょう?」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が館内から集めてきていたハロウィンの絵本のうち、何冊かを選んでカレンに手渡す。
 ミルムでハロウィンをやるということで、興味を持つ来館者も増えるだろうからと、真人は先手を打とうとハロウィンに関する絵本のチェックをしていた処だ。
 カレンはその絵本の中身をぱらぱらとめくって見る。パラミタでは貴重な地球産の絵本には、カラフルで楽しいお化けがたくさん載っていた。
「ばっちりだよ。じゃ、これ借りていくね」
 カレンは選んでもらった絵本を大切そうに抱えると、子供部屋へと戻って行った。
 普段は読み聞かせ等に使っている部屋には、カレンが集めてきた布や厚紙、のりやハサミが置かれている。
「はい、これがハロウィンのお化けだよっ。この中からでもいいし、他にやりたいのがあったら、それにしてもいいからね」
 カレンが絵本を開いてみせると、子供たちが一斉に取り囲んでその中に描かれたハロウィンのお化けに視線を注ぐ。
 ああでもない、こうでもないとなりたいお化けを選ぶと、衣装作りに取りかかる。
 全部を子供だけで作るのは難しいから、ある程度の形をカレンが作ってそれに小物を飾り付けてもらうことにする。布は目の部分を切り抜いてお化けの衣装に。厚紙はくるっと円錐形に丸めて、魔女のとんがり帽子に。
 怪我をしないようにと子供達の面倒をみるカレンと逆に、八坂 トメ(やさか・とめ)は子供たちの間にまじって自分の衣装作りに懸命だった。
「お化けの衣装なら簡単だからすぐ作れるよねー。こうやって目の部分をチョキチョキっと切ってー」
 楽勝、とトメは目の部分を切り抜いた布を被ってみた。けれど、目を大きく切り抜きすぎてすっかりトメの顔が見えてしまっている。
「失敗だぁ」
 情けない顔になるトメを、それまで他の子を手伝っていた女の子がよしよしと慰めてくれた。
「私が手伝ってあげるから、作り直そうね。この布をかぶってみて」
「うん……」
 言われるままトメが布をかぶると、女の子が目の部分に印をつけてくれる。
「これよりも大きく切ったらダメよ」
「うん分かった。ありがとうー」
 また布に取り組み始めたトメの様子に、これなら手伝わなくても大丈夫かとカレンは裁縫に戻った。ハロウィンの間だけもてばいいから、縫い目はざくざくと。とりあえずそれらしい形になっていれば良いだろう。
「みんな、出来たかなっ?」
 出来上がった衣装には、地球でのハロウィンとは随分雰囲気が違うものも混じっていたけれど、それはそれ。大切なのは子供たちが楽しんでくれることなのだから構わない。
「出来たら試着してね。サイズは合ってるかな?」
 完成した衣装はさっそく子供たちに着てもらう。
 目のところがどうしても穴から覗いてしまうからと、トメは黒い布を被る前に目の周りを黒く塗った。
「おねーちゃん、ヘンな顔!」
 指差して笑う子供と一緒にトメも笑った。
 衣装の調整を終えると、カレンは本番のためにハロウィンにはつきもののあの言葉を子供たちに教えた。
「いい? こうやって言うんだよ。『トリック・オア・トリート!』」
「トリック・オア・トリート!」
 子供たちが声を揃えると、カレンは笑顔で答える。
「ハッピーハロウィン! よくできたご褒美にボクの特製かぼちゃパイをあげるからねっ」
 喜ぶ子供たちを横目に、トメはじりっと後ずさり。
「お姉ちゃんの手作り? ……ごめん、あたし今お腹いっぱいかもー」
 トメがなぜさっさと逃げ出したかを、パイを食べた子供たちは、その舌をもって痛感することとなったのだった。
 
 そうしてカレンたちが子供たちと衣装を作っていた頃、ミルムで作業室に使っている部屋では、エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)たちがもう少し本格的な衣装を作成していた。
「ハロウィンって何だかわくわくしちゃいますよね」
 普段と違う格好をして、美味しいお菓子をもらって回る。そんなハロウィンの雰囲気をラテルの皆にも味わって欲しい。
 けれど、いざ仮装と言われても、ハロウィンに馴染みのないラテルの人では考えるのが大変だろう。街の中でも貧富の差があるというから、貧しい家の子は仮装を準備するのも難しいかもしれない。
 そう思ったエルシーはパートナーを誘って、当日貸し出す為の衣装を作ることにしたのだ。
 作るといっても最初からでは手間がかかるから、既製の子供服を手直ししてそれらしく飾り付けている。
「この絵本はいかがでしょうか?」
 縫い物は得手でないルミ・クッカ(るみ・くっか)は、衣装のもとに出来そうな絵本を探してくる役を担っていた。絵本から題材をとって衣装を作り、それと一緒に絵本を貸し出す。そうすれば元になった絵本に興味を持ってもらえるだろうし、きっと一層仮装も楽しくなる。
「どれ〜?」
 ちくちくと針を動かしていたラビ・ラビ(らび・らび)が、ルミの開いたページを覗きこんだ。
「これかわいい〜。ラビ次はこのお洋服作る〜」
 もともと洋裁が好きなラビは、可愛い系に力を入れて衣装を作っていた。
「仮装したらお菓子がもらえるんだよねー。ラビ何を着ようかなっ」
 もちろん自分もハロウィンにはお菓子をもらうつもりで、ラビはせっせと衣装を作る。がんばればお菓子もきっとたくさんもらえるに違いない。
 そんな風にそれぞれ作業にいそしんでいる皆の様子を、狐裘 丹ビはちらちらと見やっていた。
「丹ビちゃんもいっしょにやりませんか?」
 折を見てはエルシーがそう声を掛けるけれど、
「妙な装いをして菓子を強請り取る祭りなんぞ、冗談ではないわい。わらわはそんな物乞いのような真似をするのも、その手伝いも御免じゃ」
 一文の得にもならないし、と丹ビは反発した。本当は仲間に入りたいのだけれど、素直にそう言えない意地っ張り。皆が楽しそうに作業をするのを横目に見つつ、丹ビは窓にかかっているカーテンを退屈そうに揺すったりして時間を過ごす。
 そこに入ってきた菅野 葉月(すがの・はづき)は、出来上がった衣装の数々に感心したように目を見開いた。
「随分と頑張っているんですね」
「うん。ラビね、いっぱいがんばって、おねーちゃんにほめてもらうんだー」
 衣装に飾りを縫いつけながら、ラビが答えた。
「この衣装ですが、少し借りてもいいですか? 街の人にハロウィンへの協力を求めに行こうと思ってるんですが、見本となる衣装があった方が分かってもらえると思うんです」
 仮装といってもぴんと来ないかも知れないから、と言う葉月にエルシーは出来上がった衣装の中から1組を選び出した。
「それでしたら、この魔女の衣装はどうですか? いかにもハロウィンという感じですし、親子でペアになってるんですよ」
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)がその衣装を受け取り、身体にあててみる。
「このサイズならワタシも着られそうだね。葉月、これ借りていこうよ」
「ではこれを借りていきますね。ありがとうございます」
「当日、この衣装も貸し出しますから、仮装の用意が出来ない人もぜひハロウィンに来て欲しいとお伝え下さいね」
「うん。伝えるよ。あと、衣装の生地や元になる子供服を分けてもらえないかどうかも、街の人に聞いてくるからねっ」
 貸出の告知を頼むエルシーに任せてとミーナは肯いた。
 
 
 
「やっぱりみゆうは行かないの?」
 パートナーのリン・リーファ(りん・りーふぁ)に聞かれ、未憂はきっぱりと首を振った。目立つのは嫌だからと、今回も出来上がった絵本図書館ミルム通信を配るのはリンの役目だ。
 魔女の仮装をした……というか、もともと魔女なリンは空飛ぶ箒に乗ると、ミルム通信を配りながら拡声器を使ってハロウィン開催をラテルの街に触れ回る。
「我こそはハロウィンの魔女! お菓子をくれないと靴を片方隠したり、洗濯物を全部裏返しにして乾かすいたずらをしてしまうぞー!」
「あら、それは大変ないたずらですね」
 頭の上に載せていたジャコランタンがずれそうになるのを手で押さえながら、リンを見上げてロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が笑った。
「うん。お母さんもびっくりのいたずらだよー。だからラテルの皆さーん、お菓子くださーい! ……じゃなかった。絵本図書館ミルムでは10月31日にハロウィンという催しを行いまーす! 子供も大人も関係なし! 皆さんふるってご参加くださーい!」
 大きな声で告知つつ、リンは飛んで行った。
 それを見送ると、ロザリンドもまた自転車をこぎ出した。
 秋のひんやりとした風がロザリンドの青い髪を靡かせる。頭に帽子のように載せたジャコランタンは、ロザリンドが八百屋で買ったカボチャで作ったお手製だ。
 ミルム前に設置されている掲示板には『トリック・オア・トリート!』という見出しをつけて、ハロウィンのお知らせを書いてきた。さてまずはどこに知らせに行こう、と考えてロザリンドは以前本の回収に行ったことのある家へ向かうことにした。
「こんにちは」
 声をかけると、出てきた女性はあらと不思議そうにロザリンドを見た。
「返却期限を過ぎている絵本はないはずだけど」
「いえ、今日は絵本の回収ではなくて、イベントのお知らせに来たんです」
 ロザリンドは絵本図書館ミルム通信と一緒に、自分で作った説明チラシを見せた。
「ハロウィン?」
「このような楽しい仮装をして、お菓子をもらうイベントなんです」
 ネットでフリーのハロウィンに関する画像を拾って印刷したものを見せながら、ロザリンドはハロウィンの説明をする。
「お化けの仮装をするの?」
 女性はチラシにある仮装に、地球には変わった行事があるのねと目を円くした。
「とても楽しいイベントですから、できましたらお友達や近所の方も誘って遊びに来て下さいね」
「だったらもう何枚か、お知らせをもらえるかしら? 私が説明するよりも見てもらった方が分かると思うから」
 以前来たときは不安を持っていた様子だったけれど、今はイベントに出かけようというくらいにはその不安は解消されているらしい。それを嬉しく思いながら、ロザリンドは
「はい、よろしくお願いします」
 チラシとミルム通信を何組か渡してその家を出た。
 一通り回収先をまわると、今度は商店街に向かうことにした。
 以前ミルム通信の掲示をお願いした店にも行ってみよう。ついでに、ミルムで準備を頑張っている人たちへの差し入れを見繕おう。そんなことを考えながら、ロザリンドはまた自転車をこぐのだった。
 
 
 葉月とミーナも、ラテルの街を回ってはハロウィンのイベントへの協力を呼びかけた。
 ハロウィンはラテルの人にとってははじめて聞く名前であり、全く知らない行事だ。だから葉月は、自作のチラシと絵本図書館ミルム通信を使って丁寧に説明することを心がけて告知を行った。
「えっと次は……ジャック君の家ですね」
 以前訪れたことのある家の前に葉月は立った。あれからジャックと母親はどうしているだろう。
 そんなことを考えながら声を掛けると、エプロンの裾で手を拭きながらジャックの母親が出てきた。
「あら、久しぶり。元気そうね」
「こんにちは。今日はミルムで行う楽しいイベントのお知らせにきました」
 葉月が簡単な説明を書いたチラシとミルム通信を渡すと、ジャックの母はチラシに目を落とした。
「は、ろ、うぃん?」
 題字を読む母親の姿に葉月は微笑する。以前は文字が読めず、子供と一緒に絵本を読むことができなかった母親は、ミルムで行われた文字教室によって文字を覚えた。すらすらとはいかないまでも、ジャックと共に簡単な絵本を楽しむ程度には文字が読めるようになっている。
「そう、ハロウィン。こういう衣装を着て、子供たちがお菓子をもらいに歩くイベントなんだよっ」
 魔女の衣装を着たミーナは、くるっとその場で回ってみせる。
「地球のある地域では、10月31日にハロウィンという行事をするんです」
 葉月は母親の持つチラシを指しながら、ハロウィンの説明をしていった。
「細かいことはよく分からないけど、お菓子をもらうお祭りみたいなものなんだね」
「ええそうです。ミルムでもそれを再現……というほどのことはないですけれど、ハロウィンの雰囲気を味わえるイベントをしようということになって、できたらジャック君とお母さんも協力していただけませんか?」
「あたしたちにできることなら協力させてもらうけど」
 一体何を、と母親は尋ねてきた。
「お母さんの方は子供たちにお菓子をあげる役目をお願いできますか? 子供が『トリック・オア・トリート!』と言ってきたら、いたずらされないようにお菓子をあげるんです」
「お菓子といっても、あたしが作れるようなものじゃねぇ……」
 葉月の説明に、ジャックの母親は気後れしたように首を振る。
「配布用のお菓子はミルムでも作りますから、それをそのまま配っていただいてもいいですよ。お菓子をくれる家が多ければ多いほど、子供たちも喜んでくれると思うんです」
 そう葉月が言うと、配るだけなら構わないと母親は肯いてくれた。
「それと、ハロウィンは子供たちが仮装して楽しむものだから、出来ることならお母さんの手縫いの衣装を着せて、ジャックに来てもらいたいところだけど……大変かな?」
 こんな感じ、とミーナは借りてきた子供用の魔女の衣装をみせた。
「これなら余り布で出来そうだけどねぇ」
「当日貸し出しもあるから、衣装が用意できなくてもそのままでいいからミルムに来てね。それと、もしあまっている布とか子供服とかあったら譲ってもらえないかな」
「確か、ジャックが着れなくなった服があったはずだよ。そんなもんでも役立つなら、明日にでもミルムに持って行くとするかね」
「ありがとう。よろしくねっ」
 ミーナと葉月はまた今度配布用のお菓子を持ってくるからと言って、ジャックの家を辞した。
 
 
 
「ハロウィンの紙芝居をするですよ〜♪」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は街の広場に行くと、手作りの紙芝居を取り出して子供たちを呼び集めた。
 紙芝居と聞いて、遊んでいた子供たちが寄ってくる。
「ハロウィンって何?」
「それが何かは、この紙芝居を見ると分かるです♪」
 回りにジャック・オ・ランタンの飾りを置いて雰囲気を出すと、ヴァーナーは紙芝居を始めた。
 紙芝居の題名は『はっぴーはろうぃん♪』。
 文字の読み書きができない子も多いラテルで、皆に楽しくハロウィンのことを知って貰おうと、ヴァーナーが手作りした紙芝居だ。
 紙芝居の内容は、ハロウィンの日を子供たちがみんなで楽しんでいる様子を描いたもの。いろんなお化けに仮装して、あっちの家、こっちの家をノックして、
「トリック・オア・トリート!」
 お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ。
 そんな呼びかけをしてお菓子をもらう。
 お菓子をあげた人ももらった人もみんな、ハッピーハロウィン。
 時折幸せの歌もまじえて、ヴァーナーは楽しく紙芝居を終えた。
「こんな楽しいイベントを、10月31日にミルムでやるですよ〜。ぜひ遊びに来て下さいです〜♪」
 子供たちにハロウィンの楽しさを伝えるだけでなく、大人にはハロウィンのお祭りの話をして仮装の仕方を描いたチラシを配る。
「こんな可愛い仮装をするですよ〜。きっとみんな喜ぶですから、よろしくです♪」
「怖かったり危なかったりする催しじゃないのね?」
「もちろんです! お菓子をもらって、みんなにこにこになるですよ。良かったらおかあさんもいっしょにどうぞです」
 親が安心して子供たちをハロウィンに送り出してくれるようにと、ヴァーナーは一生懸命説明した。
「そう。じゃあ遊びに行かせてもらうわね」
「はい、待ってるです♪」
 人が来るたび広場で何度も紙芝居を繰り返し、ヴァーナーはハロウィンの告知につとめたのだった。