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リアクション
3.
本郷翔(ほんごう・かける)とソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は、ヤチェル・叶月ペアと共に行動をしていた。
「ちょっと疲れてきたにゃん」
と、走るのをやめたヤチェルに三人が視線をやる。
「では、少し休憩しましょうかわん」
と、翔が提案し、周囲の様子をうかがう。
「あんまりもたついてると狙われるぞ」
叶月が思わずそう言うと、ソールがすかさず注意する。
「語尾、忘れてるわん」
「……にゃ、にゃん……っ」
恥ずかしさにぶるぶる震えながら、語尾を付ける叶月。ヤチェルがくすっと笑うと、翔とソールも小さく笑った。
ふいに物音がし、四人は緊張する。やはり動き続けていた方が、ハンターに狙われにくいようだ。
どこかからカシャリと、聞き慣れた音がする。
「……と、撮られてるにゃ?」
直感で察したヤチェルが声にすると、ばしゅっと何かが放たれた。弾とおぼしきそれはソールの肩をかすめて消える。
そしてまた撮られるような感覚をヤチェルは覚える。そういえば、見知った二人組が妙にテンション高く意気込んでいたような……。
痺れを切らせたのか、その二人組が別々の方向から姿を現した。
「男たちが邪魔だわん!」
「私と勝負するにゃ!」
超感覚でしっぽが二本状態の鬼崎朔(きざき・さく)と尼崎里也(あまがさき・りや)である。
「そのしっぽ、頂くわん!」
と、カメラを提げた朔が黒薔薇の銃を構える。狙われたソールに構わず、翔はヤチェルの後ろへ回って背中を向ける。どちらに転んでも、ソールの責任だ。自分はヤチェルを守るのみ。
一方で、叶月へ勝負を挑んだのは里也だ。
「一度、そなたと戦ってみたかったにゃん!」
その思いは叶月も同じだったらしく、里也を睨みつける。
「ふん、返り討ちにしてやる……にゃ」
直後、戦闘を開始する猫二匹。ヤチェルはその様子を横目に見ながら、しっぽだけはとられまいと気をつける。
ソールと朔はしばらくの間、睨み合っていた。一定の距離を置いたまま、お互いに行動するチャンスを狙う。
「今だわんっ!」
初めに動いたのは朔だった。引きがねを引いて相手を行動不能状態にしようとするが、ソールに避けられてしまう。女癖の悪い彼は、朔からしたら敵だ。女の敵だ。愛すべき獣娘たちの邪魔でしかない!
しかし、残念ながらソールの方が一枚上手だった。
「いただきわん!」
「きゃうんっ!?」
朔の背後に回ったソールが、しっぽを取るふりをして尻に触れたのだ。ソールの手は尻を触ったが、それと同時に朔の本物の敏感なしっぽに触れてしまっていた。
「あ、や、やめるわん……っ!」
と、その場にへたり込む朔。ソールはそんなにも触られるのが気持ち良かったのかと思いこみ、再び朔の尻へ手を伸ばす。
「何てことしてるわん!」
と、気付いた翔が鞭でソールの手をばしっと叩く。
「いたっ、何するはこっちの――」
「嫌がってるじゃないですかわん! やっぱり下心があったわん!」
すっかり気力をなくした朔から、翔はソールを引き離す。
「……ど、どうしようかにゃー」
えろ可愛く悶える朔を、もっと見たい気もする。けれども、ヤチェルは宝箱を目指すべきじゃないかと思い始めていた。
「見つけたぽん! 松田ヤチェル!!」
「え?」
名前を呼ばれて振り返ると、たぬきの耳としっぽを着けた武神牙竜(たけがみ・がりゅう)が背後から現れた。
「今日こそショートカットとロングの決着を、と言いたいところだが、そんな場合じゃないぽん!」
と、どこか慌てた様子で牙竜は言う。
「何か緊急事態にゃ?」
「ハンター参加のセルマが『しっぽ』の可愛さに理性を失い、生物の限界を超えて、スーパーしっぽハンターに覚醒してしまったんだぽん!」
「スーパーしっぽハンター?」
「奴の前ではスキルなんぞ役に立たないぽん。最強な奴だろうが、無敵の兵器だろうが、ズボンはいてるかわからない腹筋校長の山葉だろうが、暴走したセルマの前では雑魚に過ぎないぽん!」
牙竜の言うことはあながち間違いでもなかった。
「殺気看破でも気配がわからんぽん。何せ、殺気がない純粋な状態だぽん。例えるなら、ヤチェルのショートカットにかける情熱を300倍した状態に通じるものがあるぽん」
ただ、誇張しすぎな気がするだけで。
「とにかく逃ろ。セルマに捕まるなぽん!」
牙竜の言葉を素直に受け止めたヤチェルは、すぐさま叶月へ声をかけた。
「カナ君! 今すぐここから逃げるにゃ!」
里也に攻撃を見切られ、一瞬の隙に反撃される叶月。すぐさま後退し距離を取ったものの、里也は本気だ。
「お前たちも逃げるぽん! ハンターさえもセルマは狩るつもりだぽん!」
牙竜の言葉で、里也がようやく動きを止める。
「何やら邪魔が入ったようだにゃ。決着を付けられないのは残念にゃ」
「ああ……にゃ」
里也と叶月は目を合わせると、すぐに視線を逸らした。この続きはまた後日、だ。
「翔ちゃんとソールも行くにゃ! スーパーしっぽハンターは恐ろしいにゃ!」
「分かりましたわん。ソール、立ち上がるわん」
と、翔はぼろぼろになったソールを立ち上がらせ、ヤチェルと叶月の後を追う。里也もまた、顔を赤くしている朔を立ち上がらせてその場を離れた。
見送った牙竜が満足げにしていると、聞き覚えのある声がした。
「田中さん、みーつけた」
そして眩い光に視界を遮られ、牙竜は逃げ遅れてしまう。
気付いた時には、牙竜のたぬきしっぽをもふもふしながらセルマとリドワルゼの遠ざかって行くのが見えた。
「や、やられたぽん……」
がくっとその場に崩れ落ちる牙竜。
「何て良いところに! しっぽ、いただくにゃ!」
と、次に現れたのはブロウガンを構えたルカルカだった。しかし、すぐに牙竜の様子がおかしいことに気付き、歩み寄る。
「にゃーんだ、もうしっぽ取られちゃってるにゃん」
「セルマに……やられた……」
と、燃え尽きた牙竜。
「ふーん? ところで、ヤチェルんたち見なかったにゃ?」
牙竜はつい先ほど、ヤチェルたちの走って行った方向を指さした。
「あいつに、伝えてほしいことがある……ぽん」
「にゃ?」
「前より体のラインが良くなってる……と」
ルカルカは牙竜をしばらく見つめていたが、やがて納得すると走っていった。
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