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ハートキャッチ大作戦!

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ハートキャッチ大作戦!

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 カフェで未確認生物らしい生徒が暴れている、との情報は、今回のイベントの審判をやっているテクノクラートの火村 加夜(ひむら・かや)の耳にも届いており、後ろで束ねた青い髪を揺らしつつ現場へと急行していた。

 加夜には好きな人がいるので純粋に恋のお手伝いが出来ればいいなと思う彼女は、今回のイベントの審判役として蒼空学園イルミンスールに関係なく、的確にしっかりと審判を務めていた。

 加夜は恋を判定する審判ゆえ、恋する人には甘く、しつこい人には厳しくしていたが、恋に敗れ泣いている人がいたら、黄色いハンカチを差し出すという優しさも兼ね備えていた。

 審判として多くの問題の解決に奔走しつつ、「私も頑張らなきゃいけないですよね」と気持ちを強くする加夜。

「もう、エミンさんもリカインさんも別件で忙しいって……困ったなぁ」

 息を切らした加夜が駆けつけると、蒼空学園のカフェの外では盛大な戦いが繰り広げられていた。


「この化物め、ツインスラッシュで決めてやるぜ!」

「よせ、アルフ。向こうに人質がいるのを忘れたのか!?」

 丸の触手に振り回され続け若干酔った悠が力なく叫ぶ。

「やれぇぇ……いや、やっぱり止めろぉぉ……」

 その付近のカフェでは翡翠がウェイター姿のレイスを揺すっている。

「レイス! 何とかして下さい」

「やだ。絶対面倒だから」

 巨大化した丸が咆哮のような声を出す。

「やめて! ワタクシのために争わないでェェー!!」

 咄嗟に腰の魔動銃を抜いていた加夜が周囲を見渡し狼狽する。

「え……と、私は丸さんを助ければいいの? いえ、その前にあそこの生徒達に攻撃の中止を? ああっもう、私が頑張らなくちゃっ!」

 ふと、丸を見ていた加夜の脳裏によぎる涼司の姿。

「(涼司くんは参加しないって聞きましたけど、どっちがタイプなんでしょうか。肉食系か草食系か……って、駄目駄目! 今は仕事しなくちゃ!!)」

 頭をブンブンと振った加夜が威嚇のため丸に魔道銃を向けて叫ぶ。

「止めて下さい!! これ以上暴れるならば審判として丸さんを失格にしますよ!?」

 しかし、加夜の言葉は届いておらず、丸の触手が再び傍にあったゴミ箱を弾き飛ばした。

「危ない! 避けろ!!」

「え?」
 
加夜の頭上に舞い上がるゴミ箱。しかも金属製の重い物である。本来ならば余裕でかわせる加夜も、丸に注意を向けていたため、その初速に遅れが生じていた。

「(間に合わないッ!?)」

 スローモーションのように落ちてくるゴミ箱を見ながら、加夜は別の事を考えていた。

「(もし私が顔に怪我をしてしまったら、涼司くんは何て言うかな? この学校、私なんかよりずっと綺麗な人多いから、そっちに気がいくのかな?)」

 だが次の瞬間、加夜の頭上のゴミ箱は空中でバラバラになり、彼女の付近に落下した。

「ソニックブレード!? 誰だ?」

 アルフが叫ぶと、へたり込む加夜の後ろから、奇妙な青い仮面をつけた男がゆっくりと現れる。その手には龍騎士団で採用されているS字型に湾曲した刃を持つ巨大な剣、龍騎士のコピスが握られている。

「誰だおまえは!?」

 叫んだのは丸ではなくエールヴァントである。
そう、叫びたくなる程、その仮面の男は怪しすぎた。

「……俺か、俺は……そうだな、蒼空仮面とでも呼んでもらおうか」

「……」

「……」

「……ダサッ」

 加夜をはじめ一部生徒達にはそれが涼司である事等三秒見つめればわかる。それ程、その仮面の変装は稚拙であったのだ。
それでも蒼空仮面は声高に丸に続ける。

「おい、このイベントは戦う事とは無縁なものだ。その辺にしておけよ」

「何よ、おぬし、調子に乗って!」

「でないと……」

「どうなるのさ?」

 蒼空仮面は大きく深呼吸して禁断のセリフを吐く。

「停学かな?」

 一同が沈黙する中、悠を離した丸はとてもとても小さくなっていくのであった。

 余談であるが、丸に吹き飛ばされてきた淳二はこの件をキッカケにエリスと仲を深めたそうである。アルフとエールヴァントは「暴力的な人はちょっと……」というエリスの言葉で敢え無く撃沈したらしい。

「あ、あの、りょ……蒼空仮面さん?」

 騒ぎが収まり、後片付けの指示を出し終えた加夜が、涼司に声をかける。

「何か?」

「先ほどはありがとうございました!」

「……構わないぜ。加夜は只でさえ頑張ってくれているんだからな」

「……プッ」

 涼司の言葉に笑い出す加夜。

「な、なんだよ? ……俺は忙しいんだ。ウチの生徒があちこちで敗北している原因を探してるんだ」

「いいえ、何でもありません」

 加夜は優しく微笑み、

「一つだけ質問してもいいですか?」

「何だ?」

「あなたはどっちが女の子のタイプなんでしょうか。肉食系か草食系か……」

「……どっちでもないな」

「え?」

「俺が守りたいと思う人、それが好みのタイプだから」

 ビシッと片腕を上げて立ち去る涼司を見送った加夜は、カフェを見渡し、
「ようし、頑張らなくちゃっ!」
エイエイオーと小さく勝どきを上げる。その顔にはどこと無く笑みが零れていた。