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カリペロニア・大総統の館ガーディアンオーディションの巻

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カリペロニア・大総統の館ガーディアンオーディションの巻

リアクション


「うーむ……」

 ダイソウトウは、館の最上階「ダイソウトウの間」の中央の座敷で、深い思案に明け暮れていた。
 3階でのハッチャンの暴走時に、エメリヤンに乗せられて最上階まで緊急避難したダイソウ。
 当然のことながら、待機していた親衛隊候補者たちは、今こそとダイソウにプレゼンしに集まった。そして予想通り、最も志願者の多い親衛隊。
 階下のオーディション中とはいえ、その辺はさすがリーダー。いちいち皆の話を聞く。
 それが終わって、ハタと気付いたのである。

「……幅が広すぎる」

 まさに自業自得だが、親衛隊候補は人数が多い上に勝負の種類ももちろん多い。
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の『決闘』
青 野武(せい・やぶ)の『核抑止力』
相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)の、『苦露火外危機壱発』
神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)『大根カツラむき』
赤城 長門(あかぎ・ながと)の『母性本能専守防衛』
ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)のダークサイズ専用イコン『ダークアイズ』
結和とエメリヤンの『サカキ様のペルシアン』
都筑 優葉(つづき・ゆうは)の『ロシアンルーレット』
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の『将棋崩し』
皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)の『三十六計』

「自由すぎて、親衛隊として収拾がつかぬ……」

 勝負が多彩すぎて、このオーディションで親衛隊を決めても、機能するとは思えなかった。
 ダイソウは、1階の椿屋珈琲店からソーマが配達してきたコーヒーを飲む。
 考え込むダイソウと、ちゃぶ台をはさんで翡翠がプレゼンのカツラむきの練習をしている。

 「翡翠よ」
「なんです、ソウトウ?」
「……私は皆に頼り過ぎていたのかもしれん」

 翡翠はダイソウとは思えない言葉に、驚いた後にフッと笑う。

「……ソウトウ。ご自分のやりたいことをどうぞ。自分達は親衛隊になるためにいるのではありません。あなたを守るために来たのです。そりゃあ親衛隊になれたら嬉しいですが、ここにいる誰もが、あなたの手であり足であり盾になるためにいます(一部を除いて)。ここはダークサイズの大総統の館ではありませんか」
「結和はどうだ?」

 ダイソウは続いて、エメリヤンとごろごろしていた結和に聞く。
 突然の質問にびっくりしつつも、

「えっとー、やっぱりこういう組織のリーダーは、いくらかの横暴さというかー、強引に言うこと聞かせるとかー、そういうのがあったほうが皆ついてくると思いますよー。ダークサイズは私から見ても自由すぎて何していいか分かんないことがしょっちゅうだしー、って、何で私こんなアドバイスしてるのー!」

 と、律義に答えてみせた。

「ふふふ。ペンギン部隊の攻撃プランができあがったよ。この作戦なら街を丸ごと攻略できるよ」

 円はダイソウのそばでごろごろしながら、独自の攻撃作戦を練っている。

「もう一度我輩に説明させてくだされー!」

 と、プレゼンで喋り足りない野武が、体はどこも悪くないのに車いすでやってくる。

「我輩の『核抑止力』はあくまで平和利用である! 直接対決だけが能ではない。まずおいそれとダークサイズに戦いを挑ませぬことであーる! 名前は『みなごろし装置』でもかまわぬ。戦わずして安全を担保する。それでこそ大陸に攻め入ることができるのであーる! どうであるか、ダイソウトウ閣下!」

 「閣下」の単語に反応して、野武の機晶姫の腕がびしっと敬礼の形を取る。

「おっといかんいかん。そこで、その材料と予算の獲得のために、地球に降り立ち、プルトニウム強奪作戦を御裁可いただきた、おい、何をする。プレゼンはまだ終わっておらぬ……」

 エメリヤンが野武の車いすを押して、ダイソウトウの間からはけさせる。
 翡翠はその様子を見ながら、

「当然彼もダークサイズ発展のためのプレゼンです。ま、さすがにやばすぎですが」
「そうか。よし、では。最後はシリアスにいく」
「たまにはいいんじゃないですか?」

 山南 桂(やまなみ・けい)が、ダイソウにパウンドケーキを出しながら言った。
 桂は続いてフフっと笑い、

「皆さん、やる気にあふれているので、選ぶのに苦労するでしょう」
「うむ。オーディションとは甲乙つけがたいものだな」

 ダイソウは、長い悩みを振り払うように立ち上がる。

「親衛隊志望者は、秘書室に来るのだ」


 ☆★☆★☆


 なんやかやで5階のオーディションも終わり、その様子もダイソウはモニターで見ていたはずだと皆思いながら、ついに最上階に到着する。
 しかし、ダイソウトウの間に至るためには、その前に秘書室の親衛隊を倒さねばならない。
 向日葵たちが階段を上がり、秘書室の扉の前にやってくる。
 が、その前に、一足先に一人秘書室前に来た大佐。
 その扉の前には、リリィ・ルーデル(りりぃ・るーでる)が軍服にメガネ、携帯電話を片手に立っている。
 廊下を暗くし、懐中電灯でスポットライトを自分に当て、ストーリーテラー然とする。

「話をしよう。あたしには先ほどのことだけど、秘書室に至るキミにはたぶん、これからの出来事だ。彼にはたくさんの通り名があるから、何と呼べばいいか。あたしが最も多く呼んだ名は、そう。『大総統』」
「……いいから中に入れてくれんかのう」

 何かの世界に入り込んでいるリリィに、大佐は水を差す。

「我は早く、ダイソウトウに直接プレゼンをしたいのだ。このテストは自信作なのだ」
「な、そんなプレゼンで大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない」

 大佐はドアを開けて秘書室に入っていく。
 そのすぐあとに向日葵たちがやってきたのだが、リリィは同じ口上を向日葵たちに繰り出す。

「ふーん、じゃあ入っていい?」

 ネタ元を知らない向日葵は、かなりスルー気味にリリィに言う。
 リリィは極めつけに、

「ここには大勢の親衛隊が待ちかまえている。そんな人数で大丈夫か?」
「大丈夫だ! 問題ないっ!」

 向日葵たちがドアを開くと、いつも以上に真剣な顔のダイソウと、親衛隊候補者たち。

「よくぞここまでやってきた。私はダークサイズの大総統、ダイソ……」
「やいやいダイソウトウ! 今度こそぶん殴ってや……」
「私はダイソウトウ!」

(あれ、何か今までと雰囲気が違う?)

「親衛隊を倒せば、私が直々にお前たちの相手をしよう」

 と、ダイソウの宣戦布告。
 すると巽が前に出る。

「こらダイソウトウ! こちとら年末商戦が忙しいってのにわざわざ来てみたら、やっぱり我ら正義の戦士をオーディションのネタにしようって魂胆だろ!」
「その通りだ! お前たちは我々に利用されたにすぎん」

(あ、あれ? ツッコミがいがない……)

「正義の戦士を撃退すれば親衛隊。最も多く倒した者を親衛隊隊長とする。まともな勝負ができなければ、親衛隊は不合格。さあ行けい、ダイソウ親衛隊!」
「よっしゃー!」

 4階5階で腰砕けにされた挑戦者たちは、テンションがまるで違う親衛隊に一瞬たじろぎぐ。

「待ってたぜ、こういうの! うおおお!」

 そのテンションに最初に対応したのは悠。
 落とし穴に姿を消した後、ここにきてようやく追いついてきた。
 悠が立ち向かうのはラルク。

「ここはシンプルに拳で決闘と行こうぜ! 俺にはこれしかないもんでなあ!」
「そんな単純勝負で大丈夫か?」
「大丈夫だ! 問題ねえ」

 リリィがいちいち確認に走る。

「望むところだ。パラフラガの力を見ろ!」

 二人はスキル全開で戦闘開始。二人の闘気が交わる。

「さあ、ダイソウトウを倒したければ、私の『苦露火外危機壱発』をクリアするであります! この大樽に一人が入り、パートナーが剣を刺す。仕込んだ火薬のスイッチが入らなければ勝ち。100パーセント運勝負。ラスボスは運がなけらば倒せないであります!」

 と、洋が大樽から首を出して勝負を挑む。

「そんな火薬量で大丈夫か?」
「大丈夫。問題ないですわ。死にはしない。たぶん……」

 みとはフライングで剣を一本刺したりする。
 洋たちのそばでは優葉がリボルバーの銃をチキチキと回す。

「苦露火外が怖ければ、ロシアンルーレットはどうでしょう? 正義の戦士たるもの、自分に打ち克つ強さが泣ければ。大丈夫。中身は一発は空砲です。分かっていても、銃口を自分に向けるのはたまらなく恐ろしいですよ」
「一発実弾が入ってるようだが、大丈夫か?」
「あれ? ま、大丈夫です。問題ない」

 戦闘や運だめしに向かない者には、翡翠と祥子が立ちふさがる。

「さあ、大根カツラむき対決です」
「ふふふ。こんなまじめな雰囲気の中でボードゲームを真剣にやる勇気のある者はいる? さらにこんな騒がしい中で、私に『将棋崩し』で勝てる人がいるかしら?」
「そんな一見地味な勝負で大丈夫か?」
「大丈夫よ。問題ない。ていうか私、秘書チームに入れればいいし」

 その隣にはフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が、ふりふりメイド服とミニエプロンドレス、裸エプロンを持って立っている。

「ゲームだと思って甘く見ないことね。敗者はこの格好になって、館を全部掃除してもらうわ。キツイだけでなく恥ずかしいわよ?」
「若干5階のエロネタと被ってる気がするが、大丈夫か?」
「大丈夫よ。問題ない。誰も飽きないでしょ?」

 各々正義の戦士を捕まえて、積極的に勝負に出る。
 そんな中、それをかいくぐって魔女っ子サンフラワーちゃん(向日葵)は、エヴァルト、永谷、クライスとダイソウへの直接攻撃を狙う。

がしっ!

「いじめっ子秋野向日葵! そんなズルはいかんのう! ダイソウトウはだれにもいじめさせんけん!」

 長門が飛び出して来て、向日葵をいじめっ子と勘違いしっぱなしでダイソウをかばう。

「一人で大丈夫か?」
「大丈夫じゃけん! 問題ないけん!」

 その隙にダイソウはエメリヤンにまたがり、

「ゆけい、コクオウゴウ!」

 と、手の空いていた巽を背後から襲う。
 危ういところでかわした巽は、

「あぶね! 卑怯だぞー!」
「我々はダークサイズ。卑怯者とは賛美の言葉!」

 ミナギがダイソウの眼前に来て、

「あーっはっは! ここで会ったがダイソウトウ! 主人公山本ミナギが成敗してやる!」

 しかしダイソウは素早くエメリヤンを下がらせる。

「あーん! あたしと戦えよー!」
「怪我した人はいませんかー?」

 結和は戦場の衛生兵のように、救護に動く。
 そこにそばの苦露火外からドンッっと爆発が上がる。

「きゃあっ」
「む、ゆけい、コクオウゴウ」

 ダイソウはエメリヤンから降り、結和の元に向かわせる。
 結局は同時進行で多くの戦いが起こり、今までの階と同様にごたごたしているが、さすが最上階。雰囲気だけはマジになっている。

ばごおおっ!

 そこに突然秘書室の壁に大穴が開き、大きなロボットが放り込まれる。

「ふふふ。ようやく届いたよぉ〜。ボクとネネのイコン」
「な、イコンだと!」
「これさえあれば、正義の味方なんてイチコロだよ。さあネネ! ボクと一緒にこのイコンに、あれ、ネネ?」

 と、ブルタがネネを探してきょろきょろしているとこに、ステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)が、小悪魔の羽がついた漆黒のインナースーツを持ってくる。

「ブルタ。イコンのインナースーツです。ネネはどこに?」
「そ、それがいないんだよお」
「5階にはいないのですか?」
「まだ見てないよ。上がってくるとばかり思ってたから」

 そこに、ジュゲム・レフタルトシュタイン(じゅげむ・れふたるとしゅたいん)が5階から上がってくる。
 仕方ないことだが、その容姿のせいで、彼が通りかかると、一瞬戦闘が止まって凍りつく。

「おいブルタ。話が違うじゃねえかよ。何で5階に応募しなかったんだ?」
「だって、キャノン姉妹を守るには親衛隊になった方が……」
「ネネのやつ、とっくに自分の仕事が終わったって、温泉に行っちまったぜ」
「ええ〜! そ、そんなぁ! ネネ〜!」

 ブルタはカリペロニア南の温泉に向かおうとするが、さすがにオーディションにはもう間に合わない。

「親衛隊のやつら、しぶとい! 何でこんなテンション高いんだ?」
「つーか最初と雰囲気違うぜ。マジで戦ってやがる!」

 挑戦者たちは親衛隊の本気度に辟易し、ちょっとずるいが隙を突いて秘書室を抜け、ダイソウトウの間に強引に入る。
 しかしそこには、何故か椅子に縛られたダイソウと、伽羅の姿が。

「な、なんだぁ?」
「ふう。やっと言うこと聞いてくれましたわぁ。これでわたしのプレゼンができますぅ」

 伽羅は額の汗をぬぐい、風呂敷を抱える。
 そしてダイソウの上にぴょこんと座り、

「それでは、さよならぁ、正義の皆さん〜」

 と、ひじ掛けのスイッチを押す。
 すると、地下に向かって椅子がヒュンっと消えていく。

「な、なにいー!」


☆★☆★☆


 ダイソウトウの椅子は、最上階から地下へ一気に下る、唯一のエレベーター。
 地下に着いたダイソウは、伽羅に文句を言う。

「伽羅よ、何をする。これでは我々ダークサイズの勝利を見届けられないではないか」
「まあ。ダイソウトウ、あなたがプレゼンをマジにやってみろっておっしゃったんじゃないですかぁ」

 あまりにバリエーションに富んだプレゼンのため、ダイソウ親衛隊候補者たちに心情を打ち明け、マジに真剣なテンションでやることを条件に、プレゼンをさせた。
 伽羅のプレゼンは「三十六計逃げるにしかず」。
 真剣にやれと言われれば、本当に逃げるしかない。

「お金と私と言う人材があれば、いつでも組織は再興できるのですぅ」

 と、通帳と現金を詰めた風呂敷をぽんぽんと叩く。
 しかし今日のダイソウはそういうのに流されない。

「親衛隊だけはまじめに決めたいのだ」
「まじめなんて、あなたには無理ですわぁ」
「全否定か……」

 二人で少し言い合いをした後、ではせめて堂々と逃げようと言うことで、温泉につながる地下道は使わずに、一階に上がって表に出ることにする。
 一階に上がると、後片付けも終わってくつろいでいたアインがダイソウを見つけて歩み寄り、一枚の紙を渡す。

「なんだ?」
「……ツケを払ってください」
「え?」

 紙を見ると、今日のオーディションで使いこんだ、椿屋珈琲店のコーヒー、紅茶、スイーツ、さらに従業員四人ばかりか、武官の人件費が記載されている。
 伽羅も額を見て驚く。

「こ、こんなにぃ?」

 伽羅にとってみればまさに不幸。風呂敷には、今日のオーディションで得たダークサイズの軍資金が。
 伽羅は何とかごまかそうとするが、

「今日の私はまじめなのだ」

 と、ダイソウは風呂敷をアインに渡す。

「ああ〜、私のお金がぁ……」

 そこに、最上階からどどどどと、挑戦者たちが降りてくる。

「いたぞ、ダイソウトウ!」
「逃げるなんて卑怯だぞ!」
「よかろう。ここで私と勝負だ」

 と、まじめダイソウも腹を決めて戦闘態勢に入ろうとすると、

「こらーーーーーっ!」

 完全に怒った未沙が現れる。

「もう何? なんなの? あの秘書室どういうこと!? 床は傷だらけ、天井は真っ黒焦げ、壁に穴があいてるし、大根やらおもちゃやらは散らかしっぱなし! 5階が全然片付けらんないじゃない!」
「しかし未沙よ、これは戦いだから仕方ない……」
「うるさい! お座り!」
「はい……」

 挑戦者たちも、未沙をまあまあと押さえようとして、

「確かに俺らも汚したけど、悪の館なんだから仕方ないだろ」
「はあ!? 正義の味方がそういうこと言っていいわけ?」
「す、すいません……」
「ちょっと皆座って。あのね。最初に外の二人にも言ったけど、ここは大総統の館だけど、ダークサイズだけじゃなくて、工事に携わった、それはそれはたくさんの人の想いが詰まってるの。建物をモノとしか思ってない証拠ね。いい? そもそも……」

 未沙の説教は延々と続く。
 カリペロニア・大総統の館。1階から最上階まで、たくさんの事件や戦いがあったが、善と悪が戦うには、それにふさわしい場所が必要だ。
 その場所を提供できるアサノファクトリーには、なかなか頭が上がらないダークサイズと正義の味方たちであった。