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卜部先生の課外授業~シャンバラの休日~

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第三章 葦原島

「ここは……。鍛冶屋さんですか?」
「うーん、当たらずといえど、遠からずってとこね。ここわね、美那さん。刀を作る工房なのよ」
水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は、美那を工房へと招き入れながら紹介する。
「ここは、葦原明倫館が運営している工房。明倫館の学生が帯びている刀は、全てここで鍛えられているの」
「明倫館の刀を全て、ですか。スゴイんですねー」
思いのほか興味津々といった美那の反応に、気を良くした緋雨は、さらに説明を続ける。
「この工房で使われる技術はね、葦原藩の刀匠に代々受け継がれてきた物で、日本では既に失われてしまっているの」
「そうなんですかー」
「えぇ。葦原の刀の鍛造法は、門外不出とされているの。私も修行の為にこの工房を使わせてもらっているんだけど、未だに“秘中の秘”とされている技の伝授は、許されていないわ」
少し不満気にいう緋雨。
「あの、緋雨様」
「なに?」
「あの、さっきから気になっているんですが、あれ、ペンギンですよね……?」
「ふふ、気づいた?私たちの飼ってるパラミタペンギンよ」
「えー、そうなんですかー!素敵ですー!!可愛いですねー。このペンギンちゃんたち!」
「気に入ってくれたようじゃのう。このペンギンたちはのぅ、空京大学のコミュフェスでも大好評だったのじゃ」
ペンギンたちを褒められて、嬉しそうに微笑む天津 麻羅(あまつ・まら)
「そのペンギンたちね、私たち『冒険屋』がしこんだのよ」
「冒険屋さん、ですか?」
「そう。私や、そこの麻羅が参加しているギルドよ。他のメンバーも今回の旅に参加しているから、いずれ紹介できると思うわ。美那ちゃんも何か困ったことがあったら、私たちに相談してね」
「困ったこと……」
「えぇ。どんなコトでも相談に乗るわよ」
「はい、分かりました。その時は、よろしくお願いします!」
少し考え込んだ後、美那は嬉しそうに頷いた。



「ここが、二子島(ふたごじま)……」
「そう。ついこの間、この島で激しい戦いがあったんだ」
東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は、美那に語りかけながら、歩を進める。
「知っています。葦原藩の開国に反対するテロリスト『金鷲党(きんじゅとう)』が、五十鈴宮円華(いすずのみや・まどか)さんという方を人質に、この島に立て篭もったんですよね」
「うん。彼女の救出のために、軍隊が編成されて、両軍は、この島で激しい戦いを繰り広げた。僕たちは、その戦いに参加していたんだ」
「敵も味方も、大勢の人が死にました。とても……とても凄惨な戦いだったんです」
キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)は、搾り出すように呟いた。
「金鷲党も、明倫館の人たちも皆、葦原藩のことを思っていたのは一緒でした。だから円華さんは、わざと金鷲党に捕まって、金鷲党のリーダーを説得しようとしたんです。でも、彼女の“思い”は届きませんでした。“絆”を結ぶことはできなかったんです」
キルティスの表情は、沈痛そのものだ。
「ここだよ」
一行の前、海を見下ろす岬の先に、木製の碑が立っていた。
「お墓……?」
「これはね、美那さん。あの戦いで亡くなった人たちの魂を鎮めるための、慰霊碑なんです」
秋日子とキルティスはゆっくりと碑に歩み寄ると、携えてきた花束を捧げた。静かに手を合わせ、祈りを捧げる。美那も、二人にならった。
「家族との絆、友達との絆、パートナー達との絆、当たり前すぎて忘れちゃうけど、どれも大切にしなきゃいけないものばっかりなんだよね。そういえば……、美那さんは、お姉さんとは仲良いの?」
「え、お姉さんって……」
「美那ちゃんのお姉さん、泉美緒さん。姉妹なんでしょう?」
「え、えぇ。それが……。実は、ちょっと事情があって……。お姉様とは、もうずっと会っていないんです。今回も会いたかったんでけど、どうしても都合がつかなくて……」
「そう……。残念だね」
伏し目がちに答える美那。秋日子は、それ以上言葉を続けるのを躊躇った。
花が、風に揺れていた。