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Tea at holy night

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Tea at holy night
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*食べすぎにはご用心*

「ふむ、聖なる夜のお茶ですか」
「はい、道明寺 玲も是非大切な方と一緒に飲んでください」

 ルーノ・アレエからそういわれ受け取った茶葉を、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は家でまだ見つめていた。

「それがしがもらうばかりでは悪いですね。ルーノ・アレエにも何かお礼を見繕い、届けさせるとしますかな」

 思い立ったが吉日、ネット通販でよさそうな茶器を選ぶと、百合園の彼女の部屋へと届けるよう手配した。それが済むと、大量に食べ物を抱えてきたイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)と鉢合わせた。

「貴公もクリスマスの買出しどすか?」
「いや、というか……それ、クリスマスの買出しの品……ですか」

 ため息交じりに見上げると、扉をくぐれるか心配になるほどの量だった。仕方がないので、半分持つことを提案し、何とか部屋に運び入れた。
 青い瞳は知的中が滝があるのだが、時折こうしたよくわからないことをしでかす褐色の肌の魔女は、道明寺 玲にとっては大切な家族の一人だった。

 クリスマス。大事な人と飲むお茶がここにある。

「イルマ、それがしと今宵このお茶を飲みましょう」
「かまいまへんえ。麿も玲と一緒に食事したいおもてましたさかい」

 にっこりと笑うパートナーに、わずかに苦笑しながら買い込んだ食材を仕分ける。
 どうやら、せっかくのお祭りだからとおいしそうなものを手当たり次第買って来たのであって、すぐ食べれるものだけではなく、調理しなければならないものがいくつか含まれていた。
 道明寺 玲はネットや本で調べると、調理法をイルマ・スターリングに教え、自分は紅茶にあいそうなケーキ作りを開始した。

 隣で仕上がっていくクリスマスの七面鳥の丸焼きやら、ローストビーフやら、海賊焼きやらなんでかおせち料理まで並ぶ始末。
 テーブルに並びきるだろうか。

 そんなことを考えながら、ロールケーキにチョコレートクリームを塗ってデコレーションを続けていた。
 日が暮れた頃には、丸焼きが丁度オーブンから顔を出したところだった。
 嬉々としてオーブンへ向かうイルマ・スターリングの背中を見送ると、彼女が食べつくした皿を片付け始める。最後の食材(しかも一番調理に手間がかかるもの)が出来上がったので、そろそろケーキを出してもいいだろうと、道明寺 玲も冷蔵庫へと向かった。

「どないしたんですの?」
「そろそろ、それがしのつくったケーキと、もらい物の紅茶を飲みましょう」
「ええどすなぁ。それやったら、ベランダに出ません?」

 にっこりと笑ったイルマ・スターリングの言葉に、道明寺 玲は小さく頷いた。すっかり寒くはあるが、暖房用のストーブをベランダまで引っ張り出し、互いにブランケットとショールに身をくるみながらベランダの椅子に腰掛けた。
 七面鳥の丸焼きが、右足のみになった頃、紅茶が丁度よく入れられた。

「ああ、ええかおりやわぁ」
「うむ……よい香りですな」

 銀色の瞳が、嬉しそうに細められるのを見てイルマ・スターリングも嬉しそうに微笑んだ。

「それにしても、よかったんどすか?」
「え?」
「今日はクリスマスどすえ。ほかに過ごしたいお方とか、いはりませんの?」
「……ええ。だから今日こうしてイルマといるんですがね」

 わずかに冷ややかな口調でそういうが、表情はとても柔らかだった。彼女のそうした性質を知っているイルマ・スターリングはにっこりと微笑んだ。

「それやったら、もっと貴公が喜ぶ食べ物も選んでくればよかったどすなぁ」
「おこぼれを頂きましたよ。大変おいしかったです」

 ティーカップに注がれた紅茶から、甘い香りが立ち上る。切り分けられたケーキは、クリスマスらしいデコレーションが施されていた。

「こんなんいつ作りはりましたん?」
「イルマが七面鳥のおなかに詰め物をしていたときですよ」

 そういわれて、思い出しながらもブッシュ・ド・ノエル(9割)にフォークを突き刺す。道明寺 玲も自分のぶん(一割)をフォークで切りながら口に運ぶ。
 そして、紅茶を口にしながら胸の中で願った。

(来年も、パートナーたちとよい一年を迎えられますように)

 ケーキを食べ終え、紅茶を飲み終わった頃には雪が降り始めていた。風情のあるその光景を眺めながら、しばし2人は黙っていたのだが……


 ぐぅううううぅ。


 イルマ・スターリングの胃袋が、悲鳴を上げた。
 まだまだ食べたりなさそうな彼女のために、道明寺 玲は夜食の買出しに付き合うことになった。











*出遅れたサンタさん*



 すっかり宴もたけなわとなったパーティの終わりに、聖なる夜の紅茶をすすっていた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、ふとあることに気がついた。
 今はすっかり寝入っているパートナーの一人、レオンへのプレゼントがないのだ。

「……ええと、しまった。どうする?」

 それを聞いて、お茶を噴出しそうになったのは冬月 学人(ふゆつき・がくと)だった。めがねにわずかにはねたお茶をふき取りながら、深々とため息をついた。

「あのさ、今日クリスマス当日で、もう夜だよ? 何をいまさら言ってるんだ」
「大丈夫だ。今年のサンタはトナカイが怪我して、プレゼントを配るのが遅れるっていう根回しはしてある」

 そんな根回しだけ何でしてあるんだよ!?

 盛大なツッコミを冬月 学人から受けていると、ヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)が一通の手紙を取り出した。上品に紅茶を飲んでいた『殺』・パーフェクトガイド(きる・ぱーふぇくとがいど)が、その手紙を見て小首をかしげる。

「ん? なんですのそれ」
「これは、レオンがサンタさんにあてて書いた手紙だ」
「さすがだ! ヴァン、早速それを開くんだ」

 九条 ジェライザ・ローズはがっつポーズを決めてそのお手紙を開かせる。
 そこには、まだうまくかけないのか、上手とは言えない筆跡でこう書かれていた。


【さんたちんえ ぺっとがおしいです】

「ええと? おしい?」
「サンタチンて誰だ?」
「……突っ込むところか、それ」

 九条 ジェライザ・ローズとヴァンビーノ・スミスが小首をかしげている後ろで、冬月 学人はため息をついた。
 どう考えても、まだ字をまともにかけない子供の誤字である。
 たしか……あの幼い獣人は何を願っていたか、思い起こしていた。

『ペットが欲しい』
『ダメだ。命あるものを飼うと言うには責任が伴うんだ。まだお前には早い』

 そんなやり取りをしたことがあった。
 おそらく、レオンが欲しがっているのはペットだろう。

「なんだ、ペットくらいいいじゃないか」
「だめだ。一度断ったし、そんな責任をあいつが負えるとは思えない。それにこの狭い場所でどうやって飼うんだ」
「みんなで世話すればいいじゃないか。スペースだってちょっとくらいは」
「や、何も生き物じゃなくったっていいんだ。機晶犬にしたらどうだ?」

 ひらめいたように、ヴァンビーノ・スミスが手を叩いた。機晶犬だったら、そこまで手間はかからないはずだ。冬月 学人も同意するが、だがすぐに唸り声を上げる。

「だが、戦闘用の生き物が愛玩動物に匹敵するか?」
「その辺は、構造を変えてやれば問題ないさ」
「ロボ犬なら、なにか面白い機能とかつけたいですわね」

 『殺』・パーフェクトガイドがポツリと呟いた。その言葉に目を光らせたのは、九条 ジェライザ・ローズだった。
 
「それいい! 何かつけよう、機能!!」
「つけてどうするんだ!」
「レポートとかやってくれる機能がほしいなぁ」
「ロゼ……それは自分でやれ。それなら空調装置とかどうだ? エアコン要らずだぞ?」
「あのなぁ……それだったら、レオンが純粋に楽しめる機能のほうがいいだろう。ボール遊びで正確にパスするとか、散歩とかでも道に迷わないとか……」
「美顔器」
「いや、それ一番いらないだろ」
「イケメンに変身する」
「あ、面白そう」
「レオンが面白くならないだろ!」

 やんややんやと騒ぎ立てて、隣の部屋からどんどんどんどん! と叩かれる。
 アパートならではの出来事だ。お隣さんが静かにしろといっている。
 しばらくおとなしくなってこそこそと相談していると、『殺』・パーフェクトガイドがもう一度口を開いた。

「お金を拾ってくるとか、いいんじゃありません?」
「「「それだ!」」」

 一致団結したところで、ヴァンビーノ・スミスが夜中でもあいているお店から、機晶犬を購入し、戦闘用から愛玩用へとプログラムを変えていく。
 そして、お金を拾う機能の事も忘れない。

 ただ、この作業に入る前に彼はみんなにこう告げた。

「思い付きを言っただけで、うまくいくかどうかはわからないよ?」

 いろいろなものを投げつけられたが、何とかうまくいきそうだった。
 愛玩用への切り替えは、さほど難しくなく……拾って来る機能も、うまくいきそうだった。


 試運転のため、明け方近くに部屋でスイッチを入れてみる。
 可愛らしいコーギーのような概観、はしゃぐ姿もまさしく愛玩用の動物そのままだった。そして、急に駆け出したかと思うと、何か光るものを咥えて戻ってきた。

 九条 ジェライザ・ローズは固唾を呑み、それを見つめていた。

 機晶犬が咥えてきたのは……瓶の王冠だった。
 なんどやっても、その犬は瓶の王冠しか持ってこなかった。

 コインを見せても、どうやら興味を示さないらしく首を傾げるばかりだった。
 心底期待していた一同がヴァンビーノ・スミスを睨みつけ、武器を抜こうとしたそのとき、幼いパートナーたちが眠っているはずのふすまが開かれた。
 彼らは「サンタさんからの贈り物だ!!」と、元気に叫び声をあげた。