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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第28章 こわぁ〜いの克服なるか

「ソリッドビジョンが脅かすものと、絶叫系に行ってみようか?」
 クリスマスの日に遊園地へ行きたい〜と騒ぐクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)におねだりをされ、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はこの機会に少しでも“お化け怖い”を克服してもらおうと思い、にまっと笑う。
 オイラお子様なクマラを1人で行かせられず、保護者としてついてきた。
「ちょっと怖いけど・・・行ってみるっ」
 氷雪の大きな宮殿の門をくぐり、可愛らしいお化けの乗り物に乗る。
「外もそうだけどまるでマイセンの陶器みたいだな」
 エースは周囲を見渡し、建物全体が石造りのバロック様式で表現されている様子を眺める。
「いっ、今・・・シャンデリアが揺れたよ!?」
 風が吹いていないのに突然、シャララン・・・とシャンデリアが揺れ、びくっとクマラが身を震わせる。
「へぇ〜そうなのか?俺は分からなかったな」
 恐怖共有をして怖さをやわらげようとするクマラの言葉を断ち切るように、気づかなかったフリをして心の中でニヤリと笑う。
「えぇー〜・・・確かに揺れたはずなのに。てっ、天井に何かいるよ!?」
「どこだ?ぜんっぜん見えないなー」
 聖霊のソリッドビジョンの存在に気づいているものの、それから視線を逸らしまったく違うところをキョロキョロと見回す。
「うぅ、オイラにしか見えていないの・・・?」
 エースには見えないのかとクマラは不安そうな顔をしてしまう。
「壁に描けてある絵でも眺めていようっと」
 天井から視線を逸らして前の方も見ずに、額にはまっている子供が紅茶を飲んでいる絵を眺めると、“きゃははっ”という笑い声がどこからか聞こえてきた。
「どこっ!どこから声が聞こえてくるの!?」
 怯えたように瞳を潤ませて辺りを見回して声の主を探す。
「空耳じゃないのか?俺には聞こえてないな。それにしても王族が住んでいたような雰囲気がよく出ているよ。窓から見える噴水の周りにある台座の上にある灯りとか、ライトアップされたらキレイなんだろうな」
 少年の保護者の方はやっぱり聞こえないフリをし、幻想的な光景をのんびりと眺める。
「そんなぁ〜。どうしてオイラだけに見えたり声が聞こえてくるんだよーっ。ねぇほら、シャンデリアから丸い球体が出てきて、小さな雪の聖霊になっちゃったよ!」
「う〜ん、やっぱり分からないな」
「えぇ、うっそだぁ!ぜーったい見えてるはずだよっ」
 分からないフリしているだけだと、クマラは頬を膨らませてぷんぷんと怒り顔をする。
「あっ、消えちゃった。どこにいったのかな・・・うわぁあっ!?」
 何者かに背を突っつかれ、驚いた少年はガタンッと乗り物を揺らす。
「いつの間に後ろに!?―・・・口にきっ、牙がぁあ、ひーーーんっ!!」
 白いローブを着たソリッドビジョンの聖霊が、若いらしい顔から牙を剥き出しにして、クマラを食べようとする仕草をする。
「(へぇ〜触れられた感覚があるんだ?)」
 ぎゃぁぎゃぁと騒ぐクマラを見て、映像なのに触れられた感覚だとかがあるなんて不思議だなぁと首を傾げる。
「うわぁん灯りが消えちゃったよーっ」
 ぱっと室内の照明が消えてしまい、小さな聖霊が暗闇の中で光り輝く。
 その1体がステッキから2つの球体を出現をさせ、それは新たな聖霊へ姿を変える。
 3人は2人を宮殿を出そうか出さないか相談し始め、“一生閉じ込めちゃおうよ”とか“可愛そうだから出してあげようよ〜”と喋る。
「やだぁあ、一生出られないなんでやだぁ〜。ひぃ〜んもう降りたいよぉ〜」
「よし、リタイアしないでゴールで出来たら、レストランで何かおごってあげるよ」
「ご褒美!?オイラ頑張るっ」
 エースのその言葉にクマラはほんの一瞬、ぴたっと泣き止んだ。
「今度は乗り物から出てきた!?聖霊がオイラの周りだけ飛んでるよーっ、うわぁん食べないでぇー」
 恐怖のあまりクマラはぶるぶると震えて大泣きしてしまう。
「ほら、もうすぐだから頑張れ。前よりかはそんなに泣いてないよ」
 怯える少年の背中をぽんぽんと押してやる。
「ひーん、怖いよ〜。でもキレイかも・・・。ひーんひーんっ」
 イルミネーションのように消えたり現れたりする聖霊の輝きの美しさに、目を丸くしながらも泣いたり感動したりと百面相をする。
 やがて“可愛そうだから出してあげるぅ”ということになり、照明の灯りが戻り真っ暗な室内がぱっと明るくなる。
「わぁ〜ホワイトチョコをくれたよっ」
 聖霊は“ごめんよぉ、それで許してねぇ”と言い、クマラの手の平へ粉雪を降らせる。
 3人が花火のようにパァンッと消えると、乗り物はゆっくりと終着点へ行き止まった。
 アトラクションを出ると今度は、エースにジェットコースターへ連れて行かれる。
「これなら大丈夫♪って、スタートがはやーーいっ」
 ズギュゥウンッとミサイルの如く進み、60度の角度という急な螺旋状のレールを勢いよく登る。
「あれ・・・乗る前に見たけど、続きのレールあったよね?ないように見えるよ!?」
 瞬間的にふわっと無重力のように足が浮かび、崖のように曲がったレースをジェットコースターが爆走する。
「ここで行き止まりってことは、戻されるんだ・・・・・・・・・ねぇええーーーーーっ」
 何者かに引っ張られるかのように身体へGがかかり終着点へ戻る。
「怖くなかったけど。もの凄く速くて途中でレールがないのかと思っちゃって、ちょっとどきどきだったね。ねぇエース・・・」
「分かってるって。レストランに連れて行くよ」
 じーっと見つめるクマラを、約束通りレストランへ連れて行ってやる。
「パフェ頼んじゃおうっと」
「(ってこの寒い日にパフェがいいのか・・・、24日に超巨大クリスマスケーキをたらふく食べてるのに。飽きないのかな・・・?)」
 むしゃむしゃと食べるクマラの姿を眺めて、どんな胃袋をしているんかだと深いため息をつく。
 ブルーのパフェグラスの下の方に、オレンジのムースが敷き詰められ、その上には果肉入りのグレープフルーツの層がある。
 さらにチョコレートソースをからめたバニラアイスと角切りのチーズケーキに、雪の結晶の形をしたホワイトチョコと鏡の魔法使いの飴細工に加えて、氷の鏡が飾られている。
 だんだんと日が沈んでいきオレンジ色へ変わっていく遊園地の雰囲気が表現されている。
「バニラとグレープを一緒に食べると、甘酸っぱくっておいしぃ〜。ふぅ〜ごちそうさま」
「それじゃあ、ちょっとショップに行きたいんだけどいいかな?」
「あ、オメガちゃんのお土産を買うんだね」
「そうだよ。ここにオメガさんを連れて行きたかったけど、まだ館から出られないからせめてお土産を持っていってあげようかと。座敷わらしちゃんも連れてきたかったどさ・・・」
 エースはクマラと話しながら、屋根にプロペラがついたショップへ入る。
「これなんかいいんじゃないかな。なんか雪の聖霊っぽくって」
 マネキンに着せられているホワイトベースの、ブルー系と鮮やかなグリーン系のカラーが入った、ファーつきのローブのようなコートを見つける。
 袖口はオメガが着ている服のように広がっている。
「帽子の両端に雪の結晶と、そこに鳥の羽みたいのが垂れているな・・・コートと合いそうだからこれにしよう。後は、ライトブルーのチョーカーもあげようかな」
「着ているところ見てみたいね♪」
「うん。きっとオメガさんなら可愛く着こなせると思うんだ。じゃあこれをプレゼント用に包んでもらおうか」
 会計を済ませて包んでもらった服をカバンに入れて、エースたちはショップから出て行った。