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リアクション
第3章 訓練ですから!
「(あれって金団長じゃないか?やっぱり独りか・・・)」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)は道を行き交うカップルたちの中に埋もれるように歩いている{SNM9999007#金 鋭峰}の姿を見つけた。
遊園地を楽しむ歌菜や羽純、満夜とミハエルを見かけて羨ましそうに見ていたのだ。
そして彼女が呟いた言葉は、1人ではなく孤独と書いて独りだ。
「(いいこと思いついた〜)」
まるで頭の上に電球が浮かんだようにニヤッと微笑む。
「金団長、お疲れ様です!!」
「何だ、垂ではないか」
寂しい彼にやっと声をかけてくれたのは教導団の女子生徒だった。
いくら相手が女子だといえど、彼女に見つかってしまったのは不運のなにものでもない。
「カップルがラブラブオーラ全開でデートしている中、その身を削って警備に徹するとは・・・流石、金団長!」
まるでいい玩具を見つけたかのように、垂は嬉しそうに走り寄る。
傷口に塩を塗り込むようにさらっと言い放つ。
リア充爆破せよ!とまではいかないが、鋭峰がカップルたちを見る視線は気分のいい感じではなかった。
むしろ時折、怨念がこもっていそうな念波を発していたのだ。
その姿に女友達だけで遊びにきた者たちから、怪しい者を見るような眼差しで警戒され、誰も声をかけてくれはしない。
「そうだ。この時期はスリなどの輩が多いからな」
鋭峰は堂々と犯罪防止のためと、とってつけたような言い方をする。
「そこで金団長に折り入ってお願いがあるのですが・・・1つ、トレーニングに付き合っては頂けませんか?」
「トレーニングだと?私に今更、そのようなものは必要ないが」
「いいえ。イコンの操縦には相当のGがかかるはずです、そのための特訓なんです!」
「ふむ・・・そのトレーニングとはどのようにするんだ?」
「あのジェットコースターに乗るんです!」
垂が指差す方を見ると、それは見るからに普通のジェットコースターとは違うレールだ。
たいていの人は失神してしまい、ぐでんとダウンするだろう。
だいたい“きゃぁああぁ〜っ”と悲鳴が聞こえるところが、“ぐぎょぁあああぁあーっ!!”と尋常じゃない叫び声が響き渡っている。
「金団長は絶叫くらいは平気のはずですよね?ねっ、金・団・長♪」
「どうということはない」
「それなら乗りましょう!時間は沢山あるんでしょう?」
「―・・・垂が独りなら、私が少しくらい付き合ってやろう」
とっても可愛い女子の彼女に誘われ、悪い気はしなかったのか、鋭峰は一緒に乗ってやることにした。
だがそれは、クリスマスイブにトラウマを残すような出来事になろうとは、その時まだ微塵も察知することは出来なかった。
「楽しみですね♪」
「ただの絶叫だろ。これくらいは・・・・・・!?」
ズギューゥウーンッ。
人々が座り安全装置をセットされた瞬間、突然ジェットコースターがスタートした。
3つのランプがゆっくりとつき、走り出すかと思いきや1秒以下で走り出したのだ。
普通はてん・・・てん・・・てんー!くらいで、スタートの早いアメリカ式だと、てててーんっ!と即走り出す。
しかしそれよりも、このジェットコースターのスタートは異常に早いのだ。
ビル14階建くらいの高さがありそうな、60度の角度で螺旋状にツイストしたレールを、時速90kmで登っていく。
「わぁああ〜!楽しいですねー、金団長ーーっ」
「これくらいはまだまだ平気だな」
「そうですか?この先、すごーいことになっていますよ」
「ふむ・・・この先にレールがあったような?」
進む先がないように見え、鋭峰がハテナと首を傾げる。
「ありますよ。エス字に曲がったレールが♪」
「―・・・っ!」
かっくんと下がり、逆ゼットに近い形のレールを猛スピードで進む。
スゴォオオオオッ。
瞬間時速、200km以上はありそうなほどの速度で走り続ける。
カタカタカタン。
「止まったな。―・・・むっ戻るのか」
スピードが落ち止まったかと思うと、ジェットコースターは引きずられるように終着点へ走り出す。
「(意外と平気そうだな。でもそれもいつまで続くか)」
まったく叫ばず平然としている鋭峰をちらりと見る。
「ふぅ、終わりか」
「何降りようとしているんですか?“本番はこれからですよ”」
「順番待ちだろう?乗るならまた並ばなければな」
「それなら大丈夫ですよ、1日パスでいっぱい乗れるように予約時間を取ってますから♪あ、金団長の分もちゃんとありますからね」
「いつの間に!?」
ズボンのポケットにしまっておいたはずのパスが、いつの間にやら垂の手の中にある。
「私から1日パスを取るとは、なかなかやるな。いやいやっ、それ以前にスリではないか!」
「いーえ。一緒に訓練するために、気をきかせて予約したんですから。スリじゃありません」
「それを返すんだ」
「予約した分を乗り終わったらお返ししますよ」
「ふむ・・・訓練をしようという生徒に付き合ってやるのも私の務めだ。乗り終わったら返すんだな?」
「えぇ、ただし。200枚分、乗り終わったらですよ♪」
「なっ何だと!?」
その枚数を聞いた彼は思わず声を上げてしまった。
「金団長は今まで数々の死線をくぐりぬけてきたのでしょう?でしたらこれくらい朝飯前ですよね」
「あぁ、もちろんだとも」
その言葉を言ったが最後、鋭峰はジェットコースターに乗せられ続けてしまった。
200枚をあっとゆう間に使い切り、叫ぶというよりさすがに酔ってきて降りようとした瞬間・・・。
「待ってください、金団長。実は〜、後100枚あるんですよ」
「何!?」
「生徒より先に降りるとか言わないですよね?」
「くっ、当たり前だ」
「それでこそ金団長です!わぁあ〜楽しいですねぇー♪」
超感覚の平行感覚でまだまだ酔わない垂は、両肩の安全装置から手を離して喜ぶ。
「もういいだろう。私の1日パスを・・・」
「あぁっ、こんなところに後、300枚ありました!さぁ、乗りましょう」
小悪魔な笑みを浮かべてガシッと鋭峰の腕を掴む。
「し、垂・・・君という生徒は・・・っ」
相手は見た目も性格もいい女子生徒。
だがしかし!
それ以上にぐでんぐでんな状態になっているにも関わらず、逃がしてくれない彼女から一刻も早く離れたかった。
このままでは口からポリブクロの中へ、何かがリバースされてしまうからだ。
「クフフッ、あーーっははは〜♪」
彼が弱っていく様子を見ながら垂は小悪魔のように高笑いをする。
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