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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
魂の器・第3章~3Girls end roll~ 魂の器・第3章~3Girls end roll~

リアクション

 
「う……ん……?」
「あ、ファーシー様が気がついたでありますよ!」
 大部屋内のソファベッドに寝かされていたファーシーは、うっすらと目を開けた。余分なエネルギーの排出自体はすぐに終わり、彼女の額には冷却用ジェルが入った熱冷ましシートが貼られている。
「あれ……、スカサハさん? わたし……」
「大丈夫? ファーシーさん」
 スカサハに続き花琳もそっと覗き込み、ファーシーの様子を伺っている。状況がつかめずに周りを見回すと、彼女達の傍にはカリンも立っている。
「……水だ、飲むといい」
「うん……」
 朔がコップに汲んだ水を持ってきてそれを受け取ると、彼女はなんでこんな事になっているのか思い出そうとした。思い出そうとして……
「あっ……! あ、あっ、わたし……!」
 大いに慌てた。今度はオーバーヒートしないように、朔はもう片方の手に持っていた氷嚢をぽん、と彼女の頭の上に置く。
「まあ……落ち着くんだファーシー」
「う、う、う、うん……」
 水を一気飲みして一息つくと、ファーシーは落ち着こうと、そして自分の中で色々と整理しようとぽつぽつと話し出す。
「わ、わたし……みんな、たくさんたくさんアドバイスをくれたし、子供を産むっていうのは難しいし大変なんだってこと教わったけど……。う、産んでもいいって……、全部責任取るって……て、別にわたしは、まだあれなんだけど、いきなり言われても、あれだし……舎弟……下僕? だし、うん……」
 後半が何やら意味不明である。
「そう言われたからって、じゃあ……って決めちゃいけないよね? そんな、簡単な事じゃないんだよね? いや、だから別にまだ受け入れたってわけじゃ……っていうか、あれ……」
 何だか無限に続きそうである。
「ファーシー」
 そんな彼女に、朔は優しく話しかけた。
「子供については、じっくりと考えていけばいい」
「う、うん……」
「私が昔いたスラム街では……出産とは本当に命がけだったんだよ。ここよりも劣悪な環境で望まれない子供だったり、愛する人の忘れ形見だったり……、そういう子供達を生む母親たちをたくさん見てきた。……もちろん、流産する親も居た。耐えられなくて死んだ親も居た。でも……」
 話を聞いて辛そうな表情を浮かべるファーシーに、朔は言う。
「生まれてくる命はどんなものであれ、尊いんだよ。
 だから、ファーシー。
 君は君の選択をしてくれ。
 ……世の中には、子供を産みたくても産めない奴も居るのだから」
「……わたしの、選択……」
 ファーシーはその言葉を噛み締めるように呟くと、頷いた。
「うん……、もう少し、考えてみる」

                            ◇◇

「あ! アクア!」
 アクア達がライナス研究所に戻ると、彼女を探していたらしい茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)レオン・カシミール(れおん・かしみーる)茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)が小走りにやってきた。
「……? ど、どうしたのです?」
「もう、どこ行ったのかと心配したんだよ! 良かった、戻ってきてくれて!」
 安心した様子の朱里に、アクアは若干の戸惑いを覚えた。
「心配、したんですか……」
 そうして、彼女は衿栖達に廃研究所に行っていた事を伝えた。そこで、何をしてきたのかも。
「そうですか、それで、結生さんのことは……気持ちの整理がついたんですね」
「整理、と呼べるものかどうかは分かりませんが……」
 俯きがちに答えるアクアに、うんうんと頷いていた衿栖は明るく、そして優しく言った。
「じゃあ、残る問題は、寺院だけですね」
「寺院、ですか?」
 その声には疑問と、少しの陰りが含まれている。
「そうです。私は見逃しませんでしたよ! チェリーがあの課長と脱退の話を取り付けた時、アクアはじっとチェリー達を見ていましたね。でも……アクアは課長に何も言いませんでした。ずばり、まだ寺院を抜けていないでしょう?」
「……………………」
 アクアは驚いて衿栖を見た。確かに、彼女はあの男に何の交渉もしなかった。自分が寺院から抜けられるわけがないと思っていたからだ。永い時を寺院に縛られていた彼女にとって、『寺院所属』は空気程に当然のことと成り果てていて。
「……鏖殺寺院を抜けることは出来ないんですか? アクアの人生を狂わせた寺院に所属していては、何をされるかわかりません。アクアとファーシー2人のこれからの安全な生活のためにも必要なことだと思うのです。私達はそのための協力を惜しみません!」
 そう言って、衿栖はレオン達を振り返る。
「ね、レオン、朱里」
「ああ」
「うん、頑張るよ!」
「……………………貴女は……、もう体に問題は無いのですか?」
 黙ったまま話を聞いていたアクアは、溌剌と応えた朱里に目を移す。彼女は、自分が爆弾付きの矢で攻撃を受けた瞬間――目は見えなかったが、あの時に聞いた『危ない!』という声の1つは彼女のもので、爆発に巻き込まれて大怪我を負ったことも、その後の茫洋とした世界の中で認識していた。
 問いを向けたアクアに、朱里は思いっきり元気な笑顔で答えを返す。
「大丈夫! 私吸血鬼だから!」
「…………」
 吸血鬼といっても死なないだけで、血が足りなくなったら他の種族よりも問題ではないか。そう思っていると、朱里は言った。
「私も皆も、アクアを守りたいっていう自分の意思で行動したんだよ。だから、アクアが気に病む必要なんかないんだよ!」
「…………」
 それでも、アクアはまだ何か言いたげだ。で、結局、彼女の口から出たのは、一言。
「……そうですか」
 言いたげにしていた部分の内約はご想像にお任せしよう。
「うん、でも、心配してくれてありがとう。アクアってやさしいね!」
「っ! や、やさしい……!? 違います! 私はただ、何か後遺症があったらわる……わる……いえ、面倒だと思っただけです!」
 アクアは反射的に身を引き、大慌てで全力否定する。顔が赤くなっている。耳もほんのり赤くなっている。
「ーーーーっっっっ!?」
 そんな時、アクアを更に真っ赤にさせる事態が起きた。突如として両脇から伸びてきた腕が、彼女の両胸を揉みしだく。
 もみもみもみもみ……。。。。。。。
「……ーーーーっっ、な、だ、誰です!?」
 おどろきとどうようとなんだかことばにできないかんかくのなか、アクアは髪を逆立てたくても逆立てられないのでとにかく振り向いた。密着して胸をもみもみしていたのは――
「……あ、貴女!!!」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)だ。望は、突発的な事に驚くばかりで対応出来なくなっていたアクアの胸を何やら検分している。
「むむむ! さすがファーシー様と同時期に開発されただけあって小ぶりではありますが、手にすっぽりジャストフィットして形の良い胸です。服の上からではありますが、揉み心地も中々……ふべらっ!?」
 理解の追いついたアクアにしたたかパンチされ、望はOh! とのけぞった。
「な、何をするんです!!!!」
「あいたたた……まぁ、今のでこれまでの遺恨やなにかはナシという事で」
 頭から電撃ならぬ湯気を出しているアクアに、望は頬をさすりながら言った。
「……な、な……」
 そう、この胸もみは貸し借りをチャラにするためのパフォーマンスだったのだ。話をするのに、攻撃したのにと変に遠慮されたくはないしと考えた故での。決して胸をもみたかっただけとかそういう…………
 ――真実は、誰にもわからない。
「ところで、アクア様はこれからいかがされるのです? いえ、今日だけではなく今後住む所ということですが」
「す、住む所、ですか?」
 訊かれ、改めて考える。この研究所を出てしまえばアクアに定住先の宛ては無い。いかがされるかと言われてもいかがも出来ない状況だ。答えを持たない彼女が先程の名残で目を丸くしていると、望は言った。
「キマクのアジトは寺院の物だった訳ですから、火事がなくとも帰って使う訳にもいきませんし、なんでしたら、イルミンスールに来られては如何です?」
「……イルミンスール……ですか?」
 何だか脈絡無いような誘いにも思える。
「望がそこに住んでいるということですか? それで、誘っていると?」
「いえ、でも、私はお嬢様の実家から通っていますからいつでもお会いすることもできますよ」
「……私はまあ、寝床があればどこでも構いませんが……」
 そう言いつつ、アクアは先の優斗との話を思い出す。彼には蒼空学園を勧められたが――
 そんな事を考えているうちに、望はエリザベートに近付いていった。
「では、早速交渉してみましょう。エリザベート様」
「何ですぅ〜?」
 望は近くでお菓子を摘んでいたエリザベートに声を掛け、アクアをイルミンスールに住まわせるように直談判した。
「ファーシー様は御神楽様に招かれて蒼空学園に在籍されてますし、ここは一つエリザベート様の器の大きさを示すのも手かと」
「むー……環菜がですかぁ?」
 エリザベートは、下からアクアの顔を穴があくほどに見つめた。しかし、黙って穴をあけられるアクアではない。
「…………」
 こちらからも見詰め返し、周囲もいつの間にか固唾を呑み、どこのにらめっこだという様相を呈してきた時――エリザベートは言った。
「前にも言いましたけど、私はほとんど関わりが無いんですよぉ。それは、今はこうして少しは関わったかもしれませんけどぉ、外から傍観してただけですぅ〜。だから、環菜があっちの青い機晶姫を招いたからといって私がこっちの青い機晶姫を受け入れる理由はありませぇん〜」
「ですが……」
「よく知りもしない無愛想な機晶姫を受け入れたなんて知ったら、それこそ環菜にバカにされますぅ〜」
 少し頬を膨らませ、アクアから目を逸らすエリザベート。
(何か、理由はわかりませんがすごく失礼なことを言われた気がしますね……)
 アクアがエリザベートを鼻持ちならない子供だと認識しはじめた時――
「どうしてもうちで預かりたいのなら、あなたが寮の世話をするといいですぅ〜」
 と、小さな校長は言った。
「私が……、ですか?」
 数度瞬きする望に、エリザベートは続ける。
「そうですぅ。寮自体には空きがありますから、あなたが寮代を払って住まわせればいいですぅ。保護を買って出たあなたが責任持つなら何も言いませんよぉ〜。所属するかどうかは、自由にすればいいですぅ〜」
 校長らしいその物言いに望は思案顔をしていたが、やがて力強く頷いた。
「……分かりました。では私が寮代を出しましょう!」
「……望!?」
 それに驚いたのは、アクア当人だ。
「やっと名を呼んでくれましたね、アクア様。まあ、友人の好意には甘えておくものですよ」
「…………分かりました。では、落ち着くまで……。しかし、私にも蓄えはあります。あの爆発で通帳の類を無くしてしまって今は止めていますが……正式に銀行で手続きを行ったら返しましょう」
 そんな会話をする望達から離れ、エリザベートはついでとばかりに如月 正悟(きさらぎ・しょうご)達にとてとてと歩いていく。
「あと、考えたんですけどぉ、チェリーさんの後ろ盾うんぬんという話も、お断りさせてもらいますぅ〜。理由は概ね、さっき言ったのと同じですぅ。それに、これだけお仲間がいれば必要無いような気もしますぅ」
「……そうだな……」
 話を聞くと、正悟はエリザベートとチェリー、後ろ盾の提案をしたジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)に向けて言った。
「俺も、断ろうと考えていたんだ。現在の立場を考えると、チェリーにとっては枷になってしまうような気がするしな。どうだ、チェリー」
 横で話を聞いていたチェリーは、数秒黙考してから頷いた。
「うん……それで構わない」
 それを聞いて、ジョウは少し残念そうな顔をした。
「そっかあ。でも、3人がそう言うならしょうがないね」
「まあ、彼女はうちの生徒でもありませんからねぇ」
「……ということで、公人としての支援は断るよ。もし、チェリーの友人としての支援をしてくれるなら全力で助けてもらいたいが」
「友人ですかぁ? …………遊んでくれて、もっと親しくなったら考えるかもですぅ〜」
 エリザベートはチェリーをまじまじと見てそう答えると、所内をきょろきょろとしてから言った。
「じゃあ、機晶姫の赤ちゃんも存分に見ましたし、今度こそ私は帰りますよぉ〜」
「あ、ちょっと待ってください」
「なんですぅ〜?」
 呼び止められて振り返るエリザベートに、エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は微笑みを浮かべた。
「色々とお世話になりましたし……、今日の夜、空京にあるル・パティシェ・空京というお店で打ち上げ会をやる予定なんですが、良かったら参加しませんか?」
「打ち上げ、ですかぁ? 名前からして、ケーキ屋さんですかねぇ〜」
 エリザベートはもやもやといくつかのケーキを脳裏に思い浮かべてから、うー、と唸った。
「夜に暇だったらお邪魔しますぅ。暇だったらですよぉ〜」
「忙しかったら無理にとは言いませんけど……そうだ」
 エミリアは厨房に行って、簡単に包装されたクッキーを持ってきた。
「お店に置いているのと同じように作ったクッキーです。お土産にどうぞ」
「ありがとうですぅ。もらっていきますねぇ〜」
 迷わずにクッキーを受け取り、エリザベートはその場でテレポートした。
(打ち上げ……、チェリーも行くのでしょうか。行きますよね……)
 その頃、彼女達の話を聞いてアクアはそんな事を思っていた。そこに、政敏が話しかけてくる。
「アクアも行ってみたらどうだ? 打ち上げ」
「……! 何故、私が……」
「そこで、チェリーと話をしてみればいい。まだ、ぎくしゃくしてるんだろ?」
「……貴方は、行かないのですか?」
「俺は不参加で。アクア達が幸せになればいいし、俺は、リーン達に振り回されずに済むから幸せ。どっちも幸せだろ?」
「……それは……」
「自分の為に行動してたっていうのかな」
 そう言って、政敏は頭を掻く。
「自分の為……、ですか」
「そのついでに……俺達の幸せの為に、アーティフィサーになる気はないか?」
「アーティフィサー……? 私が、技術者……?」
 それを聞いて、アクアはファーシーに視線を送った。特に断る理由も無い。クラス自体にも何かの執着があるわけではない。だが。
「私がアーティフィサーになれば……? ですが、技術者というのは……」
「何々? 転職の話?」
 そこで、話を聞きつけたモーナがやってきた。彼女はアクアに、軽い口調でしかしはっきり、言う。
「技術者と研究者は違うよ。あたしは技術者。存在する技術と知識を使って機械を扱う。ライナスさんは研究者。まだ判っていないことを研究して解明する人。そして……その全てが悪い奴ってわけじゃない。人間と同じでね」
「…………」
「一括りに出来るものなんて、無いんだよ。それは、アクアも解ってるんじゃないのかな」
 何も応えないアクアに、彼女は続ける。
「今日の君を見てて、そう思ったよ」
「…………」
 アクアは考える。ファーシーは何故アーティフィサーを目指そうと思ったのか。それは、ルヴィが関係しているのかもしれないししていないのかもしれない。
 だが。
(……私が貴方の跡を継ぐというのは、ありなのでしょうか……?)

「モーナ」
 アクアとの話を終えたモーナに、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が声を掛ける。
「ヒラニプラ鉄道まで行ったら、ファーシーとチェリーの護衛として空京に行っていいか? 元々はモーナの護衛としてここに来たわけだが。鉄道までは勿論同行する」
「え? あ、うん。いいよ。今までありがとね」
 あっさりと了承した彼女に、レンは礼を言う。ファーシー達の護衛に仕事を変更したのは、冒険屋ギルドの事務所が空京にあるから帰り道が同じ、という側面もある。
 そんな話をしていると、七枷 陣(ななかせ・じん)小尾田 真奈(おびた・まな)が近付いてきた。
「モーナさん、約束通り仕事手伝わせてもらうな。雑務はまあ任せとけや」
「よろしくお願いします」
「うん、あたしこそよろしく! ほんと、助かるよ」
「あれ、陣さんは帰らないんだ」
 会話を聞いて、椎名 真(しいな・まこと)が声を掛けてくる。原田 左之助(はらだ・さのすけ)も一緒だ。
「ちょっと約束があってな。真くんはどうするんや?」
「俺は……少し迷ってるんだ。空京であの時の犯人の所に行く……って話は聞いたんだけど」
「太郎か……」
 その名を口にした途端に表情を歪める陣に、真はそうか、と気がついた。
「陣さんは、山田さんの死を見ているんだね。俺、あの後すぐ病院行ったり服買ったりでばたばただったから詳しいことは知らないんだ」
 そう言って苦笑し、真はそれから笑みをおさめる。
「磁楠さん達に殺されたっていうのは聞いてたけど……」
「……ああ、太郎はな……あの時、こう言ったんや」
 そして、陣は追い詰められた山田が語った事、その後どう死んだのかを真に話し始めた。