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またたび花粉症

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またたび花粉症

リアクション

1.花粉症は突然に

「……えっと」
 空京のショッピング街で、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は無表情に困惑していた。
 その視線の先では、ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)がぼーっとおかしな事を呟いている。
「んー、なんだか気持ちよくなってきましたねぇ……せっかくの買い物ですし、可愛いもの、いっぱい買っちゃおうかなぁ?」
 普段の彼女とは正反対の言動だ。
 男勝りで粗野なウルフィオナはそこにおらず、レイナはどうしたものか考えあぐねている。
「えへへ、私だって女の子っぽい服にあうんですよー?」
 と、ふらふらした足取りで可愛い服屋へ向かうウルフィオナ。
 その後を追うレイナだが、ふと視線を感じて振り返った。そこにいるのはリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)
「……?」
 レイナが首を傾げると、リリははっとした様子で自分の頭を叩いた。――何か夢でも見ていたのだろうか?
 とにもかくにも、二人の様子がおかしい。
「レイナさん、見て見てぇ……あれ、すごく可愛いと思わない?」
 と、淡い黄色のワンピースを指さすウルフィオナ。いつの間にやら結っていた髪を下ろしており、獣人の証である猫耳と相俟って可愛く見えた。
「……可愛い、ですけど……」
「そうよね、買っちゃおうかしら? ああ、でもあっちのも素敵!」
 と、いつになくお洒落に関心を見せている。普段はこんな人じゃないのだが……やはり、何か原因があるはず。
 ふと、また視線を感じて振り返ったレイナは、リリが激しく頭を振っているのを見てびくっとした。
 そして落ち着いたリリが何かを呟く。
「どんなにお嬢様が可愛らしくても、私とお嬢様は主従関係でありそれ以上でも、それ以下でもなく……あぁ、でもっ」
 と、レイナを見た瞬間に頭を振り始めるリリ。
 ウルフィオナもやばいが、こちらもそうとうやばそうだ。
「ねぇねぇ、これとこれ、どっちのが似合うかしらぁ?」
「……えっと……両方……?」
 両手にスカートを持ったウルフィオナに迫られて、レイナがそう答えてしまうと、乙女はにっこり笑って言う。
「じゃあ、どっちも買っちゃいましょう」
「……」
 呆然とするレイナに気づくことなく、ウルフィオナは思いつきを口にする。
「あ、そうだ。お買い物の後はみんなでスイーツを食べに行きましょう。ねっ?」
「……えっ……そ、そう……ですね」
 と、困惑するレイナの後ろでは、相変わらずリリが悶々と頭を振っていた。

「いちる、いちる、こっち向け」
 と、ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)に言われて振り向いた東雲いちる(しののめ・いちる)は、頬にキスされてドキッとした。
「ぎ、ギルさん……っ」
 困惑するいちるだが、エルセリア・シュマリエ(えるせりあ・しゅまりえ)がギルベルトを彼女から引き離す。
「なんだよギルベルト、お前いちるの恋人だからって調子に乗ってんじゃねーぞ!」
「何だよ、エルセリアにいちるをとられてたまるか!」
 と、睨み合う青年と外見美少女。
「あ、あの、二人とも落ち着いて下さいっ」
 いちるが止めに入ると、二人の視線がじっと彼女に集まる。
 そして、ほぼ同時にいちるへ抱きつく二人。
「わわっ、二人いっぺんに抱きつかれちゃ倒れちゃいますよー」
 と、よろけながらもその場に踏みとどまった。
 しかし、男二人はいちるを挟んで再び言い合いを始めていた。
「おい! お前抱きつくな。いちるは俺の恋人だって言ってるだろ!」
「いちるはお前んのじゃねー、俺たちにとっても大事なんだバカヤロー!」
「ギルさん、エル君……と、とりあえずベンチにでも」
 と、二人を宥めるいちる。
 二人の声が大きいせいか、いちるたちは周囲の視線を集めていた。
「いちるがそう言うなら」
「ああ、いちるが言うならな」
 と、一時休戦するギルベルトとエルセリア。
 ほっとして人気のないベンチを探すいちるだが、そんな短時間でも酔っぱらいは大人しくしていられなかった。
「眠くなってきたな……いちる、ベンチ着いたら膝枕して」
「な、それならいちる、俺にも膝枕だ!」
「え、二人いっぺんには無理ですよぉ。ただでさえ、小っちゃいですのに……」
 だが、構わずに二人は三度、いちるを巡って争い始めるのだった。
「いちる、ほらぎゅっとしてやるぞー。はぐー」
「お前なんか触ったら汚れるんだよ! さーわーるーなー!」

 一体何が起きたというのだろう。
「はぁ……俺は何の為に生きてるんだ……もう、どうでもよくなってきた……」
 と、肩を落とす滝川洋介(たきがわ・ようすけ)。その隣では、ジャタ竹林の精メーマ(じゃたちくりんのせい・めーま)がふらついていた。
「にゃははぁ、ヒック……めのまえがぐにゃぐにゃ、だじょぉ」
 どうやら酔っぱらっている様子だが、洋介と違って明るい酔い方だ。
「ヒック、なんだかたのしくなってきたじょー」
 ふらふらした足取りで、メーマは奇妙な踊りを踊り始めた。
「あ、それっ……わっしょい、わっしょい」
 盆踊りっぽい踊りだが、酔っているために動きが怪しい。
 じっとその様子を眺めていた洋介が、ふと口を開けた。
「なんだその踊り、面白そうだな」
「にゃ? ほほぉ、兄ぃもおどるじょ? たのしーじょ」
「ヒック、おう、いっしょにおどるぞぉ。あ、それっ、わっしょいわっしょい」
 だんだんと明るい気分になってきたのか、洋介はメーマと共に踊りながら行進を始めた。通報されてもおかしくないレベルだ。
 道行く人々が彼らを避ける中、勇敢にも近づいていく者がいた。
「面白そうだな、私も入っていいか?」
 若松未散(わかまつ・みちる)である。
「いいじょ、みんなで踊るじょぉ」
「あ、それ、わっしょいわっしょい」
 酔っぱらいが三人に増えた。
「……さすがに、これは」
「酔ってるな、未散。超かわいい」
 はっとしたハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)神楽統(かぐら・おさむ)を睨んでから、未散の元へ向かう。
「やめて下さい、未散くん!」
「えぇ、何だよ、いきなり」
 と、抵抗する未散。すると、洋介たちの前に何者かが立ちはだかった。
「お前らも恥ずかしいから、やめろ!」
 息を切らせているナタリーユ・ハーゲンフェルト(なたりーゆ・はーげんふぇると)だ。
 踊りをやめて立ち止まる洋介とメーマ。
「……」
 じっとナタリーユを見ていた洋介は、何を思ったのか、彼女の背後に回って後ろからぎゅっと抱きしめた。
「!? よ、よよよ、洋介ぇ!? だ、抱きつくなぁ!」
「メーマもやるじょー」
 と、ナタリーユの胸に飛び込むメーマ。
「ちょ、むむ、胸っ、胸っ!」
 顔を赤くして動揺するナタリーユ。
 ふと、ハルの視線が彼女の胸を見ているような気がして、未散は言う。
「お前、ああいうのが好みなの?」
「は?」
 ハルが目を丸くした瞬間、未散は『鬼神力』を使用してバストアップした。
「どうよ!」
「……いや、あのね?」
 そういう問題じゃない、とハルが言わんとするも、酔っぱらった未散に伝わるはずが無く。
「なんだよお前、意味分かんねぇ」
 ぷいっとそっぽを向く未散。
 見かねたハルは、咳払いを一つすると言った。
「私はですね、普段のみち――」
「俺はこっちのが好きかなー」
 と、未散の胸に飛び込む統。
「神楽さんのエッチ」
 と、未散もまんざらでもない様子で統を抱きしめた。
「つーか鬼神力最高……抱きしめるとおっぱい当たるよ、超柔らかい」
 どうやら、酔っぱらいはもう一人いたようだ。
 二人がいちゃいちゃし始めるのを見て、ハルがわなわなと肩を震わせる。
「神楽さん! 混乱に乗じて未散くんを独り占めしようとしないで下さい!」
 未散と統を引き離し、改めて未散へ顔を向けて言う。
「デレデレも鬼神力もいいけど、やっぱ普段の未散くんが一番です!」