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第四章 追跡

「ゴブリン達が撤退していくわね! やっと私の出番が来たみたいね」
 ストレッチをしながら、セイニィはグッと伸びをする。
「ふ〜ん、いつぞやみたいにサボってるのかと思ってたけどちゃんと仕事してるのね」
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)がセィニィの前に出てきていた。敵情視察をしている様な感じである。
「どうせならどっちが真犯人を捕まえるか勝負しない?」
 シルフィスティはかなりの自身があるのか、セイニィを軽く挑発する。
 セイニィはシルフィスティの顔をジッと見ると、軽い溜め息を吐いた。
「はいはい。あたしに勝つ気でいるの?むしろ、ちゃんと付いて来れるわけ?」
「ふふ、それは結果を見てのお楽しみよ。今回は街道の為に、貴方の活躍も期待していますからね」
 満足そうに背中を向けるとシルフィスティは持ち場へ戻っていった。
「追跡班、行くわよ」
 セイニィの合図で2つのチームに分かれた追跡班はゴブリンの追跡を開始する。
「行くわ。援護、よ、宜しく / / / /」
 牙竜の銃型HCにセイニィから短く通信が入った。
「アネイリン! 準備は良いか?」
「だ、大丈夫でちゅ!」
 アネイリン・ゴドディン(あねいりん・ごどでぃん)は矢の束を持ち、牙竜の射撃に備えていた。
 迷彩防護服を着た牙竜とアネイリンは身を隠し、ゴブリンの通過を見ていた。牙竜達もポジションを変更しつつ、ゴブリンを追う。
「「ブヒィ!」」
 何匹かのゴブリンが突如、進路を変え元来た道を引き返していく。
「所詮はゴブリンか、統率が取れていない……」
 牙竜はセフィロトボウを構え、『シャープシューター』でゴブリンを撃ち抜く。無音で飛来する矢によって、ゴブリンを片付ける。
「がりゅー、次の矢でちゅ」
「ああ、セイニィの進路上に壁は作らせない!」
 セイニィと共にミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)達もゴブリンの追跡を開始した。
「ゴブリンの癖に逃げ足だけは早いんだもん」
 ミルディアから不満の声が洩れる。襲撃の際はあんなに早くなかったくせに、ゴブリンは逃げになった途端に機敏に走り出していた。
「ミルディア様。こちらの方角でしたら、少し迂回する様に森を走った方が多少のショートカットの筈ですわ」
 和泉 真奈(いずみ・まな)は頭の地図からゴブリンを追うための最短ルートを提案する。何パターンのシュミレートの内から、最適な物を導き出していく。
「了解だよ、セイニィさん達もこっちへ」
 和泉が先頭になり、ミルディア達が後続へと続きゴブリンの後を追う。僅かではあるが、ゴブリン達の背中が近くなってきている。
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は走りながら、事件について考えていた。
「俺はゴブリンが誰かに命令されて動いてるとしか考えられないんだが、信長はゴブリン達の動きをどう思う?」
 織田 信長(おだ・のぶなが)は少し考えていた。
「私も不思議に思う所じゃが、ゴブリンを裏で操っている奴がおるじゃろうな」
「ゴブリンを操る奴が相手なら、操る奴をどうにかすればゴブリンを無力化できるかもな」
「小型飛空挺は売れば金になるからな金目的の可能性もあるが、インフラ整備に反対しておる者達の犯行とも考えられる。まあ、奴らを追跡すれば事件の真相もわかるじゃろうて」
「信長に言われなくても、俺は元からそのつもりだけど」
 忍は信長の分かっていた返事に答えると、ゴブリンに視線を戻した。
「これなら楽勝で追いつけちゃうかな」
 ミルディアの希望が口から出た時だった。
「それはどうかな?」
 遠くからの声と一緒に何か、キラキラした物がたくさん投げ込まれた。
「何?」
 ミルディアが拾った物はガラスにコーティングを施し、カッティングした宝石モドキだった。
「何これ、おもちゃじゃん」
「「ブヒ、ブヒヒ」」
 突然、ミルディア達の下へゴブリンが集まりだした。
「ゴブリン達は、これが宝石だと思ってるのですわ」
「嘘、どう見てもガラスだよ」
 和泉の指摘通り、単純なゴブリン達は地面に撒かれたのが宝石だと思い込んでいた。
「我らは嵌められていたのであるな」
 草薙 武尊(くさなぎ・たける)は雅刀を抜き、ゴブリンを睨みつける。
「予想通りだね」
 忍は龍骨の剣を抜き、閃空の如き速さで剣を振り抜く。剣圧で複数のゴブリンを吹き飛んでいく。ゴブリンが立ち塞がる前に次々と斬り倒していく。
「だが、数が多すぎるのう」
 信長はゴブリンを斬り捨てながら、この状況を嘆いた。
「犯人も近くに居ないようだしの」
 犯人の声が聞こえたのは一瞬だけで、姿を捉える事は出来なかった。
「はああっ!」
 草薙は果敢にゴブリンを攻めるが、切り開いた道も直ぐにゴブリンに埋められてしまう。ゴブリンは先程の宝石モドキに物凄い執着を見せていた。
「これなら」
 『鬼眼』にて、ゴブリンを睨みつけるが先頭の数体が怯むだけで決定打にはならない。
「じっくりと片付けるしかないのであるな」
 碧血のカーマインと雅刀を交互に使い、草薙は効率良くゴブリンを殲滅する方へ切り替えた。足を撃ちぬき、刀で止めを刺していく。
 「大丈夫か」
 ワイルドペガサスに乗った、棗 絃弥(なつめ・げんや)が降下してくる。
「すまない、援護を頼む」
 草薙はカーマインでゴブリンをけん制し、着陸する場所を確保する。
「気にするな! フォリス! 援護をするぞ」
「任せろ。ゴブリンの数を減らす」
 罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)はレッサーワイバーンから一気に飛び降りる。
「吹き飛べ!」
 落下の重力を利用し、六花を振り下ろす。自らの重量を利用した一撃で、ゴブリンを押しつぶす。
「……少し離れな」
 棗の『しびれ粉』が広範囲のゴブリンに投げつけられる。
「ビッ――」
 ゴブリンが痺れて、地に倒れていく。
「『鬼神力』、一気に片付ける」
 ワイルドペガサスから棗も飛び降りる。
 棗に見た目の変化はなかったが、力が漲っているのを肌で感じることが出来た。軽々と剣を振り、ゴブリンを刻んでいく。鬼の如き力で斬られたゴブリンの体はそのまま宙を舞う。
「フォリス! 一気に攻めろ」
「我は野蛮、貴様らを裁く剣なり」
 改めて剣を構えなおし、疲弊が少し見られるセイニィ達の前に立ってフォリスは巨大な壁となる。六花を自在に振りまわり、ゴブリンを蹴散らしていく。モドキ目当てにゴブリンが何体も押し寄せるが、フォリスは物ともしない。
 「セイニィ! もうへばったのかしら?」
 ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がワイバーン“デファイアント”を駆り、セイニィ達の周囲に降下する。
「ふん。私はまだ全然余裕よ」
「あら、言うじゃない」
「ヘイリー、程ほどにね」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)もワイルドペガサスで救援に駆けつける。
「分かってるわよ。ほら、あいつらの前方、死なないくらいに焼き尽くせっ!」
 デファイアントから業火が吐き出される。業火は一瞬にして周囲のゴブリンを焼き尽くしていく。
「どう、これが私の実力よ、セイニィ。今回は私の活躍が際立つんじゃないの?」
「ぐっ……」
 苦虫を噛み潰したような顔をセイニィはした。
(ヘイリーもセイニィも・・・そんなにムキにならなくてもいいのに・・・)
 リネンは上空から曙光銃エルドリッジでゴブリンをけん制していく。ブレスの効果的な位置へ、ゴブリンを弾で踊らせ誘導させる。
「次よ、こっちも焼き払って!」
 モドキに目が眩んだゴブリンも焼き尽くされる仲間を見て、考えが変わった様だった。血相を変えて、今度は本気で逃げていく。
「そろそろ良いんじゃないかな、ヘイリー」
「そうだな、十分すぎる結果だ。しかし、犯人には逃げられた様だ」
 犯人は元々売り払うつもりだった盗んだ小型飛空挺で目視で確認出来ないところへ逃げていた。