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パラミタ・ビューティー・コンテスト

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パラミタ・ビューティー・コンテスト
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    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー24番、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)さんです」
「わーい」
 ててててーっと、チアガール姿のマナ・ウィンスレットがステージに駆け込んできた。ろくりんピックのときに応援で使った衣装だ。
 とことこと小さな足で花道を歩きながら、マナ・ウィンスレットが両手に持ったオレンジ色のボンボンと髪の毛と同じ金色の毛が生えた尻尾でバランスを取る。
 金髪の方は、頭の角の上の方でちっちゃな髷にまとめていた。
 チアガールの衣装は、イルミンカラーの緑系の物で、優しい翠と落ち着いた黄色のツートンカラーでまとまっている。ちょっと短いのか、わざとなのか、もふもふのお腹の部分は丸出しであった。
 背中の小さな翼をパタパタさせながら花道を渡りきったマナ・ウィンスレットが、ほとんど真っ青な瞳で軽くウィンクをした。
「きゃー♪」
 最前列に立っていた、シャーミアン・ロウが悲鳴に近い歓声をあげた。
 マナ・ウィンスレットが、バタバタと花道を駆け戻っていく。
「きゃー、マナ様ー。ステキです。キュートです。ずきゅーんです。もう優勝間違いなしです。きゃーきゃー……げほげほげほ……」
 勝手にマナ・ウィンスレットをエントリーした張本人のシャーミアン・ロウが、興奮しすぎて過呼吸でぶっ倒れた。
 ステージ中央に戻ったマナ・ウィンスレットの方は、ミンストレル得意の歌を披露していた。残念ながら、気絶していたシャーミアン・ロウはそれを聞き逃してしまった。きっと、後でこのこともクロセル・ラインツァートのせいにして彼をどつくのであろう。
「いかがでしたでしょうか、奏審査員」
「そうですね、かわいい、この一言に尽きると思います。ぜひ、俺の嫁リストに加えたいと思います」
 いや、その台詞は多方面に敵を作るぞと隣の姫神天音が言いたいところではあったが、本人はまったくの無自覚のようであった。
 
    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー25番、シェプロン・エレナヴェート(しぇぷろん・えれなべーと)さんです」
「おーっほっほっほっほっほ……。わたくしが優勝に決まってますわぁ〜!」
 けたたましい高笑いと共に、シェプロン・エレナヴェートがステージに駆け込んできた。
 その姿は、サンバカーニバルばりのど派手な衣装だ。どたまに二メートルはあろうかという扇状の七色の羽根飾りを被っている、お尻にも、同じ大きさの飾りがくっついており、モンローウォークのたびに怪しく左右にプルプルと震えた。服の方も、もこもこに巨大な色とりどりの羽根がついている。しかも、各所に電飾が仕込まれているらしく、ピカピカピカピカと点滅して眩しかった。
「ぶぶーっ! ごほっごほっ……シ、シェプロンまでぇ!?」
 ジュースを飲んでいた滝川洋介が再び吹き出して咳き込んだ。
「きゃっ!」
 再び、神楽月九十九が間一髪で避ける。
「す、すみません、すみません」
「もう、何か恨みでもあるんですか。今度やったら、キングドリルに串刺しにしてもらいますよ」
 ぷんすか怒った神楽月九十九が、空を見あげて言った。装着型機晶姫キングドリルは、いつになったら降りてくるのだろう……。
「ほーっほほほほほほ……」
 さて、シェプロン・エレナヴェートの方は、バサバサと全身をゆらしながら花道からステージに戻っていた。
「さあ、これがわたくしの真の姿ですわ!」
 言うなり、シェプロン・エレナヴェートが着ていたもこもこを脱ぎ捨てた。
 一気に、下着姿に近い姿になって、シェプロン・エレナヴェートが白い手袋を填めた手を口許に持っていって高笑いをあげた。
 黒のベアトップが零れそうなたっゆんをささえ、裾にレースをあしらった二段の黒いスカートが微かに光を通して燦めく。黒ストッキングによって作られた絶対領域の上の太腿や、むきだしになった肩や腕はドレスとは対照的な色白だ。額にはサークレットを填め、首にはチョーカー、二の腕にはブレスレットのように革のベルトを二つずつ巻いている。
 先ほどまで隠れていたペールブロンドの髪は、いくつかの綺麗な縦ロールにまとまって、胸や背中を飾っていた。
「最初から、いつも通りのこっちの姿で出てきてくれれば吹き出さないですんだものを……」
 こっちの姿なら花があるのにと、滝川洋介がつぶやいた。その間に、マイクを取ったシェプロン・エレナヴェートが熱唱を終える。
「さて、いかがでしたでしょうか、アルマ審査員」
「はいはーい。ぜひ、今年の紅白歌合戦には出てもらいたいと思いまーす」
 キャッキャッと喜んで手を叩きながら、アルマ・オルソンが答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー26番、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)さんです」
「くまー!」
 叫びつつ、雪国ベアがドスドスとステージに現れる。
 雪の結晶模様の青いマフラーを靡かせて、雪国ベアが花道へと進んで行った。ゆる族だと、そのままの姿で登場すると思いがちだが、雪国ベアはもふもふの着ぐるみの上に鎧を纏っていた。白い毛皮の上に、燻し銀の鎧が重厚な輝きを放つ。
 咆哮をあげる熊の顔の意匠を象眼したブレストプレートに、頬あてのついたオープンヘルム、もちろん頭頂には白いもふもふがついている。ガントレットとレッグアーマーは太く角張った幾何学的なデザインをしていた。
「さしずめアーマード・ベアと言ったところだな」
 堂々とした足取りで、雪国ベアが花道を往復した。
「うん、いい絵になる素材だよね。創作意欲を刺激されるよねっ」
 ラピス・ラズリが、何やら得体の知れない塊をスケッチブックに書きながら言った。
「後で、アスカにもしっかりとした絵を描いてもらいましょう。そのためにも、写真を記録しておかなければ……」
 カメラを片手に、オルベール・ルシフェリアがあちこちを駆け回って違うアングルの写真を撮りまくった。
「なぜ、なぜ、くまーの方が出てくるんだもん!」
 小鳥遊美羽は、なぜかさっきからおかんむりだ。
「さあ、俺様のパフォーマンス、見せてやるぜ」
 そう叫ぶと、雪国ベアが、外岡天から手渡された招き猫型の抱き枕を空中高く投げ上げた。それへ、着ぐるみの中のどこからか隠し縫い針を発射した。ドドドドドドドっと、抱き枕にニードルが突き刺さる。
教えてやろう、この世で最強の生物、それが白クマだあ。クマ最強ー!!」
 勝ち誇った雪国ベアが雄叫びをあげた。
「あんたじゃなくてソアちゃんを出しなさい!」
 我慢しきれなくなった小鳥遊美羽が、「×」と描かれたハリセンで審査員席のテーブルをバンバンと叩いた。
 それに応えてメイベル・ポーターがゴーンと銅鑼を鳴らす。
「あ〜れ〜」
 即座に開いた奈落の口が、雪国ベアを呑み込んでいった。
「ああ、ベアったら……。えっとー……な、なんかえらいことに――
 思わずソア・ウェンボリスが絶句する。隣の緋桜ケイは引きつった苦笑いを浮かべるしかなかった。
「黙っていればかわいかったのに……」
 ボソリと、ベアトリーチェ・アイブリンガーがつぶやいた。
「ええっと、皆さんもう好き勝手にいろいろとおっしゃられてますが、あらためて、師王審査員、いかがだったでしょうか」
「そうだねえ。悪いとは思わなかったけどお。ちょっと、最後が意味不明だったかなあ」
「でもでも、格好良かったですぅ」
 パフォーマンスに小首をかしげる師王アスカの頭の上で、ラルム・リースフラワーが身を乗り出してフォローを入れた。