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リアクション
「パラミタの美は、私が採点するよ。色物は許さないんだもん」
スラックスにブーツ、Tシャツの肩にジャケットを担いだというラフな出で立ちで天王寺沙耶が言った。一見おしゃれには気を遣っていないように見えて、これはこれで元々のスタイルがいいので健康的な感じが際立っている。普段、天御柱学院の整備科で忙しく働いている彼女としては、機能美こそがおしゃれの基本なのかもしれない。それでいて、ポニーテールを縛るリボンを黄色い大きめの物にしているなど、女の子らしさも忘れてはいなかった。
「続いて、アルマ・オルソン(あるま・おるそん)さんです」
「色物は楽しーよー!」
おーっと両手を突きあげて、アルマ・オルソンが、天王寺沙耶とは対照的な台詞を叫んだ。
その背中で、ハーフフェアリー特有の蝶のような翅がパタパタと動く。そよそよと起きた風が、白いブラウスと、重ねたスカートの裾をひらひらとゆらした。
「では、次はクローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)さんです」
「こほん。色物はとにかく、真面目に審査するんだもん」
ちょっと幼いアルマ・オルソンとは対照的に、アリスであるクローディア・アッシュワースは少し扇情的だ。深紅のチューブトップに、ぴちぴちの黒いスパッツだけの姿で、形のいいおへそをむきだしにしている。黒い蝙蝠状の翼は、半分折りたたんで腰上のあたりで軽くバランスを取るように広げていた。くるっと曲がって前をむいた二本の角の左脇から、リボンでまとめた長い金髪を肩先にさらりと流している。
「よろしくねっ♪」
軽くウィンクして、クローディア・アッシュワースが観客たちに媚びを売った。
「続いては、シャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)さんです」
「私は、色物であっても真面目に審査します。でも、大会その物の邪魔をしちゃだめですよ。私とあなたとの約束です」
そう言うと、クローディア・アッシュワースが、軽く小首をかたむけた。うす青を帯びた白い髪が、ワンピースから零れそうになっている豊かな胸の谷間にさらさらと零れ落ちる。
「次は、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)さんです」
「みんな、まんべんなく審査してやるぜ。気合い入れて来いよ!」
ラフな普段着姿の健闘勇刃が、ステージ中央を指さして言った。メガネの奥の瞳が、自然な感じで後ろへと流した髪の下で熱く燃える。ジャケットからのぞく赤いシャツが、彼の意気込みを示しているかのようだ。
「続いては、姫神 天音(ひめかみ・あまね)さんです」
「ふっふっふー。皆さんのすばらしい衣装に期待しています」
大きく開いた衿に赤い飾り衿をつけた和風のぴっちりとしたワンピースを着た姫神天音が、ちょっと意味ありげに挨拶をした。大きく開いた袖と長い後ろ髪がゆらゆらと靡く。切りそろえた前髪の下の緑の瞳は、今は少し悪戯っ子ぽい。
実は、今ごろ彼女のパートナーは、身に覚えのないエントリーで、裏の楽屋であたふたとしているはずである。はたして、やっと一矢報いたということになるのであろうか。
「さあ、最後の審査員は、奏 シキ(かなで・しき)さんです」
「やあ、美しい娘さんたち。期待して待っていますよ……男はいらないけど」
ぼそっと、小声でつけ加える。急に横をむいたので、一つに束ねていた銀髪が振られて肩から胸へと垂れ下がった。はっきり言って、男と女では扱いが天地の差となりそうである。
「それにしても、審査員がやけに多くないか?」
観客席でソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の隣に座っていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、不思議そうにつぶやいた。参加者に比べると、その半分にもあたる数の審査員がいるのだから当然の疑問とも言える。おかげで、審査員席は横一列ではたらず、何列かに分かれてステージ左側を占拠していた。
「でも、その方が偏らないで公平かもしれないですよ」
ソア・ウェンボリスが、なんとなくそう答えた。
今日は、緋桜ケイと合わせて、イカさんパーカーを着ている。ライラック色したパーカーの頭の部分はヤリイカ状の三角フードになっていて、キュッと締める、紐が長いイカ足のような矢印デザインでかわいい。パーカーの裾から半分だけのぞいた光沢のあるインディゴ色のスカートは、ちょうど短いイカ足のようでバランスが取れていた。サイドバッグには、白クマ型のゆるキャラストラップが二つゆらゆらとぶら下がっている。
一方の緋桜ケイの方はアンコウさんパーカーだった。淡いオーキッドピンクのパーカーだが、フードの部分は、まるでアンコウが頭にかじりついているようなデザインだ。御丁寧に、口の部分にあたるフードの縁の部分には牙がならんでいる。アンコウの特徴である触覚のイリシウムもちゃんとついており、先端のエスカ部分は蛍光塗料で発光するようにしてあるトゲトゲボールになっていた。黒いジャージのズボンと合わせると、ちょっと寝間着っぽいかもしれない。
観客席のど真ん中、ちょうど花道のすぐ横では、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)がアンブッシュしていた。パートナーのコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)に度胸をつけさせるためにもとエントリーさせたのだが、やはりそこはちょっと心配でもある。そのため、会場の人混みの中に迷彩服姿で隠れて、そっと見守ろうというのであった。もっとも、そんな姿の方がよけい目立ってしまうとは思うのだが……。
「とりあえず、コーディリアが出てくるまで、じっくりとかわいい女の子を鑑賞させてもらうであります」
偵察用スコープを目にあてると、大洞剛太郎はステージに集中した。
「ふう。昨日は徹底的にキングドリルを磨いたから、今日はドリルのすばらしさが、見ている皆様にしっかりと伝わるでしょう」
のんびりと観客席に座った神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)が、満足そうにつぶやいた。どうせならば本人がエントリーした方がよさそうなものなのだが、もったいないことに本人はドリルのよさしか感じてはいないらしい。
シックな黒のツーピースは、ふくらんだバルーン・スリーブから広がったベルシェープ・カフスへのラインが美しい。衿からテールにかけては紫のラインで縁取りされ、袖が広がったスカートの裾には白い大きなフリルがついていて、落ち着いた雰囲気の中にも女の子らしさを醸しだしていた。紫のストッキングも、ちょっと大人っぽい。白いロングの髪にはフリルのついたカチューシャをつけ、左から垂らした髪の一房は、リボンタイと同じ色の赤いリボンで編んでまとめている。
「うーむ。観客席もなかなかであります」
双眼鏡の角度をちょっと変えて神楽月九十九の方をチラ見しながら、大洞剛太郎がつぶやいた。
観客席の端の方では、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が、パートナーの東峰院 香奈(とうほういん・かな)と織田 信長(おだ・のぶなが)を問い詰めていた。
「信長はともかく、香奈も参加するなんて……。なんで二人とも、コンテストに参加することを俺に言ってくれなかったんだ?」
「しーちゃん、ごめんね。信長さんがしーちゃんには言わない様にと口止めされてて……」
東峰院香奈が、黒いコート姿の桜葉忍に答えた。
「その方がお前の驚く様を見ることができるからな、香奈にもそのことは言わぬよう言っておいたのじゃ。まあ、ばれてしまったのでは仕方がないが」
織田信長が一応フォローをする。
「驚いたのは、こっちなんだもん。いつの間にかエントリーされてたんだよ」
まだちょっと戸惑っているような東峰院香奈が、織田信長に言った。
「いいではないか。一緒にこういう物を体験するのも面白いものじゃぞ」
織田信長が呑気に言って、バンバンと東峰院香奈の背中を叩いた。思わず、東峰院香奈が軽く咳き込む。
「まあ、今さら不参加というわけにもいかないか。とりあえず俺は観客席で応援してるから二人とも頑張れ」
そう言うと、桜葉忍は二人を送り出した。
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