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結成、紳撰組!

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結成、紳撰組!

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■其の終章


「堅守様、陸軍奉行並の武神様がお越しです」
 家臣の声に葦原藩松風家当主、松風堅守が顔を上げた。広げていた硯や筆を片付けて、場を設える。本日の約束相手は、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)と、パートナーの八咫烏の面々だった。
「ようこそ」
 招き入れ席を示した堅守の前に、緑の髪を揺らしながら、威厳ある立ち居振る舞いで牙竜が腰を下ろした。
 武神 雅(たけがみ・みやび)龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)、そして重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が彼の後ろに控えている。
「紳撰組を扶桑守護職預かりとしたとの事」
 するとすぐに、牙竜は本題を切り出した。
「いかにも」
 同意して見せた堅守の姿に、牙竜が目を細めた。
 ――扶桑見廻組があるのに紳撰組の設立である。
 治安維持組織が乱立すれば逆に治安が悪くなる方が確率が高い
 そう考えた彼は、気づかれぬように溜息をついた。
「松風家当主殿。紳撰組だが、どの程度までの治安を維持する組織と考えているのだ?」
「武士にあらずとも、己の手でこの扶桑の都を守りたいと願う者の組織であるから、自ずとその範囲は決まると考えている。また武力に限らず、民草が、町人こそが秀でた分野もあるのでしょう。武神殿は、いかようにお考えですか?」
「俺としては紳撰組が扶桑の都の治安を維持してくれるならば、歓迎だ。役割を明確に出来るよう、扶桑見廻組を『扶桑』の警備を固めるための任務に集中するよう、幕府と他の幕臣を説得すると約束しよう。扶桑の守りを固める事に幕府も異論は無いと思う」
「心強いお言葉ですな――やはり伝え聞くように、武神殿は非常に柔軟な方だ」
「伝え聞く?」
「陸軍奉行並様が旧大老派の前で、意識改革の必要性を説いたとの話は、今となっては方々で噂になっていますよ。『伝統を残し、外国から素晴らしい部分は受け入れる』、強いお方だ」
 以前に牙竜が行った迫真の説得劇を話題に出すと、堅守が微笑した。
 すると雅が、緑色の長い綺麗な髪を揺らしながら、金色の瞳を堅守へと向ける。
「松風家当主のお考えとの愚弟の政策は近いと見受けられる。契約者の受け入れ姿勢のところがな」
 牙竜の姉を自称する彼女の声に、堅守は返答はせず、ただ笑ってみせるだけだった。どこで誰が聴いているのか分かったものではない、あるいはそう考えていたのかも知れないし、沈黙で肯定を示していたのかも知れない。ただ、この闇夜を闊歩する忍びの数も、脱藩していく浪士以上に数を増しているのは間違いのない事実だった。
「ご心配なさらないで下さい。将軍家の忍者部隊・八咫烏の特務部隊として人員と権限をある者に渡してあります。警戒は怠っておりません」
 権限を渡した橘 恭司(たちばな・きょうじ)の姿を思い浮かべながら、灯が付け足した。彼女は、牙竜の元恋人で、現在はストーカーをしている美少女である。その麗しい黒いポニーテールが揺れる姿に、堅守は、納得するように何度か頷いた。
「一つお願いがあります」
 続けた灯は、堅守と牙竜を交互に見据える。
七篠 類(ななしの・たぐい)を扶桑見廻組へ入隊させるための推薦状を出したいのですが、牙竜と松風家当主殿の連署をお願いしたいです」
 その声に堅守が牙竜を見ると、彼は静かに頷いていた。そこで堅守は、先程退けた硯や筆、文鎮をたぐり寄せる。
「牙竜、指名手配の件はどうするのですか」
 署名しているパートナーに、リュウライザーが囁くように述べた。一見して強そうな外観をした彼の、僅かばかり冷ややかなその声に牙竜が小さく頷いて返す。
「――松風家当主殿。先の、大老暗殺の件、貴殿もよくご存じの事とは思うが」
「楠山様が暗殺された事件ですな。今では楠山様の派閥にいた幕臣達は、旧大老派と呼ばれているわけだ」
「ああ。その暗殺事件の首謀者の処遇についてもお話ししたい事があるんだ」
「さようですか」
「紳撰組についても、まだまだ話したりない」
 雅が口を挟むと、堅守が頷いてから、月を見上げた。
「そうですな。では、日を改めて場を設けましょう。今宵はもう、月が高い」
 庭では、竹に溜まった水が、音を立てて池へと落ちていった。敷き詰められた小石と、池を築く岩石が、趣ある庭をかたどっている。乾いた竹の音が、何度か辺りに響く中、池はただ月を掬って静かに水面を揺らしていた。
 そんな穏やかな夜にも、各地では辻斬りの被害が広がっているのだった。