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昼食黙示録

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昼食黙示録

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 購買は戦争の縮図である。
 弱者は負け、強者が勝ち残る、まさに戦だ。もちろん、策を練ることも重要だ。
 だがさすがにそこまで手の込んだことはしなくていい、というよりできない。
 ここ、蒼空学園の購買は物によっては購入数を制限されている。
 良い例が伝説の焼きそばパン、これは店頭に並んだ場合一人2個までとなっている。
 伝説と付くだけ、味はもちろんプレミア級の希少価値がある。
 その伝説と対をなす惣菜パンがここ購買に久々発売されるのであった。
 幻のコロッケパン、それが本日の目玉商品でもある。
 限定50個、中身のコロッケは食べた者を一瞬で昇天させてしまうほど美味だ、と言われている。
 そんなものが販売されるなら、誰もが黙っていられるわけなかった。
 現在、午前の授業が終わる一分前である。
 異様な静けさの中、購買にいる販売員たちは今まさに来る開戦の狼煙が上がるのを静かに待っていた。
 チャイムが鳴り響く、それと同時に校内から物凄い数の駆ける音が怒号となって校内に響き渡る。
 戦が始まりを告げる。

「こらー!! 廊下を走ってはいけません!!」
 さすがに今日という日なので先生たちも必死で注意をするが誰一人その言葉に耳を傾けようとしない。
 先生たちも言うことを聞かない生徒たちを無理やり捕まえようと奮起する。
 しかし絶対的な数が足りなかった。
 そしてそんな生徒たちの中、とある生徒も購買目がけて走っていた。
「いい加減にしろお前ら!! 廊下を走るんじゃねぇ!!」
「本当ですね、廊下を走るなんてマナー違反です」
「って!? そこの女子生徒!! 貴様はそこで何をしている!?」
「あら、廊下を走ってはいませんよ? 私が走っているのは‘外壁’です」
 そんな頓知は求めてねぇ!! と叫ぶ男性教諭の声を無視して外壁を走る女子生徒。
 夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)、見た目はとても清楚なのに今は壁走り真っ最中。
 重力的にかなり負担のある走りなのだが、彼女はまるで答えていない。
 地面に到達して着地すると、購買に近い窓から再び校内に入る。
 これでかなりの時間は節約できた、そう彼女は思えた。
 しかし購買はすでに大量の生徒で埋め尽くされていた。
「ふっふっふっ……さすがにそううまくはいきませんか。 しかし、教導団で鍛え上げたこの購買力を持ってすればこんな波〜!!」
 コロッケパン獲得のため、彩蓮は殺気やら闘気やらで満たされている混沌空間に飛び込んでいった。
 勝てる自信があったのだろう、その時までは絶対に買えると信じていた。
 だが予想以上の戦いに彩蓮も負けじと全力を奮う。
 その時、購買に一つの看板が立ちあがる。
 『焼きそばパン・コロッケパン、共に完売』と記された看板が立てられてしまった。
 周りから残念そうな声を上げながら、目当ての品を変えなかった生徒たちはその場を続々と後にしていく。
 やがて人混みのなくなった購買部に、一人項垂れている少女がいた。
「……私、購買愛好会、作ります」
 ぽつりと独り言をつぶやく彩蓮は、燃え尽きて白くなっていた。
 その手には、あの中で命を掛けて手に入れた戦利品のコロッケパンが握られていた。


「相変わらず騒がしいな、喧騒が中庭にまで響いたな」
「今日はあれ、コロッケパンが出る日らしいよ。 焼きそばパンもあるからなおさらなんだろうね」
「コロッケパン? 焼きそばパン以外にもそのようなものが……?」
「なんでも、幻のコロッケパンと言うそうですわ。 皆さん、希少なものに目がありませんから……」
 校内の戦場とは打って変わり、中庭のとある静かな場所での一時。
 そこではとある男女4人組が囲んで食事をしていた。
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)天鐘 咲夜(あまがね・さきや)君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)の四人だ。
 男一人に対して素敵女子が三人と、まさしく桃源郷と呼ぶ者もいるだろう。
 そんな空間を通り過ぎる野獣たちは、妬ましげな視線を送っていたが勇刃は気づくことはない。
「さて、食事にしようか。 今日は節約も兼ねて弁当を作ってみた」
「え、健闘くんがお弁当を?」
「あぁ。 これは咲夜の分だ」
「キャーっ!! 嬉しいです! ありがとうございます!!」
「それから、これはセレアのだ」
「まぁ、私にも? 嬉しいですわ。 喜んでいただきます。 代わりと言っては何ですが、私もお弁当を作ってまいりましたのでどうぞ」
「私も作ってきました!! 健闘くん、良かったら食べて!!」
「ねぇ、健闘。 あたしのはー?」
「何だよ、二人してそんな素敵弁当持ちだして〜!! そんなこと言っておきながら、初めから健ちゃんにあげる気満々だったくせに!」
「そ、そのようなことは……きゃあぁ!? や、止めてください香奈恵さん、くすぐったいです〜!!」
「お止めなさい香菜恵さま! そのようなはした……きゃあぁっ!! な、何故私まで〜!」
「ほらほら〜! ここがいいんだろ〜? うりうり〜!!」
 健闘が弁当を出して、なおかつ咲夜とセレアに手作り弁当を手渡す。
 二人は喜びながら中身を見ると、咲夜が和風パスタ、セレアがミートソースのパスタだった。
 お返しにと言わんばかりに、自分たちが作ってきた弁当も差し出す。
 それぞれの弁当を受け取り、中身を開ければ勇刃の大好物の肉が入っていた。
 そんな仲睦まじい光景を楽しそうに眺めていた香菜恵は女子二人をからかい始める。
 咲夜が言葉を紡ごうとした時、香菜恵はふいに彼女の胸を揉みしだいた。
 嫌がる咲夜に香菜恵は止めようとせず、セレアは止めに入ろうとするが、逆に今度はセレアの胸を揉み始めた。
 どうやら、女性だからこそ知り得る胸の感度を把握しているようで香菜恵の手腕に二人は耐えることは出来なかった。
 そんな光景を勇刃は呆れながら見守っていた。
「香菜恵、食事中にそんなことしているんじゃねえよ」
「何だよ健ちゃん、本当は揉みたいくせに〜」
「誰がだ!?」
「ところでさ、あたしのお弁当ないの??」
「あるわけねぇだろ。 てゆうかお前こそ弁当はどうしたんだよ?」
「そんなの作ってくるわけないじゃん!! 健ちゃん達が作ってくると思ったから何にも準備していないよ!」
「……どうせそんな事だろうと思ったよ。 ほら、香菜恵の分。 味の保障はないけどな」
「おおっ!! さすがは健ちゃん! へぇ、野菜カレーだ。 じゃあさっそく、いっただきまーす!!」
 勇刃の言葉で香菜恵は二人へのくすぐりを止める。
 香菜恵は勇刃に自分の弁当はないのかと尋ねると、ないと答えられてしまった。
 しかしその後の香菜恵の言葉を聞いて勇刃はしょうがなしと言わんばかりに隠していた弁当を出す。
 味は保証できないと言っている割にはしっかりと三人分の弁当を用意しているだけ、意外とまめな性格をしているようだ。
 ようやく落ち着きを取り戻した咲夜とセレアも、若干乱れた服装を整える。
 騒動はあったものの、ようやく健闘一家のお食事タイムが開始を告げるのであった。