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脳内恋人バトルロワイヤル!

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脳内恋人バトルロワイヤル!

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【一回戦第一試合】
魏延 文長(ぎえん・ぶんちょう)
橘 皐月(たちばな さつき)
VS
カミーユ・ゴールド(かみーゆ・ごーるど)
カミーユ・ゴールド♂

「さて、注目の第一試合、まずは右コーナー『脅威の化学反応! 姉御×ツンデレ=無限大』魏延文長&橘皐月カップルッ!!!」
天井に吊り下げられているスピーカーから歯切れのよい実況が響き渡る。
「お、選手紹介もしてくれるのですか。さて、さて俺はなんと紹介されるのでしょうね」
 カーマインは自分の選手紹介に期待に胸を膨らませながら実況を聞いていた。
「そして左コーナー『この発想はなかった! 自分のクローンとの究極の近親相姦?!』カ
ミーユ・ゴールド♀&カミーユ・ゴールド♂コンビの登場だッ!!!」


「もちろん、ここにいる観客たちはノウ恋のルールをよく知っていると思うが、念のために試合が始まる前に確認だ。まず、ノウ恋はターン制バトルの対戦ゲームだ。プレイヤーは自分のターンになると、周りの背景がシュチュエーションに合わせて変化する。そこでの脳内恋人との掛け合いによって萌えパワーが蓄積されるのだ。そして、お互いのターンが終了すると、貯めていた萌えパワーをぶつけ合い、その多寡によって勝敗が決まるのだ」
実況がそう言い終わると、会場内の風景はすっかりと変わっていて、見えるのは戦う選手と自分だけになった。


【魏延ターン】
「太陽の光が気持ちええなあ、さっちゃん」
 校舎の真ん中にぽつんと空いた中庭の桜の木の下でドカっと寝ころびながら、魏延は今年からこの学校に入学してきた皐月の方へと顔を向けた。
「もう制服が汚れるから、地面に直接寝ないの! それにさっちゃんって気安く呼ばないでよね! わ、わたしだって子供の時より色々と成長したんだから……」
 皐月が控え目に、最近成長してきた自分の胸を誇示してそう注意するが、魏延は一向に起き上がろうとしない。いや、それどころかスヤスヤという寝息まで聞こえてくるではないか。
 皐月はぶつくさと文句を言いながらも、魏延が寝ていることを確認すると、そっと彼女の近くに腰を下ろした。
「ったく……いつだって自分勝手に行動するんだから、ぎーちゃんは。だいたい学校だってこんなにレベルの高いところに入らなくてもいいじゃない。そのせいで、わたしがどれだけ受験勉強大変だったか……」
 皐月は去年のことを思い出していた。魏延が、突然この学校に入るということを知らされたのだ。そして、彼女は自分勝手にも「さっちゃんも来年入ってきてな」と軽く言ったのだ。急なことに戸惑う反面、誘われて嬉しいという気持ちもたしかに存在していた。
「まったく、わたしが落ちてたらどうする気だったのよ」
そう言って、魏延の額をそっと撫でる。普段の彼女であったら決してしないのだが、なにしろ相手はスヤスヤと眠っているのである。
「本当、いつもこう出来たら良いのにな」
 皐月は思わずそう呟いてしまう。
「ほほう、なら今から素直になればええんや」
 隣に居た魏延がパカっと目を開けて、皐月の方を見ている。
「え、ぎーちゃん起きてたの?! さ、さっきのはちょっと。ち、違うのよ」
 皐月がしどろもどろになりながら弁解しようとするが、魏延は素早く彼女の腰に腕を回して、二人して桜の木の下に倒れこむ。
「や、汚れちゃうって!」
「ふふ、二人してどこまで汚れようやないか」
 皐月は、魏延の体の温もりにドギマギとしながらも口では抵抗を続ける。
「こんなところ、他の人に見られたら何て噂されるか……」
「噂なんて勝手にさせとけばいいんや。それにわてには今、さっちゃんしか見えないてないんやで」
 皐月はそう言われて、頬が一瞬にして赤く染まる。
「そ、それは物理的に今、この中庭にわたしたち以外いないってことなのね」
「ふふん、往生際が悪いな〜」
 魏延はそう言って、皐月の首元に口を近づける。
「な、なにをするつもりなの?!」
 間近に吐息を感じて戸惑う皐月をしり目に魏延は……


「おおおっと! ここで魏延選手のターン終了だ!!!」
 さきほどまで、桜舞い散る校舎だった会場が一瞬にして元に戻る。すると、観客席の方からは「ああ……」というため息が漏れた。


「今大会の最初を飾るに相応しい、素晴らしいスタートでしたッ!」


【カミーユターン】
 そしてカミーユ・ゴールド♂♀コンビのターンが始まると、また会場の風景が変わっていく……と思いきや、会場はまったく変化しない。
「ふふ、せっかくならあなたが自分の痴態を観客に見られて、羞恥に悶える姿をたっぷりと観察しませんとね」
 カミーユの視線の先には、可愛いピンクのフリルがたくさんついたドレススカートを着させられたゴールドの姿があった。
「い、いやあ! どうして背景が変わらないんですか」
 ゴールドは手でスカートの下から伸びている綺麗な生足を隠そうとするが、カミーユに腕を取られてしまう。そしてカミーユはゴールドの耳元でボソリと呟く。
「ほらほら、隠してはいけませんよ。せっかくあなたの恥ずかしい姿をたくさんの人たちに見てもらえるのですから。男なのに、そんな服着ちゃって……」
「み、見ないでください」
 ゴールドは耳を真っ赤に染め、顔を伏せて必死に耐えている。だが、カミーユは伏せている彼の顎をつかみ、無理やり会場の観客の方に視線を向けさせる。
「どうです? みんなあなたの姿に注目しているんですよ。殿方の中にもあなたに興奮している人がいるかもしれませんね。どうしますか? この試合の後に、その人に誘われたら」
「そ、そんな人いる訳ないじゃないですか!」
 ゴールドは頭を強く振って否定するが、カミーユは終始ニヤリとした顔を崩さない。
「ほら、でもこんな風に強引に迫られたらどうしますの」
 そう言って、カミーユは素早くゴールドの肩に手を回してくちびるを奪う。
「ぅんん???!!!!」
 一瞬何が起こったか分からなかったゴールドは、カミーユからの接吻に抵抗できなかった。
 自分の兄弟のような存在にくちびるを奪われる、ましてやこんな女装した格好で、と思うとゴールドの頭は一瞬にして沸騰してしまう。
 自分の中の何かを奪われる、そんな危機感を抱いてしまうようなカミーユの絶え間ない口撃にさらされたゴールドは、彼女が唇を離すとへなへなと地面に座り込んでしまった。
「うーん、とっても美味しかったですわよ。あなたのくちびる」
 だが、カミーユはまだ舌なめずりをしながら、地面にヘタってしまったゴールドを眺めていた。


「ここでカミーユ選手のターンも終了だ! 風景の変化がないから分かりにくいッ!!!」


【バトルフェイズ】
 実況がそう叫んでもカミーユはゴールドに対する攻めを続けているようだったが、ここでお互いのターンが終了して決着がつく。
「萌えゲージがどんどんと溜まっていくぅ! 魏延選手の方は大きな桜の花びら、カミーユ選手はピンクのドレススカートだッ!!!」
 お互いの頭上にはそれぞれ、萌えゲージを具現化した物体が浮き上がっている。大きさを比べると、若干魏延の方が大きそうだ。

「「萌え萌えバースト!!!」」

 二人が同時にそう叫ぶと、空中で桜の花びらとピンクのドレススカートが猛スピードで発射されてぶつかり合い、お互いを破壊していく。
「いっけえや!」
「壊しつくしなさい!」
 ぶつかり合っていた二つの物体はどんどんと、小さくなっていった。そして、先に消えたのはドレススカートの方だった。
「よっしゃ勝ったで!」
 魏延は嬉しそうに隣に居る皐月に抱きつく。
 わずかに残った桜の花びらが、カミーユの携帯ゲーム機に直撃する。すると、近くに居たゴールドの姿が徐々に透明になっていく。
「帰ったらみっちりとお仕置きですわよ! まあ、あなたにしては結構頑張りましたけど」
 カミーユはそう言って、ゲーム機を仕舞い込む。

「はは、あのカミーユ達にとっては負けも一種のプレイみたいなものですね」
 観客席で試合を眺めていたカーマインが呟く。


勝者:魏延文長
成績:3勝2敗


【一回戦第二試合】
アンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)
花叶院 綾音(かきょういん あやね)
    VS
桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)
桐生 りんね(きりゅう りんね)


「つづいては第二試合、右コーナーから『逆に珍しいかも? 正統派純愛カップル!』アンタル・アタテュルク&花叶院綾音カップルの登場だッ!!! そして左コーナーからは『ボーイ・ミーツ・チェーンソーガール!!!』桐生景勝&桐生りんねカップルの登場だッ!!!」


【アンタルターン】
 公園は夕焼けによって、淡いオレンジ色に染まっている。
 アンタルと綾音は小さなベンチに腰をかけたまま、しばらく何を言うでもなく佇んでいた。
「「・・・・・・あのう」」
 二人が同時に声を出す。
「あ、ごめん。そっち先でいいよ」
「わ、私も別にそんな重要なことじゃないし・・・・・・」
 そして、再び二人の間を沈黙が包む。
 最初に動いたのは、意外にも引っ込み思案そうな綾音だった。
 思い切ったように、アンタルの腰にガシっと抱きつく。
「あ、綾音」
 アンタルは思わず声を漏らしてしまう。普段ならこんな大胆なことをする女の子じゃないのに、と思っているようだ。
「せっかく誰もいないんですし……」
 そう言って、ムギュっと制服を押し付ける。アンタルには綾音の髪の毛の何とも言えぬ良い匂いや、少し早くなっている息遣い、制服ごしに柔らかい感触が伝わってきた。
 夕焼けはそのオレンジ色をさらに強め、それが二人の間の空気をどんどんと濃くしているかのように見えた。
 アンタルは、綾音が勇気を出してくれたのだから、今度は自分の番とばかりに口を開いた。
「……大好きだよ、綾音」
 今までなかなか言えなかった言葉を、綾音の耳元で口に出す。
「…わっ……私も…、だっ…だぃっ好きですっ」
 そしてベンチの前に差していた二つの丸い影が、ゆっくりと近付いて一つになった。


「リア充乙!!! 素晴らしい青春、いや橙春だッ!!! アンタル選手&綾音選手ありがとうございました」


【景勝ターン】
 ブブブブォオオオオン!!! ブブブブルゥオオオオオオ!!! 
 猛獣の荒々しい息遣いのような音が、景勝の家に響いた。しかし、彼は一向に焦った様子がない。
 そして今度は何かがぶつかり合うようなギュィイイイイイン!!! という音ともに、リビングの窓ガラスから轟音をあげて、銀色に光る凶器・チェーンソーが顔を出す。
 しかし、それすらも日常の一部であるかのように、景勝はゆっくりとカフェオレを飲みながらネットゲームに夢中になっていた。
 窓ガラスの下には、この事態を予測していたかのように新聞紙が用意されている。
「おーい、もうすぐ討伐イベ終わるからデートは少しだけ待ってくれ」
 景勝はパソコンに目を向けながら、窓の向こうにいる人間に呼びかける。しかし、チェーンソーはなおも窓ガラスを削り取っていく。
そして、丸い切り目が完成すると、ドカッ! という音と伴に、武士のような古めかしい着流しの服を着た少女が手にチェーンソーを持って侵入してくる。
「デェトではない、これは果し合いだ」
そう毅然に言うと、履いていた草履を脇に置いてからつかつかと景勝に近付いてくる。
「りんね、靴を脱いでくれって前回の頼みを聞いてくれたのはいいけどさ、その前に毎回チェーンソーで窓ガラスをぶち破るの止めてくれ」
「お主のアパァトの防人が、家に入れてくれんのが悪いのだ。しかも拙者のことをお主の恋人だとか、なんとかぬかしおって」
「いや、唸りをあげてるチェーンソーを持った人間をホイホイ入れたら警備員さんクビだって」
「ふむ、まあそんなことよりも果し合いじゃ。お主からの果たし状に書いてあった『最後の決着』とやらを付けんとな」
「あれっていちよラブレターのつもりだったんですけど……。いや、りんねに常識を求めた俺が悪かったな」
 景勝は諦めたように、パソコンの電源を落としてから立ち上がり、自分の部屋へと向かう。
「着替えるからちょっと待ってろよ」
「ふはは、たとえどんな鎧を着てこようともこの電刃丸の餌食にしてくれようぞ!」
 しかし、りんねはその言葉と裏腹に、景勝の姿が消えると、もじもじと手を動かしながら彼の部屋の方へと視線を寄せる。
 一方、りんねの高笑いを聞きながら、景勝はタンスの奥からそっと小さな箱を取り出していた。
「いやあ、結構金かかっちまったな。ま、使わないレアアイテムをオクに出して買ったからいいんだけどさ。さすがに、このダイヤモンドならりんねのチェーンソーでも砕けないだろう」
 景勝はしげしげと箱に入った指輪を眺める。
「俺のりんねへの愛はこのダイヤモンドくらい硬いぜ、ってちょっとベタすぎるかな」
 果たして、彼女は自分の告白を受け入れてくれるだろうか? そんなことを考えながら、景勝はちょっと恥ずかしがり屋なチェーンソーガールの元へと戻っていった。


「生と死のはざまを行き来する世界で最も危険なラブゥ!!! 景勝選手&りんね選手、恋愛成就を祈ってるぜ!」


【バトルフェイズ】
 お互いのターンが終了し、決着の時が来た。
 アンタルの頭上には巨大なベンチが、そして景勝の頭上にはもちろんチェーンソーが浮遊していた。
「「萌え萌えバースト!!!」
 合図と共に、ベンチとチェーンソーがぶつかり合う。しかし、大方の予想を裏切って、残っていたのはベンチの方だった。


勝者:アンタル・アタテュルク
成績:4勝1敗