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嬉し恥ずかし身体測定

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嬉し恥ずかし身体測定
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リアクション

4.

 測定記録を終えたアスカが1階へ向かうと、ちょうど鴉とルーツ、ラルムが体育館から出てくるところだった。3人に駆け寄ると、ラルムはぐずっている。すると鴉が指さして言った。
「こいつ、女だったぜ」
「えっ? そうだったの〜!?」
「ぐす……ぼく、男じゃないもん……」
「やたら逃げたがっていた理由もそれだったのだろうな」
 ルーツは疲れたような顔で苦笑した。
 まだ幼いという事もあり、そのまま最後まで男子のほうで測定を受けさせてしまった。何をするにも逃げ出そうとするラルムを捕まえるのには骨が折れた。
「あ、バスト3センチも大きくなってたのよ〜ルーツが教えてくれたバストアップ法のおかげね〜!」
「……23歳!?」
 一緒になって記録用紙を覗き込んだ鴉は目を疑った。
「アスカ、お前……俺より年上だったのか?」
「あれ? 言ってなかったけ〜?」
 何よりもまず年齢に食いついた。鴉だけでなくルーツも同じ様に目を丸くしている。鴉はルーツを肘で突いた。
「おい、おまえ、知ってたか?」
「いや……お酒を飲める年齢だとは分かってたが、20だと思っていた」
「何よ〜その反応」
「……詐欺だ……」
「というかこんな簡単に見せて良いのか、あいつ。女ってそういう所、気にするんじゃないのか」
「っていうかラルム……スリーサイズが全部同じって!?」
 スリーサイズの項目を埋める35の文字にアスカはひとしきり笑っている。
その姿はやはり年上には見えない。いや待てよ、ハタと鴉は顎に手を当てた。 
「年上彼女か…アリだな。胸もこれから大きくしていけば……」
「何か言った〜あ?」
「……何でもない」
 新たに見つけた野望を鴉はそっと胸に秘めた。


「遅かったのね」
「おう、ルルール、お前はどうだったよ?」
 久が体育館を出ると、ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が声を掛けてきた。
「つーかウチで俺以外の奴ぁ皆、種族的にどうせ変わんないつって断ってたってのに、何で今回に限って着いて来たんだ?」
「気になったから一応測りに来たのよ……案の定だわ。体重が増えてたわ……」
「そ、そりゃあ、ほら、アレだよ、あれ。筋肉ついたんじゃね?」
 咄嗟に口から出た言葉だったが、我ながら良いフォローだったのではないだろうか。
女姉妹が多い家系で育った久は、女性相手に体重の話題はタブーだと、デリケートな問題だと本能に刻まれているのだ。ヘタな事を言うと地雷を踏むことになる。

「筋肉?」
 今回は見事に成功したようで、ルルールぱちりと目をめたたく。
「この一年、お前も大概あっちにこっちに喧嘩に参加してたろ。後衛で魔術打ってるったって、戦場に出てりゃそりゃ身体も使うわ」
 そうか、と呟く。
「なるほど、きっとそれね」
「元から寧ろ異常に軽かったんだし、ちょっと位気にすんなって」
「そうは言っても、やっぱり複雑だわ」
肩をすくめて見せ、再び即定評へと目を落とした。決して覗くつもりはなかったのだが、数字が見えてしまった。
「つーか……何でお前ってその年で見た目止まってるんだ?」
「え?」
「いや、魔女だから年とらねえのは分かるが、何でガキの年何だろうってな。お前の趣味から考えたら不利じゃね?」
「そりゃ、私が不死の呪いを受けたのが13歳だからよ」
 何事も無いかのようにルルールは応えた。
「魔女は基本的に呪い由来の種族だから、当然『魔女になる前』があるのよ。あの頃はソレこそ今なんて目じゃない位筋肉ついてたんだけどね。武道の家の生まれだったし。え、何その顔。そんなに意外?」
「ま、まあな。それで?」
「魔道に傾倒する様になって、当然筋肉は落ちきったけど……肉体年齢は自然には変わらないし、弄るにも呪いが邪魔して難しいわ。」
「悪い……」
「別に謝る事じゃ無いわ」
 ばつが悪そうに頭をかく久をルルールは笑い飛ばした。
 しかし何か思い出したのか、神妙な顔つきになる。
「まあ、でも大変なのは本当ね……何せ胸大きくするだけでも300年以上かかったんだから」
「何に300年もの情熱燃やしてんだお前は」
シリアスな方面へ転がると思ったら、全く違うほうへボールが転がって行った。
ルルールはきょとんと首を傾げる。
「ああもう本当に歪みねえなお前は……!」



芹 なずな(せり・なずな)目的はタダ一つだった。
 高円寺海の身体測定データを知りたい! それだけだった。
 蒼空学園でひと目見た時から、なずなは海のことが気になっていた。もっと色々とお喋りをしたりして、海の事を知りたい。
 測定を受けている間は無理だから、終わった後に勇気を出して声を掛けてみようと誓ったのだが――どうにも尻込みしてしまう。周りには常に人が居るし、そうでない時はバスケ部の勧誘をしている。ぼんやりと眺めていると、ようやく海が一人きりになった。
 これはチャンスだ。今を逃したら一生海とは近づけないぞ、と自分を叱咤し、一歩踏み出そうとしたところで、ある生徒が海へと近づいていった。
「あ、三月ちゃん、海くん、お疲れ様っ」
早くに測定が終わっていた杜守 柚(ともり・ゆず)が体育館から出てくる杜守 三月(ともり・みつき)と海に話しかけた。
「どうでした? 私……0.3センチしか伸びてなかったです。二人とも背が高いから、羨ましいですね」
「何食べたら大きくなるんですか? あ、海くんの好きな食べ物とか。そこにヒントがあるかも」
「あ、それボクも聞きたい」
「何って……特に変わったもの食ったりはしてないけどな」
「そうだ、二人がのぞきの被害に遭ってないか心配だったんですよ。大丈夫でしたか?」
「それ、測定する前から心配してたみたいだけど、ボクも海も流石にのぞかれないよ。なあ」
「男だしな」
「そんなことないですよっ! 2人ともすごくかっこいいんですから!」
 思わず飛び出た本音に柚は顔を真っ赤にしてあわあわと良い訳をしている。
そんな柚の様子に首を傾げる海へ、三月は「お前、本当にぶいよな」と少しのイジワルを込めて言ってやれば「そうか? まあ、よく言われるけど」と納得いかないような顔で頬をかいた。