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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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 セレアナから連絡をもらったウォウルは、待機していた面々に声を掛けた。彼の背後では、結と朋美が交互に音頭を取って、スイッチを同時に押す練習が繰り広げられている。
「さて、準備が出来そうらしいよ。ボタンを押すタイミングは三十秒後、チャンスは一回だけだからね、しっかりやるんだよ!」
 一同が息を呑んだ。その中、近遠がウォウルに向かってやってくる。
「彼等には、連絡を入れなくても?」
「そうだね、これから入れるよ」
「それなら大丈夫ですよ。貴方が連絡を受けていた時、私が代わりにしておきました」
「…なかなかやるね、君」
「それはどうも」
 二人が笑顔を交わし、立っている。


 近遠から連絡を受けたセシルが、一同に声を掛けた。
「準備、整ったみたいですわ! 誰かボタンを押す準備、お願いいたします!」
 彼女の声が辺りに響くと、待ってましたとばかりの笑みで、ペルラがすっくと立ちあがた。
「私が押しますわ! 皆さんお忙しそうですものね!」
 そう言って、彼女は予め探っておいた祠へと向かった。と、その後をラナロックが追いかけてくる。
「これ、渡し忘れましたわ。ウォウルさんから借りた懐中時計。秒針まできっちり合っていますので、これを目安にボタンを押してくださいな。指定秒数は残り二十秒。頼みましたわよ」
「えぇ」
 ラナロックの笑顔に、同じく笑顔を返すペルラが祠の中へと消えた。
「さて――あと、十五秒。十、九、八…」
 カウントダウンを始めつつ、目の前に何とも歪なスイッチに指を掛ける彼女。
「三、二、一…はい」
 洗濯機のボタンを押すような緊張感のなさで持って、彼女は目の前のスイッチを押す。
「あら――何も、起こりませんわね。もしかして失敗してしまったのかしら…」
 さして悪びれもせず彼女は祠から顔を出した。

     ◆

 今まで雲一つなく晴れ渡っていた空に、そこで異変が生じた。真っ黒な雲が、どこからともなく現れたのである。
「こ、これは不味い“テル”! 雨が降ってしまう“テル”」
「逃げる“テル”」
「全員撤退だ“テル”!」
 雨雲を見た途端、尋常でない数いたてるてる坊主たちが、一斉に、一目散に、脱兎の如く逃げ始める。
「…どうやら成功、したみたいね」
「アキ姉さん、ご苦労様です」
「えぇ、レオナもね」
 アキとレオナが互いに讃え合っているいると、雅羅が祠から現れた。
「成功、したみたいですよ!おめでとうございます」
「ああ、うん。ありがとう」
 急いで駆け寄ってきた柚が笑顔で雅羅に声を掛ける。
「さて、皆。此処で提案なんだが…」
 英虎が、若干不安げな表情で空を仰ぎながらに呟いた。
「早いとこ、戻らないか? この調子だと、俺たちだいぶ降られるぞ…雨に」
「それは困りますわっ…」
「俺もだ、かなり不味い事になる!」
 東口付近にいた面々は、慌ててラナロックたちがいる中央口付近へと戻って行った。


 当然、ウォウル達西口側の面々も、その不思議な光景を目の当たりにし、成功に喜びつつもただただ、呆然としていた。
「さて、成功したみたいですしね。僕たちもそろそろ蛙君のところに戻るとしましょう」
「雨降られると厄介だしなぁ…」
 ウォウルに続き龍矢が面倒そうに言うと、彼の意見に賛同した一同がゆっくりと移動し始める。
「成功、おめでとうございますわ。ウォウル様」
 と、綾瀬が別段嬉しそうでもない声色でウォウルに声を掛けた。
「ありがとう。君たちのおかげだよ」
「いいえ、私はただ、見ていただけですわ。貴方様と同じように」
「…ははは」
「それにしても――」と、綾瀬がカラカラと、愉快そうに肩を揺らしてウォウルに言うのだ。
「相も変わらず、貴方様は随分お人好しですのね。もしもそのお人好し、更に続けていかれるのでしたらもう少し黙っておられる事をお勧めしますわ」
「ふぅん、どうしてまた」
「“黙っていれば”それなりに整った顔立ちでしょうから、ね」
 綾瀬は何処か含んだまま、そこで言葉を停止した。ウォウルとしても、彼女の言葉の意図を理解したらしく、「困ったね」と、ただの一言呟くだけだった。