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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

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葦原明倫館・春の遠足in2021年6月

リアクション

「唯斗のやつ、またハイナに呼び出されていたが……どうせ厄介ごとだろう。
 さて、わらわは食堂へ行かねばな」

 パートナー達と別れ、独り別行動をとるエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)
 行く先は食堂の、しかも厨房である。

「こんにちは、今日もよろしくお願いします」

 実はエクス、休日を中心に厨房で料理をつくっていたのだ。
 これがまた評判もよく、いまでは重宝がられている模様。
 島外から、わざわざエクスのいる日時を狙ってくる者もおり、葦原島全体にもよい効果をもたらしていた。
 ちなみにファンのあいだでは、いつのまにか『厨房の女神』と呼ばれることになっていたのだとか。

「セルマくん、リンちゃん、こっちこっちー」
「っちょ!」
「葦原明倫館に転校してきたなら、どこよりも先に食堂に行かないと!
 ココの食堂、変わってて面白いんだよー」
「でもそんなに強く手をひかれてもつらいです痛い痛い!」

 開店まもない食堂に、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)がやってきた。
 セルマ・アリス(せるま・ありす)の訴えなどお構いなしに、カウンターへと近づく。

「あ、リンちゃんは責任もって紫焔が連れてきてね!」
「わかった」
「ここが食堂ですか……他校と違い、とても独特な雰囲気を持っているように思えます」
「最初は驚くだろうけど、慣れると気にならなくなるから大丈夫だよ」
「はい、早く馴染みたいものです」

 氷雨の言葉に、敦賀 紫焔(つるが・しえん)はしかと頷いた。
 リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が、物珍しそうに食堂のなかを見まわしている。

「食堂のおばさんにも今後お世話になるだろうし、挨拶を……って。
 カウンターの上に吊り下がってるメニュー名が……謎だ」
「あ、女将さん。
 彼女達ね、ボクのお友達のセルマくんとリンちゃん。
 最近転校してきたんだよー」
「って『彼女』じゃないです!!」
「フフフ、セルマくん、細かいこと気にしちゃダメだよ」
「俺はれっきとした男ですから!」
「大丈夫、セルマくんは立派な女の子だから」
「ホントに違いますから……信じてくださいね、女将さん。
 俺、騎士の信条を持つ身として、『守る』ということの意味をもっと深く理解したいと思ったんです。
 その一環として武士道を学びに葦原島へ来たのですが、まだそう時間も経っていないのでわからないことだらけで。
 正直この学校のことも、まだあまり理解していないんですよね」
「女将さん、こんにちは」
(……やっぱり、あの子、女の子なんだね)
「あ、リンちゃんこっち座りな」
「紫焔さん、そちらの席ですか?」
「うん、氷雨ちゃんの近くにいると料理、端からとられちゃうからね」
「あ、ありがとうございます。
 女将さん、今日はよろしくお願いします」

 セルマと氷雨のあいだで繰り広げられる会話に、女将以外の面々も笑い出す。
 一方、1つあいだを空けて座る紫焔とリンゼイは、平静を装っていた。

「注文したいけど……これってどんなのなんだろう?
 なにが来るか分からないものばっかりだ……こればっかりは氷雨さんに任せよう」
「僕達も、注文は氷雨ちゃんに任せて待ってよう」
「はい」
「セルマくんとリンちゃんは、初めてだからボクのお勧めでいいよね?
 注文お願いしますー!
 えっと、じゃあ、ボクは『焼きそヴぁ』で紫焔が『丼兵』。
 でセルマくんが『滅殺らぁめん』の『せぅゆ』と『にぼし』つきで、リンちゃんが『弱肉定食』でおねがいしますー」
「ってにぼしってなんですか!?
 なんかこう小皿にちょこんとにぼしが載っているのを差し出される像しか思いつかない!!」
「大丈夫、ココのお料理、名前面白いけどおいしいから。
 それに……にぼしは、ある意味インパクト大だしね」
「インパクト大ってなに?
 どうなってるの!?」
「にしても、セルマくん達が葦原に転校してきてくれてボクすごくうれしいなー。
 これから退屈しないですみそうだし……いろんな意味で」
「……なんかすごく不穏なことを言われた気がした。
 ねえ!
 そうでしょう、そうですよね!!」

 にぼしといい退屈といい、セルマの抗議をすっかりスルーしていく氷雨。
 注文こそしてくれたものの、それすらなにかの前振りかと思えてくる。

「もう学校には慣れた?」
「学校はまだまだこれからと言ったところでしょうか」
「そっか」

 氷雨にいじられたくない一心で、セルマと雑談を始める紫焔。
 幾度か話題を振られそうにもなったのだが、完全スルーを決め込んだ。

「あ、料理きたー」
「にぼし……ない?」
「食べてみてからのお楽しみだね♪
 それじゃあ、いただきますー」
「あ、こっちも料理来たね、いただきます」
「いただきます」

 料理が揃い、一斉に食べ始めた横一列。
 メニュー名からすれば、味はどれもまともすぎるくらいまともだ。

「えっと、おしょうゆを……」
「あ、お醤油とりますね」
「「あ……」」
「……ご、ご、ごめん!
 悪気はないから!」
「いえこちらこそ余計な手出しをしてしまってごめんなさい!
(ああ、なんだか顔が熱いです!
 なぜでしょうか……)

 醤油をとろうと伸ばした紫焔の手が、リンゼイの手に触れた件。
 紫焔もリンゼイも、それはもうすごい焦りよう。
 気づいていないのか、お互いに意識し合っているみたいであった。