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ザナドゥの方から来ました

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ザナドゥの方から来ました

リアクション

                              ☆


「舐めてんじゃねぇぞーーー!!!」
 御弾 知恵子の怒号がリングに響き渡った。
 その場の全員をして相手にすると宣言したバルログ リッパーの言葉に激怒した知恵子は、早速リングに上がってリッパーへと挑んだのである。

「はーっはっはっは!! 当たらなければどうということはない!!」

 だが、全員を相手にすると言ったリッパーも、別に自殺行為をしたかったわけでもない。
 単純に、この場にいる全員を相手にして勝ち残る自信があるのだ。
 間合いを詰めてゼロ距離から発射されたはずの知恵子の銃弾をまるで後方に倒れこむように回避し、そのまま真上に高くジャンプする。
「速いっ!?」
 人間型の生き物としては、リッパーの動きはありえないほどに速い。
 知恵子の『HAJIKI道』は残念ながら、本人が思い込んでいるだけで実際には知恵子の実力の二丁拳銃で戦わなければならない。
 そして、実力だけではリッパーはやや荷が重い相手だった。
「ちっ!!」
 真上から降ってくるリッパーに対して銃弾を放つ知恵子。
 だが、リッパーはその銃弾の間をすり抜けて知恵子の顔面に蹴りを放つ。
「あうっ!!」
 蹴りを受けて、知恵子はリングの上を転がった。
 そこに、クロセル・ラインツァートが従者であるガーゴイルを放つ。
「女性になんということをするのですか! 捕まえなさい!!」
 リッパーの背後から抱きつくようにガーゴイルが迫るが、その腕を掴み、空中でくるりと一回転したバルログは、勢いを利用してガーゴイルをクロセルに投げつけた。
「ほら、返すぞ!!」
「うおっと!! ――なかなかやりますね!!」
 辛うじて投げ飛ばされたガーゴイルを受け止めつつ、クロセルはその動きを見切ろうとする。

「む――ちょこまかとッ!!」
 エヴァルト・マルトリッツもどうにか攻撃しようとするが、そのタイミングをつかめないのが実情だ。
 リングに張られたロープを利用して飛び回るリッパーのスピードは止まるところを知らず、長い爪で誰彼構わずに繰り出される攻撃はまるで嵐のようだ。
 無論、それで倒れるエヴァルトではないが、確実な勝利を掴むために、必殺の一撃は最後まで取っておきたいのだ。

 だが、リッパーはそんな事情などお構いナシに、更にスピードを上げていく。
「ふん……どうやらトラップが解除されたか……ならば、こちらも本領を発揮できるというものだ!!」

「何だとっ!?」
 リッパーはリング上のロープを利用してさらに勢い良く飛び、周囲に張り巡らされた金網へと飛んだ。
 そのまま、反動を使ってロケットのようなスピードでリング上の敵へと襲い掛かる。

「っと!! 何とかして捕まえないと!!」
 緋ノ神 紅凛も焦りの声を上げるが、そう簡単に捕まえることはできないでいた。
「ちっ……少しでも足止めできればな……」
 呟いた紅凛の後ろから、リッパーが話しかける。
「できれば、どうだというのだ?」
 紅凛の死角に現れたリッパーは、背中から紅凛を持ち上げてリングに叩きつけた。
「ぐあっ!!」
 背中から落とされた紅凛の肺から酸素が抜ける。苦しさの声を上げた紅凛だが、すぐに跳ね上がるように立ち上がった。
 だが、その時すでにリッパーの姿はない。

「ははは、どうした人間ども!!」

 金網に手をかけたリッパーが、高所から対戦者たちを嘲笑う。
「……さすがに簡単にはいきませんね。これだけのメンバーが揃いながら、捕まえることができないとは……」
 リュース・ティアーレは歯噛みする。
 確かに、スピード重視のリッパーの一撃は軽く、致命傷を負ったものはいないが、このままでは徐々にこちらの体力が削られていくのは明らかだった。
 こちらの動きが鈍れば、そこを狙ってリッパーがトドメを刺しに来るのは明白。


「――なら、少しでも動きを止めればいいんだろ?」


 いつの間にか、榊 朝斗がリッパーと同じくらいの高さの金網に登っていた。
 『機晶型飛行翼』と空中を飛び回ることができる『ヴィントシュトース』を使って飛んだ朝斗は、リッパーの動きをトレースして金網まで上がったのである。
「ふむ……条件を同じにしたつもりか?」
 リッパーは、反動を利用して金網を蹴り、朝斗と距離を取る。
「――逃がさない!!」
 だが、朝斗もその動きは読んでいた。
「何ッ!?」
 リッパー同様に金網を蹴り、朝斗は一直線に空中の敵へと飛んだ。
 『黒檀の砂時計』により自らのスピードを極限まで高めた朝斗は、両手に持ったトンファーブレード『ウィンドシア』と『タービュランス』で斬りかかる!!


「受けてみろ――この一撃ッ!!!」


「ぬうううっ!!?」
 まっすぐに突っ込んでくる朝斗のスピードはようやくリッパーを捉えることができた。
 両手のトンファーブレードがヒットすると同時に、朝斗の轟雷閃が放たれてリッパーの身体を焦がす。
 そのまま、ヴィントシュシューズで空中をけった朝斗は、回し蹴りでリッパーを弾き飛ばした。
 リッパーの身体が金網に激突したその瞬間、その金網を伝って電撃が走る。
「ぐあぁぁぁっ!?」
 リッパーから驚きの声が漏れる。金網の電撃は侵入者が解除したはずなのに、と。

「――へっ!! 『ゆだんたいてき』ってな!」
 それは、知恵子のパートナー、四番型魔装 帝の仕業だった。
 金網のトラップが解除されたことを知った帝は、そこを逆手に取ってリッパーが金網に触れた瞬間、外側から雷術を撃って金網伝いに電流を流したのである。
「ざまーみろっ!!」
 完全に不意を突かれた形のリッパー。そこに、帝の雷術以上の電撃が襲った。
「な、何だとっ!!?」
 それは、今度こそ解除されたはずの電撃トラップの威力だった。

「――よっしゃ、うまくいったぜ!!」
 そこに現れたのは、レイステッド・スタンフォルドとイヴ・クリスタルハート、そしてアイビス・エメラルドとハロー ギルティの4人だった。
「どうやら、間に合ったようですにゃ」
 アイビスは、朝斗とルシェンを確認して呟いた。
「さすがレイ、タイミングもばっちりッ!! お姉様、無事ですかーッ!?」
 イヴはリングの中の紅凛に向けて声をかける。レイステッドはアイビスが停止させたトラップのシステムに干渉して、トラップのタイミングを自由に操れるように細工してきたのである。
 その即席装置は、レイステッドの手にある。
「モモ、モモは無事かニャ!?」
 と、ギルティはパートナーの姿を探した。
 そのコンクリート モモはといえば、リングの傍でうなだれているところだった。

「――あれ、何で私ここにいるんだっけ?」
 少しきょとんとしたモモ。どうやら、電撃とザナドゥ時空の影響から逃れたらしい。
「オー、無事でよかったネ!! モモを操るなんて、なんという奴ネ!! さあみんな、今こそ正義の鉄槌を下すのニャ!!」


「――言われなくても!!」
 金網の電撃が止んだ。そのタイミングを逃さず、知恵子の両手の魔銃からクロスファイアが放たれた!!
「ぐうぅっ!!」
 今度は見事に命中し、電撃に撃たれたリッパーの身体をさらに焦がした。

「行くよっ!! こちとら昨夜の営みで気力は充分さ!!」
 ドサクサに紛れて何かを口走った紅凛も、金網から降りてきたリッパーに向けて鳳凰の拳を放つ!!
「げふぅっ!!」

「ちょ、ちょっと紅凛!? 今何か言いましたか!?」
 この間、紅凛と両想いになった奏 シキは思わず声を上げるが、その前にイヴとレイステッドの追求を受けることになった。
「お、お姉さまにナニをしたんですかッ!?」
「おいおいおい、この場にあいつがいなくて良かったな!!」
 あいつ、とはやたらと生真面目なもう一人のパートナーである。

「さっきのお返しですよーっ!!」
 チャンスを伺っていたクロセルは、両手の超伝導ヨーヨーでリッパーに攻撃を加えた。
 ひるんだ隙にガーゴイルがリッパーを羽交い絞めにし、さらにそこにロケットパンチを叩きこむ!!
「うごぅっ!!」

 さすがにこの一連の攻撃は効いた。
「おのれっ!!」
 と、リッパーは腰に差した鞭を手に取る。
 この局面で取り出すのだから、この鞭もただの鞭ではないのだろう。先端に凶悪な棘がついたその鞭は、まるで血が滴るように赤く濡れている。

 ――だが。

「――させませんよ」
 通路から飛来した銃弾が、その鞭を持つリッパーの手を弾いた。
「何ぃっ!?」
 矢野 佑一だった。
 魔銃モービット・エンジェルの銃口から煙が揺れている。通路全体のトラップが解除されたことに気付いた佑一たちは、思ったよりも早く対戦場にたどり着くことができたのである。

「――!!」
 鞭を失い、再びロープへと飛ぼうとするリッパーだったが、それは佑一のパートナー、シュヴァルツ・ヴァルト(しゅう゛ぁるつ・う゛ぁると)が許さなかった。
「おっと――残念だったな」
 紅の魔眼で魔力を解放し、奈落の鉄鎖でリッパーの動きを止め、さらにリングに押し潰す。
「どういうわけか今日は調子がいいんだ……ふん、まるで潰れたカエルのようだな」
 本来ならば、強力な魔族であるリッパーを一人の奈落の鉄鎖で押しつぶすなどできるわけはない。
 しかし、どうやらシュヴァルツはザナドゥ時空との相性が良かったらしく、本来ならばありえないほどの力を発揮することができていた。
「さあ――お前らが今まで奪ってきた命の数と同じだけの――後悔をするがいい」

「――さすがに、ここが年貢の納め時ですよっ!!!」
 そこにリュース・ティアーレとグロリア・リヒトが襲いかかる。
 リュースが手にした海神の刀を振るうと、身動きの取れないリッパーの長い爪が刈り取られた。
「さあ、行くわよっ!!」
 その隙を縫って、グロリアの轟雷閃が炸裂する。
 さらに、リュースの鬼神力を込めた拳がリッパーの仮面にめり込む。
「――そろそろ……終わりにしましょう!!」
 最後に放った蹴りがリッパーのみぞおちにヒットして、その身体を大きく真上に飛ばした。

「勝機ッ!!」
 そこに、エヴァルト・マルトリッツが最後の攻撃を加えた。
 まず、アクセルギアで加速した状態から、空中の相手の腕を取って自分の腕に巻き込む。
「うおおおぉぉぉっ!」
 そのまま空中を回転し、勢いをつけて関節を極めながらリッパーの顔面をリングに叩きつける!!
「がッ!!」
 一度バウンドした相手の額に掌打を叩き込み、そのまま眉間に膝を落としながら後頭部に全体重を乗せる!!
「――!!」
 さらに両脚を首に絡ませて両手で逆立ちをするように跳ね上がり、絡め取るように回転しながら脳天に肘を落としながら首を支点にして相手の体重で首を折るっ!!!


「――」


 全身をサイボーグ化したエヴァルトだからこそできる殺人技だった。
 そのままぴくりとも動かなくなったリッパー。確認するまでもない、さすがにあの状態で立ち上がったらアンデッドだ。


「――ふぅ」
 その様子を見ていた葉月 可憐は、アリス・テスタインの用意していた椅子から立ち上がった。
「……可憐、帰るの?」
 アリスが声をかけるが、可憐は答えない。ただ、興味を失ったようにリッパーと、奥の通路へと続く扉の方を眺めていた。
 本来ならば、戦いの勝者として、ブラックタワーの向かう筈なのだが。


『――どこへ行くのだ、可憐?』


「え?」
 可憐は、突然誰かに耳元で囁かれ、驚いた。
「どうしたの?」
 その様子に驚いたアリスが声をかける。
「え……今……」

『私と、あの扉をくぐるのではなかったのか?』
 間違いない、それは今さっき首を折られて死んだはずのリッパーの声だった。
「え……どうして……?」
 驚く可憐に、リッパーは説明する。
「驚くには当たらない。あれは私の仮の肉体……人間どもと遊んでやるための玩具に過ぎん。
 まあ、アレを失ったために、再び数百年は眠りにつかねばならぬだろうがな……とはいえ、約束は約束だ。
 お前さえ良ければ……約束を果たそう。我とともに、あの扉を通り、ブラックタワーへと向かうか?」
 可憐は、複雑な表情で扉を見つめた。
「……私は……」

「――ところで、噂のイケメンは結局、どれほどのものだったんでしょうか?」
 クロセルの声が遠くで聞こえる。
「まあ、気にはなりますが……確認します?」
 それに応対するリュースの声も。
「……やめといたほうがよさそうだよ」
 ベルトから『金水晶』を回収する朝斗の声も、どこか遠くに聞こえた。

「……」
 しばし迷った末、可憐はその一歩を踏み出した。


 自分で選んだ、後悔しない道を。