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リアクション
第14章 迎賓館〜妖魔の宴 2
「はぁっ……はぁっ……。ま、まいりましたわ、バルバトス様。私は今日よりあなただけに従順な奴隷……どうぞいかようにもこの身をお使いください……」
高揚して桜色に染まった裸体を余韻に震わせながら、つかさはバルバトスの足元にひれ伏した。指に口づけんばかりの彼女の背中に、バルバトスは手をめり込ませる。
「!!」
「あいにくだけど、人間の使う従順って信じられないのよね〜。……ふふっ。さあこれで、あなたは真実私に従順なウサギちゃんになった」
むしり取った魂を壺に入れていると。
「さすがバルバトス様でございます」
そんな言葉がドアの方から聞こえてきた。
つかさが施錠したはずのドアが開いており、女悪魔が恭しく一礼をして立っている。
「おまえは?」
「お忘れでございますか。あなたさまの忠実なしもべを」
「やぁね〜。忠実なしもべって掃いて捨てるほどいるのよ〜。分かるわけないじゃなーい」
「……さようでございますか。それはすべて私の不徳の致すところ。このアンナローゼ、ご主人様の御目にとまるよう、これよりいっそう精進してお仕えさせていただく所存にございます。
その手始めといたしまして、こちらの女2人を献上させていただきたく存じます」
ぐい、とアンナローゼ・リウクシアラ(あんなろーぜ・りうくしあら)は後ろ手に握っていたロープを引いた。
「あっ……」
首に巻かれたロープを強く引かれ、伊吹 九十九(いぶき・つくも)がアンナローゼの影から転がり出る。同じく、彼女の後ろにつながれていたハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)もまた、床に倒れ込んだ。
「このようなおもちゃでは到底あなたさまの夜のお相手は務まらぬかもしれませんが、この一時の慰みもの程度であれば事足りましょう。なに、壊れたなら捨てればすむだけのこと。遠慮なく、存分にお楽しみください」
(……こんな悪魔達と契約するなんて……。霧島は、最低の屑だわ!)
慇懃に頭を下げるアンナローゼを見上げて、九十九は心の中でパートナーの霧島 玖朔(きりしま・くざく)を罵った。
だが今そんなことをしたところで何もならない。当然、目の前にいたら八つ裂きにしても足りない目にあわせてやるのだが、玖朔はいないのだ。このことを知っているかどうかもあやしいくらいだ。助けなど全く望めない。
かくなる上は、ただひとつ。
やるしかない!
九十九は身にまとったシャウラロリィタの裾を両手でたくし上げ、レースのついたドロワーズを見せながら、その熟れきった果実のような肉体を堂々とさらしてベッドの上で足組みしているバルバトスに向かい、誘惑を仕掛けた。
「ど……どうぞご主人さま……このおろかな私めを、かわいがってあげてください……」
俯きかげんになり、ういういしく見えるよう、たどたどしくつぶやく。もちろん大半は彼女の隙を誘う演技だが、女性を誘っているという羞恥が頬を赤く染め、それが自然な恥じらいを演出していた。
「あらあら。それで誘惑しているつもりなの〜? ばかな子ね〜」
九十九の前に立つバルバトス。
「誘惑ってこういうのを言うのよ、子猫ちゃん」
見下ろしてくるバルバトスと目を合わせる。瞬間、全身の血が熱く脈打った気がした。
一瞬で燃え上がる情欲――魔の誘惑だ。そうと分かっていても、九十九にも体の反応は止められない。
「おねえ……さま……」
とろんとした目つきで九十九がつぶやいた。吐息を飲むようにバルバトスの唇が唇をふさぎ、服を引き破いていく…。
「ああ……どうか……もっと、私に触れて……」
「やめて!!」
もう耐えられないと、ハヅキが叫んだ。
「……は。私は一体何を……?」
正気に返った九十九がまばたきをして、重い頭を振る。その肩を、とん、とバルバトスが突いた。
「ウサギちゃん〜。この子、あなたにあげるわぁ。好きにいたぶってあげてちょーだい〜」
「はい♪ バルバトス様っ」
嬉々としてつかさが九十九を羽交い絞める。
「な、何を――」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですわ。あのね、いたぶるって、とっても気持ちのいいことなんですのよ♪」
笑顔で脇に転がっていた袋から取り出したのは、炎のクリスタル――。
「……やっ……ああっ」
九十九が百戦錬磨のつかさに押し倒され、いたぶられている横を抜けて、バルバトスはハヅキに近づいた。
「さあやめてあげたわよ〜、子猫ちゃん――というより山猫ちゃんかしらぁ。そのかわりに、あなたは何をして楽しませてくれるのかしら〜?」
「何も……何もするもんですか、あなたなんかのために!!」
「あらそぉ?」
ひざまずいているハヅキを蹴ってひっくり返し、足で踏み敷くと、バルバトスはつかさを呼んだ。
「はぁい、バルバトス様。今行きます〜。――九十九様、少々お待ちくださいね。この炎のクリスタルはあなたに貸しておいてさしあげますから、動かないでいてください。……もちろん、動きたければ、動いてもいいんですけれどね♪」
床に頬をつけて切れ切れの息をするばかりの九十九にささやき、つかさはバルバトスの横に進み出る。バルバトスは彼女にロープを渡した。
「これであの山猫ちゃんを縛り上げてちょうだい〜」
「分かりました」
もちろんつかさがやる以上、ただぐるぐる巻きに縛るわけがない。ハヅキが屈辱にギリギリと奥歯を噛み締めるような卑猥な縛り方をした上、最後に胸の下で縛ったロープを足の間をくぐらせて、後ろ手に縛ってあった手首に巻く。ちょっと短めに。くいこむくらい。
「あまり動かないことをお勧めしますわ。でないと、大切な場所がとってもとっても恥ずかしいことになってしまいますわよ♪」
「あなた……あなたも、悪魔ね……!!」
「いいえ。私はバルバトス様に従順なウサギちゃんです♪」
ちゅっとキスをして、つかさは九十九の元へ戻って行く。ちょっとハヅキに未練があったが、こっちはこっちで楽しいおもちゃをもらったことだし。
「さぁ山猫ちゃん〜。あなたはどんな声で啼くのかしら〜? あなた、私のためには何もしないと言ったけど、それがどれだけもつかしらね〜?」
ハヅキの横には、いつの間にか乗馬鞭を握ったバルバトスが立っていた……。
邪魔にならないよう壁際に移動し、したり顔で見守っているアンナローゼ。
(――やっぱ、混ぜてもらえないんだろーなぁ……。って俺、一体何しに来たんだ?)
お預けくらったまま忘れられた犬のような情けない思いで、バイアセートはぽりぽり頭を掻いた。
* * *
「これは……くそ。遅かったか」
霧島 玖朔(きりしま・くざく)がこのことを知り、部屋に駆け込んだのは、すでに何もかも終わったあとだった。
ハヅキと九十九は抱き合った姿で床に横たわり、ともに汗の拭き出した体で荒い息をついている。目を開けてはいたが、思考が停止してしまっているのか、ぼんやりとした表情は、玖朔を見ても玖朔と認識できているように思えなかった。
だが、まだ息はある。そのことにほっとする。抵抗した末、殺されているのではないかと気が気でなかったのだ。ハヅキの全身には赤く細長いあざがいくつもついていたが、命に別状があるほどのけがではない。
「まぁ玖朔。早かったわね」
バルバトスと同じベッドに寝ていたアンナローゼが頭を持ち上げ、彼を横目に言う。
「早くなんかないさ……!」
「思っていたより全然早いわよ。ねぇ、あなたも混ざる?」
「よしてくれ」
普段は性的にだらしない玖朔でも、さすがにこの光景は見るに堪えない。
顔をそむけ、吐き捨てた。
「じゃあ何しに来たの、あなた」
もちろん、九十九とハヅキを助けるためだ。2人がまだ生きていればしようと考えていたことを思い出し、玖朔はベッドに目を戻した。アンナローゼの向こう側にいて、つかさと腕をからませあっている魔神バルバトスに、彼は告げる。
「2人の命と安全を保障してくれるならば、俺は何でもする」
と――。
「命と安全の保証ですって。つくづくあの男もおめでたいわね」
玖朔の消えた部屋で、アンナローゼは高笑った。
「魂を取られたら、どうやったって死ねないのに」
床に転がったままの2人を見る。彼女の視線に気づいたか、ごろんと九十九がこちらに寝返りを打った。ベッドにバルバトスの姿を見つけて、その眼差しが変化する。焦点を結び、生き生きと輝き始めた。
「おねえさま……どうか私を……」
四つん這いのまま、ベッドへ近づこうとする九十九。
「守りたいのなら、心の方を持ち出すべきだったわね」
最上の魔と交わった者たち。はたしてこの子たちは、どこまで以前のままでいられるかしら?
恍惚の表情でバルバトスの足を舐める九十九の姿に、アンナローゼはくつくつと嗤った。
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