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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回)
【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回) 【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第1回/全2回)

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第4章 アガデの都〜臨時避難所

「分かった。こっちに避難してきている家の人たちに、それが最初からある物か訊けばいいんだね? ……うん。はい」
「お帰りなさい。リゼネリさん、何て言ってらしたんですか?」
 通話を終えて戻ってきた高島 真理(たかしま・まり)南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)が立ち上がって出迎えた。
「もしかしたら留守宅に不審物が設置されてる可能性があるから、それの確認をとってほしいって。ほら、見回りしてる騎士さんとか手伝ってるリゼネリさんとか、そういうの分からないじゃない」
「ああ。そうですね」
「うん。だから、ボクたちが代わりにこっちに避難してきてる人に訊くことになったから。一応気にかけておいてくれる? 鳴ってもボクが気付かなかった場合に備えて」
「分かりました」
 秋津洲はこくんと頷き、先までの作業に戻った。
 何かというと、食材の書き出しである。もともと前もって準備されていたのだが、どうやら想定以上の人数がこちらに避難してきそうなことが判明したのだ。
 最低でも、今日の昼食・夕食、そして明日の朝の分がいる。昼食と夕食は間に合いそうだが、明日の朝食となると……。
 なるべくおなかにいっぱい入る調理法――お粥とか――を考えるが、それにも限りがある。
「やっぱり買い出しが必要ですね」
 どうやっても無理。観念して、秋津洲はペンを転がした。
 彼女の隣で同じく電卓をはじいて計算していた真理も、うーんと伸びをする。
「こっちも駄目だー。どうやっても場所が足りそうにない。これ以上収容したらすし詰めになっちゃう」
「でもまだお昼前ですから。午後からはさらに増えますよ」
 夜になったらさらに増える。
「うん。だからね、計算間違いなんだよ、最初から」
 計算用紙を持ち上げて、ふーっと息をついた。
「これ計算した人、かける数値間違えてる。子どもで大人も一緒に計算してるよ。食べ物の方は買い出しでなんとかなるだろうけど、こっちは無理。ベッド全部運び出して、床に毛布敷いてザコ寝してもらっても無理なものは無理」
「困りましたね……」
 真理は椅子を引いて立ち上がった。
 ここでいくら手をこまねいていたところで場所は広がらないし、人は減ったりしないのだ。
「責任者と相談してくる」


「え? ほんまか?」
 臨時避難所責任者大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、真理からの報告を聞いて目をぱちくりさせた。
「全然足りない。あと1000人くらい来るんでしょ? ここの収容能力はせいぜいあと300人だよ」
「あー、どうりでなぁ。みょーに手狭な感じがしてたんや」
 ぐるっと周囲を見渡す。
 不要なクローゼットとか一切合財を運び出され、壁と床だけになった簡素な室内。もちろん無駄な空間を必要とするドアもはずされている。それでも、動き回る人々でかなり混雑していた。
「この人たちが全員横になれるとは、全然見えへんもんなぁ」
「うん。壁際になった人に座って寝てもらっても無理」
「いや、でけてもそれはさせられへんわ」
 ここを頼って避難してくるのは自分を頼ってくれるのと同じ。避難所責任者としては、その人たちに不自由をさせたくない。
「セテカさんにこちらから頼んで任せてもろたんや、こっちにも意地あるわ」
 泰輔はしばらく窓の外をじーっと見つめたのち。やおら立ち上がり、上着をはおった。
「どうするの?」
「もっと広い避難所見つけてくる。そっちへ移動や」


「……って。なんかもう、こっちへ来てからバタバタしっぱなしだよねぇ」
 買い出しの袋を抱えて街路を歩きながら、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は嘆息をついた。
 今夜のメニューでジャガイモの冷製スープを作るらしく、紙袋の中身はほとんどジャガイモだ。重いドリンク類は配達してもらえることになったから、買い出しは1度ですみそうだった。
「仕方のないことさ。準備期間が短ければ、どうしたところで不備は出る。まだ早めに気付いただけましさね」
 同じく買い出しを泰輔に命じられた讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が答える。
 こちらは数の不足している果物だ。オレンジやグレープフルーツなどが大量に入った袋は、柑橘系のさわやかなにおいをたてている。
「まぁね。運よく新しい場所も見つかったし」
「泰輔のお手柄だな。いや、お口柄か」
 そのときのことを思い出し、ククッと顕仁が笑う。
 彼は、泰輔がどこへ行くのかを知って、面白いとついて行ったのだ。泰輔が新しい避難所と決めた先、そこはなんと、女神イナンナを祀る大聖堂だった。
『部屋の窓から見てたらここが目に入ったんや。ここやったら邪魔なドアや壁なんちゅうモンもないしな』
『だが、聖堂だよ? 泰輔』
『だからええんやんか。信徒のためやったらイナンナやってひと肌脱いでくれるわ』
 泰輔は迷う時間も惜しいとばかりにここの責任者である神官に突撃し、口八丁手八丁で交渉した結果、みごとこれを提供してもらったのだった。
 もちろん理由が理由ということもあったが。
「あのバイタリティはすごいよね」
 ふーっと息をついたフランツは、がさごそ袋を持ち替えながら、隣の悪魔を盗み見た。
「――ところでさ、今のうちにちょっと訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「おかしなことを言う。訊かれる内容も知らずにいいも悪いもないであろう」
「あ、そうだね。ごめん」
 フランツは素直に謝る。
「僕は、今度のことをこう思ってるんだ。魔神が人間との話し合いに応じるなんて、絶対裏があるってね。魔はいつだって、奪うものだ。応じるものじゃない。たとえ応じたって、それはほかに目的があるからで、いつだって最後には奪うものなんだ。相手が「魔王」であれば、子どものように……」
 フランツの閉じた瞼の裏に、音楽とともにある光景が浮かび上がる。子どもを背負って馬を走らせる父親。ただひたすらに安全な家を求めて――その願いはかなった。大切な子どもの命を代償として。
「彼らの望みは話し合いじゃない。話し合うという領主バァルの願いをかなえ、その裏で本当に大切なものを奪っていくんだ。きっとね。――こんなこと、領主バァルの言葉に共感してる泰輔の前では言えなくて……」
「なるほど。で、我に訊きたいこととは?」
「あ、うん。あのね――」
 フランツの質問を聞き、顕仁はプッと吹き出し笑った。
「魔族の思考ルーチン? なぜそのようなものを知りたがる? 人間にもさまざまな者がおろう。魔族も同じ、価値観はひとつではないぞ」
「うーん。じゃあ顕仁ので」
「我のか」
 顕仁は一考するそぶりを見せた。もう答えないのではないかと疑うほどの間をおいて、口を開く。
「我の考えは我のもの。我の方なぞ、おそらく参考にはならぬぞ。
 我はな、おのれを理不尽に不幸な境遇に陥れた、世界全てが憎しみの対象であった。生まれ落ちた場所に、選択の余地なぞないからのぅ。新しく王となった者に、王の資格などない、と糾弾したかったが、配所ではむなしくこだまに呑まれるだけで、な。
 戦乱よ、起きよ、とは呪うた。下民をもって王となし、王をもって下民たれ、と。
 そう思えば、そなたの考えたとおり、会談という話し合いに乗ってきたこと自体、何かこちらを陥れる考えや準備が十分ある、と見るべきであろう。もしくはそのための準備時間を稼ぐために、か。では「その準備」を妨害するのがよかろうよ」
「準備の妨害ね……」
 考え込むように復唱したとき、ふとフランツの視界にある男の姿が飛び込んできた。正確には男の背中が。
 前の避難所を覗き込んでいる。
「どうかしたんですか?」
 いきなり後ろから話しかけたせいか、男の背中がビクンッと跳ねた。
「あ、いや……たしかこの辺に避難所があったはずなんだがと思ってねぇ」
 男は笑いながら振り返った。その、どこか間延びしたのんびり口調といい、満面の笑顔といい、おっとりとした、どこか人好きのする笑顔の持ち主だった。
「ああ、それなら――」
「ここですよ」
 顕仁の言葉をふさいで、フランツが答える。
「ただ、ちょっと問題が起きて」
「問題?」
「空家を用いたせいか、虫にくわれちゃう人が出ちゃったんですよ。それで、昼間のうちに燻煙しとこうということになったんです」
「ああ。だから窓とか全部閉じてるんだねぇ。おかしいと思ったよ。入り口も鍵がかかってるみたいだし」
 男は頭をかきつつ、避難所を見上げた。
「それ、いつ終わるんだい?」
「さあ……。今、用意しているところなので。避難しに来られたんですか?」
「あー、いや。それは商売が終わってからの予定なんだ。ただ、越してきたばかりでまだこの辺には詳しくなくてねぇ。夜に迷うと困るから、こうして昼間のうちに確認しておこうと思ったんだよ」
「そうですか。夜でしたら開いてますから大丈夫ですね」
「ほんとだねぇ。――いや、ご親切にありがとう。また来るよ」
「どういたしまして」
 互いに愛想笑いで手を振り合って。2人はひょこひょこ歩いて去って行く男を見送る。
「……いいのかい? あんなことを言って」
「準備の妨害、だよ」
 それは顕仁にも分かった。だから2人の会話に口を挟まなかったのだ。
「でも彼が本当のことを言っていたら、困るんじゃないかね?」
「お店には避難所変更の回覧板が回ることになってる。それを見れば困らないよ」
 それに、フランツには彼が大うそつきだということが分かっていた。ここは空家ではない。領主バァルの持ち家のひとつだ。管理人として人が住んでいる。その管理人も今は城に避難しているから、ここは閉まっているというだけ。玄関の上の目立つ位置に領主の持ち物であるしるしとして、東カナンの国色である紫紺色をした紋章が入っている。この意味を知らない東カナンの者はいない。
「……ただ、今の段階じゃ、疑わしいってだけで彼を捕まえることはできないからね。念のためこのことは巡回の騎士さんたちに話しておいて、ここに彼が現れたら捕まえてもらうようにしよう」

 ――フランツたちはその判断に命びろいしたことに気付いていなかった。
 彼、松岡 徹雄(まつおか・てつお)はあのとき、ほとんど2人を殺す気になっていたのだ。もしも「どこに越してこられたんです? お店はどちらに?」などと突っ込んできたとしたら。

 のちに騎士が数名、この元避難所の裏で死体となって発見される。だがその死体は焼け焦げており、焼死したのか、それともその前に死んでいたかは分からずじまいだった。そしてそれは、まだもう少し先の話となる――。

*       *       *

 そのころ、新しい避難所では源 明日葉(みなもと・あすは)が子どもの世話でおおわらわになっていた。
 せっかくあの避難所の雰囲気に慣れてきたところだったのにまた新しい場所に移動させられて、ストレスからヒステリーを起こしてしまったのだ。
「はいはい、いい子でござる、いい子でござるよ〜」
 辺り一面子どもの泣き声がわんわん響く中、明日葉は1人の女の子を膝で抱っこして、揺すりながら背中を叩いている。気分は保育所の保母さん……と言いたいところだが、保母を知らないので、今のこの気持ちがはたしてそれなのか、それともさらさら縁遠いものなのか、判断がつかない。
(どちらかというと、遠いもののような気がするでござるな……)
 途方に暮れた思いで上を仰ぐ。
 美しい場所だった。高天井には女神イナンナを称える聖文――と、神官から説明された――が古語によって書かれている。しかもカリグラフィーとしてさらに絵文字化されているため、それは装飾として見ても美しい。
 上部四方には女神と世界樹をかたどったステンドグラスがはまり、そこを透かして入る光は女神の祝福を浴びているも同じだということだった。ここで祈り、その光を浴びることによって、人々の魂は浄化され、癒されるという。
 荘厳にして壮麗な会堂――なのにそこは今、保育所状態と化しているわけで。
 視線を下に移せば、崇高な魂だの、女神による祝福だのからははるかに離れた場所のように見えた。
「……うあーーーっ!! ママぁ!!」
 明日葉が揺するのをやめた途端、膝の子がまた泣き出す。
「はいはい。いい子、いい子」
 背中ぽんぽん。
 そんな明日葉を見て、真理がクスクス笑いながら近寄った。
 手には、櫛形に切られたオレンジが盛られた皿が乗っている。
「お疲れ。かわろうか?」
「この子、膝から下ろそうとしたら泣くでござるよ」
 ほとほと困りきった声。しかし明日葉は笑顔だった。
「そっか。じゃあ、あーん」
 あーん、と口を開けたところにオレンジをひと切れポイ。
「それで、桜は」
「あそこでござる」
 明日葉が目で差したのは、眠る子どもたちの一角だった。すやすやと眠る小さな子たちの真ん中で、敷島 桜(しきしま・さくら)は座っていた。
 何をするでなく、いつものようにテディベアのぬいぐるみを抱いて、ただ座っているだけだ。
「不思議でござるよ。桜はああしているだけなのに、周りに子どもたちが集まって……いつの間にかコットリ眠ってしまうでござる」
「ふーん。アルファ波でも出てるのかな」
 真理は首を傾げる。しげしげとそちらを見ていると、その視線に気づいてか、桜がこちらを向いた。
「あー、桜、立たなくていいから。ボクがそっちへ行くよ」
 立ち上がりかけた桜を制して、真理が立ち上がる。ヘタに桜が動いたせいで、せっかく眠っている子たちが起きたら大変だ。
 真理の方から桜の元へ行き、オレンジを一緒に食べる。その光景をぼんやり見ていると。
「受け取ります」
 ふと、そんな言葉とともに横から手を差し伸べられた。
 そちらを向くと、天禰 薫(あまね・かおる)がほほ笑みながら膝をついている。
「いや、しかし……」
「もう眠ってます。寝かしつけてきますので」
 言われて手の中の子どもを見れば、だらりと手を下ろし、くぅくぅすっかり深い寝息をたてていた。
「すまぬでござる」
 そっと、起こさないよう気を付けて薫に渡す。
「どうぞ明日葉さんはゆっくり休んでくださいねぇ」
 子どもを受け取った薫は、にっこり笑って彼女から離れた。
 小柄な彼女に子どもは大きい。しかも眠って緊張感の抜けた体は本来の体重よりさらに重く感じられる。薫は腕をしびれさせながらもどうにかその子をほかの子たちの眠っている場所まで連れて行くことができた。
「……ん……んん……」
「はいはい。おやすみなさいねぇ」
 上から毛布をかけ、あやすようにその肩をぽんぽんと叩く。
 真理やフランツたちがおやつとして果物を配ったおかげで、子どもたちは一定の落ち着きを取り戻したみたいだった。泣いてぐずる子の数が減り、おとなしく母親やきょうだいたちに食べさせてもらっている。
(なんだか子どもやお年寄りが多いですねぇ。やっぱり、ここの避難所は親が商売をしている方が多いからでしょうか)
 子どもや両親を先に預け、自分たちは店を開けているのだろう。
 こんな日まで商売をしなくてもいいだろうと思うが、店をからっぽにしておけない、という気持ちも分かった。それに……なんと言うか……。
(ここの都の人たち、なんか、緊迫感が少ないというか……危機感が足りないように我には見えますねぇ)
 薫は、そっとため息をつく。
 もちろん心労のあまり体調がよくない人もいるし、子どもたちは敏感に大人の空気を感じ取って神経質になっている。けれど、普通魔神がやってくると聞いて、商売をしたり街を歩いたりするだろうか? 玄関に鍵をかけ、ひきこもるのが普通ではないか?
 薫のこの疑問に答えたのは、パートナーの熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)だった。
「聞いたところによると、ここは先の内乱のときも、飢えたり焼かれたりしたことはないんだそうだ。南や西はひどい戦禍を被って、家を焼かれたり都を追われたりした人が続出したそうだけど、東はそんなことがなかったらしい。だから、まぁ、そういうことだ。ここの人たちは、領主を信頼しているのさ。必ず自分たちを守ってくれる人だってね」
 盲目的な信頼――。
 それは、危うい気がした。
 凶悪な力を持つ魔神を内に入れる、これほどおそろしいことはないのに…。
「――薫」
 孝高が顔を近づけ、ひそめた声で話す。ぎりぎり、薫にだけ聞こえるように。
「これも頭に入れておいてくれ。
 おそらく、裏切り者たちはすでにこの都に入っている」
「! 孝高、それって――」
「先の戦いでは相当な数の裏切り者が出たそうだ。魔神に与したやつらが、その魔神のいるこの地にいないわけがない」
 もしかしたら、もうすでにここにも入り込んでいるかもしれない――
 そのことに思い当たった途端、薫の背筋にゾッと寒気が走った。
 部屋の壁に吊るしてある自分の和弓に目を向ける。子どもたちが触りたがって危ないから武装を解いて、ああして手の届かない位置に置いたのだ。
(もしものときは、我があれでこの子たちを守る。戦って、ここにいるみんなを守り抜く……だけど……)
 自分に……できるだろうか?
 薫は、ごくりとつばを飲む。
「薫」
 いつの間にか膝の上で握りしめられていたこぶしを、孝高が握った。そっと、そこにこもった力を解かせる。
「なに? 孝高」
「おまえの気持ちは分かる。いざというときは俺も戦う。全力で阻止する。が……無理はするな。もしものときは後退し、皆を誘導し、安全な所へ逃がす側に回ろう」
「え?」
 薫は今聞いたことが信じられず、目を丸くする。
 覗き込んだ孝高の顔は、どこまでも真剣だった。
「たしかに皆の安全も大切だが……俺はおまえの方がはるかに大切だ。身勝手と言われようが、だれを失おうとおまえだけは失いたくない。これは綺麗事じゃないんだ。絶対に一緒にいろ」
「ん……うん……」
 その理屈は分かる。そこまで彼に大切に想われるのは、正直心のどこかがうれしがっている。
 だけど……。
「ここには俺たちだけじゃない、たくさんのコントラクターがいる。彼らに任せればいい。ここにいる人たちを安全な場所へ避難させる者だって必要なんだ」
「――うん。そうだねぇ」
 孝高の言うことが正しい。踏みとどまって戦うことばかり考えるのは間違いだ。そしておそらく、彼らを守りながら逃げるのは並大抵のことでもないだろう。
 だが。
 安全な場所?
 ここが襲われるのはこの地が戦場となったとき。
 そんなときにそんな場所が、はたしてあるのだろうか?