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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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第5章(4)
 
 
「今の所は耐えているが、劣勢な事に変わりは無いな……さて、どう巻き返す……?」
 銃を構えながら冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が戦局を見る。勇者達は頼りになる。騎士団の皆もよく戦ってくれている。だがそれでも圧されている。
「やはり倒してはいけないとはいえ、ジュデッカを野放しにしているのが問題か――ん?」
 その時、敵である七枷 陣(ななかせ・じん)が目を見張るような事をしだした。敵味方お構いなしにファイアストームを放ちだしたのだ。
「さぁ燃えろ燃えろ! 勇者達を押さえ込め! どれだけ犠牲が出ようと最終的に我々が勝利すれば良いのだ!!」
「くっ、これではどちらに転ぼうと被害が大きくなる。あいつを止めなければ……!」
 陣を狙うべく動く永夜。すると敵は巧妙に騎士団を盾にして回り込んでしまう。
「どうだ、これでは手も足も出まい!」
 炎を放ちながら高らかに笑う陣。だが次の瞬間、今度は彼の表情が驚愕へと変わった。どこかから飛んできた矢が盾となっていたジュデッカの騎士を射抜いたのだ。
「ちょっと! 誰がやったの!? 魔物以外には被害を出さないでって言ったでしょ!」
 当然ながら驚いたのは陣だけでは無い。勇者達もだ。騎士団の主たる公爵の令嬢であるヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が叫ぶ。それに答えたのは源 明日葉(みなもと・あすは)の冷静な声だった。
「ヘイリー様、安心めされよ。あの騎士は偽者……魔術師の用意した魔物にござる」
「明日葉!? 何故それが分かるの?」
「ご説明は後ほど。今はただ、『ウェイク家の紋章がついていない騎士は魔物』とだけ覚えておいて下され」
「わ、わかったわ! 皆聞いたわね! 紋章のついている騎士にだけ注意して戦って!」
 
「なるほどね。確かに動きが違う。遠慮なく倒させてもらうよ」
「私も参ります。いざ!」
 アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)、二人の剣士が偽騎士を減らしていく。気をつけるべき相手が減った事、さらに明日葉、秋津洲、高島 真理(たかしま・まり)の三人が加わった事により、戦局はこちらへと傾き始めていた。
「くっ、ここまでやるとはな。だが、まだ好きにはさせんで!」
 唯一奮闘しているのが陣だ。なおも巧妙に味方を盾にする戦い方で粘り強く耐えている。
「もうっ、あの男さえ何とか出来れば終わるのに!」
 何射目かの矢を撃った真理が歯噛みする。対する明日葉は落ち着きを見せていた。
「逃げるなら追い詰めるまで。隠れるなら僅かな隙間からでも射抜くまで。『シャーウッド騎士団』を相手にしたのが運の尽きでござるな」
「先輩?」
「忘れたでござるか? 我らが一番得意としている事を……ヘイリー様!」
 明日葉が上空のヘイリーに叫ぶ。意図を理解したヘイリーは永夜、明日葉、真理、そして弓矢と銃を持つ団員全員に指示を下した。
「目標を狙い撃つわ! シャーウッドの名に恥じぬ実力……見せ付けなさい!」
 シャーウッドとはエアーズ近郊にある森の名前だ。そこの出身である初代ウェイクは類まれな弓の実力を持ち、彼の部下も飛び道具を得意とする者が多かった。その伝統は今でも続き、シャーウッド騎士団で一番多いのは弓騎士、次いで銃騎士となっている。
「これはマズいか……? 早ぅ逃げな――」
「そうはさせんよ」
 脱出を図ろうとする陣を永夜のクロスファイアが遮る。最早逃げる事は適わず、徐々に壁が減らされる恐怖を味わうだけだ。
(これで終わる……桜を連れ去った報い、受けてもらおう)
 上空からヘイリーの号令が聞こえ、弓を構える明日葉。後は最後の壁となっている魔物が倒された瞬間、矢を放つだけだ。
(――!)
 だが、最後の魔物が倒れると同時に明日葉はとてつもない殺気を感じた。とっさに弓を上に向けると、そこには屋根から飛び降りてくる七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)の姿があった。
(あの馬鹿上司に気を取られすぎたのが命取りだね。無為に散るのが俺に与えられし罰かもしれないけど……最期の瞬間まで他人の命を求めてやるさ)
「撃てー!!」
 ヘイリーの声が響く。それと同時に多くの矢が陣へと飛んで行った。
 ただ一本の矢を除いて――
 
 
『ファニー様、刹那様、桜様ばんざぁぁぁぁぁぁいい!!』
 
 戦いは終わった。首謀者の陣はこのような意図を測りかねる断末魔とともにその命を散らす事になった。
 彼の死と共に魔王軍は撤退。天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)もまた、お決まりの台詞を残して退却して行った。
 だが、勇者達の表情は暗かった。戦場の片隅で矢を受け倒れていた刹貴の姿と――短剣を突き刺され、事切れていた明日葉を見つけたからである。
 悲しみにくれる勇者達に蘇生屋の噂が飛び込んできたのはそんな時だった。

 エアーズの片隅にある教会。そこに二人の男がいる。
 カササギの羽根が付いた純白の修道服に身を包んだ椎名 真(しいな・まこと)
 意匠は同じだが漆黒の修道服に身を包んだ椎葉 諒(しいば・りょう)
 篁 大樹達はとりあえず白い修道服の真に話しかける事にする。
「あのー、蘇生屋の噂を聞いて来たんだけど」
「おや、棺おけか……確かに蘇生屋はここだよ。でも、俺でいいのかい?」
「? あぁ」
 良く分からないがとりあえず頷く大樹。すると真は厳粛に祈りを捧げ始めた。
「神よ。今また神の子が一人、貴方の下へと召されました。どうか永遠の安らぎと、祝福を与えたまえ……」
 その文句に何か嫌な予感がする勇者達。それを裏付けるように今度は棺おけの蓋を固定し始める。
「ちょ、ちょっと待った! 蘇生は!?」
「ん? だから俺でいいんだろ? 俺は埋葬屋だよ」
「え?」
「一応最初に確認は取ったんだけどな……蘇生屋が確かにここだけど、俺は軽傷者の治療と死者の埋葬担当。重傷者の治療と死者の蘇生ならあっちのクロイヌに言ってもらわないと」
「……ま、紛らわしい」
 大樹は少しげんなりしながらも改めて諒へと話しかける。初見で黒い方を蘇生と判断するのは無理だろうと思いながら。
「何だ、シロイヌじゃなくてこっちの客か。初めて来る奴はいつも向こうに話しかけてから慌ててこっちに来るんだよな」
「分かってるなら改善してくれよ……」
「さて、蘇生か……見た所『命の輝き』は失っていないな」
「『命の輝き』?」
「俺達だって誰でも生き返らせる事が出来る訳じゃない。寿命で死んだ奴まで生き返らせていたらとんでもない事になるからな」
「じゃあ先輩は生き返るのね!?」
 話を聞いていた真理が思わず詰め寄る。
「あぁ。『命の輝き』があるなら可能だ。で、蘇生をするって事でいいんだな?」
「もちろんよ、お願い!」
「よし、それじゃ下がってな」
 皆を下がらせ、祈りを捧げ始める諒。離れた上に小声なので良くは聞こえないが、先ほどの真の祈りとは別物のようだ。
「……ん」
 祈りを捧げて少し待つと、棺おけの蓋が開いて明日葉が顔を見せた。そこには倒れていた時は違い、生気がある。
「先輩!」
「明日葉……良く戻ってきてくれたわ」
 真理とヘイリーが復活を遂げた明日葉へと歩み寄る。明日葉はまだ状況が掴めず混乱しているようだったが、差し当たっての問題は解決したといえた。
「しかしまぁ……蘇生とか本当にゲームだな」
 彼女達を遠くで見ている大樹がつぶやく。とは言え感覚がリアルである以上、自身の命に対する価値観が変に崩れたりしない事だけは幸いだった。
「そうそう、言い忘れていたが、蘇生費用は所持金の半分な」
「え?」
「当然だろう。こちらも生活がかかっているからな」
「……それって、詐欺じゃね?」
「あぁこの羽根か。確かにカササギという鳥の羽根だが、良く分かったな」
「そうじゃねぇよ!」
「ちなみにカササギはスズメ目カラス科でコウノトリ目サギ科の鷺とは別物だからな。気をつけろよ」
「そうでもねぇから!」
 ――結局大樹は、所持金の半分を蘇生費用として徴収されるのだった。
 
 
「それではヘイリー様、行って参ります」
 翌朝、次の街へと旅立つ勇者達を騎士団の者達が見送ろうとしていた。そんな中、シャーウッドの一員であるアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は唯一勇者達の側に立っている。リネン・エルフト(りねん・えるふと)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は当然ながら残る側として彼女を見送る。
「アーミテージ……気をつけてね」
「大丈夫よリネンちゃん。エアーズの弓騎士として恥ずかしく無い戦いをしてみせるわ」
 陣による洗脳から解放されたものの、公爵とジュデッカ騎士団の者達はまだ混乱から抜け出すには時間がかかりそうだった。その為多くの者が復興に携わろうとする中、アルメリアはエアーズ解放の切っ掛けをくれた勇者達の恩に報いる為に同行を申し出たのである。
「とは言っても基本的にお前達騎士団が中心となって解放しているのだがな」
「でもその嚆矢は間違いなく君達だ。その栄誉くらいはもらってもいいんじゃないかな」
「アンヴェルの言う通りだ。ありがとう、『蒼の守護者』」
 永夜とリデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)が握手をする。かつての友人同士は僅かな再会で一つの事を成し遂げ、再び互いの道を歩もうとしていた。
 
「……行っちゃったね。少しの間だったけど、いなくなると寂しく感じちゃうな」
「そうだな。それがしとしては恵殿と優殿に改めてお礼をしたかったのでござるが」
 真理に支えられながら明日葉がつぶやく。妹である桜を助け出した二人も勇者達に同行して次の街へと旅立ってしまった。
「またいつか、ここに戻ってくる事もあるでしょう。その時にこれまでの恩を全てお返しすれば良いかと」
「良い事言うじゃねぇか、秋津洲! な、姫様!」
 秋津洲の肩を抱いてフェイミィがヘイリーを見る。
「な、何であたしに言うのよ」
「またいつか、直接礼を言う機会もあるだろって事さ」
「だから何の事よ! 別にナイフから助けてもらった礼をし損なったとかじゃないんだから!」
「随分具体的だな」
「具体的だね」
「具体的ですねぇ」
 その場にいる全員の視線がヘイリーに集まる。集めた本人は顔を赤くすると、素早くワイバーンに飛び乗った。
「も、もう知らない! 帰るわよ皆!」
「へいへい。ま、アイテムを色々アルメリアに持たせてたからな。それが礼代わりって事で」
「フェイミィ!」
 ワイバーンが空へと舞い上がる。地上では騎士達の笑い声がいつまでも響き続けていた――