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【空京万博】美しくも強くあれ! コンパニオン研修!

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【空京万博】美しくも強くあれ! コンパニオン研修!

リアクション



AM10:50

「俺たちは悪くないよな」
「えと、タイミングが悪かっただけだと思いますわ」
 呆然とする俺たちの目の前では、しびれ粉によって動けなくなった桜月 舞香(さくらづき・まいか)がパラ実生たちに連れられて行く光景が展開されていた。
 そもそも俺こと源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の三人は、パラ実生を探して少し裏手の通りを歩いていた。
「イコナちゃん、なんでそのゴミ箱を調べるんですか?」
「え、捜査の基本は足だと聞きましたわ。なのでとにかく怪しいところをしらみつぶしに探しているだけですわ」
「イコナ、その考えは間違いではないが、一昔前の刑事がしていことだしそういう意味でもない」
「それにその場合はアンパンと牛乳が必要ですよ?」
「ティー、それがいるのは張り込みの時だ。今は必要ない」
 どこかポケポケとしたパートナー二人に、ツッコミを入れながら俺は頭を痛めていた。
 こんなところにいるのは、犯人たちの仲間を探しているからだ。
 先ほど出会ったシャンバラ教導団の人間から、犯人はパラ実生だと聞いた。どうやらティーカップパンダを利用して金儲けをたくらんでいるらしい。
 ここで俺はあえて犯人を直接追うのではなく、彼らの行動を制限することを考えた。
 金儲けがどういう形にせよ、数人でやるには無理がある。絶対に仲間がいるはずだと考えた俺は、仲間を見つけてそちらから犯人を追いつめようとしている。
 仲間を失えば犯人は焦る。
 焦った犯人たちなら先回りして捕まえることは簡単になるはずだから。
「うーん、見つかりませんわ」
 そう言って今度はマンホールの蓋を開けるイコナ。
「地下っていうのは良い考えだと思いますけど、パラ実生がそんなところを通るほど機転が利くのでしょうか?」
「案外使いそうだな。最もこの広い万博内で地下を通る彼らを見つけられたら、かなりの幸運だけどな」
「あ、見つけましたー!」
 そう言ってティーが指差したのは、ちょうど向かいの路地にあるマンホールから出てくる数人のパラ実生たちだった。
 連中は隠していた箱に手足を縛って猿ぐつわをした金元さんを押しこむと、台車に乗せて歩き出した。
「イコナ、お手柄だ!」
「イコナちゃん、すごいです!」
「もっとほめてもいいですわよ!」
 犯人を見つけて自慢げにしているイコナを軽く撫でてやった俺は、作戦通りに動き始める。
「ティー、俺は隠れ身で後ろからついていく。キミはベルフラマントで気配を消して、風上からしびれ粉をまいてくれ。幸いこの辺りは人通りが少ないから、連中だけにかがせることもできるはずだ」
「任せて、鉄心」
 そうして俺たちはしびれた連中を挟み打ちにして、無事に金元さんを救出するはずだった。
 だが、結果はご覧の通りだ。
 風向き、人通り、建物の配置。
 それらを考慮して使ったしびれ粉は、風に乗って拡散しきる前にパラ実生たちを捕まえようと現れた桜月舞香に効果を現した。
 あんたたちはあたしが捕まえてやるわ〜、などと叫びながらティーのすぐ傍を通って現れたため、パラ実生たちの目の前で体がしびれて倒れこみ、とりあえず人質にはなるかということでパラ実生たちにさらわれてしまった。
 どんなコントだよ!

AM11:00

 多くの人でにぎわう万博内部を、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が歩いていた。
(アルフ、臭いは追えそうかい?)
 僕は足元にいる青い犬に語りかけた。今のアルフは喋れないから、テレパシーでの会話になる。
(色んな匂いが混ざってるから難しいけど、なんとかな。エール、このリードはやっぱりないとダメなのか? この扱いは屈辱だ)
(今のアルフの見た目は狼なんだからさ。さすがにこんな場所で何もつけないわけにはいかないよ)
(それは分かっちゃいるんだが……)
 若干覇気の欠けたアルフは、それでもしきりと鼻を動かしながら僕の前を歩いていく。
(彼女を見つける為にその姿を選んだんだから、いい加減に諦めなって)
(けど、これはあまりにも……)
(そんなんじゃ彼女を見つけても後が続かないよ)
(待ってろよ、なななちゃん! 俺が華麗に助け出して一緒に食事にでも……)
 このままでは自分の目的が危ぶまれると理解したアルフは、ようやく本気になったようだ。
 金元さんがさらわれたと聞いた時に、アルフはすぐにどこかに消えた。そして戻って来るなり、僕を強引に捜索に引っ張っりだした。自分が狼の姿で彼女を匂いを追跡するから、一緒に来いと。
 ちなみに彼女の匂いを確認するために使ったものは、更衣室にあった彼女の制服。アルフのことだから忍び込んでそうで後が怖い。
(でも、その姿でここをうろうろするとどうなるかってところまで考えてないのはアルフらしいか)
(なんか言ったか、エール?)
(いや、なんでもないよ)
(ならいいが、かなり近づいているぜ)
 幸いなことにテレパシーで考えが聞かれていなかったことに安心した僕は、アルフの注意を受けて改めて周囲を確認する。
 パラ実生たちの格好はとにかく目立つ。普通の制服と比べても、こういった色んな恰好をする人達がいる場でも。
(っっ! 見つけた)
 多くの人が流れを作る大通りから外れた位置にある建物に、いつも通りの世紀末的な格好で、人一人は楽に入りそうな大きな箱を建物内に運び込むパラ実生たちがいた。