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リアクション
「やーやー小暮ちゃん、元気ぃ?」
突然響いた声に、飛空艇の操舵室は一瞬騒然となる。誰かが、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)だ、と叫んだ。
「ゲドー・シャドウ? 指名手配犯が、何故!」
その名前を聞いてピンと来たか、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が怒りと動揺を露わにする。先のエリュシオンとの大戦の後、両国から指名手配されているはずの名前だ。
「オイオイ、折角イイ情報を持ってきてやったのにそういう扱い?」
小暮の携帯の向こうで、シャドウがけらけらと笑う。用件は、と小暮が固い声で答える。
「カワイイドラゴンちゃんが向こうの岩場で唸ってるぜ? 教導団なら治安維持のために対処しろよ。初フライトで実戦データまで取れるなんて、幸せ者だなぁ小暮ちゃん」
「忠告、ありがとうございます」
小暮は慎重に言葉を選んで返事をする。
その隣にテレスコピウムがそっと近づくと、小暮に耳打ちをする。
「少尉、任務中に指名手配犯を発見した場合、逮捕を試みることは可能でしょうか」
「勿論看過することはできません。が、あまりに任務から逸脱した行為はこちらも取れない」
あちらが進路を妨害してくるなら兎も角、と小暮も悔しそうな顔をする。
「んじゃ、忠告はしたぜぇ? 足止めなんてしてやる義理はねーから、後は頑張れよ」
ひゃは、と笑い声が響いて通信が切れた。
ドラゴン発見の報に、操舵室内がざわめく。
「静かに、外部からの情報を鵜呑みには出来ません。偵察隊を向かわせます!」
が、小暮がぴしゃりと宣言すると、途端に室内は静かになる。すかさずテレスコピウムが偵察部隊への通信回線を開いた。
「偵察部隊に告ぐ、岩場にドラゴン発見の報有り。確認を願う」
通信回線越しに、小暮の指示が偵察に出ている面々の元へ飛ぶ。それを聞いた数名が、ドラゴン発見の情報があった場所へと向かう。
「それから、周辺で指名手配犯ゲドー・シャドウが目撃されています。充分警戒してください」
それ以上の指示は出せない歯がゆさを感じながら、しかし内心、誰かが逮捕してくれることを願い指示に一言付け加える。
小暮の意図が解ったのだろう、テレスコピウムが小暮の方へ視線を遣ると、小暮もまた彼の方へ視線を送っていた。目配せをして、二人はこくりと頷く。
「ドラゴンに指名手配犯か。きな臭くなってきたぜ」
そう言う割には楽しそうな朝霧垂が、いち早く目撃証言のあった岩場へ到着した。
繋いだままだった通信回線越しに、小暮達の会話は聞こえていた。急行すれば、指名手配犯の逮捕も可能かも知れない。
と、目標としていた岩場から、しゃぁ、と咆吼が轟いた。
朝霧は操るジェットドラゴンを一気に加速させ、岩場へと迫る。
するとほぼ同時に、バサ、と羽ばたきの音を響かせて、空に黒い影が踊った。
雄大な翼、もたげた首は照り返しに光る鱗に覆われている。
レッサードラゴンだ。
朝霧の顔に緊張が走る。
ドラゴン種の中では最も弱い種とはいえ、生身の人間一人では手に余る。腕に覚えのある朝霧とはいえ、とても一人で正面切って相手をする気にはなれない。
そのドラゴンの横を、ペガサスの様なものに跨って駆け抜けていくもう一つの影があった。
靡く長い髪に、背中に四本の十字架を生やした偉業の姿――ゲドー・シャドウだ。
「おっと、国軍のお出ましかァ」
シャドウは朝霧の姿を認めると、跨っている堕天馬に鞭を入れる。
さっさと逃走しようとするシャドウを追おうとする朝霧だったが、ドラゴンの方も放っておけない。
レッサードラゴンはまるでこちらを威嚇するかのように、時折吼えながら辺りを旋回している。
「悪い、おまえの縄張りだったか?」
ドラゴンに向かって朝霧が声を張り上げるが、聞き入れて貰えそうにはない。ぎゃぁ、という独特の音がドラゴンの喉を振るわせる。
いつそこから、必殺のブレスが放たれるか解らない。朝霧はその場でジェットドラゴンを旋回させる。
その間に、シャドウは高笑いを残して去っていった。朝霧はぎり、と歯噛みする。
「言葉は通じないか……」
ドラゴンのうちにも、種族や知能の度合いによっては言語でのコミュニケーションが可能な個体も居る。しかし、どうやらこのドラゴンはそこまでは知能が高くないようだ。
しかし、そうは言ってもドラゴンである。そこらの犬なんかよりはよっぽど高度な知能を持っているはずで、闇雲に暴れているとは考えにくい。シャドウが何かやらかしたか。
そう判断した朝霧は、大きく息を吸い込むと、おん、と特殊な声で吼えた。その音に、レッサードラゴンは一瞬怒りを忘れたか、ゆったりと首を朝霧の方へと向けた。
ドラゴンの咆吼を真似る技術だ。ドラゴンライダーにしか使うことが出来ない。
こちらは味方である、戦闘する意志はない、というような事を伝える声を出す。言葉が通じるわけではないので厳密なコミュニケーションは取れないが、敵意が無いことくらいは伝えられる。
しかしドラゴンは、再び敵意を露わに吼えた。出て行け、と言うようなニュアンスだ。
「ドラゴンさん、待って!」
とそこへ、通信を聞きつけた源鉄心とティー・ティー、それからイコナ・ユア・クックブックの三人が到着した。
ティーが細い、しかし良く通る声でドラゴンへと語りかける。
「無駄だぜ、言葉は通じない!」
朝霧の言葉にティーが頷く。するとティーは先ほど朝霧がしたように深く息を吸い込むと、ぴぃ、とまるで子ドラゴンが親に甘える時のような声で鳴いた。
その声に、流石のレッサードラゴンも驚いたらしい。ドラゴンからフッと敵意が消える。
続いてティーがぴいぴいと、仲間を心配する時の声で鳴く。
するとドラゴンから戸惑うような気配が伝わってきた。自分よりはるかに小さな存在から心配されている、ということに驚いているのかもしれない。
やがてドラゴンは、ぐる、と低く唸った。相手に警戒を促す声だ、とドラゴンライダーの二人はすかさず察知する。
「気をつけろ、って言っていますけど……」
「縄張りを荒らす奴がいるのかもしれないな」
二人は声を合わせて、ありがとう、という意味で吼える。するとドラゴンは友好のしるしの声で答えた。
二人は顔を見合わせて笑う。無用な戦闘は、避けることが出来そうだ。
丁度そこへ、飛空艇のエンジン音が聞こえてきた。二人は振り向いて手を振ろうとする。
が、その時。
先ほどまで穏やかだったドラゴンの雰囲気が一変した。ぎゃぁ、と威嚇に使う声で吼えると、乱暴に翼を羽ばたかせて飛空艇の方へと一目散に飛んでいく。
その声に、岩場に隠れていたレッサードラゴンの眷属と思われるワイバーン達も、甲高い声で鳴き交わしながらドラゴンの後に続く。
「ちょ、どうしちまったんだ?!」
「どうやら、飛空艇というものに対して苛々しているみたいだな」
源が、悔しそうな顔で呟く。
「誰かが飛空艇で、あいつの縄張りを荒らしてるのかもしれない。とにかく、こちらにもあのドラゴンにも非はないんだ。戦闘は回避できないかもしれないが……」
せめてドラゴンが傷つけられることがないようにと願いながら、源は通信を開いた。
「こちら偵察部隊、レッサードラゴン一匹と、ワイバーン六匹を発見、そちらへ向かっています」
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