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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~ 大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

リアクション

 
 第9章
 
 
「! またこれは、随分と遠くに飛ばされたな……」
 ワープの罠を踏んだ直後。毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はマッピング中の銃型HCの画面を見て長い長い溜息を吐いた。画面はほぼ、白紙である。しかしプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)はそこらの鼠を咥えたシボラのジャガーと一緒に、ずんずんと歩みを再開した。逸れないようにと結ばれた戦乱の絆に引っ張られ、大佐はつんのめりかける。
「お……おい」
「大丈夫です、智恵の実はこっちですよ」
「…………。まあ、どうにもならないし、探索続行するしかないんだが」
 今日は、智恵の実の味に興味を持った大喰らいプリムローズの付き添いだ。人が行方不明になった大昔の神殿。真っ当な手段で最奥に辿り着くのは困難を極めると考えて思いついたが真っ当ではない、方向音痴のプリムローズに自由に歩かせるというギャンブル的な手段だった。
「そうです。立ち止まってもどうにもなりませんし進みましょう!」
 何だか、彼女は楽しそうだ。珍しく好きなように移動出来るとあって、トレジャーセンスの赴くままに知らない道を通って先を目指す。さっきからカチッ、カチッ、カチッ……、と、ワープ罠を踏みまくり飛ばされまくりぶっちゃけいつも通り迷っていたが前向きだ。
「やれやれ、またふりだしか……」
 正直帰りたい。リセットしたい。リレミ……脱出魔法が欲しい。すごろくのふりだし地点で構わない。
 とりあえずマッピングは続けよう、と大佐が思った時。
 カチッ。という音と同時、桃色がかった白い煙が壁から盛大に吹き付けてくる。
「……!! ? 何だ今の。どこかで覚えのある気が……そうだ、最近調合した……まさか、ホレグスリ……? いやいやまさかな」
 古代の神殿に最近開発された薬が仕込まれているわけもない。仮に媚薬だとしても、由来の違う似て非なる物だろう。だが、出自が何であれ媚薬は媚薬らしく。
「ひゃっ! そんなにすりよらないでくださいー。あ、あれ? 何かいつもよりこの子が可愛く見えます? いえ、確かに可愛いです!」
 プリムローズとジャガーは一時的にラブラブになったらしい。相手が動物なのにイラッとする。動物でもやっぱりイラッとする。
「プリムローズ、のんびりしていて智恵の実が無くなっても知らんぞ」
「あ! そうです急がないと!」
 はっ、と気付いたように顔を上げてプリムローズはジャガーと一緒に走り出す。
 廊下は走っちゃいけません。それが神殿の通路でも――カチッ! ……あ。
 ――陽の隠れた曇り空。2人と1匹を囲むいかにもという荘厳な入口。空気が美味しい。
 どうやら本当にリレミ……脱出魔法の罠にかかったようだ。
「……よし、帰ろう」
「えー! 帰りませんよ! 実がどんな味なのか、大ちゃんは気になりませんか?」
 引っ張られて再び中に入る。そして、大佐は絶句した。
 最初に入った時と風景が違う。マッピングが済んでいる筈の地図もまたもや白紙状態だ。これは――

              ◇◇◇◇◇◇

「地図と違います」
 どこかの城の廊下くらいはありそうな余裕を持った広い通路で、最後尾からノルニルは早足で歩いてきた。1度通った場所にチョークで落書……もとい印を付けているということに加え、皆より脚のコンパスが短いので遅れないようにするのが大変だ。一生懸命に歩く姿は実に微笑ましい。
 銃型HCでマッピングをしていた伯益著 『山海経』(はくえきちょ・せんがいきょう)も、浮かない面持ちで同意する。
「入った時から何か違和感があったんじゃが、間違いないのう。工房に最初に届いた地図と比べると、ここまでの道筋が全く合わん。更新される他の者の地図とも違うぞ」
「……どういうことだ?」
「スタート地点が皆ランダムということではないですか? 入口は消えてしまう仕様のようですし、侵入した時点で1度目のワープが為されているのかもしれません」
 ラスと志位 大地(しい・だいち)が2種類の地図を覗き込む。
「それじゃあ、俺達がこんな大集団で歩けてる理屈がつかないだろ。皆で仲良く1歩目を踏み出したわけじゃねーんだから」
 入口はそこそこ広かったが、現在同行している全員が横並びで入る余裕は勿論無く、普通に順番に中に入ったわけで。
「まあ、それはアルカディア自体に聞かないと分からないでしょうね。或いは実は皆、違う構成の神殿を歩いているか……。どちらにしろ、今目指している情報管理所のガーゴイルが答えを持っているでしょう」
「ガーゴイル、ねえ……。つーか、さっきから何か近くないか?」
「先程のように危なくなった時、ラスさんをしっかりと守るためですよ」
「……は?」
 笑顔でのその物言いに、ラスは口元を引きつらせる。……何だこいつ、ノンケに見えて実はそうじゃないのか?
「そういやお前、恋人もお……」
「地図がどうしたんですか〜? ちゃんと僕にも説明してください〜」
 とこ、と続けようとしたところで件のティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)が話しかけてきた。端からも“そう”見えたのか、少し頬を膨らませている。改めて他に目を遣ると、ピノと手を繋いだシーラ・カンス(しーら・かんす)がとろけるような幸せ顔でデジカメのシャッターを切っていた。
「ああ、禁断の……、いけませんわいけませんわ〜」
「シーラさん、禁断の……って何々? おにいちゃん達、何してるの?」
「知らなくていい。いや別に何もしてないけど、知らなくていいからな!」
「そこのBL2人は放っておいて、話を進めましょうか〜」
 そこで、明日香が山海経とノルニルの地図を見比べにやってくる。そして、意外ときちんと真面目に分析して皆に言った。
「これ、確かにスタート地点は違いますけど、それぞれ通路で繋がるんじゃないですか〜? 多分、別の場所にランダム、が正解です。それなら、他の地図と照らし合わせて空白部分を行けば全容が見えてくるんじゃないですか〜? ここが情報管理所だとしたら、こう行って〜」
「……うむ、そうじゃな。この辺りの部分がまだ不明瞭じゃが、行ってみれば何とかなるじゃろう」
 明日香と、初めに情報管理所行きを提案した山海経が方針をまとめて歩き出す。山海経は話の成り行きを見守っていたアクアとファーシー達の所へ説明を兼ね近付いていく。一通り話をすると、道案内をする為に風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)と共に彼女は先頭近くへと離れていった。
「ねえねえ、BLって何?」
 一方、ピノは明日香の発言が気になっていたようだ。その疑問に、スヴェンはどこか嬉しそうに解説を入れた。
「BLとは、ボーイズラブの略ですね。男性同士が恋愛関係になることです。私としては、大地さんとラスさんにこのまま一緒になっていただいても一向に構わないのですが」
「えーっ、だ、だめですよそれは〜!」
 その言葉に、ティエリーティアが途端に慌てた声を出す。割と本気だ。そんな会話を聞きながら、ラスはうんざりした顔で大地を見遣った。
「おい、完全に変な話に発展してるぞ。恋人にも何か嫉妬されてるぞ。さっさと行って否定して来い。ついでにあのデジカメを取り上げて来い」
「この程度で俺とティエルさんの仲は壊れませんよ。シーラさんの燃料になる事は別に気にしません」
「お前なあ、何考えて……」
「ピノさんが無事でも、ラスさんに何かあったらピノさんと共倒れですから」
 大地はそう言うと、にっこりと笑った。
「ピノさんを守るためですよ」
「ピノを守るため……? ……いや、俺は一応ファーシーに何もないようにってことで来てんだけど……」
 守るために同行して守られるというのは釈然としない。そう思いつつ、誰もやらないならとシーラに近付いてデジカメを掠め取る。こういうのは昔から得意だ。
「勝手に変なの撮ってんなよ。消すぞ」
 そうして、削除する為に画像を繰っていく。と共に、彼の冷めた表情は徐々に引きつっていった。それは、別の意味で素晴らしきかなベストショット。ただ隣に並んでいるだけなのに、何故こうもあっち方面に見えるのか。もう、角度が素晴らしい。
「ああー、いけませんわいけませんわ〜」
 先程までとは違う意味で、シーラは言う。追いすがられ接近し、彼女のふくよかな胸がすぐ近くに迫る。
「ちょ、ちょっと……!」
 自然と思い出してしまうのは、海での彼女。あの時のしっとりと濡れた水着姿と、憂いを帯びた表情を思い出し――
「か、返してくださいませ〜」
「…………」
 色んな意味で驚きを隠せないでいるうちに取り返される。手の形はカメラを持ったその時のまま、ラスは何とか言葉を絞り出した。何かを誤魔化すためだったかもしれない。
「どんなやつにでもとりえってあるんだな……」
 消すのが勿体無いとちらりとでも思ってしまった自分が、何か悔しい。

(? 何やってんだろ……ていうかあたし、BLって本当は知ってるんだよね)
 ――おにいちゃんをからかうためにああ言ってみたけど。
「ピノさん」
 自分と同じくらいの女の子に声を掛けられ、ピノは振り向く。
ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)です。よろしくお願いしますね」
「あ、うん。ピノだよ!」
 ミュリエルはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)にくっついて歩いていて、2人がとても仲良しなのが雰囲気で分かる。というかエヴァルトからは、いつも身近にしているのと同種の空気を感じる。ものすごく放散されている。
 ――この人、シスコンだ! 絶対シスコンだ!
「ピノさんは、暗いところとか平気なんですか? 私は苦手で……」
「うん、平気だよ! ……あれ? でも、それならどうして今日、来たの?」
「……なんだか今日は、ついて行かないといけないような気がしました」
 ピノは不思議そうな顔をしたが、ミュリエルにもよくわからないのでそれ以上は説明できない。
「でも、お兄ちゃんにくっついていると大丈夫なんです。……あの、お互いのお兄ちゃんについてお話しませんか?」
「おにいちゃんについて? うんと、そうだねー……」
 ――どうしよう、あたし、悪口しか思いつかないよ!
 ミュリエルが話したいのはそういうのじゃないんだろうなー、と思うのだけど。でも、そうだなあ……。
 ちらりと後ろのラスを見て、ミュリエルに顔を近づける。内緒の話。こしょこしょと小さい声で言うと、ミュリエルはぱあっ、と笑顔になった。
「そうですよね! やっぱりそうですよね!」
 そこで聞こえてきたのは、こんな話。
「ピノを守るため……。……いや、俺は一応ファーシーに何もないようにってことで来てんだけど……」
 ぴく、とピノは動きを止めた。何それ。あたしのことはどうでもいいみたいな……。 自然と、冷たいジト目をラスに向ける。
「ふぅん……」
「! ピノ! 待て、お前が二の次とかそういうんじゃなくて……、安心しろ。お前には傷一つつけさせないから。何かあったら、俺が守ってやるからな?」
「いいよ? 別に。おにいちゃんがシスコン離れしてくれるならあたしとしても最高だし。あたし、おにいちゃんより強い自信あるし」
「…………!!」
 役立たず宣言され絶句するラスに、ピノは内心で舌を出す。あーあ、言っちゃった。せっかく、ちょっとほめてあげたのになー……。
 話を聞いて、ファーシーもこちらを向いてけろりと言う。
「ねえ、わたし、特に期待してないわよ?」
「……お、お前なあ……」
「ピノちゃんは私達が守りますわ〜。ね、諒ちゃん」
「え? は……はい! シーラさんは僕が守ります!」
 薄青 諒(うすあお・まこと)は、慌てたように少しかみ合っていない返答をする。その時、どこからともなくカチッ。という音がした。「……え?」という顔で、皆が緊張を高めて周囲を見回した時。
「きゃっ……!!」
 カチッという音がしてピノの足元から床が消えた。
「ピノちゃん!」
 重力のままに落ちかけるピノを、諒が咄嗟に突き飛ばした。だが彼は、ぽっかりと浮いた空間に代わりに投げ出されることになってしまい……、1秒程滞空してから、落ちた。
「きゃおおおおおおん!?」
「諒くん!?」
 慌ててピノは、縁から落とし穴を覗き込んだ。何だか臭いと思ったら、底では大量の大豆が発酵して美味しそうな匂いを醸し出していた。古代の納豆である。
「……ちょっとおいしそう……。大丈夫ー?」
「……友達だから、ピノちゃんも守ってあげる……友達だから!」
 納豆まみれになって涙目で、諒は自分に言い聞かせるようにそう言った。途端――
 どどどどど、と、上から追い討ちのように納豆が降ってきた。

「……うん、とりあえずこれで大丈夫かな?」
 氷術と火術を駆使して、ピノは諒を丸洗いして軽く乾かす。その様子を無言で見ていたラスは、充分な距離を取って上から目線で彼を労った。
「よくやったな、犬」
「……はい!」
 諒は尻尾をぱたぱたと振った。自分は何もしていないのに偉そうだし妹バカだし怖いし中身はろくでもないが、彼はラスを『外見的に』理想のイケメンとして尊敬していた。
「僕、やりました!」
「……! 分かった、分かったから近付くな! まだ臭いんだよお前!」
「諒ちゃん×ラスさんも良いですわ〜。ああ、いけませんわいけませんわ〜」
「げ。何を妄想してんだ? あれ……!」
(どうにも他人に思えないな……)
 そんな一連のやりとりを見て、エヴァルトはラスにそんな感想を抱く。いや、前から薄々は感じていたことだが。しかし、ピノ本人からまでシスコンと呼ばれるとは不憫な。
「パートナーが妹分というだけでロリコン・シスコン扱いされる辛さ、よく分かるぞ……俺もそうだ」
「? あ、ああ……」
 話しかけられ、肩を落としていたラスはエヴァルトを、そして彼にくっついているミュリエルを見る。確かに、そう言われそうな組み合わせだ。
「剣の花嫁とアリスという種族の違いこそあれ、どちらも契約相手次第で姿が変わるという……、そのために多大な誤解を受ける。パートナーだし、妹分だし、優しくするのは当然だろうにッ!!」
「……? あれ? エヴァルトさん、それって誤解じゃなくて、普通にシス……」
「ファ、ファーシーさん、それ以上言っちゃだめです! 聞こえたら怒っちゃいますから……」
「……そうなの?」
「それにお兄ちゃんは、病気でも異常でもないです!」
 はっきりきっぱりとミュリエルは言った。その瞳は、どこまでも澄んでいる。それを聞いた皆の多くが、心に『ブラコン』という言葉を思い浮かべた。
(ピノさんも言ってました……。『おにいちゃんは馬鹿だけど、あたしのこといつも一番に考えてくれるんだよ』って……)

「ケイラちゃんが来れなかった分までいっぱい遊ぶよーっ、ね、ピノちゃん、シーラさん!」
「うん! 遺跡の探検って楽しいよね!」
「ピノちゃん、たくさん写真を撮って帰りましょうね〜」
 落とし穴も無事通過し、真菜華はピノと繋いだ手をぶんぶん振って通路を歩く。気楽で明るいその調子は、周囲に遠足のような雰囲気を振りまいていた。
「本当に、ケイラさんも来られれば良かったんですが……」
 彼女達を見ながらしみじみと言う大地に、ラスはそういえば、と彼に聞く。
「あいついないな。用事でもあったのか?」
「用事、というほどでもありませんが……55−50、の答えの中に入ってしまったようですね」
「55−50……?」
 流石にこれは何のことだか解らない。まあ、あいつにも色々あるのだろう。それはそうと、と彼は隣を歩く諒を見遣った。先程から、何か寂しそうな顔をしている。その視線は確認するまでもなく、ピノとシーラに向かっていた。海で仲直りしてから、諒のピノへの棘はだいぶ薄れた。でも、やっぱりちょっと複雑で――。
「そんなに構ってもらいたいなら突っ込んでいけよ。近くで辛気くせー顔されてると鬱陶しいんだよ」
 何だかもう、「くぅ〜ん」とか聞こえてきそうな雰囲気である。
「遠慮するのは勝手だけどな? お前が混じったって邪険にするようなやつじゃないだろ。……ほら」
 振り向いたシーラを目で示すのとほぼ同時、彼女は諒に笑顔を向けた。
「諒ちゃん、手を繋ぎましょうか〜」
「え……、あ、は、はい!」
 諒は花開くような笑顔になってシーラの隣に並んで手を繋ぐ。これで真菜華、ピノ、シーラ、諒と4人横並びになったわけで、比喩でも何でもなくこれ遠足だろと思ってしまう。
 そこで、真菜華の無邪気な声が聞こえてきた。
「智恵の実っていうのがホントにあるなら食べてみたーい。アタマよくなんないかなー」
 アタマ……? と少し考え、ぼそっと。
「……無理だな」
 途端、答えを予測していたように真菜華が振り返り、クツの裏が目の前に迫る。
「マナカ・キック☆!」
 ヒットした。口に出したら殺されそうな部分も見えた気がしたが、それは公には見なかった事にして抗議する。
「何す……!」
「自分で言うのはいいけど、ラスに言われたくないにゃー!」
(物理的に)上から目線で言い放って回れ右し、シーラ達に追いつくとピノの頭をなでなでしながら歩き出す。蹴りを入れて気が済んだのか、にこにこと笑って楽しそうだ。
「とりあえず、言葉の前に足が出るのは直ってほしいよな……」
 ――頭は期待したくもないし、実を食わせるつもりもないのだが。
 立ち上がり、特に急ぎもせずに彼女達の後に続く。だが、ファーシー達が立ち止まっていた事で存外早く追いつけた。何かあるのかと視線を辿った時――
 視界が炎で覆われた。
 その時、前に出てきたのは――

              ◇◇◇◇◇◇

「智恵の実か。ここではどんな存在なんだろうな」
 彼女達の進んでいた道からほど近い位置。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は仮面をつけ、鏖殺寺院鮮血隊副隊長としての出で立ちで神殿内を歩いていた。最近はこちらの姿で動いていなかったし久しぶりに、と仕事の一環として実の調査である。
「地球的に言えば智恵の実は罪の象徴。便利そうなアイテムだが噂程度にしか聞いた事ねぇし、何より伐採だけでなく燃やされたってのが気にかかる。……さて、厄介な事になりそうだな」
 面白そうなら回収し、やばそうなら処分するかと考えながら歩くことしばし。
 曲がり角の先が何か騒がしい。聞き覚えのある声がちらほらちらほらと混じっている。雰囲気は……現在地を確認したくなるくらいにいつも通りのようだ。姿を隠そうかとも思ったが振り返っても長い通路が続くだけで生憎そんな場所も無い。
 やがて、ファーシーやピノ達が角を曲がってきてトライブに気付き足を止める。
「あ……」
 彼の仮面を見て、ファーシーは小さく呟いた。

 この姿で彼女と顔を合わせるのは、空京のあの事件以来。
 ――物好きな連中だ。にしても、さて、どうするかな。
「あ、あの……」
 ファーシーが戸惑った様子で口を開く。何を言おうとしているのかは分からないが、機先を制するようにトライブは言った。
 悪人らしく、余裕を持って挑発的に。
「久しぶりだな。攻撃用の車椅子は、今日は忘れてきたのか?」
「車椅子……? あっ!」
 ファーシーは小さく声を上げる。あの時に自分が言った台詞でも思い出したのだろう。『バズーカを渡さなければ、すんごい車椅子で攻撃する』――
「そう、車椅子……。あ、あのね、あれからね……」
 慌てたような表情で何かを説明しようとするファーシー。その周りでは、沢山の仲間が彼女の話を、声を聞いている。余計な事を言われても面倒だし、下手に会話を長引かせて“実はいい人なんじゃ?”と思われてもつまらない。
 ――ま、折角の大冒険、張り合いがあった方が良いだろうし少し脅かしておくか。
「智恵の実が目的なんだろうが……手に入れるのは俺だ。お前らにはやらないぜ?」
 一生懸命に話をしようとする彼女の言葉を遮ってパイロキネシスを放つ。ピノや真菜華、女子達が怪我をしないように注意して。ちょうど、遅れてラスが角から顔を出したがまあそれはどうでもいい。
「きゃっ……!?」
「ファーシーちゃん!」「ファーシー!?」「ふぁ、ファーシーさん!」
 炎を挟んで聞こえるファーシーと、突然の事に対処する皆の声。
 戦う事は目的じゃない。挑発をするだけすると後は気にせず、消火される前に、とトライブはその場から退散した。

「おにいちゃん、大丈夫?」
「……何とかな」
 存在を全く気にされずに炎の餌食になりかけたラスだったが、幸い彼にも護衛がいたので軽傷で済んだ。その代わりに怪我をしたのは――
「だ、大地さん〜!!! 大丈夫ですか!? 大丈夫じゃないですよね今治療しますから!」
 半泣きのティエリーティアにリカバリをかけられている大地だった。黒コゲで両目が「×」になっている。まさか、本当に前に出てくるとは。
「他に大きな被害はないみたいだね。皆、無事だよ」
「大したことがないようで良かったです。一応、ヒールをかけておきますね」
 そこで、エースとエオリアが近付いてきた。エオリアにヒールをかけてもらいつつ、ラスは考える。炎を通して見た男の姿。確証はないが……仮面はともかく、遠ざかっていく後ろ姿はどう見ても、あいつだ。しかし、誰も気が付いた様子はない。
(あれか、美少女ヒーローアニメとかの理屈と同じやつか……?)
「やっぱり、悪い人なのかな……?」
 そんな事を考えていると、近くでファーシーのひとりごとが聞こえた。彼女は仮面の男が去った通路の先をじっと見ている。
「お礼、言いたかったな……」
 その言葉は何故か、印象に残った。