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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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第17章 ピンチをチャンスに変える内装工事

 連結器の接続が始められている頃、椎名 真(しいな・まこと)は内装費を予算内におさめようと、計算ソフトでまとめている。
「いくらいっぱいもらえたからって、贅沢するわけにもなぁ」
「ビデオカメラとモニタにはー機器接続できるようにできたらいいなーぁ」
 彼方 蒼(かなた・そう)はひょこっとテーブルから顔を覗かせ、くりっとした瞳で彼を見つめる。
「蒼、テレビじゃなくてモニターな・・・」
「のるのはにーちゃんみたいな大人ばっかじゃないよね?」
「うん、蒼と同じ年くらいみたいな子も何人かいると思うよ。魔列車を走らせる計画に協力してくれているみたいだし」
「ほんとー!?お話してみたいなー」
「会える機会があればだね。で、どんなモニターが必要なのかな」
 内装について決めようと真が話を戻す。
「えーっとぉ、車内にテレビおきたぁい!駅の紹介とかーおそとの様子みれるのー!」
「へぇー。安全確認とかもしやすいし、いいかもね」
「またにーちゃんといっしょに設計図かいてぇ・・・」
「オーダーにするの?」
 今から!?と真は思わず眉を潜めた。
「そうだよー。でね、中がひろーいから、何台かあるといいねー。えきしょーみたいに、うすがたがいい!これがいいっ」
「こ、こんなに高いの!?」
 わんこが指差したカタログを見ると、目玉がポーンッと飛び出そうなほど高額な金額に、真は思わず声を上げた。
「やめて蒼、予算がっ」
「それ頼むんじゃないよー?それっぽくしたいんだよ。いるのは、これとーあとこれもっ」
「あぁ、それなら大丈夫かな」
「アダマンタイトのせいれんで、にさんかけいそ?とかが出て、列車の椅子を支えている金具を新しく作り変えていいって、静香ねーちゃんが言ってたよ」
「リフォームってわけかな」
「うん、りふぉーむしよう!かざっておくだけじゃ、もったいなーい」
「経費も節約出来そうだし。じゃあネットで注文しておくよ」
 真はすぐさま業者に注文し、必要な材料を配送する。




 その頃、車内の方では佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が先に内装工事を始めている。
 車内の内装も進めなければいけないと聞きつけた彼は、パラミタ内海から駅の予定地へ向かい、スタンバイしていたようだ。
「フフッ♪食堂車の案があったり通るとはね。他の人も提案してくれたからかな?」
 床が傷つかないように塩ビシートを敷いて脚立に乗る。
「もう内装工事が始まってしまっているようですね!撮影許可をもらえますか?」
「うん、いいよ」
 工事の様子を撮影にきた刀真に、あっさりオッケーと言う。
 精神感応で弟に呼ばれてきた兄の佐々木 八雲(ささき・やくも)が、“ゴシックにしたいね”と言い出し、そのテイストに合わせることにした。
「うん、このシャンデリアにしてよかった♪金一色とか、クリスタルだけとか・・・。そういうのは合わないからね」
 純銀をベースに少しだけ金細工をあしらったシャンデリアを天井に設置する。
 配電などはすでに兄が天伏と配電図を見て位置を確認しながら設置してくれた。
「落ち着いて食事が出来る雰囲気にしてみたいし。少し明りを暗めにして、大きなのが1つあればいいね」
 かといって客を選ぶような高級感はよくないから、というふうに言う。
 天井の塗装はこれから貼る壁紙と合うカラーを選ぼうと、真っ白に塗ってある。
「次は床材だね」
「退かないと一緒に巻くよ」
「え〜酷いよ兄さん。そういえば、ウィザード系の人募集ってあったのに、どうして内装のほうにきたの?」
「向こうは人が足りているし、こっちがまったくいなかったからね」
「あはは・・・って、本当に笑えないほどいないよ・・・」
 実際に工事を担当できるメンバーが自分と蒼しかいないことに、まさか皆長時間・・・立ち乗り!?と危機感を覚えた。
「椅子なんか使い物にならないって話だし、中は関心があまりないのかと思ったからさ」
「まぁ、出資者の3人は必要なぶんだけ提供してくれるけど、工事まで手伝うとはいってないからね」
「客車の座席の方はどうなるんだろう?」
 靴を外に置いて床に長い板を並べながら、疑問に思った八雲が言う。
「今回は・・・ないよ♪」
 その嫌な予感を弥十郎がさらっと言い放つ。
「皆どこに座ればいいんだか」
 まさかの事態に熊谷 直実(くまがや・なおざね)がさらに不安材料を積む。
「だって今回は食堂車だけでいっぱいいっぱいなんだよ。1両だけ手付かずっていうのも寂しいから、2両分食堂車にしちゃおうか♪」
「そんな強硬手段とっていいのか?」
「食堂車だし座る椅子はあるからさ」
 思わず苦笑いをする直実にそういう決断も必要だよ、と八雲の仕事を手伝いながら微笑んでみせる。
「話を戻していい・・・?精錬も面白そうだと思うけど」
「お前のためにきたんだよ」
「へっ?」
 どういうこと?と弥十郎が目を丸くする。
「募集といえば、内装はアーティフィサー系・・・」
「あーっ、それは言わないで!」
「うん。壁紙以外の仕事とかも増えちゃったよ」
「フフフ、頼らせてもらうよ♪」
「床工事が終わったら、必要なものをこの図面の通りの場所に置いて。後は、僕がやるから」
「ありがとう、すごく助かったよ」
「(自信がねぇ。精練中に失敗して式神化するのはまずい)」
 板にクシ目ゴテで接着剤を塗りながら、本音をうっかり精神感応でもらしてしまう。
 それを聞いた弥十郎は、“やっぱり”と精神感応で返さず、言葉を飲み込んだ。
「珠ちゃんはいろいろやってくれるよねぇ。それに引き換え・・・」
 接着剤を塗った木の上に黒い大理石の床材タイルを並べた八雲は、ザッピングスターをちらりと見て、壁紙などをころころと転がりながら運ぶ珠ちゃんと比べてしまう。
「兄さん、ザッピングスターもかなり役に立ってるよ!」
「工事にそのフラワシは役に立たないよ」
「火を使う時に役立ってくれると思うけど!?」
「そんなことより仕事だ」
 言い合いをする2人に直実が拳骨をお見舞いする。
「イテテ・・・殴るなんて酷いじゃないか」
 八雲は頭を摩ると青みがかった薄い灰色の壁紙を、壁に貼り始める。
「配線は・・・?」
「もうやっておいたよ。丸い灰色の床を外してごらん」
「設置するだけまで準備してくれたのか」
 直実が外してみるとテーブルを固定するだけまで進めてくれている。
 どうやら目立たないように気を利かせてくれたようだ。
 スイッチで固定と解除が、直実の要望通りにそう出来るものだ。
「椅子の方も終わっているようだな」
 角に丸みがついたテーブルと椅子を車内に運ぶとそこへセットする。
「というか、テーブルも大理石にしたのか」
「丸い椅子は石じゃなく、クッションにしたけどね」
 座る部分を薄い茶色にして、銀色の一本足で土台部分は焦げ茶色をしている。
「キッチンは1両目の、左側の真ん中にセットした方が通りやすいかな?」
 弥十郎は客が通る幅のことも考えながら配置を決める。
「幅木を取り付けてからにしてよ。いろいろ置かれると、後から付けづらくなるからね」
 縦10cmの見切り材を付けしている途中で物を置かないでよ、と八雲が言う。
「分かってるって♪窓のカーテンはクリーム色にしよっと」
 すでに兄が窓ガラスと、銀色のカーテンレールをつけたところへ、カーテンをつける。
「もうカウンターとか置いてもいいよ」
「やっと搬入出来るね。おっさん、手伝って」
「重いな・・・」
「そーっと置いてよ。・・・ふぅ〜、石造りだからかな。結構重いね」
 てきぱきと冷蔵庫や包丁などを車内に運び込む。
「ちょうどメニュー本も届いたし♪」
 それには弥十郎が考えた完全予約のコース料理や、一般向けのサンドウィッチなどの数種類のメニューが書かれている。
「ハードカバーにしたんだ?」
「製本屋に頼んじゃった」
「この部分はもう少し華やかにしたほうがよくないか」
 テーブルにテーブルクロスをかけている弥十郎に、真っ白だけというのは、と言う。
「そうだ!魔列車の窓にかけられてたカーテンを使っちゃおう」
「あれはもう、ぼろぼろだろ」
「染め直してから模様の形に切って、クロスの周りだけに飾りつけるんだよ」
 そう言うと弥十郎はヴァイシャリーの別邸に取りに行き、暗い青色に染め直して切り、クロスの周りに縫い付ける。
「ぱぱっと終わらせてきたよ。後は・・・」
「壁にかかってたランプを修繕しておいたよ」
「さすが兄さん、早いね♪」
 直してもらったそれをさっそくテーブルに並べる。
「車両との間は取り外し出来るちょっとした橋みたいなのと、その上に屋根も設置したからね」
「じゃあ、ひとまず食堂車は完成かな?」
「頑張ったね、ひとまずお疲れ様」
「2両分もあるってなんか凄く嬉しいね♪」
「なんと、客車の2両分が食堂車となりました!これは止むを得ない事情もありましたが。パラミタ内海には後、4両分ありますからね!さて、残りの客車はどうなるのでしょうか!?」
「寝台車とかの案もあるらしいね?でも、また客車いじるのこの3人だけだとしたら。全部食堂車に!?なんてことになったりも♪」
 刀真のナレーションの言葉に弥十郎が冗談交じりに言う。
「おぉ。なんというオール食堂車化の発言!」
「フフフ♪食堂車じゃなくってゆったりと座れるスペースとかも、一応考えておくよ。主に兄さんが頑張ってくれるはずだよ」
 まだ兄さんにいてもらわないとね、とにやりと微笑んだ。



「蒼、注文の品が届いたよ」
「わーい、列車に運んでー」
 嬉しそうに尻尾を振ると蒼は工具箱を抱えてヴァイシャリー南湖へ走っていく。
「カメラの設置おねがいできるぅ?」
 列車の中に行くと未那が修繕を続けている。
 彼女の傍には精錬された金属を溶かす係りのルカルカやダリル、玄秀がいる。
「ごめんなさいですぅ〜。計器の修理が大変でそこまでは無理ですねぇ〜」
「うぅ、わかったー。アダマンタイトって、溶けるときれーに光るの?」
「溶けている状態ですからねぇ。冷えたら溶かす前と同じ色に戻っていると思いますよぉ〜」
「ねーちゃんもお仕事がんばってるし。じぶんもがんばるぅー。この端子をつなげてー、基盤にはんだ付けするよぉ」
 急いで造らなきゃー、と液晶モニターの裏側部分の部品を組み立てる。
「ビデオカメラとモニターは、じぶんが接続するぅ」
「(運び終わったら何もすることなくなっちゃったなー)」
 真剣に設置作業をする蒼を眺めながら、うーん・・・と呻り悩む。
 ティアンの方はというと、客車の修繕作業を終えた人々に肉じゃがを配っている。
「よし、ティータイムでも・・・」
「にーちゃん、めっ!ここ飲食いけないよっ」
 こぼしたら危ないからめっ、と蒼が頬を膨らませる。
「いや、外でだよ」
「今はだいじょーぶ。にーちゃん、肩車して。うえにカメラつけたい!」
「届いた?」
「うん、届いたー!やったー、ちゃんと映ってるぅ」
 まだ電源が入っていないから、予備バッテリーで作動させてテストする。
「できたーっ。あと、おっきーテレビ客車におきたーい」
「弥十郎さんの食堂車には置き場がないから、今回は保留だね。また座席がある客車の内装工事する時かな」
「むぅーざんねんー」
 まだテレビが置けないと知ると蒼は残念そうにしょんぼりとする。
「修理終わりましたぁ!」
「僕もうSPきれちゃいましたよ」
「ルカもすっからかん♪」
「いったん外へ出るとしよう」
 列車から降りたダリルたちは完成を祝う仲間の元へ駆けて行った。