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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 後編

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第5章 海の晩餐

 発掘現場にいる生徒たちが、運転車両と客車を繋いでいる連結器を外しつつ、車輪の間に詰まっている土砂の除去をしている頃・・・。
 陸の方では、ニャ〜ンズかまぼこを子敬が蒸し器に入れている。
「このまま20分ほど蒸さねばなりませんが。海風で温度が下がったりしないよう、気をつけねばいけません!」
 料理経験のカンを頼りに、中の温度が80度以下にならないように、ガスコンロの火加減を調節している。

 数十分後・・・。

 ピピピッとタイマーが鳴り響き、急いで蒸し器からかまぼこを器に移す。
 ほわほわと白い湯気を立てるそれを、まな板に乗せてスッと包丁で切り、味見してみる。
「うーむ・・・」
「出来栄えはどう?」
 かまぼこの腐敗防止に氷で急冷していると、トマスがひょっこり厨房に顔を出す。
「味見してみますか、坊ちゃん」
「美味しそうだな、はむっ」
「私的には、もう少し弾力が欲しいところですが。好みがありますからね」
「そのまま食べるっていうより、何か料理を考えてみるとか?」
「ふむ、創作料理ということですか。海草類も使ったヘルシーなメニューも、ご用意したいところですね」
 出来立てのかまぼこを冷やしながら、祖国の風味を加えてみようかと考える。
「ニャ〜ンズも美味しいけどさ。他の魚介類も用意したほうがいいかもな」
「確かに、好みは人それぞれ違いますし。エビの団子汁でも作りましょうか?」
 クーラーボックスの中を覗き込むと、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が彼のために手配して届けさせた生姜やみょうがなどがある。
 きっと魔法学校の生徒にでも配送させたんでしょうね、と思いつつ使わせてもらう。
 面白い研究もしたいし、ご馳走も食べたい幼い校長は、“おいし〜食事を用意してくださいねぇ〜”と、わがままほうだいだ。
「では、テノーリオ。いってらっしゃい」
「パラミタ内海に・・・・・・か。はぁ〜・・・」
 当然のようにニコッと笑顔で言う子敬に対して何も言えず、深くため息をついた彼はトボトボと海の中へ潜る。
「何だかもう、テノーリオちゃんは猟師みたいアルネ〜?」
 小船の上にちょこんと座っているチムチム・リー(ちむちむ・りー)が、銛を手に海へダイブする彼の姿を目撃する。
「チムチム、2時間ちょっとしたらボンベ持ってきてね」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は酸素量を調節してドボンと飛び込む。
「レキ、夕食までには戻ってくるアルヨ〜。明日も続けるらしいから、ちゃーんと体力を回復させるために、無理はいけないアル!」
 大声で言うチムチムに彼女はニュッと親指を立てて、“了解!”と返事をする。
「―・・・むっ!」
 倒し損ねたニャ〜ンズの気配を殺気看破で感じ取り、キッと眉を吊り上げてそれを睨みつける。
「キミは全然もふもふしなかったヤツだね!」
 鮫肌でもふもふのもの字もせず、毛まみれにされただけの記憶だけが脳内に蘇る。
 財天去私でボコボコにしちゃえー!と鉄拳を繰り出すが、尾ビレでベシベシッとガードされてしまう。

 ニャキーンッ。

 怒った海のギャングは、両側のヒレから鋭い爪をニュッと伸ばし、少女の細身の身体を捕まえようと襲いかかる。
「ぎゃわぁああ!?何、その爪ーーーっ!!」
 掴まったらまた遊ばれて終わると思い、レキは必死に避けながらぷにょぷにょの肉球を殴る。
 ドドドボスンッ。
 まるで砂袋を叩くように殴るが、相手は怯むことなくフゥウウッ!と怒りの声を上げる。
「―・・・はぁ、・・・はぁ。なかなかやるじゃない、キミ・・・」
 さすがの彼女もSPが減ってきたのか、呼吸を荒くして試合中の選手のようなセリフを吐く。
 ニャ〜ンズも戦い疲れた様子で、尾ビレを振りながら去っていった。
「あー、やばい!早く作業場に行かなきゃ!」
 ネコ鮫ばかり構ってる場合じゃないと、レキは大急ぎで洞窟の中へ泳ぐ。
「どうしたの、何だか疲れているみたいだけど?」
「あはは・・・ちょっとね」
 ボンベを交換しに行こうとする祥子に声をかけられたレキは乾いた笑いを漏らす。
「運転車両の方はもうすぐ発掘終わりそうだから。1両目の客車の方を手伝ってあげてね」
「おっけ〜い♪」
「掘り返しやすくしておきましたので、よろしくお願いしますね」
 聖杭でぐりぐりと穴を開けた箇所へ、陽子がライトを向ける。
「この辺を狙えばいいんだね?」
 エイミングでロックオンすると、作業員用に借りてきた弓をギリギリ・・・と引き・・・。
「どぉおおーん♪」
 小ぶりの銛を矢の代わりにし、サンドワインダーを撃ち込み岩石を射抜く。
 金剛力の怪力のせいか、向こう側がくっきりと見える。
「んー・・・ちょいギリギリ危なかったね。ねぇ、そこのキミ。体が浮かないように支えててくれる?」
「私か?」
「うん、そうそう。って、どうしたのその頭?」
 ヤシの木ヘッドに気づかれた泰宏は、両手でそれを覆い隠そうとするが、葉の部分が指の間から見えてしまう。
「えぇっと、これは・・・」
 興味深々に見上げられた彼は“決して私の趣味じゃないんだ!”と叫びたいが・・・。
 本当のことを喋ったらどうなるか分からないと、返答に悩みアタフタと慌てる。
「私たちがコーディネートしたんだよ」
 張本人の透乃は悪びれる様子もなく、客車の上から声をかける。
「気に入らないなら、こんなのもあるけど?」
 どこから取り出したのか、芽美が殿様っぽいちょんマゲヘッドを泰宏に見せる。
「―・・・どっちも同じようなもんじゃ。いや、これでいい・・・」
 別のヤツを用意するわよ?という顔をされた彼は諦めた様子で、がっくりと肩を落とし口からぽわ〜んと魂が抜けそうになる。



 祥子がボンベを交換しに陸へ戻ると、パートナーの2人がパタパタと駆け寄ってくる。
「そんなに慌ててどうかしたの?あっ、洞窟の前のほうだけでいいんだけど、後で天井を少し削ってくれる?」
「ごめんなさい・・・、母様。水中対応は無理のようですわ」
「メンテは終わったけど、この機体じゃ厳しそうよ」
「故障しちゃったら困るし、運搬だけ頼むわね」
 ションボリとする2人に祥子はニコッと優しく微笑みかける。
「母様のために頑張って運びますわ!」
「ありがとう静香。それじゃあ私、現場に戻るわね」
 片手をフリフリと振ると彼女は、発掘を続けている皆のところへ戻る。
「(あっ、さっそく捕まってるわね)」
 入口から進行度合いを覗くと、イタンビューを受けているレキを見つける。
「レキさん、ちょっとお話したいのですけど」
「何かな?」
「客車の発掘をしているみたいですが。進み具合はどんな感じでしょうか」
「運転車両はもうすぐ運べそうだよ!」
「ということは、1つ目の連結器が外せそうということですか!?」
 その経過時間をボードに書くと、刀真はカメラマンの月夜に映すよう、くいっとそこへ顔を向ける。
「見てください!今まさに、運転車両と客車の連結が外されようとしています!!」
 刀真は後ほど見るであろう視聴者に向かって言う。
 その声も聞こえないほど集中しているハイラルがネジを取り、舞香がフックをぐっと持ち上げ・・・ゆっくりと外す。
「凄いです!5000年前に沈んだ魔列車の、1つ目の連結器が外されましたっ。これから修理するために運ばれるのでしょうか!?
 運搬の準備をしている透乃にレンズを向けると、丈夫な長いビニールに入っている登山用ザイルを、バッテン形の斜めに括りつけている。
「よく見るとビニールの中に綿も詰まっていますね?」
「このままじゃ擦っちゃうからね。綿は濡れても困らないし」
「なるほど。なるべく傷をつけず運ぶために、かなり手間をかけなければいけないんですね」
 平べったく敷き詰められたそれを月夜に撮らせる。
「透乃ちゃん!」
「十字に縛ればいいのかな・・・。ん、何?」
 どう縛ろうか考え込んでいると、大きな声で綾乃に呼ばれ、くるりと振り返る。
「ザイルをクロスさせた箇所がズレないように巻いて、真ん中をぐるーっと巻きつけてくれる?それから・・・天辺で縛って、イコンが持ちやすいように輪を作って欲しいわね」
「おっけー、・・・ん〜っ!!」
 透乃は元気良く返事をすると、ぎゅーっと力いっぱい結び目を締める。
「これじゃ、運んでる途中で落ちたりしないかな」
「うーん・・・。まいちゃん、上で借りてきてくれる?
「何本あればいい?」
「4機くらいで運んでもらえば大丈夫だと思うわ。念のために、3本くらい欲しいわね。後ついでに、私の分のボンベもお願いね」
「分かった、3本ね」
 本数を確認するように言うと舞香は陸へ上がる。
「ねぇ、一輝。登山用ザイル3本くらい持ってない?」
 ボンベを交換すると陸で待機している彼に声をかけた。
「それなら、コレットが持ってるけど」
「ザイルが必要なの?こっちに置いてあるわよ。えーっと、確か下の方に詰めたような・・・。―・・・あったわ!」
 荷物の中から急いで取り出したコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は舞香に手渡す。
「じゃあ借りていくわね。あ、そういえば・・・。列車を引っ張るための、レール用の木を陸で準備してくれたのよね?」
「一輝が昼頃までに、準備してくれたはずよ」
 すでに天城 一輝(あまぎ・いっき)が太陽が昇りきらない早朝から森の木を数本切り、レール用に木材を用意していた。
「ここにまとめて置いてあるわ」
 コレットはそこへ彼女を案内してあげる。
「私1人じゃキツイそうね・・・」
 誰かに手伝ってもらおうと現場へ戻り、運ぶのを手伝ってもらうことにした。
「簡易レール用の木材をここに運びたいんだけど。誰か一緒に来てくれる?」
「あー・・・、じゃあ私が行くか」
「私たちも手伝おうかな」
「それって作るの難しいの?」
「一応、手順を書いてもらっておくわね」
 レキにそう言うと、舞香は再び陸を戻り・・・。
「設置するっていっても、やり方が分からないと作れないよ。紙にでも書いてくれる?」
 一輝に声をかけ、設置手順を書いてもらうと、メモ帳とペンを渡した。
「陸までは作業時間的にも厳しいからな、洞窟の出口までにしておこう」
 手順を油性ペンで書いた彼は、どれから使えばいいか、木材に番号を書く。
「このメモにも番号をつけといたから、使う順番を間違えなければ大丈夫だ」
「ありがとう!レキちゃん、一緒に運ぼうよ」
 ぽんっとメモを受け取った透乃は、重そうに木材を引きずるレキに声をかける。
「うん、水分含むと重くなっちゃうからね」
 そう言うと彼女は、緩やかなカーブの形状をした木材の端っこを持ち上げて運ぶ。
「(ていうことは・・・、私は1人で現場へ持っていくのか?)」
 他の皆は作業を中断すると、2両分の客車のさえ発掘することが難しくなるらしく、手伝いに来れない。
 寂しそうに泰宏が2人をチラリと見ると・・・。
 “皆、待っているから、早く運ばなきゃね”というふうに、透乃に笑顔だけ向けられた。
 舞香の方はというと海の中の時よりも、太陽の光ではっきりと姿が見えるようになった彼を視界に入れないよう、せっせと枕木用の木材を運んでいる。
「(やっぱりドン引きされているオチなのかーーっ!?―・・・ていうか、抵抗なんて出来ないし・・・)」
 拒否すればするほど、もっと酷い格好にさせられだろうなー・・・と、どんよりと泰宏は暗いオーラを発しながら材料を抱えて発掘現場へ戻る。