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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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笑顔でひとつ、お話を。


 人形工房に挨拶にルイ・フリード(るい・ふりーど)が来たのは、写真騒動の日だったか。
 あの日に挨拶をして以来、顔を合わせる機会はあれどきちんと話すことはなかった。
 だから今日は交流を深めようと、菓子折り片手にルイ☆スマイル。
「どうもこんにちは!」
「相変わらず明るい笑顔だね」
「取り柄ですから」
 きらりと光る白い歯も、もちろんチャームポイントである。
「ねえルイおにぃちゃん。どうしてわたしたちにあいさつしたあともういちど、どこかにむけてあいさつしたの?」
「それはですねクロエさん。カメラ目線というものでして」
「カメラめせん?」
「秋ですからね。しっかりキメておきませんと」
 秋だから何を決めるのか、はさておいて。
「あの日以来ろくにお話も出来ませんでしたからね。改めてご挨拶に伺いました。
 ささ、どうぞこちらイルミンスール銘菓です」
「わざわざどうも。クロエ、お茶にしようか。丁度いい時間だしね」
「はーいっ」
 リンスが時計を見たので、ルイも見た。午後三時を少し回ったところである。
 いやはや時間の経過は早いものです、と深く頷いた。なにしろルイが家を出たのは、まだ朝日が昇って間もなくの頃だったのに。
「どうしたの」
「いえ。本日の大冒険を思い出して浸っておりました」
 地図も非常食も、大変役に立ってくれた。体力や体調が万全なのは日課としているトレーニングのおかげだろう。
 リンスはよくわからないといった顔をしていたが、あの大冒険を話すと長くなるので「なんでもないですよ」と笑顔を向けておいた。ならいいや、とあっさり引き下がったので、この話はおしまい。
 クロエの淹れてくれたお茶を飲み、持参した銘菓を食べながら。
「写真騒動のときといい、花見のときといい……なぜか私、身体が動かなくなってしまったんですよね」
 のんびりと話し始めると、「ああ……」とリンスが遠い目をした。
「もしかして何か迷惑をおかけしましたか?」
「いや、うん。フリードは悪くないんじゃないかな」
「おつとめごくろうさまだったのよ」
「?? そうですか」
 なんのことかはよくわからなかったものの、クロエの笑顔は明るかったし、こちらも笑顔を向けておく。
「ルイおにぃちゃんて、すてきなえがお」
「ふふふ。ルイ☆スマイルですからね! ルイ☆スマイルは無敵なのです」
「わたし、まけない」
「ではクロエさんもクロエ☆スマイルを取得しましょう! そうすれば渡り歩けますよ!」
「うんっ! こう? クロエ☆スマイルっ」
「いい線です。けれどもう少し、こう……スマァァイル」
「すまーいるっ」
 そうやって笑顔の特訓をひとしきりしてから、
「リンスさん、きちんと栄養を摂っていますか?」
 また別の話題を投げかける。
「それなりに」
「それなりですか。それは心配ですね……ではこちら、私特製ドリンク【マッスルフィーバーX】を進呈しちゃいます! 笑顔で!」
 ニコ! と笑顔を向けて、ルイ。クロエが「すてきえがおだわ!」とはしゃいでいるので笑顔は完璧だろう。
 一方でリンスは、
「これを飲んだらフリードみたいなすごい身体になっちゃうの?」
「さて、それはどうでしょう?」
「わたしのむー! ルイおにぃちゃんみたいにおっきなからだになるー! それでえがおでにこーするの。ねえ、そうしたらかてるかしら?」
「待って。さすがにクロエ、それは待って」
 問いかけるところまでは鉄面皮を崩さなかったがクロエの発言に慌てたらしい。「俺が飲む」「いやー」というやり取りに、いやはや微笑ましいなとルイは頬を緩めた。
 おっといけない。いつまでも和んでいないで本題も伝えねば。
「そうそう。今日ここに来た理由は、こうしてお二人の仲の良さを見させてもらうことだけではないのです」
「うん?」
「お仕事の依頼に来ました。
 娘たちに贈る人形を作ってもらいたいのです」
 今まで、ルイは彼女たちに父親らしいことをしてこれなかった。
 何かしてあげたいとは常々思っていたのだが、ピンと心を弾くものも、きっかけもなくて。
 でも、リンスの人形なら?
 形に残るし、素敵なものだし、これならきっと喜んでくれるのではないだろうか。
「どうでしょうか? 頼めるのでしたら、今度正式に依頼させてください」
「うん、いいよ。いつでも来て」
「ありがとうございます。
 あ、そうそうそういえば。私、飲み物のほかにもこちら『日常健康維持メニュー』を用意してきたんですよ。マッスルフィーバーと併用していただければ効果は二倍三倍に膨れ上がります」
 微力ですが健康のお役に立ててくださいね、と見せたメニューには、
『腕立て伏せ 五十回
 腹筋 百回
 背筋 百回
 マラソン 十キロ』
 と書いておいた。なお、これはルイが日々行っているトレーニングを流す程度に抑えたものだ。これくらいならきっと、普段引きこもっているリンスでもできるはず。
「ごめんフリード。無理。いろいろ無理」
 だったのだが、無理と言われてしまった。メニューも突っ返された。リンスが本気で無理そうに――というかむしろ、引いていた――していたので、大人しく食い下がる。少し残念だったけれど、今日は人形を作ってもらえる約束を取り付けたことだしそれだけで大収穫だ。
 ならばもう引き際である。これ以上遅くまでお邪魔するのもよろしくないと考えて席を立つ。
「そろそろ帰りますね」
「うん、また」
「ええ。次は発注しに来ますので」
 工房を出たルイは、さあ帰りは何時間で辿り着けるだろうと地図と睨めっこした。
 なお、その地図が上下反対であることを教えてくれる優秀な連れは、居ない。