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リアクション
―君と私の新婚生活―
雀の鳴き声と、ざあっと吹き込む風が涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)を目覚めさせる。
いつもならほとんど同じようなタイミングで起きる、最愛の妻、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)がいない事に気がつき一気に目が覚めた。
辺りを見回して見つけた。
ああ、よかったと素直に思った。
窓を開け放ち、外を見ているミリアの姿。
すでに着替えを済ませているところを見ると、涼介は相当寝坊してしまったように思える。
涼介はベッドから抜け出すと、窓の外、とても晴れ渡っている空を見上げているミリアの隣に立った。
ミリアは涼介に気づいたのか、ほほえみを浮かべた。
「おはようございます。お休みなのに起こしてしまいましたか?」
「すいません、こちらこそ寝坊してしまって……」
「いえいえ、久々の休日ですよ? ゆっくりしてくださいな」
ほにゃっとした、涼介を安心させるような柔らかい笑みでミリアは言う。
「起きてしまいましたし……」
さすがに二度寝をするのも申し訳ない。
「それでしたら」
ミリアは何か思い立ったことがあるのか、両手を胸の前で小さく合わせると、
「一緒にご飯作りましょう?」
そう提案した。
太陽はもう暫くすれば頂点に達するくらいまであがっていて、確かに朝食と昼食を兼ねて作るというのはいいことだと思った。
たまにの休日。ミリアにはこういったのんびりとした何でもないような一日が似合っていると、涼介は勝手に思っている。
そんな彼女の提案。無碍にはできないし、したくもないし、むしろ彼女の提案だったら何でも受け入れる。
「ええ、そうですね」
涼介は頷いた。
「あと……」
そして、涼介はミリアの頬に唇を寄せると
――ちゅっ
軽く触れる程度のそんな軽いキス。おはようの挨拶の代わりでもある。
「遅くなりましたが、おはようございます。ミリアさん」
少しだけ照れくさそうに笑みを浮かべた。
「はい、おはようございますっ!」
ミリアはとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、返事をしたのだった。
「それじゃあ先に準備してますので、着替えてきてくださいね」
そう言って、軽やかな足取りでミリアはキッチンへと向かっていった。
「さて、行くかな」
涼介も着替えを手早く済ますと、ミリアの後を追った。
「あ、火のほう見てください!」
既に戦場になっているキッチンに、ミリアの声が響いた。
「ええ、任せてください」
涼介は、そう言ってコンロの方へと向かうのだった。
そして、キッチンでは二人の見事なまでに息のあったステップが披露され、あっという間に食事ができあがった。
甘い香りが沸き立つパンケーキに、こんがりと狐色に揚げられたハッシュドポテト。
大皿には瑞々しいサラダと、オムレツにはトマトの鮮やかな赤色が見え隠れしている。それが二人分。
挽きたてのコーヒーの香りも十分なまでに食卓を彩る。
有り合わせにしては、十分すぎるくらいのできだ。
作っているうちにわがままを言い出してきた空腹が、さらに料理を美味しそうに見せている。
「いただきます」
二人は静かに手を合わせ、そう言った。
うん、おいしいとお互い言い合ってゆっくりと平らげていく。
「ミリアさん、お昼からどうしましょう?」
皿の中身も空になった頃、涼介はミリアに問いかけた。
「こんなにいいお天気ですから外に行きましょう」
「そうしようか、荷物は全部私が持ちますから、ゆっくりしましょう」
「はいっ!」
そんな、昼前の風景。
「それじゃあ、片づけを済ませてからですね」
ミリアはにこりと笑ってそう言った。
「私もお手伝いしますよ」
涼介はそれに答えるように、同じように笑って言った。
緩やかに流れていく、休日の二人の時間。
それは何物にも代えがたい時間で。
どんな金銀財宝にも勝る珠玉の日で。
そんなどこにでもある普通の休日だけど、二人にとってはそれすらも特別な一日。
涼介とミリアはお昼からのんびりと買い物などをして過ごすのであった。
その日一日の二人には笑顔が絶えなかったと、二人を目撃した人は言う。