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ブラッドレイ海賊団2~その男、ワイバーンを駆る者なり~

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ブラッドレイ海賊団2~その男、ワイバーンを駆る者なり~

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●第1章 黒髭海賊団、出撃せよ!

 “黒髭”に憑依された泉 美緒(いずみ・みお)と、彼女のパートナー、ラナ・リゼット(らな・りぜっと)は、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)から聞かされた話――雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がブラッドレイ海賊団の一味に攫われ“黒髭”が呼び出されたという話――の元、海賊船へと乗り込み、向かっていた。
「雅羅さんがブラッドレイ海賊団に囚われたって!? 何とかして助けないと!」
「許せないわ! 今すぐ“黒髭”海賊団に協力してブラッドレイ海賊団から雅羅ちゃんを助け出しに行くわよ! ユッチー!」
 そういった経緯で乗り込んだ想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)やパートナーの想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)のように、雅羅を助けるため、“黒髭”に協力するため、多くの学生が乗船していた。
「蒼学の生徒を攫うなんて、いい度胸じゃない!」
 甲板に立ち、進行方向を見ながら、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はぐっと拳を握る。
「そうです。許せませんね」
 彼女のパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も頷き、同意した。
「雅羅おねえちゃんをたすけにいくですね。ボクもおてつだいがんばるですよ♪」
 泳げないながらも海賊船の中から出来ることをしようと、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)も乗船している。
「いけいけボクらの黒ヒゲかいぞくだ〜ん、
 黒ヒゲおじちゃん、つよいぞ〜、
 美緒おねえちゃんきれいだよ〜、
 二人で一人の船長さんです。
 いけいけボクらの黒ヒゲかいぞくだ〜ん♪」
 ショルダーキーボードを肩から吊り下げ、弾き鳴らしながら、ヴァーナーは海賊団の音楽家らしく、航行を盛り上げるために歌う。

 “黒髭”はナラカ人らしき者、自分の提案に対しラズィーヤは乗り気でなかった、それについては自分の思い込みなのだから仕方ないか――そんなことを考えながら、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は“黒髭”の傍に控えていた。
「百合園の利益とかも色々あるけど、今後美緒さんが実際黒髭と付き合っていくわけですし、周りに左右されずよく考えて悔いのない選択をしてくださいね」
 美緒が表に出ているうちに、小夜子はそう、彼女に伝える。
「はい、ありがとうございます」
 美緒もこくりと頷いて、小夜子の言葉を受け止めた。
 一方、小夜子のパートナー、エノン・アイゼン(えのん・あいぜん)は、たくさんのバケツを用意し、それに水を汲み、甲板に並べていた。
 相手がレッサーワイバーンに乗る者たちであるという情報の元、ブレス対策のためだ。

(美緒の迷いを失くすためにも今回の出撃は好都合ですわ)
 彼女の傍に控えながら、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)は思う。
 荒くれ者たちのトップに立つ者として、カリスマ性が必要だというのは当然のこと。
 それが海賊であれば、『船長』の力に畏怖と尊敬を向けるだろう。
 今後とも、1対1の船長同士の戦いは、充分に起こりえる。
 そのとき、今のように“黒髭”が表に出てくるタイミングが不安定なままでは、勝てる戦いも勝てない。
 そういった窮地に陥ったとき、彼女が“黒髭”ときちんと契約し、交代のタイミングを安定化させることが出来れば――。
「ラナ、良いかしら?」
 キュべリエは美緒から少し離れると、彼女の傍に控えるラナへと声を掛ける。
「どうされました?」
 ラナは応じて、キュベリエの近くへと寄る。
「アーダルベルトの話から、此度の敵――ランスロットの人柄は、恐らくは女好きの色男だと見ます。そうであれば、美緒には立派な2つの武器がありますわ」
 キュベリエが告げながら、チラリと見るのは女性の身体として出るところが出て、締まるところが締まっている美緒自身のスタイルだ。
「単に武具やスキルの力だけでぶつかり合うより、この武器を使わない手はありませんわ」
「……と言いますと?」
 それまでキュベリエの話を聞いていたラナが訊ね返す。
「普段よりも肌の露出部分を多くした形態の鎧に姿を変えることをお願いしますわ」
 そうお願いしたキュベリエは、美緒にも色仕掛けが立派な戦術であることを説くため、美緒の方にも話をしに行った。




 “黒髭”の海賊船が呼び出された海域へと辿り着くより前に、レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)は、パートナーであるリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)からの命を受け、鋼鉄の白狼騎士団に所属するセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)たちと共に、偵察に向かっていた。
 レノアは、セフィーのパートナーであるオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)が駆る小型飛空艇に乗り、セフィーと、エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)はそれぞれの小型飛空艇――セフィーのものはハヤブサの名を持つ、高速飛行が可能なヘリファルテだ――に乗って、上空からそっとブラッドレイ海賊団の船へと近付く。



「そろそろだな?」
 呼び出された海域が近付くと、“黒髭”が表へと出てくる。
 そこへ崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)が近付いた。
「何だ?」
「契約のことで、美緒が悩んでいるって聞きましたの。ですから、1つだけ言わせていただこうかと思いまして」
 2人の行く末を見守るつもりでいる亜璃珠は、そう前置きしてから、改めて口を開く。
「契約するかどうかは2人で決めればいい話ですわ」
 他の干渉があるべきではない――そう、亜璃珠は考える。
「まあ、私としては……別にあなたが彼女のよきパートナーになっても、別の憑依先を見つけて賊に戻っても、それでいいのだけど」
 告げる亜璃珠に、黒髭は黙って彼女の言葉を待つ。
「いずれにせよ、女同士の時間に割り込んでくるようなデリカシーのないおじ様にはなって欲しくないですわね?
「ぐ……ま、まあ、それは気をつけようじゃねえの」
 釘を刺されるかのように言われれば、黒髭は苦笑いを浮かべて、答えた。
「亜璃珠様が2人で……と仰っていますが、私には……そうですね。黒髭様の役目に異を唱えるつもりはありませんが、美緒様を巻き込むのはどうかと……」
 去り際に、マリカは一言だけ告げて、亜璃珠と共に、相手からの攻撃に備えて、船室から出て行った。
「悪いが俺は『黒髭』の護衛をするつもりはない。だから今回は見学だな」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、美緒のことを守ろうとも“黒髭”はその対象にはならない、と積極的には動かない旨を告げて、彼の近くで待機することにした。
 周辺の地図を見て、近付くまでに攻撃される可能性のあるルートだけは頭の中で思い描いておく。
 そう準備を万全にしておくことで、何かあったとき美緒の身体を真っ先に守れるだろうと、正悟は思った。