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伝説の教師の伝説

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伝説の教師の伝説

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第一章:夜露死苦・帝血矢悪(ヨロシク・ティーチャー)
 


 雇われた臨時教師たちが、極西分校にやってきた。次々と。
 生徒たちとの熱い交流が始まる。

「ひゃっはー、ですわ!」
 シャンバラ教導団からやってきたティー・ティー(てぃー・てぃー)は、今日に限ってはなぜか獲物を追いかけるハンターの目つきになっていた。
 町をたむろする不良たちを自由に捕まえてもいいといわれていたのだ。
 臨時教師の一員としてやってきた以上、まず最初の仕事は、町に出てしまっている極西分校の生徒たちを教室に連れ戻すことだ。
 先ほどまで暴れていた不良たちは、町の中を逃げ惑う羽目になってしまった。
 突如、時教師たちがやってきたのだ。
 ひどい目に遭わせて追い返してやるぜと、彼らが息巻いていたのも最初のうちだけ。
 実際に戦ってみると、強くて相手にならない。前任の教師たちと戦闘力が違いすぎた。
 捕まると極西分校に連れ戻され、教室に閉じ込められてしまう。すでに、何人もの不良仲間たちが犠牲になり、悲痛な悲鳴とともに連れて行かれてしまった。
 一日に何時間も勉強させられる。そんな生活は彼らは御免だった。
「全員、散れ! 逃げろ、逃げて生き延びろ!」
 不良たちは、自分たちを追いかけてくる圧倒的存在に畏怖していた。これまで狩る側だった不良たちが狩られる側に回ったのだ。
「そこの青モヒカンさん。特に罪状もないけど確保ですっ」
 ティーは、街角でカツアゲをしていた青モヒカンに狙いを定め、獣のように襲いかかる。
「ヒャッハー! なってこった〜!」
 哀れな青モヒカンは囚われの身になってしまった。
「だ、誰か助けてくれ〜!」
「大人しくしないと、腕とか脚とかポッキポキな感じになっちゃいますよ」
 じたばたともがく青モヒカンを押さえつけながら、ティーは振り返った。
「お疲れ様。そのままこっちへつれて来てくれ」
 その視線の先には、不良たちを取りまとめようとしている青年がいた。
「なるほど。これはうわさ以上に荒れているな」
 ティーたちを連れてにこの地にやってきていた源 鉄心(みなもと・てっしん)は、町並みを見渡して少し眉をひそめる。
 彼らがいるのは町の繁華街だった。
 といっても、派手さや華々しさは感じない。むしろ発展途上国のスラムのような、貧しく薄汚れた街並みが延々と伸びているような光景だ。
 行きかう町の住人たちも今ひとつ覇気に欠け、全体的にどんよりとした空気が辺りを覆っている。
 教育上よくない環境なのは一目でわかった。学校だけではなく、町全体がすさんでいる。
 抜本的な解決が必要かもしれなかった。もっとも町の環境改善までは仕事の範疇外だが。
「へっ……」
「……ちっ」
 不良たちはしぶしぶその場に集まったものの、ふてくされて返事すらしない。
「やっぱりもっと痛くしてあげましょう、鉄心さん」
 ティーが言うのを、鉄心は手で制して、捕まえたばかりの青モヒカンを見つめる。
「すごいな、その髪の色。どうやって染めたんだい?」
「あ……? ……スプレー吹きかけただけだぜ」
「え、そうなの? 髪痛むだろ。シャンプーとかどうしてるの? その色、落ちないか?」
「へへっっ、洗い方にコツがあるんだよ」
 青モヒカンは、意外にも素直に返答してきた。
 彼は、自慢げにモヒカンの素晴らしさかっこよさをアピールしてくる。
 鉄心は、時折合いの手を入れながら、ふんふんと黙って聞いている。
 みんな、自分に興味を持ってほしいのだ。だから、自分の自慢したいことを黙って聞いてくれる人には無意識的に好意を抱く。
 最初から教師ぶって上から目線で正しいことを解いたって誰も聞く気にはならない。特に不良はそうだ。ついつい反発してしまう。
 鉄心は、青モヒカンの髪の色から話に入り、普段の生活や趣味のことなどを聞き始める。その頃になると、それまで無視していた他の不良たちも話に混ざってきた。
 どうでもいい話で盛り上がり始める。
「そうそう、それでよ。この辺り一帯は俺たちの遊び場ってわけだ。路地裏まで知ってるぜ。教えてやろうか」
「それは心強いね。でも、なんだか寂れてしまっているようだ」
 鉄心は本当に残念そうな表情を作った。
「あ、ああ。まあちいと暴れすぎちまったかなって感じもするがな」
「どうだい? 一つ俺たちで町をきれいに再生してみないか? キミたちにとっても大切な遊び場だろう?」
「掃除かよ、ダリーな」
「その代わり、わたくし何か作って差し上げますわ。みなさんと一緒に食べたいですよね」
 いつの間にか上手く会話に入ってきていたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、集まってきていた不良たちに提案する。
「そーいや、腹へってきたな」
「特製の栗ごはん。あときのこ味噌汁とか」
「マジか? よっしゃ、米盗んでこよーぜ。あとキノコも八百屋から強奪だぜ、ヒャッハー」
「だ、だめですってばあ。材料は私が何とか用意しますので」
 慌てるイコナの頭をポンとなでて鉄心は不良たちに微笑む。
「メシくらい、俺がおごってやる。何が食べたい? 一番できのよかった者から好きなメニュー選んでいいぞ」
「マジか? ヒャッハー! 掃除だぜ。野郎ども、町をピカピカにするんだ!」
「おら、どけどけ、通行人ども! 埃が舞い散るじゃねえか! そこのカス、道端にゴミ捨てんじゃねぇ!」
 ドドドドド……! とすごい勢いで不良たちは競うように町を掃除し始める。
「……なんか、あれでよかったんですか? ただご飯につられただけのような」
 なんと単純な、と目が点になっているイコナに鉄心は穏やかな表情で答える。
「理由なんかどうでもいいんだよ。まず、やるという行為。それが重要なんだ。それを積み重ねていけば、彼らだっていっぱしになるさ」
「そんなものなんですか?」
「そして自分たちで整えた町には愛着もわいてくる。自分たちで管理させれば、もう町を荒らしたりはしないさ」
 鉄心は、不良たちに町を守らせる計画も思い巡らせていた。
 元々力が有り余っていて喧嘩もそこそこに強い連中だ。彼らが団結して町を守れば、荒らそうという連中も現れないし、いても彼らで排除もできるようになるだろう。
 シャンバラ教導団でも用いられる初歩的な民間防衛だ。
 さて、何人がモノになるだろうか。
 鉄心は目を細めて不良たちの様子を見守る……。


「ぐへへへ……。ようよう兄ちゃんよぅ、カネ貸してくれよ。返すのは一万年後だけどよ」
「ずいぶんと綺麗なおべべ着てるじゃねえか。そいつを置いていってもいいんだぜ」
 薔薇の学舎の白木 恭也(しらき・きょうや)は、町に入るなりいきなり不良たちに絡まれてしまった。
 彼も依頼を受けてやってきた臨時風紀委員の一人で、町にたむろする極西分校の不良たちを見つけるために一人で歩いていたのだが、こうもあっさりと寄ってくるとは。
「こんなステレオタイプのカツアゲに遭うのもなかなか新鮮かもしれませんけど」
 ナイフをちらつかせてくる不良たちを見やって、恭也は小さく肩をすくめる。
「キミたち、学校はどうしたのですか? 戻ったほうがいいですよ」
「学校なら永遠に休みだぁ。俺たちゃ、さすらいの自由人なんだぜ、ヒャッハー」
「休みは昨日で終わりです。俺たちが来たからには真面目に学校に通ってもらいますよ」
「うるせえよ。俺たちに命令できるのは、俺たち自身だぜ。好きなように生きるんだ、ゲェラゲラゲラ」
「いいから学校にいきましょうね」
 頭の悪い返答にクラクラしながらも、恭也は穏便かつ強引に不良たちを学校に連れ戻そうとする。
「学校には行かねぇって言ってんだよ、ハァァァッッ!」
 不良の一人が、ナイフを振り回して襲いかかってきた。
 恭也は軽くさばいて相手を撃沈させてから。
「俺、臨時とはいえ風紀委員ですから、見かけだけで判断してはダメですよ。……さ、みなさん、学校に行きましょうね」
 そう言った時だった。
「臨時教師ども、返り討ちにしてやるぜ!」
 ドドドドド……! という爆走音とともに、向こうのほうから武装したバイクに乗った不良の一団がこちらにやってくるのが見えた。
 その数、二十人ほどか。全員がスキンヘッドで猛獣の毛皮をかぶっている。その後ろからやってくるのは、下っ端臭を漂わせた手下たち。合計で百人を超えるかもしれない。不良グループとしては結構なの勢力だ。
 町で不良たちを補導し始めた臨時教師たちに対するお礼参りらしい。
「なるほど。あれが不良たちの幹部ってわけですか」
 恭也は半眼で眺める。よくもまあ、あれだけ集めてきたものだ。
「まだ他にいたらしいな。結構数が多いぞ」
 物陰に隠れて様子を見ていた恭也の連れのアベル・アランド(あべる・あらんど)が姿を現す。
「アベルさん、あなたね、他の不良たちを引き付けておいてくれるんじゃなかったんですか?」
「予想よりたくさんいたんでな。後から後からわいてきてキリがないんだよ」
「しらみつぶしですか。気が乗りませんね」
「やり過ぎに注意するように」
 恭也とアベルが前に出ようとすると、向こうから二人の女の子がやってきた。
 すでに一戦終えてこちらに応援に来たらしい。
「手伝うわ」
 別の場所で不良集めをしていた、空京大学生の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、バイクで暴走しながら迫ってくる不良たちを呆れ顔で出迎える。
「あれは、荒んでるってレベルじゃないでしょ。かなりキツーイお仕置きが必要みたいね」 
 ラヴェイジャー用の巨大な剣まで持ち出してきたところを見ると、かなり本気だ。
「参りましたね」
 などと言いながらも、恭也も十分にやる気まんまんだ。
「あの動物のかぶり物って、極西分校で流行ってるのかしら?」
 もう一人は魔法少女の藤林 エリス(ふじばやし・えりす)だ。
「あんなこけおどしで町の人たちを脅しながら暴走の限りを尽くすって、最低よね。おしおきしてあげるわ」
 弱き立場の人々を守るため、彼女は魔法のステッキを振りかざす。
「ヒャッハー! ぶっ殺せ! 粉々にしてやるんだぁ!」
 リーダーと思しき大熊の毛皮をかぶった男がバイクに乗ったまま突撃してきた。凶悪な形をした大きな斧を振りかざし襲いかかってくる。
 手下たちもクロスボウを用意し、またある者は釘つきバットを振りかざして襲いかかってくる。
 たちまちにして、辺りは戦場になった。
 祥子はためらわずにレーザーを撃つ。手下の何人かは吹っ飛んだがボスの“大熊”にはかわされてしまった。ガタイが大きいのに結構すばやい。
「ゲハハハッッ! 食らえ、『乱撃ソニックブレード』!」
 ズガガガガ! と剣戟の連打音が響く。
 “大熊”は技能まで使って攻撃してきた。斧なのに剣士の技だ。見てくれだけじゃなく結構戦いの経験は積んでいるらしい。
「ぎゃあああっっ!」
 悲鳴が上がった。
 “大熊”の攻撃は、手下だけではなく逃げ遅れた町の人々まで巻き込みダメージを与える。
「グガハハハハッッ! みたか! “ジャガー”はあっさりやられたようだが、俺様は違うぜ!」
「ヒャッハー! 弓隊は毒攻撃だぜ!」
 続いて、ポイズンアロー、毒を塗った無数の矢が飛んでくる。
 不良にしては本格的な戦闘力だ。
「ひどい……。もう許さないんだから!」
 術を使って防御したエリスは宙に飛び上がった。敵を一掃するために魔力を充溢させ始める。
「革命的魔法少女レッドスター☆えりりんが、一人残らず粛清してあげるわ」
「……え、粛清……? スター☆りん(スターリン)?」
「わざと変な呼び間違いしないで!」
 エリスは不良たちをまとめて吹き飛ばす。
「上等よね。これくらいじゃないと弱い者イジメになっちゃうもの」
 相手の攻撃をかわした祥子もヴァルザドーンを構えなおした。
“大人気ない攻撃”を繰り出すことにしたのだ。
 ただのチンピラなら手加減してやるが、相手が外道でかつ戦いに習熟する者なら遠慮は要らない。
 恭也とアベルも戦闘の態勢を整える。
「とりあえず、死なないでね。お説教できないから!」
 祥子は『アナイアレーション』をぶっ放した。
 ドオンッ! と耳をつんざく轟音とともに大地が揺れる。
 巨大な衝撃波が巻き起こり辺りを全て飲み込んだ。
「ヒャッハー! ギャアアアアアッッ!」
 続いてエリスも。
「お星さまが粛清よ! シューティングスター☆彡」
「オブブブブブ……!」
 そもそも、祥子たちが本気を出したら、いくら訓練をつんでいようと不良程度では勝負にならない。
 程なく、戦闘は終了した。
 
「全員その場に正座!」
 ボロボロになった不良たちを叩き起こした祥子は、全員に命令する。
 恭也によって縛られた不良たちは神妙になった。
「やれやれ、またここでもか。どうしてみんな身体を粗末にするんだろう」
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)はため息交じりに怪我人に治療を施す。
「どうして学校に来ないんですか? それだけで解決することなのに」
「へっ、俺たちは信念があるからよ。そのためには突き進むのみよ」
「その信念、自分で持つには立派ですが、他の人まで巻き込んではいけませんよ」
「……」
 あれだけ威勢のよかった“大熊”すらも大人しくなったのを見計らって彼女は口を開く。
「よくもまあ、私の想定をはるかに超える暴れ方をしてくれたものだわ、あんたたち」
「……チーッス」
 ふて腐れたような不良たちの返事。
「私の攻撃、痛かったでしょう? でもね、あんたたちに痛めつけられた人たちはもっと痛かったのよ」
「……」
「人というのは支えあって生きていくものなの。痛みを知らないあんたたちは、まず他人の痛みから知りなさい」
「……」
「自由奔放大いに結構。他人に迷惑さえかけなければね。それがわからないうちは、あんたたちは半人前以下ってことよ」
「でもせんせーよ」
 なんだか妙に真面目に話を聞いていた不良の一人が口を開く。
「俺たちはもっと多くのものがほしいんだよ。世の中、手に入らないものばかりだ」
「それはあんたたちだけじゃないでしょ?」
 と、これはエリス。
「みんなたくさんほしいものがあるんだもの。私にだってあるわ。でも、そればかり押し通せば結局争いになるでしょ。資本主義社会において、全ての資源は有限なんだから。ごくわずかのものを取り合って延々といがみ合わなければならないの。それって空しいでしょ?」
「だから、俺たちは強くなって全てを奪いたいんだ。搾取することによって俺たちは幸せになれる」
「このバカチンが!」
 祥子は、本気でぶん殴った。
「人とは協力し合って生きていくものだって言ったでしょうが!」
「奪っていいってことは、奪われてもいいってことなのよ。自由を履き違えてやりたい放題やっていると手痛いしっぺ返しがくるって、今身体で学んだでしょ」
 エリスは続ける。
「だから、革命しましょ。意識の革命をね」
「……それ以降は学校で学ぶことです。君たちの人生において大切なことは学校で学べるのですから」
 恭也は、そうまとめた。
「あなたたち搾取される側に甘んじていたくないんでしょう? そんな体制おかしいと思うでしょう?」
 恭也の問いに不良たちは一同に頷く。
「じゃあ、学校へ帰りましょう。そして勉強しましょう、明日のために」


「あんたたち、悔しいでしょ。すき放題やられて悔しいでしょ」
 武道家、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、集められた不良たちを前に静かに問いかける。
 極西分校の空きスペースを利用して、彼女はジムとリングを作り上げていた。
 ここで不良たちを訓練させる。
 彼女が培ってきた武道の心得を叩き込み、不良たちを根っこから鍛えなおそうという考えだった。
 補導教員たちによって連れてこられた不良たち。
 どいつもこいつも表情はすさんでおり、負け犬オーラを放出している。
 彼らを見回しながらローザマリアは言う。端的に。
「あんたたち、どうして負けたかわかる? 単純に、弱いからよ」
「ぐっ……」
 集まった不良たちは唇をかむことしかできなかった。
 多くの臨時教員たちの活躍により、町をたむろしていた不良たちは次々と学校に連れ戻されていた。
 素直に戻った者もいるが、大半の不良は暴れたり抵抗したりした末に強引に引っ張って来られる者たちばかりだ。
 彼らは一様に力をもてあました暴れん坊だ。度胸や腕力に自信を持つ者も多い。
 だが、それが突然やってきた臨時教員たちにあっさりとやられてしまった。
 しかも、その臨時教員たちは、不良たちと年恰好のさほど違わない少年少女ばかりなのだ。
 現にローザマリアだって、十代半ばの少女にしか見えない。なのに確実に不良たちよりも強い。
 学校生活を充実させ、恋愛も冒険もこなし、日々を楽しみ、かつ不良たちより強い。そんな臨時教員たちに対して悔しい気持ちを持たないほうがおかしかった。
「今のところ、あんたたちには一分の利もないわ。こんな目にあって罵倒されて当然。でもさ」
 ローザマリアは続ける。
「……見返したいと思わない? 彼らと同じ舞台に立ちたいと思わない?」
「見返すって?」
 ようやく不良の一人が口を開く。
「正統な力の行使の仕方を知りたくないかしら?」
 ローザマリアの言葉に、不良は鼻を鳴らす。
「力に正統も邪道もねえよ。強いやつだけが偉い。強ければいいんだ」
「でも、あんたたちは弱いわ。それは正しい力の扱い方を知らないからよ。正統じゃないから。ただそれだけのことなのよ」
 ローザマリアは、設置されたリングを指差す。
「あたしが教えてあげる。訓練すれば、誰だって強くなれるってことを証明してあげるわ」
 リングの上では、レイラ・ソフィヤ・ノジッツァ(れいらそふぃや・のじっつぁ)と{SFL0021330#典韋 ?來}が準備を終えて待ち構えていた。
「来いよ、不良ども。一人ずつ稽古つけてやるぜ。それとも、尻尾巻いて逃げ出すただの負け犬か?」
 典韋の言葉に、不良たちは奮い立つ。
「ようし、やってやるぜ」
「……俺もだ」
 まずは数人がリングに向かう。
「待って。まず着替えて。これはスポーツなんだから」
カイサ・マルケッタ・フェルトンヘイム(かいさまるけった・ふぇるとんへいむ)は人数分のスポーツウエアを持ってきて不良たちを着替えさせる。
「へっへっへ……。俺たちゃ暴れん坊だぜ。ルールに縛られるスポーツで俺たちを倒せるかな?」
 ユニフォームに着替え直して気を取り直した不良たちに、レイラは小さく微笑む。
「見せてあげるよ。スポーツのプロレスがどれほど強いか」
「へっ……。シネやゴルァァァッッ!」
 不良は勢いよく飛び掛ってきた。
 それをレイラは受け流し間接を決めてマットの上に叩きつける。
「はい、フォール」
 押さえ込みに入ると、力自慢の不良はピクリとも動けなくなった。顔を真っ赤にしてもがくのだが、ますます戒めが強くなるだけだ。
「くそがぁ! 負けてたまるか!」
 もう一人の不良が襲いかかってきた。
 典韋は相手の脚を取ると、ドラゴンスクリューで軽く捻り倒れたところをエルボーで仕留める。不良は、数秒もたたずに動かなくなった。
 おおおっっ! と見ていた不良たちからも感嘆の声が上がる。
「あんまりやり過ぎちゃだめよ、相手はまだ素人なんだから」
 ローザマリアは、典韋とレイラに釘を刺しておく。不良とはいえ、技もルールも知らない相手をいたぶるのはイジメみたいなものだ。
「あんたたちが弱いから、私たちは手加減したの。この意味わかる?」
 真剣な雰囲気になったジムを見渡しながらローザマリアは言った。
「痛めつけていいのは、痛めつけられる覚悟のある者だけよ。その覚悟がある者だけ、ついてきなさい」
「畜生! やってやるぜ!」

 この日、彼女らの率いるプロレス部が極西分校に発足した。
 不良たちはただひたすら強くなりたいがために稽古に熱中し、部室には彼らの練習の音だけが聞こえるようになる。
「あんたたち、最近悪さしなくなったね」
 ローザマリーの台詞に、元不良たちはスポーツマンらしく歯をキラリと輝かせてさわやかな口調で答える。
「そんな暇ないっすよ。俺たち大会出場目指してますんで」